218 もう まんばけん すごいポロ儲けに、くらくらする。万馬券が確実にゲットできれば、この世はパラダイス だ。三百万円の借金なんて、あっという間。そして、どっさり残ったお金で、あれもこれも買 えちゃうー 今こそ、チェックしてきたのに全然生かせてない地上情報を、活用する時だ。この四日間、 せ 0 かくだ 0 たのにどこにも行けなか 0 た恨みを晴らさずして、魔界になんか帰れないに決 まってる , 「今夜は課題だ」 ・もうそら・ 妄想に盛り上がるエルに、ツアーが思い切り水を差した。エルは不満げな声をあげた。 「えー。今夜は宴会でしょー ? 」 「課題だ。期限は明日なのを忘れるなよ」 「ぶーじゃない。を取るんだ」 。今ぐらい、夢見たいのに : 「夢は見ないで、見せる」 ( ちえええ ) どこまでもカタブツのツアーに、エルはそっぱを向いた。ノ 彼らの課題は、『本日の万馬券ゲ ット』をそのまま使うと打ち合わせ済みだ。つまり、ここで楽しんだことの再上映をすればい
まんばけん ひと 栄子が独りごとを言った。念力で万馬券が作れると納得するその頭の作りが、信じられない しかしツ」 「わーい、委員長。えら、 さえぎ エルはツアーに駆け寄った。飛びつこうとするのを、遮られる。 「そういうのは、全部終わってからにしろ。今は僕に触るな」 わずら まだ緊張をとききったわけではないのだ。神経が高ぶり、敏感になっているので煩わしいこ とは避けたいのだろう。 たず エルはおとなしく引き下がった。哲剣に訊ねる。 ばけん 「いまの馬券、買ってたらどのくらいになったの ? 」 たんしよう 「百円買ってたら、一万四千円ちょいかな。単勝ってやつで」 ( いちまんよんせんえん ! ) 単勝というわからない言葉は蹴飛ばして、エルは金額に飛びついた。気配を察したツアーが レクチャー を単勝とはなんそやを講義しようとして、栄子に止められる。 キ 「よしなさいよ。どうせ『えへつ ? 』とか言われておしまいになるだけなんだから」 かねかんじよう 子栄子はとても正しかった。エルは二行以上の説明は受けつけない上に、今は金勘定で忙し めんど 王 いのだ。そんな面倒いものは、無視だ無視。 ( 百円で一万四千円なら、千円で十四万円。一万円買えば、百四十万 ! きや ~ )
二人は声を限りに叫んだ。ゼッケン二番はビリっケツ。 ダントツの、最下位 ". 「こここここ、これってどうなるの」 エルは声をうわずらせる。訊かなくても答えはわかる気がしたが、哲剣がだめ押しをした。 「さよーなら、万馬券 : : : 」 「おまえのせいだ、このバカ 栄子が哲剣をはり倒した。 「委員長が操れるのは、一頭だけだってわかってたでしょ どな 「怒鳴ってる場合じゃない。事態を打開しないと」 青路が言った。 , 彼らにとって、これが最後のチャンスなのだ。二度もメエルドウシアスを呼 び出すわけには、ゝよ、 つまり、もう一度、馬券を買うことが出来ない。 を哲剣から突き飛ばすように手を放した栄子が、エルにすがりついた。両肩を揺さぶる。 キ 「何とかして、エル ! 」 子「ななな、なんとかって」 王 エルは泣き声になった。そんな、馬を操る方法なんて知らないよう ! だが、知らないなんて言 0 てるはなか 0 た。中盤の集団が、団子にな 0 てカープに差しか
「哲剣」 「哲 ? 「アカン : : : 」 本当に死んでいるようなつぶやきに、栄子の髪がざっとうねる。生まれたときからこの兄と つきあっているだけに、不吉なものを感じ取ったようだ。 「何なの何」 まんばけん 「さよなら、万馬券 ~ ~ 」 よれよれの声に、エルたちはぞっとして顔を見合わせた。とっさに先頭馬を確かめた。 「十二番だよ、哲剣。ちゃんと勝ってるよ ? 」 「それじゃ、アカン : えりくびつか 弱々しく哲剣が首を振る。栄子が兄の襟首を掴んだ。 「指示を間違えて出したの、あんた 「二十二番じゃなくて、二番の馬なの」 「・・・・ : じゅ , つにに」 ド ) ゅ , っここ ? ・
いだけで、そんなのは、寝てたって出来る。 ぎんこく 「おまえ、相手は残酷栄子だぞ」 表情を読んだツアーが、あきれ顔で耳打ちした。 「見てみろ、あの涼しい顔。今だってどうせ、興奮してたのはおまえだけだろ。課題は『夢の 中で、幸せにする』だ。クールに『あっそう』じゃ、はもらえない」 ( ふーんだ。そんなのは、ちゃんと考えてありますう ) 栄子がきゃーきゃー騒ぐのは、取材がらみの時だけだとわかっているのだ。再上映は、ツア ディレクターズ・カット 。しいだけであ ーと青路のいけないカットをふんだんに盛り込んだ、監督特別編集版で行えま、 る。 「エル。まさか、妙なこと考えてないだろうな ? 」 しらじら かん ツアーは、勘が鋭かった。危険な光り方をするまなざしに、エルは白々しくにつこりビーム で対抗する。 を「ぜーんぜん。なあんにもっ」 キ 子あやしい ツアーはそういう顔をしたが、 深くは追及してこなかった。エルのディレクター 王 ズ・カットなんかよりも、万馬券の本番の方が気になるのだ。 「どう ? この調子でいけそう ? 」
