当時、韓国の三星ライオンズに在籍していた竹田光訓 ( 現横浜べイスターズ広報担当 ) に案内 され、私はネット裏の席に座った。はっきりポールの軌道が確認てきる位置にいながら、 スライターとストレートが同じように見えるのてある。つまり、スピードの差がほとんど 感じられないのだ。 高速スライダー、とても表現すればいいオ のごろ - フか、不ット裏からてもストレートとの 違いを確認てきないのだから、わずか十八・四四メートルの距離てバッターが判別てきる わけがない。私の取材経験ていえば入団間もない頃の西崎幸広 ( 現西武ライオンズ ) がスト レートの速さに遜色ないスライダーを投げていたが、宣と比べれば、まるて大人と子供。 西崎の場合はホームペースの手前三メートルあたりて軌道に〃たるみみが見られたが、宣 のスライダーはホームペース付近てもストレートとほば同等のスピードと球道を持続して いるのてある。そして、ホームペースを通過する直前、かすかにボールがスライドする。 ールひとっか二つ分、ススッと横に曲がるのてある。いや、曲がるというよりは、ズレ るという表現の方が正しいかもしれない。 「あれつ、今のはスライダーてすか、ストレートてすか ? 」 私は何度目をこすって、隣 ) にいた竹田に訊ねたかわからない。 「こんなボール、日本じや見たことないてしよう ? 」 1 5 2
てきない。 この時点て既に勝負はついているのてある。 しやくし さて近年、スライダーといえば猫も杓子もといった印象がある。おそらく五人投手が いれば四人は投げるといってもいいのてはないだろうか。言葉は悪 : 。 . しカコンビニエンスポ ールてある。 その理由として投げやすいということの他に、キャッチャーが要求しやすいということ があげられる。右打者に対しては外角いつばい、左打者に対してはインコースぎりぎりに 決まるのがこのポールの最大の特長。すなわち真ん中に入るというシチュエーションは理 論上は存在しないわけだから、キャッチャーからすれば打たれたときの言い訳か立ちやす もし、打たれてしまった場合はピッチャーの失投、「曲がらなくて真ん中に入ってし まったんてす」と言っておけば監督の怒りの矛先をかわすことがてきる・というわけてある。 「打たれたボールをスライダーやと言っておけば、まずキャッチャーが叱られることはな 、。ピッチャーにとってはホンマに腹立たしいことやけどな」 ピッチング評論の第一人者てある江夏豊はそのように語っていた。 しかし、体のてきていないピッチャーにとってスライターというホールは〃諸刃の剣み てもある。スライターを置きにいく癖がつくと、どうしてもヒジか下かりかちになる。あ まり投げすぎるとストレートの切れまてなくなってしまい、最悪の場合はヒジを傷めかね 1 う 6
ります。 斉藤ヒジを下げると、スライターはラクに投げられるんてす。要するに指て滑らせれば しいんてすから。隆の場合、カウントをとる時と、勝負する時のスライダーの使い分けが てきないんてす。せつかく〃切れ〃のいいールを持っているのに、まだ生かし切れてい もう少し具体的に説明して下さし 斉藤キャッチャーはいってもストライクゾーンにミットを構えます。ウエスト以外ては、 まさかホールゾーンに構える者はいよい。 構えたミットからポールひとっか二 しかし、勝負球はストライクばかりとは限らない。 っ分、外に投げなければいけないんてす。さらにいえばプレートからホームペースまて十 八・四四メートルの距離がありますが、ストライクかポールかを判定するのはアンパイア てす。そうなると十八・四四メートルのさらに後ろ、約二十メートルの距離を想定してピ そ - フいうことをウチのピッチャーに教えまし ッチャーはボールを投げなければいけない。 なるほど。もう少しスライターにこだわるとして、スライター・ピッチャーの寿命は 近年、とても短いような気がする。スワローズの伊藤智仁がいい例てすね。故障してから 15 8
