クインティーザ - みる会図書館


検索対象: 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印
15件見つかりました。

1. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

( でもそれはもう、クインティーザじゃなくて ) 「戻りますかヴュティーラ」 カロウが、ささやくよ , つに訊ねる。 ヴュティーラはうなずいた。 「戻りたい」 「ーーわかりました」 「でも戻れません」 うつむいて、そうつづける。 「体は戻れても、気持ちは無理だと思うから。テューナスが変わって、わたしが一人だけ難を のが 逃れるのも、テューナスがクインティーザでなくなるのもいや。それにね、カロウ」 「はい」 「もしテューナスがこのままなら、わたしはきっとどんな回り道をしてもフイゼルワルドを出 て行く。わたしたちを照らす〈双頭の鷹〉が消えない限りは」 たとえ生まれ変わっても、きっと同じだ。 紋「それで、その時にもう一度クインティーザが消えたら。わたしどうしていいか」 幻でさえ、あんなにつらいのに。二度も現実に起こったりなどすれば。 砕 「お城で、昔みたいに暮らしたい。でも、あの国の外で会った人たちが、消えちゃうのも嫌な の。そりや、二度と会いたくない人もいるけど」

2. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

( ここからわたしの〈気〉が銃口に流れる ! ) 気。わたしの中の力。 「クインティーザⅡ」 がちん ヴュティーラの視界が白くなる。体中の力が、両手から引き金に向かって流れる。 どこかから、さらに力が流れ込んでくる。 せつなふく 銃が刹那膨らんだように見えた。いままでの、どのときよりも巨きな力。 銃口から、光の鷹が飛び出す。 「でんか ! 」 あや またた ナハルーンの占い盤が、妖しく瞬いた。 クインティーザが一度翼を伸ばし、すぐに閉じた。光の矢になってエストウーサの肩を目掛 ける。 「お逃げください、 はやく ! 」 「逃がすか ! 」 エストウーサが身を翻すよりも早く、鷹のくちばしが、エストウーサの左肩を貫いた。 ひるがえ おお つらぬ

3. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

112 みちび それとも〈星〉に導かれ、べつの道を辿っただろうか。そして、もっとひどい目にあったか もしれない。 今よりもひどいなんてごめんだ。たとえばクインティーザは消えたが、死を見たのではな 。まだ希望が持てていた。 けれど、そうではなくて。死を目の当たりにし、自分だけが生きつづけるようなことがあれ 「〈融合〉は、その昔ひんばんだったと言います。戦の時は、男たちからテューナスが消えた とも。それがふたたび戻るのは、危険がすべて去ってからだといわれています」 カロウの声に、ヴュティーラは引き戻された。彼女たちはまだひとつだ。それが言われた通 りだとするならば、、 しまもヴュティーラは安全ではないのだろう。 でも。 「希望だけは持ちつづけろってことよね」 「そうですね。あなたには強い意志がおありだから。きっと、いっか戻ります」 「そうよね。 : ありがとう」 クインティーザの方を、教えてくれて。 ここを出た後、ヴュティーラは今までよりも強く生きていけそうな気がする。もう相棒を探 さなくていい。彼女は胸にいるのだから。 いくさ

4. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

218 なんとかしないと。一気に飛びかかられれば、おしまいだ。いくらレオンでもヴュティーラ でも。 ( あの銃が ) きこうじゅう ナイザの〈気吼銃〉があれま、、 銃口から飛び立っ〈双頭の鷹〉があればー ヴュティーラは焦れた。 あれなら一瞬で片がつく。クインティーザを、カとして使って。 『ちょっと撃ってみてよ』 出会った森の中で〈気吼銃〉を渡してくれたナイザ。 彼がここにいればと、強く思った。ずっと一緒だったのに、大変な思いをしてテ・クラッド にもたどり着いたのに。 戦友を失ったような気持ちだった。彼はいない。ここには、よ、。 ( ナイザ、ナイザ、どうすればいい 銃なしでどうやって戦えば。クインティーザを使え あの時、銃口から鷹が出たと泣いたヴュティーラが、そんなことを考えている。 『アルーナグクルーン』 手をかざして言ったナイザ。本当に、わたしたち〈品〉になってしまった。 ( そして戦っている。〈聖覇者〉と ) ナグクしーン

5. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

かな 「やり直せるというの ? 誰も苦します哀しまないように」 たず ーフィ・ラーの〈時止め〉に居 訊ねながら、出来るだろうと思った。ヴュティーラは昔、。ハ 合わせている。 ーフィ・ラーはヴュティーラを元の世界に戻す時、彼女を少し昔に戻した。 たど 一度見た場面を、ふたたびその通りに辿ったのを覚えている。そして、はじめとは違う未来 へ彼女は向かった。 ーフィ・ラーの〈時止め〉が起こらなければ、ヴュティーラはあの後すぐに処刑されてい たかもしれない。 だが彼女は生きている。〈やり直した〉からだ。 。どこまで、戻れるの ? 五年前 ? それとも十年 ? 」 ヴュティーラは訊ねた。まだ何も起こる前から、やり直せると一言うのならば。 とき 「あなたが生まれ落ちたその瞬間までです」 とき ( 生まれた瞬間ーー ) それならばまだ、クインティーザにも会っていない。〈連獣〉のさだまる前に戻れば。 ( もしかしてテューナスを変えられる ? ) 鷹ではない何かに。出来るならば、ヴュティーラは〈双頭の鷹〉の運命から外れる。 つまり、フイゼルワルドを出る必要がなくなる。 クインティーザを失くすような、悲しい目に遭わなくてもすむ。

6. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

176 まるで引き戻されるように目覚め、ヴュティーラははツと飛び起きた。 とどろ 胸が轟いている。夢の中での驚きが、まだ続いているのだ。 「やつばり、あれは夢 : : : 」 過去に戻れるという夢を、彼女は見ていた。 そして、クインティーザと自分が、いっか元どおりに戻れることも。 ( それも夢 ? ) あれはヴュティーラの心の願いが現れただけなのだろうか、それとも。 カタカタとテープルの上の器が鳴っている。かすかにだが、まだ揺れは続いているようだ。 「ヴュティーラ」 呼びかけられてはじめて、彼女は見守っていたカロウに気付いた。夢の中で見た時よりも、 また少し若くなっている。 「カロウ、今わたしの夢の中にいたわよね ? すごい地震で、目が覚めちゃったけれど」 、 ) うさく けんか 「いましたよ。あなたの〈従者〉の夢と交錯して、あなたがたは喧嘩なさったじゃありません

7. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

まと ふいにエストウーサがうめく。纏っていた光が消え、彼の肌からみずみずしさが失せた。蜜 いろ 色の金髪はあせ、老人のそれに変わっていく・ : 「殿下っ ! 」 顔を押さえた手を血に染めて、ナハルーンが叫んだ。 ぎようし エストウーサがヴュティーラを凝視した。その青かった両目も、黄色く濁っている。 彼は何かを言いかけ手を伸ばしたが、そのままどうと倒れた。 カジャが、人に戻る。 ほうけたように座り込むヴュティーラを、レオンが支えた。 その手から、銃が消える。 ( クインティーザ ) 今度こそはっきりと、ヴュティーラにも見えた。 ( いたね。あんたは、わたしの中にいたんだ : : : ) 力なくヴュティーラは笑った。にじんでいた額の汗をぬぐい、レオンに頭を預ける。 ( ナイザ、見ててくれた ? 銃、使えたよ ) みつ

8. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

ヴュティーラとレオンの言葉が重なった。レオンが、聞きとがめたように眉を上げる。 「ヴュティーラ、ワルド人にはテューナスが」 「ない人もいるんだわ。現に王女さまのわたしだって、いまクインティーザはいないんだか ら」 低く返して、ヴュティーラはカジャをにらんだ。 「こっちむきなさいよ」 「んだようるせえな」 「むきなさいよっリ」 ヴュティーラは床を踏み鳴らし、カジャの肩に手をかけた。払われそうになるのをかわし、 後ろ髪をつかんで頭を引き起こす。 痛みと怒りに、カジャの顔が赤く染まった。だがその倍はヴュティーラは憤激しているだろ ( あの敬礼の仕方 ! ) 紋特別なものだ。王立軍以外では、使われない。 ( あの時の、太刀筋 ) おそ 砕 るいじ 初めて化け物に襲われた時、王立軍との類似を感じた。 ( それから、あの剣 ) ふんげき まゆ

9. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

膝が震えている。体の中の何かが砂のように崩れていったあの気持ちが、蘇ったのだ 「だいじようぶ」 声に出してつぶやく。 だいじようぶ。これは昔。もう終わったの。クインティーザはわたしの中にいる。 ( いる。いなくなったんじゃない ) 喉元のお守りを握り締める。これは昔。今じゃない 「ヴュティーラ、どうしましたか ? 気分でも ? 」 幻との間に立ちはだかるように、カロウが現れた。彼の中の時がまた揺らいでいるのか、三 十なかばの青年に見える。 「カロウ ! 」 差し伸べられた手に、ヴュティーラはすがりついた。 「これは夢よね ! わたしが見ているの、夢よね」 かいま 過ぎてしまった日のことを、垣間見てしまっただけであってほしい。 カロウはゆっくりと手を握り返す。腕に力をこめ、ヴュティーラを引き起こした。 たど 「夢です。あなたの体はわたしの家で眠っている。これは、あなたが辿ってきた〈道〉の夢で もの す。あなたの中から漂い出した記憶が、時のないこの場所で、流れて行けずにいるだけのこ 砕 と」 「何でもないのね ? 目が覚めれば忘れる ? 」 よみがえ

10. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

もの 「あなたがあれらを見て、感じた想は残るかもしれませんが」 カロウは足に力の入らないヴュティーラを支えている。夢の中なのに体温が伝わってくる気 がして、ヴュティーラは少し肩の力を抜いた 「来て、くれてよかった」 一人だったら、あの幻に押しつぶされてしまったかもしれない。クインティーザの消えた瞬 幻は幻のはずなのに、毒の刃よりも鋭くヴュティーラの胸をえぐる カロウがいることで、気持ちがしつかりとしてくる。余裕を取り戻し、ヴュティーラはふと 思いついて笑った。 「これはわたしの夢なんだから、あなたが〈来て〉くれたんじゃないのよね。わたしが誰かに 助けてはしいって思って、あなたを思い浮かべたから現れただけなのに」 さっそう 颯爽と現れた騎士のように感じたが、それはヴュティーラが望んだからなのだろう。 「わたしの〈存在〉はあなたの夢ではありませんよ。あなたがカリス湖ではなく、外の世界で 眠ったのならばその通りですが」 カロウは笑っている。ヴュティーラの立ち直りの早さに感心したのだろうか、あきれたのだ ろ , つか 「これはあなたの夢ですが、この湖の底に漂い出したものでもあります。起きて片づけものを していたわたしのもとに流れてきて、あなたがうずくまっていたから、心配になって声をかけ