を読むのが至極の楽しみです。 テレビを観る時はマッサージをやったり、屈伸したり。ごはんを食べながら新聞を読ん だり。料理をする時には英会話を聴き、大の散歩をする時は、ロを「ア・イ・ウ・エ・ オ」の形に大きく開けながら、たるみ防止に励んだり、エッセイのネタを考えたりしてい ます。とにかく、ふだんの時間を何か単独に使うことはほとんどありません。 こま切れの隙間の時間をどう過ごすかで、生き方さえも決まってくると思います。 同じ時間を生きているのに、私た 年 をち人間には知識や器の差がある。こ 時引の差はどこから生じるかというと、 間後隙間の時間にもどれだけ積極的に自 隙直 一分の人生とかかわっているかの違い ち死に拠るところが大きい。電車に乗っ を例ている三十分なりで、本や新聞を読 用れむ人と、携帯電話でのメールに明け 原に暮れている人の差は、年齢を重ねる 183 第五章野心の幸福論
めてくれませんし、お金を払って人に頼んでやってもらっています。 の人が専業主婦をやれているぶんには何の問題もありません。ただし、自分の自己顕 示欲の量を読み間違えると、悲しい結末が待っていると思います。 たとえば、もともと自己顕示欲の量がある人が、三十歳前後で走り続けることに疲 れ、仕事を辞めて専業主婦になる。「実は私の天職って、主婦だったのよ」と思い込もう としたり、子どもの教育に異常なほど打ち込んだり、何とか自分をだましだまし生きてい るとします。しかし、あった自己顕示欲を無理矢理に押し込めてきた反動は必ず生じ てくる。中年になって、子どもの手が離れた時に爆発してしまうのです。 そうして四十路も後半に入った頃にあわてて仕事を見つけようとしても、十何年も家庭 だけに集中していた人からは、知らず知らずのうちに社会性も奪われていたりする。いざ 再就職しようと思っても、面接の時に自分に都合の良い条件ばかり提示したり、自分と社 会とのギャップに気づくことさえできなくなっているから恐ろしいですね。 こういうことを一言うと、当然ながら専業主婦の方々から反感を買います。「ハヤシさん は特別な職業に就いていて、お金もあるから、そりゃあ上から好きなことが言えますよ ね」とか、「普通の女が子どもを育てながら働く大変さは、あなたにはわからないでしょ
ごとに大きくなっていきます。 また、結婚してから早起きになったことは本当に良かったと思っています。昔は昼前に 起きていたから、あっという間にタ焼け小焼けの音楽が聴こえてきて、一日が終わってし まって徹夜に突入っていうこともありました。それに、ある程度の年齢になると、不規則 な生活自体がストレスになってくるのではないでしようか。 一方で、三枝成彰さんは「創作する人間にとって、早寝早起きはマイナスだ」とおっし やっていました。深夜じゃないと創作に必要な″毒〃が出ないって。なるほどなあと膝を 打ちました。ここぞという時に、深夜に毒を出すのは良いことかもしれない。闇の中で生 まれたからこそ、力を持っ類の小説ってありますから。 ②まずはぐっすり眠ってから考える 一晩ぐっすり眠ったら、少々の嫌なことを忘れさる能力は大事です。野心を持っと、新 規まき直しをしたり、毎日、気分をリセットしなくてはならないことが大なり小なり生じ てくる。落ち込むようなことがあったら、とにかく寝てしまいましよう。くよくよしない でべッドに直行。そして、朝日を浴びた新しい頭で考えてみる。田辺聖子先生が書いてい
とを考えていればいいと思いますし、事実、この層は年々増えてきているわけです。昔は プランド品を持っている人を羨ましく思う人がいつばいいたわけですが、最近ではブラン ドに興味がある人自体がどんどん減っているのと同じこと。 しかし、優雅な専業主婦を脳内で漠然とイメージしているだけの人は、自分の人生や仕 事について、もっと真剣に考えるべきです。 いまの五十代以上の専業主婦の時代には、普通のサラリーマンであっても、子どもをち ゃんとした学校に入れ、郊外に一戸建てを買う甲斐性のある夫を持っことができました。 でもいまは違う。給料は上がらないし、夫が名の知れた企業に勤めていたって、必ずしも 安泰なサラリーマン生活をずっと送れるとは限らない。 男性だって、とても不安定な時代に生きている。いまの時代こそ、不安だからと現実逃 避に走るのではなく、女性も自立して生きて行くことについて、一層しつかりと考えるべ きだと私は強く思います。 子育てと仕事の両立 ショック療法じゃないですけれど、専業主婦はラクそうでいいなあと呑気に思っている 129 第四章野心と女の一生