かしストレートにこだわるとか、そんな気持ちはないてすね。カ対力の勝負を挑んだら反 対にやられちゃいますよ。 だから今後も、勝負球は変化球てす。やはり外のスライダーてすよ。それは彼もわかっ ているてしよう。ストライクゾーンて勝負しようとは田 5 っていません。 さらに、野口にはもうひとっ〃スラフォ〃と呼ばれる武器がある ネーミングからイメージすればスライターとフォークを掛け合わせた変化球ということ 目 5 象 といったきり多くを五ろ - フとはしよ、、、。、 + / し、刀オノ・イー になる。これについて野口は「企業秘密」 するにやや指 ( 人指し指と中指 ) を開き気味にポールを握り、スライターを投げる要領てボー ルを切るのてはないだろうか。メジャーリーグのピッチャーが得意とするスプリット・フ インガーに近いボールのような気がする。そうだとすればバッターの手元て微妙に揺れた り沈んだりしているはずだ。ひょっとすると、それが最優秀防御率投手に輝いた本当の秘 密なのかもしれない。 ともあれ外角の変化球ーーこの一点をめぐる二人の攻防は、今のセ・リーグの大きな焦 点になっている。
最近てはスワローズの伊藤智仁がその典型的な例といっていしオ 斉藤明夫との対話 そのあたりの、スライダーの功罪について、かって大洋ホエールズのエースとして活躍 した斉藤明夫に見解を聞いた。斉藤は九九年まて、横浜べイスターズの投手コーチを務め たが、スライダーを武器とする斎藤隆をエース格に育てあげるなど、手腕を発揮した。 ーーーーまず斎藤隆について。いい時はオールスターの先発級てすが、あるイニングから砂漠 の天気のように急変することがあります。これはなぜてしよう ? 斉藤本人に言わせると〃試合中にボーツとしてしまう〃らしいんてす。僕にはこういう 経験がないのて、ちょっとわかりません。あれこれと考え過ぎてしまうんてしようね。 たから、彼には絶えずマウンドて「気を抜くな」と声をかけました。たとえば六回まて しったとする。ここて〃あと三イニングたぞ〃 とは言いません。ク九つアウトをとれみと一言 います。そういうことて緊張感を持続させるんてす。 技術的にいえば、斎藤の悪い時は、決まってヒジが下がっています。試合中てもガラ ッと投げ方がかわりますね。とりわけスライタ ーは、ヒジが下がるとガクンと切れ味が鈍 157 フォークとスライダー
2 ・スライダーの功罪 フォークポールとならんて、日本球界を席巻している変化球がスライダーてある。スト レートと同じ軌道てきて、打者の手元てグイツと横に曲がるⅡスライドすることから、こ の呼称がある。 読売ジャイアンツ・上原浩治、西武ライオンズ・松坂大輔、中日ドラゴンズ・野口茂樹、 横浜べイスターズ・斎藤隆 : : : 各球団にスライダーを武器にしているエースがいる。なか ても、近年の日本球界て、目をみはるほどの切れ味鋭いスライダーを投げたのは、ヤクル ソンドンヨル トスワローズ・伊藤智仁と、九九年限りて引退した韓国の至宝・宣銅烈 ( 元中日ドラゴンズ ) て はなかっただろうか 宣銅烈のスライダー 宣銅烈のスライダーをはじめて間近て見た時の驚きは今ても覚えている。一九八九年の ことてある。 1 5 1 フォークとスライダー
目、キャッチャー中嶋は、またしても同じポールを同じコースに要求した。インコースに 鋭く切れ込み、スコアポードにひとっ青のランプを点灯させた。スライダー、スライダー とくれば、次はストレートが有力だ。セオリーどおりの配球てはあったが、三球目、真ん 中ややアウトコース寄りにズバリ、ストレートが決まった。 一五一キロ。コースはやや甘 くてもこれだけのスビードがあれば、そうそう打たれるものてはない。 カウント 2 ー 1 。 勝負を急ぐ必要はない。松坂はあと二つ投げられるポールのうちのひ とつを、まず真ん中低めに持ってきた。ワンバウンドのボール球。ホームペース前の性急 な落ち方から判断して、これはフォークポールてはなかったか。 カウント 2 ー 2 。相変わらずバッター・イン・サ・ホール。まだ松坂には余裕がある。 五球目、ヒザ元に伝家の宝刀、〃縦スラみを配した。空振りを誘ったが : フレーキが利きすぎ た。イチローは腰を引いてよけ、松坂はこれて二球のアドバンテージを使い果たした。 さて、決め球は何か。イチローの脳裡のスクリーンが予告上映したのは、おそらく最初 の打席て手も足も出なかったアウトハイのストレートだろう。あるいはインコースヒザ元 のスライダーか。どちらを待っかと言えば、当然、前者だ。難易度の高いアウトハイへの ストレートを待ってインローへのスライターという不測の事態に備えることは理論上可能 たが、その逆はかなり難しい。遅いポールを待っていて速いポールを打っことはイチロー