( ' 薺正しいあ馬の買い方 四日後の、日曜日。 エルたちは東京の郊外にいた。緑が多く、風が吹き抜ける、開放感あふれるーー競馬場。 「どこが開放感あふれるって ? 鬼のように混んでるじゃない」 えいこ 栄子が文句を言った。どこを見ても、赤鉛筆を耳にはさみ、新聞を持ったおっさんがひしめ いている。 てつけん 哲剣によれば、今日はそれほどメジャーではないレースの日だそうだが、それでも、競馬場 の施設内は、熱気に包まれていた。暖房など入れなくても、じんわり汗がにじんでくる。 オッズ 掛け率や、次のレースの情報が映し出されるモニター、ぬいぐるみを売っているみやげもの キ 店、ビールやおでんを出すスナックコーナーが珍しくて、エルはきよろきよろ辺りを見回し なか 子た。まるで縁日みたいなにぎやかさだ。おいしそうなにおいに、お腹がすいてくる。 エルたちがここに来たのは、哲剣が競馬でひとやま当てるのを手伝うためだった。よくわか まんばけん らないが、万馬券というのを手に入れれば、数百万単位のお金が、簡単に転がり込んでくるら
いらだ さつばり意味がわからない。苛立った栄子が、哲剣を激しく揺さぶる。 「はっきり一一 = ロってよ、はっキ、り ! 」 「いい、栄子。どけ」 栄子を押しのけた青路が、哲剣のジーンズから、財布を引っ張り出した。差し込まれていた 馬券を抜き出す。一目見るなり、青路は叫んだ。 「なんじゃこりや 「貸して ! 」 栄子がひったくった馬券を、エルは横からのぞき込む。 数字が二つ並んでいた。ー 「はれ ? 」 エルはきよとんとした。栄子の髪が、怒りでうねる。 「くつ、メエルドウシアス 「いや」 こぶし キ 悪魔の嫌がらせかと、拳を握る栄子を青路が押さえた。 子「哲、馬券もらってうなずいてただろ」 王 魔王の仕業ではないというのだ。だとするならば : 。いけると思ったんだけどねえ、これで 「ははは : しわざ さいふ
黒いびろうどのような声が、聞く者を痺れさせる。圧倒的な魔王の波動に、エルはヘたり込 そそう みそうになった。粗相でとばっちりを食らわぬようにと、ツアーが必死でエルを引っ張り上げ る。 メエルドウシアスは続けた。周りの反応などおかまいなしに。 「何用だ。そこな女」 ばけん 「馬券を買ってきてちょうだい」 ( ひ とうふ お使いでも命じるような栄子に、エルは気を失いかける。子供にお豆腐を買わせるのとは、 わけが違うのだー 魔王は無言で栄子を見下ろす。表情に、目立った変化はない。 「未成年と学生には、馬券は買えないのよ」 ス キ 「どうしても、必要なの」 様 王 「あと五分で売り場が閉まるわ」
何も答えないメエルドウシアスに、エルははらはらした。次の瞬間、いきなり「栄子ミン チ」が出来たりしないのだろうか。 「どれがほしいの、哲剣」 「ああ、これ。二万円分」 哲剣が、記入済みのマークシートを出した。財布の上に重ね、メエルドウシアスに差し出 す。 ( どひ 目ん玉が飛び出しそうになる。魔族でさえ、取り次ぎの者を介してしか物を渡せない魔王 に、直接ロ メエルドウシアスは動かなかった。じれたように、栄子が一一 = ロう。 ばけん 「それがなくちゃ、馬券は手に入らないわ。それをもって、あそこに行って」 栄子は売り場をあごで示した。あごー 風のような動きで、哲剣の手から、財布とマークシートがメエルドウシアスに移る。彼は顎 をあげ、ゆうゆうと歩き出した。人波が二つに割れて、魔王を通す。 メエルドウシアスは、彼らに対して何の注意も払わなかった。存在していることすら気づい ていないといった様子で、馬券売り場へ向かう。 メエルドウシアスは、顔色をなくす人々には目もくれず、列の最後尾についた。 さいふ
出来れば避けたい」 「ヴァイネ・レアルフースか ? ツアーが首を振った。競馬場にいることがバレたら、強制送還される可能性がある。 「どうするつもりよ、あんたわっ。キ じだんだ 栄子が壊れた。靴の踵をすり減らそうとしているみたいに、地団駄を踏む。 「ーー・すげえ誤算。俺、おまえがわかってて買うもんだと思ってた」 青路がつぶやいた。信じられないと、髪を掻き上げる。 「買っておいで」 ばけん 栄子が、びしっと馬券売り場を指さす。 「学生だろうが何だろうが、買っておいで ! わたしの人生がかかってるのよ ①未成年および学生の馬券購入は、法律で禁じられています。 や 「わかった。今から学生辞めてくる」 「退学届けが受理される前に、売り場が閉め切られるわーーっ ! 」 かいけん 栄子がものすごい勢いで、哲剣をどっいた。よろけたその背に、懐剣でも突き立てるみたい 、両手でシャープペンシルを振り下ろす。 「あーーっ、マジやめて栄子 : : : ! 」 くつかかと