かと思うんです。自分が生きてきた結果ですし、あとは死んで、この世からいなくなるだ けですから。でも、まだ自分は元気で、今後も生き続けていかなければならないのに親が 死んでしまう時、もしひとりだったらどんなに寂しい思いをするのだろうということはず っと心の底からの恐怖でした。独身のひとりつ子の人が、親をひとりで看取る時の辛さな んて、想像するだけでも涙が出てきます。 自分の親の死にかぎらず、お葬式で、死の意味もわかっていない小さい子がちょろちょ ろと走り回って「ほらほら。座ってなさい」なんて諫められている姿を見るだけで、死の 悲しさから少しでも救われますよね。ですから、たとえ独身でも、兄弟姉妹に子どもがい るのは有り難いことだと感謝したほうがいいですよ。 そもそも、年を取っていくということ自体、どうしようもなく悲しいこと。私だって、 もうじき還暦だと思うと卒倒しそうになるんですけど、同時に子どもが成長してくれてい るから、娘が大きくなって嬉しいなあっていう喜びが、引き換えで老いの悲しさを相殺し てくれているところがあります。プラスマイナスゼロとまでは言いませんけど。 また、子どもの学校や進路にしてもそうですが、自分がどんなに努力したって、人生に は思い通りにならないことがあると教えてくれるのが子どもや結婚生活。作家の立場から いさ みと そうさい
他人を羡まずに生きていけるか 旦那さんには十円ハゲを作ってでも稼いでもらって、自分はそのお金で、ママ友たちと ランチを楽しんだり、お稽古ごとを嗜みながら生きて行くーーそうした一部のお金持ちの 専業主婦ほど、女性にとって″おいしい〃職業はないと思います。 私の知り合いの奥さんたちも、会社経営者の旦那さんはやさしいし、自分はボランティ アの理事をやったり、とても充実した生活を送っている。お金持ちの奥さんって、世の批 判にも悪意にもひとりで立ち向かわなければならない私にとって、ヨダレが出るほどいち ばん羨ましい存在です。 ただ、前述の子さんのような層で育っていない人間で、なおかつ自分ではたいした努 力もしてこなかった女性が、子どもを良い学校に入れて、家も建ててくれて、自分にもお 洒落をさせてくれるような稼ぎの良い旦那さんを簡単につかまえられると漠然と思ってい るのであれば、想像力の欠如も甚だしいと思います。 昔は当たり前に誰もがロにしていた「夫に求める条件日年収一千万以上」なんていうこ とを大っぴらに言えば、いまや「ふざけるな」と張り倒されそうな時代です。たとえ「年 127 第四章野心と女の一生
妄想は自分を引き上げてくれる力になります。作家であれば物語を書けるし、作家でな くたって、自分の人生のストーリーを紡ぎ出せるようになる。 中学時代にいじめられた私の盾となってくれたのも、いま思えば、妄想力です。いじめ る男の子たちは絶対に私のことが好きなんだ、と信じていたから、あの時代を耐えられた のかもしれません。 そして、妄想力は野心のバネにもなる。 中二の時に『風と共に去りぬ』の小説を読んだ直後、ヴィヴィアン・リーの映画を観た んです。それはもう、頭をガッンと殴られたような衝撃で、オイオイ泣いたことを覚えて います。泣いたのは映画に感動したからではありません。「ああ、どうして私はこんな田 舎の、つまらないうちの子に生まれてきちゃったんだろう」と悲しくなったから。 あの時代に生まれて、フワフワのドレスで華やかな恋をする世界に生きてみたい、もし ここで一回死んで、神様が好きな場所と時間を選んで生まれ変わってもいいと言ってくれ るなら、死んじゃおうかと思ったくらいショックでした。 ふしあな そして翌朝、目が覚めると、節穴だらけの汚い天井が見えるわけです。世の中には物語 の世界があって、一方で私が生きている現実の世界があり、物語の世界とこっち側の間に 177 第五章野心の幸福論
