を期待している。そうなると九球ということになるんてしようか。いずれにしても、僕に 遊び球は一球もありません」 フォークばかりが注目される佐々木だが、ストレートも常時、百四十キロ台後半をマー クする。疲れがきてフォークが抜け気味になる時はストレートを多投する。それても、打 たれることはまずない。 「コントロールはアバウトてすよ。クここらへんだなみという程度の気持ちて投げている。 外角のサインが出ているのに、インコースに行くようなことかよくあります。それても、 ほとんど痛い目にはあっていないんじゃないてすか」 ストレートあってのフォーク・ー、ーとは、野茂がしばしば口にするセリフだが、それは佐々 木の場合も全く同じてある。あくまても基本線はストレートなのてある。 しかし、フォークの質まて野茂と一緒かといえばそうてはない。 野茂の場合、ストレー トとフォークの間には二十キロから三十キロのスピード差がある。ところが佐々木の場合、 フォークといえども極端にスピードが落ちることはない。 とりわけアウトピッチ ( 決め球 ) に用いるフォークは、しばしば百三十キロを超えることがある。指にはさんだボールが、 なみのピッチャーのストレートよりも速いのだから始末におえない。わすか十八・四四メ ートルの距離て、バッターがストレートかフォークかを判別するのは至難のわざてある。 144
く振る。これにより、ストレートとの見分けがっかなくなり、さらには落下スピードか増 す。つまり、腕の振りのスピードて、佐々木はフォークの落差を調整しているのてある。 佐々木は説明する。 「ここて三振が欲しいな、と思う時は、腕を目いつばい振ります。すると、低目に速いフ バッターはまず振ってきますね。スビー オークが決まります。見逃せばポールてすけど、 、バッターはストレートとの見分けかっかないんじゃないてしようか ド差がないため 反対にストライクが欲しい時は、腕をゆるめに振ります。ファースト・ストライクがど うしても欲しい時などこのボールを投げます。この場合、腕を速く振る時のような鋭い落 ち方はしませんが、ほとんど狙ったコースに落とすことがてきます」 翌日に疲労を残すことはてきな 佐々木はクローザーだから、連投に耐えねばならない。 そのためには、可能な限り球数を減らさなければならない。 「一イニング、十五球以上は投げたくない」 と、佐々木は言う。 「次の日のことを考えると、十五球以上は投げられません。球数が増えると〃頼むから打 ってくれみという気になりますね。 理想をいえば、一イニングを三球て終わらせることてすが、ファンの人たちは僕に三振 14 ろ フォークとスライダー
当時、韓国の三星ライオンズに在籍していた竹田光訓 ( 現横浜べイスターズ広報担当 ) に案内 され、私はネット裏の席に座った。はっきりポールの軌道が確認てきる位置にいながら、 スライターとストレートが同じように見えるのてある。つまり、スピードの差がほとんど 感じられないのだ。 高速スライダー、とても表現すればいいオ のごろ - フか、不ット裏からてもストレートとの 違いを確認てきないのだから、わずか十八・四四メートルの距離てバッターが判別てきる わけがない。私の取材経験ていえば入団間もない頃の西崎幸広 ( 現西武ライオンズ ) がスト レートの速さに遜色ないスライダーを投げていたが、宣と比べれば、まるて大人と子供。 西崎の場合はホームペースの手前三メートルあたりて軌道に〃たるみみが見られたが、宣 のスライダーはホームペース付近てもストレートとほば同等のスピードと球道を持続して いるのてある。そして、ホームペースを通過する直前、かすかにボールがスライドする。 ールひとっか二つ分、ススッと横に曲がるのてある。いや、曲がるというよりは、ズレ るという表現の方が正しいかもしれない。 「あれつ、今のはスライダーてすか、ストレートてすか ? 」 私は何度目をこすって、隣 ) にいた竹田に訊ねたかわからない。 「こんなボール、日本じや見たことないてしよう ? 」 1 5 2