どありえなかった。それだけにこの一言は強烈な印象を残した。 それからしばらくして、またもや「森安」という答えを耳にした。誰あろう尾崎だった。も ちろん尾崎は「自分よりも」とは言わなかったが、世上、史上最速といわれる男の口から漏れ た名前だけに重いものを感じた。 森安より一つ年上の山崎裕之氏 ( 東京・ロッテー西武 ) は、オリオンズ時代に何度も森安と対 戦した記憶を踏まえて、「彼こそ史上最速のピッチャー」と断言する。 「こりや打てない、と思ったのは今までに森安ひとりだけです。尾崎や山口はいくら速いとい っても、バットを半握り短く持ってコンバクトに振れば何とか当たった。しかし、森安だけは どうしようもなかった。いわゆる初速と終速の差が少ないポール。球道は指の引っかかりのい いときは糸を引いたように真っすぐ、悪いときはシュート回転してインコースにえげつなく食 い込んでくる。しかもカむとシンカー気味に沈む。手におえないポールでした」 元ヤクルトの八重樫はオープン戦で一度だけ対戦したことがあるが、スライダーを三球続け られ、三球三振に切ってとられたという。 「また、そのスライターか真横に逃げていくんです。スピードもゆうに百五十キロは出ていた。 スライダーであれだけ速いんだから、真っすぐはどれだけ速いんだろうとびつくりした記憶が あります。いずれにしても、ニ十ニ年問プロ野球やってて、あれ以来、あんなスライダー見オ ことないですね」 190
目以上にスピードはあります。手元て少し変化もしますしね。クセのあるポールてすよ。 四死球が八つというのは多過ぎますね ? 松井野口が逃げてるんじゃないてすか ( 笑 ) 。まあ、それは冗談として、そのくらい彼の スライターはストライクゾーンからポールゾーン、つまりぎりぎりのコースにくるとい - フ ことてすよ。僕の野口に対する打率が悪いのは、ポール気味のスライダーに手を出してい るからてしよう。逆にきっちりボールを見究めることがてきた時には四球をとることがて きている。そういうことだと思うんてす。八つも四球を選ぶことがてきたというのは、あ る程度、ぎりぎりのポールを見究めることがてきたということてしよう。アウトコースぎ りぎりのホールを追いかけず、じっくり待てたということてすから。いずれにしても、ほ とんど甘いボールがこないのが野口の特徴てすね。 ーー当然、野口の狙いとしては、追い込めばアウトロー、てきればポールになるスライダ ーて勝負したいということてすよね ? 松井み : フい - フこし」′ししょ - フ 左寸左ということもありますから、クロス気味のボールが アウトローにきたら、そうは打てませんよ。コースぎりぎりにくるポールを、どれたけ我 慢てきるか。そして、甘いポールを待てるか。これが野口を打つ一番いいやり方じゃない ′しー ) よ , フか 77 打撃する心
3 ・シュートの可能性 スライターが全盛を迎える一方て、たしかにシュートを投げるピッチャーは少なくなっ 近年まて活躍した日本人投手としては、かろうじて西本聖、北別府学が思い浮かぶ程 度だ。現役てはわずかに桑田真澄が時折使うのが目立つくらいだろうか その点、バレ、 ノビーノ・ガルベス ( 巨人 ) は異彩を放っている。彼のどッチングの最大の特 徴は、インサイドをシュートて厳しく攻める点にある。そのぶん、ガルベスの投球にはあ る種の新鮮さを感じることさえある。ただ、ガルベスのシュートは右打者のインコースに い込みながら沈む変化をする。その点、〃カミソリシュート みの異名をとり、日本一のシ ュートを投げたといわれる平松政次 ( 元大洋ホエールズ ) のシュートは、打者の手元に浮きあ カ・り・な力、ら′、い一込′ル」し J い - フ 平松政次の極意 昨今、なせピッチャーはインサイドを攻めなくなったのか。インサイドを攻めることに 161 フォークとスライダー