ら優秀で、児童雑誌「赤い鳥」に投稿して入賞した時には地元の新聞で「樋口一葉の再 来」と報じられたこともある才女でした。 戦前は福島の相馬で女学校の教師をした後、東京の出版社、旺文社に勤めていました。 そのときに、旺文社の創立者・赤尾好夫さんの紹介で、当時、銀行員だった父と結婚した のです。 結婚後まもなく、満州の国策会社に転職した父と共に中国に渡り、商社に勤めていまし たが、父が現地召集となった後で妊娠していることがわかり、昭和十九年 ( 一九四四年 ) に 単身帰国して、故郷の山梨で男の子を生みました。 翌年、終戦になっても、父は帰ってきません。戦後の混乱の中で、母は、生きていたら 私の兄となるはずだった初めての子どもを病気でなくします。 その後、二年たっても三年たっても、父は帰ってきませんでした。生活のために、母 は、実家で古本を売り始めました。それが、私の実家が営んでいた林書店の始まりです。 そして、父が生きているか死んでいるかさえまったく分からないまま年月が過ぎ、終戦 から八年後、女手ひとつで店を切り盛りしていた母のもとへ、ひょっこりと父が帰ってき て、翌年に私が生まれました ( 生死不明だった期間に父が何をしていたかというと、なん
知的生活のヒント 畑村洋太郎 福田和也 悪の対話術 回復カ 額正しく読み、深く考える 中井浩一 福田和也 悪の恋愛術 四日本語論理トレーニング 大学でいかに学ぶか増田四郎 わかりやすく〈伝える〉技術 , ー池上彰 6 相手に「伝わる」話し方池上彰加 鈴木鎮一 愛に生きる 幻新版大学生のための % 河合塾マキノ流ー 小笠原喜康 牧野剛 加レポート・論文術 国語トレーニング 生きることと考えること森有正 地アタマを鍛える 齋藤孝 インタビュー術ー 永江朗 知的勉強法 考える技術・書く技術ー板坂元 大学生のための 脳を活かす ! 松野弘 吉田たかよし 加知的勉強術 必勝の時間攻略法 知的生活の方法。ーー渡部昇一 〈わかりやすさ〉 池上彰 子どもに教えたくなる算数栗田哲也 の勉強法 高根正昭 創造の方法学 誰も教えてくれない 齋藤孝 福田和也 加人を動かす文章術 樺島忠夫悪の読書術 文章構成法 アイデアを形にして ー原尻淳一 論理思考の鍛え方ーー小林公夫 働くということーーー黒井千次 幻伝える技術 老いるということ , ー黒井千次 皿デサインの教科書ーー・・柏木博 「知」のソフトウェア・ー立花隆 間組織を強くする 石弘光 Ⅱ新・学問のススメ 畑村洋太郎 「からだ」と「ことば」の竹内敏晴 技術の伝え方 間レッスン 国語のできる子どもを育てる , ーエ藤順一 調べる技術・書く技術ー野村進 松岡正剛 翫ブリッジマンの技術鎌田浩毅 Ⅷ知の編集術 1517
おばちゃんになって、旦那と毎日やりあっているのか : これぞ無常というか、人生とは流転していくものなのだな、という思いが子ども心にも 強く刻まれました。世の中とは理不尽なものだな、と。 私が、長いスパンで人生を考える人間になったのは、こうした母の人生を見てきたこと も大きいと思います。 ふかん 人生を俯瞰で見るということは、一生の儚さを知ることであり、自分に残されている時 間をシビアに、かっ明確に意識することでもあります。 自分は果たして結婚したいのか、子どもが欲しいのか、ということも、一生の中で考え なければならないとても大事なことです。子どもを持ちたいと強く願う気持ちがあれば、 それを認識するのが早ければ早いほど良いのは、最近よく報じられているとおりです。 人の一生には、ほんの短い時間しか与えられていません。どのように生きていくかとい うことを真剣に考えるのは、充実した人生を送るために不可欠なことだと思います。 はかな