に腕を鋭く振ることて、バッターの目を欺いた 二つ目は、大きく落とすフォーク。ールを田 5 いっきり深くはさみ、スピードよりも落 差にウェイトを置いた。三振が是が非ても欲しい場面て、このポールを使用した。 三つ目は打者のタイミングをはすすフォーク。牛島の言葉を借りれば、フォークのチェ ンジアップ。ゆるめにスーツと落とすと 、バッターは慌てて手を出してきた。 フォークの速度や落差は腕の振りと指のはさみ具合て調節することがてきた。基本的に はさみ具合が浅ければスピードは増すが、落差は小さくなる。牛島は試合の状況に応じて 調子のいい時には、十八・四四メートルの空 この三種類のフォークを巧みに使い分け 間をはさんてバッターの読みが手に取るように分かった。 牛島は語る。 「試合の状况に応じてだけじゃなく、そのバッターの特性によってもフォークを投げ分け ました。たとえばバッターか速いフォークを待っている場合は、遅いチェンジアップ気味 のフォークて追い込み、決め球にストレートと間違えるような速いフォークを持ってい もちろん、この逆のパターンもあるわけてす。僕の場合、野茂や佐々木のような百五十キ ロ近いストレートがなかったのて、コンビネーションには随分と気を使いました」 そのひとつに、次のような 牛島のクレバーさを示すエピソードは枚挙にいとまがない。 147 フォークとスライダー
「盗塁の成否は、本当に微妙てすよ。タッチの際、蹴った足がべースに深く入っていれば 審判も人間だから迷う。逆にタイミングはセーフてもタラーツとべースに入ると、必ずア ウトとコールされる。それならと、僕はいつもべースに勢いよく突っ込んて行きました。 塁審もいつも一番いい位置てジャッジしているとは限らないわけてすから」 通算千六十五個の盜塁を成功させた福本に、かって「盗塁の奧義は何か ? 」と訊ねたこ そしやく とがある。返ってきた答えは「最短距離を目指すこと」というものてあった。これを咀嚼 してい - んよ、、 ) し力にロスのない走りをするか、切れのいいスライディングをするかに尽き るのてはないか。現役時代の福本のランニング、スライディングはまさに洗練の極みと呼 べるものてあった。 福本がかって私に説明した「理想のスチール」とは、こういうものてある 「滑る時は常にトップスピード。 地面にスピードを奪われんためには、摩擦係数を少なく せんといかん。結局、痛くない滑り方が、その人に一番合っているんやないかな。て、滑 るのはべースの約三メートル手前から。べース直前になってあわてて滑ったら、必ず足首 を痛める。つまりべースとは絶対にケンカせんように滑る。これがコツやね。 それにこれは見落とされがちやけど、スライディングにしろ、べースランニングにしろ、 肝心なのはスタート。スッと出るかバタッと出るかが重要なポイントて、三歩てトップス 20 ろ職人たちの世界
千葉茂氏は「沢村さんの全盛期は見たことがないが」と断った上で、スタルヒンと沢村の違 いをこ、つ話す。 「スタちゃんのポールは、ちょうど電信柱の上からくるような感じゃったな。あれだけ角度の あるポールを投げられたピッチャーは他におらんわ。ワシらバッターには①ポール球を打つな、 ②怖がるな、③遅れるなという三つの原則があるんやけど、スタちゃんはコントロールがい、、 角度があって怖し 、、バットを遅らせるスピードがある、とバッティングの三大原則を打ち破る 〃逆三原則〃を兼ね備えとった。しかも皆に対していつもニコニコしていて性格がいい。だから チームメートの信頼は抜群のものがあったね。 しかし、最大瞬問風速的なスピードでは沢村さんのほうが上回っとったな。一試合のうち数 球、ものすごいポールがきとったよ。しかも手元でホップする。余談やけどタイガースのキャ ッチャーに小川年安という人がおって、この人だけは沢村さんのポールにバットか合う。なせ かというと、この人はものすごい大根切りで打つ。だからホップしてきたポールにちょうどう まい具合にバットのヘッドの部分が当たるんです。逆にいえば、こうでもせんことには打てん かったとい、つことでしよ、つ」 一九四ニ年に巨人入団の青田昇氏 ( 故人 ) は、沢村から直々に「僕の一番いい時は、べース盤 の手前をめがけて投げたら、ホップしてちょうど真ん中の高さに行ったよ」という話を聞き、 目を丸くした覚えがあると証言してくれた。 170
ヒッチャーかいなく るといった具合に百花繚乱の様相を呈している。裏を返せば、本当に速い。 なった証左のようにも感じられる。ともあれ、球界を見渡してみよう。 「西武に入団した当初の郭泰源かな。フォームはきれいだったし、手元での伸びがあった。速 いからある程度ヤマ張って打ってたね。そこへスライダーがきたりすると、もうお手上げとい う感じだった。伊良部秀輝 ( 現モントリオール・エクスポズ ) も速い。ポールが先行するとそうで もないか、リズムに乗るとかなりのポールを投げてきますよ。野茂英雄 ( 現デトロイト・タイガ ース ) は速いというよりもフォークのほうか怖い打者はフォークが頭にあるからストレート にやられるんです。むしろ、ポールの切れなら渡辺智男 ( 西武ーダイエー ) だね。スピードガ ンの数字よりはポールがきてる。このあたりだけど、飛び抜けてすごいというピッチャーはい ないな」 ( 石嶺和彦氏、当時オリックス外野手 ) 「セ・リーグで一番速いと思うのは川口和久 ( 広島ー巨人 ) さん。真っすぐを待ってて、狙った ところに来ても空振りさせられてしまう。あの人のポールにはスピードガンでは測れない何か がある。右では佐々木主浩 ( 大洋・横浜ー現シアトル・マリナーズ ) かな。変化球投手が多い中、 切れのいい真っすぐで勝負できる数少ないピッチャーだね」 ( 巨人・村田真一捕手 ) キラ星のごとく登場した往年のエースたちと比べると、残念ながらインバクト不足は否めな その主な理由として、①マシンの普及によるバッティング技術の向上、②飛ぶポールの普 及とバットの質の向上、③管理野球による没個性化 の三点があげられよう。近藤貞雄氏 ( 評 188
ーフェンスされることはない」と考えを切りかえてから一皮むけたのた。制球難も影 をひそめた。 その野口に松井の印象を訊ねた 九八年五月十日のホームランが松井を勢いづかせてしまいましたね ? 野口自分ては納得のいくボールじゃなかった。、 ても、まあ、同い年だから仕方がないか ( 笑 ) 。もう打たせませんよ。 松井の打者としての正直な評価は ? 野口それはスゴイてすよ。ポールを遠くへ飛ばす能力は天性のものがあります。 それにバットスピードかとにかく速い。あれだけスインクか速く、しかも力のあるバッ ターはセ・リーグには他にいないんじゃないてしようか やはり勝負球はアウトローてしようか ? 野口それしかないてしようね。しかし最近は松井、外角のポールを反対 ( レフト ) 方向に 持っていくんてす。あっちに打たれたらどうしようもありません。あれは反則てすよ。 ストレートて牛耳りたいという気持ちは ? 野口年も同じだし〃アイツにだけは打たさないー という気持ちは確かにあります。し 79 打撃する心
スピードやコントロールについて述べることはあっても「驚いた」とか「目を見張った」 とい一フコメントは一言も発しなかった。 ては、その自信の裏付けは何か。私見だが、天性とも言えるビッチャーとのタイミング の測り方にある。 より具体的に言えば、彼はどんなピッチャーに対しても、ドンピシャのタイミングて右 足を上げることがてきるのだ。 あたかもカマキリの触角のように、ビッチャーの投球の気配を探りながら右足を始動さ せ、左足、つまり軸足て十分なタメをつくってからスイングに移る。この一連の動作が「自 然体」て推移しているのてある。 ルーキーの頃の松井秀喜と比較してみたい。 高校出身と大学出身、四歳の年齢差 ( プロ入団時 ) はあるものの、それこそバッティングフ オームの完成度には大学院生と小学生くらいの違いがあった。 よそれるが、それについて張本勲はこ その象徴が松井の「定まらない右足」だった。話ー う語ったものだ。 「松井の悪いところは右足てす。彼は右足を上げる時と上げない時がある。まず、これを どっちかにしなければならない。 どっちつかずの状態じやタイミングがとれないんてす。 2 2 8
してもレベルの高いところて野球をやりたいはずなんてすから」 トルネード旋風を巻き起こした野茂にあやかろうと、アメリカても見様見真似てフォー クを試投するピッチャーも出始めてきた。しかし野茂のように腰のクためみて球種や落と す方向をかえたり、ールにスピンを与えることがてきるようになるまてには相当な時間 が必要だろう。 「なぜフォークにスピンをかけられるのか僕だっていまだに分からないんてす」 苦笑を浮かべて吉井は言った。 オリエンタル・マジックの種明かしは、野茂本人てなければてきないようだ。 おさらいをすると、野茂のフォークには三つのポイントがある。ひとつはストレートと フォークを投げる際のリリース・ポイントか同じだということぞある 過去、首位打者に四度輝いているトニー・グウイン ( サンディエゴ・ る 「彼はいつの場合ても、セイム・リリース・ポイントだ。しかもストレートとフォークか 最後まて同じような軌道てくるため、どっちなのか迷ってしまうんだ。とても厄介なピッ チャーだよ」 二つ目として、ストレートとフォークに二十キロ前後のスピード差があり、もし、スッ ハドレス ) は明って 1 ろ 7 フォークとスライダー