森 - みる会図書館


検索対象: 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印
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1. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

ものすごい音を立てて森が揺れた。地震だが、大きさが違う ! 鳥たちが鳴き声を上げて一斉に飛んだ。その羽ばたきで、一瞬空が翳る。 「サ、サキ : : : 」 した 彼を呼ばうとして、声が続かない。舌をかみそうだ。 くず す・ヘ 突き上げる衝撃に、彼らはなす術もないままでいた。天幕が、内側に折れ重なるように崩れ かたまり て行く。むきだしの丘が端から欠け、土の塊が滑り落ちてくる。 どおツ。 どしゃ 腰を浮かして数歩まろびでた彼らの後ろを、土砂が流れた。片手を失った執務官が、声もな く飲み込まれる。 がけ 今や崖となった丘の上に、つぶれた天幕がぐらついている。あれがきたら、ひとたまりもな 「エス、森へ ! 」 木々の間に逃げ込めば、あるいは助かるがもしれない。エストウーサは立ち上がり、よろけ ながらもアデレードを振り返った。 「師上、ご無事か」 セリーネと支えあったアデレードも、何とか立ち上がろうとしているところだった。髪は乱 れ、服にも頬にもべったりと土がついている。 。しくらも歩かないうちにふたたび地面に手をつく。 森へ向かったエストウーサたちょ、、 ほお いっせい かげ

2. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

122 確かめてから、エストウーサはうなずく。もう来るはずだ。 あた 「エス、ガウラたちがやられたのは、あの森の辺りだ」 ほかの者に聞こえぬよう、サキルが声をひそめて耳打ちした。野営の天幕の張られた丘の、 かげ 斜面を降りきったところにある森だ。丘の陰になる位置なのか、そこにはまだ日が射さない。 「やつらの得意そうな場所だったのではないか」 現場を見て、エストウーサはあきれた。気配を殺し、息をひそめるのにもってこいの暗い 森。 むくろ 複数で、ナイザに襲いかかったのだろうに。誰一人生きて帰れず、骸となってしめった下草 の上に転がり果てるとは。 「おろかな」 しくら あのテ・クラッド人などに後れを取るのは、〈影兵〉の方に油断があったのだろう。 彼が〈機械〉仕掛けの武器を持っていようと、一度に数人の相手が出来るはずがないのだか ら。 しかばね 「どうせなら、やつの屍が見たかったのに」 つぶやくと、聞きとがめたサキルが小声で返す。 「エス、聞こえたらどうする」 聞こえるものか。 ちきようだい えんりよ そんな大声を出しているわけではない。彼を守る兵たちも、乳兄弟で警護長のサキルに遠慮 おそ えいへい

3. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

いなな たちが、彼をリカレド・グランザと知るや否や亡き者にしようと刃を抜いた。 けんめい あの時も夜だった。リカレドは今夜のナイザのように、男たちに追われて動かない足で懸命 あらが に森を駆けた。飛んでくる刃を死にもの狂いでかわし、首に巻きついた金属の糸に抗った。 あの、暗いテリア・ダッシリナの森をリカレドは忘れることができない。月が照っていた。 森は影の中にあり、黒く浮かび上がっていた。 『ゴウッ』 しば ひび 音量を絞ったはずなのに響いた獣の声に、思考が打ち破られたリカレドははツとする。ナイ ザではない男の絶叫を聞き、何があったのかと音量を元に戻した。 『テューナス・・ : : 』 けもの かすれたナイザの声。答えるようにもう一度獣が鳴いた。 レ J うもう・ おおかみししたぐい 大きなものだ。獰猛な、おそらくは狼や獅子の類。 リカレドは、数日前に顔を合わせたフイゼルワルド人を思い出す。ヴュティーラを探しに来 たとか言う男。あれの連れていた〈霊獣〉が、獅子だった : 形勢が変わったようだ。刺客が次々とやられてゆく。獣を連れた「通りすがり」の男がナイ ザを助けたのだろう。 けが 『怪我なかった ? うちのやつは夜役に立たないから』 まだ幼さの残る少年の声がした。獣を連れた男の仲間だろうか。 ナイザは縛めから解放されたようだった。助けに入った男たちが、フイゼルワルドの者だと おさな

4. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

182 「驚いてるくせに。目がお皿よ」 「うるさいなっ」 図星を指されて、少年が赤くなる。彼女はレオンから離れ、弟とも抱き合った。 「会えてよかった」 次々に訳のわからないことが起こっているのだ。身内がいれば、どれほど心強いだろうか。 「僕もだ、姉さん。レオンと二人きりだと、のろけられつばなしで気味悪くてさ : ・ 気持ちをほぐそうとするように、シヴェックが冗談を一言う。ヴュティーラは小さく吹き出 し、レオンに向き直った。 「テリアの森って、どういうこと ? レオン、テリア・ダッシリナにいたの ? 」 祖国に残ったはずのレオンが、なぜレザンティア領にいるのか。 いぶかしむヴュティーラに、レオンは「おまえを追って出てきた」と告げ、森で起こったこ とをかいつまんで話した。 しかく ナイザが竜になり、刺客としてリザナが現れ、激しい地震から逃れるため、ティーバが彼ら を連れて跳び : ・ 「ナイザが」 考えもしなかったことに、ヴュティーラはそう言ったきり言葉をなくした。 「そんな馬鹿なことがあるかよ」

5. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

第ニ章風の中に埋もれて ー〈竜〉の住む森は、 その体をかくし異し そしてまた、深い

6. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

はちう テ・クラッドの地下で、鉢植えがびりんと震えた。 遠い森の震えが伝わってきている。 ウイラ・ジーンは、紅い花をつけたその鉢を手に取る。剣のような形の、濃い緑の葉。 つばさ 花と葉の間から曲がりくねった黒い枝が突き出している。羽のない翼のようなその枝の形が ウイラ・ジーンを魅きつけ、彼はこの鉢を育ててきた。 けんぞく はじめて、自分の眷族を見たのは十八年前だ。リカレドを頼って、テリア・ダッシリナから やってきたエーメライン。 がいとう 彼女は背に広がる骨の翼を隠すため、外套をかぶり荷物を背負っていた。それでも奇妙に見 ぶざま えていた。人々は思ったはずだ。なぜ、あの赤子を抱えた女は、あんなにも無様なのだろう ウイラ・ジーンは角のあるためこの地下に暮らし、エーメラインはその翼ゆえに深い森の中 でしか生きられなかった。 ヴィクシュ もう、人しか存在しない世界。彼らの眷族も、親戚にあたる妖精族も、巨人族も。 しんせき かか

7. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

これで、帝国兵から逃げる必要はなくなったわけだが、同時にヴュティーラへ続く糸も切れ 彼らにはヴュティーラがいるという聖都の位置がわからない。 この森を抜けて、そこにたどり着けるか ? グルル : ふいにティーヾ ノカうなり、レオンは考えを中断した。 獅子は体勢を低くし、いまにも飛びかからんばかりに森の奥へ視線をさだめている。 ナイザが戻ってきたのか ? ひも そう思いながらも、彼は大剣の入った袋を引き寄せた。紐を解き、いつでも抜き放てるよう に柄をのぞかせる。 むち 獅子がしつばを打ち振る。その鞭のような音に、樹の陰から声が聞こえた。 や 「太刀のあとに、獣の噛み傷。おまえらか、ガウラたちを殺ったのは ? 」 ナイザではない。 づえ 低い女性の声に、シヴェックが仕込み杖をつかんだ。するどい視線を飛ばす。 まぶか ざくっと土を踏みしめ、外套にプーツの女性が現れた。帽子を目深にかぶり、黒い肌に、光 くちびる るような薄い唇。 砕 西方人。 知りあいにはいない。当然、味方ではない、はず。

8. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

コハルト文庠 野夏菜の本 カウス = ルー大陸史・空の牙 ひ 誘いの刻 / 太陽のェセラ / 祭りの灯 嵐が姫《幽幻篇》《風雷篇》 / 忘我の烙 らせんかさ 今日命の螺旋 / 縲ねの鉢植 かげろう 女神の輪郭 ( 前編・後編 ) / 影隴の庭 聖女の卵 / 第玄の鏡 / 華烙の群れ 蘭の血脈《天青篇》《地猩篇》《紫浄篇》 く雨の音洲〉秘聞 闇燈籠心中桜の章・吹雪の章 朧月鬼夜抄 アルーナグクルーンの刻印 クインティーザの隻翼 ェズモーゼの左手 星 ( 甬る 月を狩る森 砕けた紋章 睡蓮の記 / 羽硝子の森 月虹のラーナ / この雪に願えるならば はなふじゃしや 華は藤夜叉 きようめい かたはね ハネがラス げつこう 丁 / 中島慶章 カバー絵 / 桃栗みかん 装

9. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

歩けない。まるで地面が波打つかのようだ。 エストウーサは丘を見上げた。天幕がゆっくりと向きを変えている。滑り出す前触れか その向こうの空に、巨きな黒い影が現れた。ゆっくりと、森を押しのけるように空へあがっ て行く。 「ひっ」 さすがにアデレードが声を上げる。彼女も、目にするのははじめてだろう。 ( あれは : はち エーメラインの鉢が震えている。 がたがた、がたがた、まるで踊るような鉢にウイラ・ジーンは異変を知った。 テリアの地が揺れている。激しくーー激しくー 目覚める ! おお

10. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

0 ヴュティーラ フイゼルワルドの王女 だったが、自分のく居 場所〉を求めて旅に出 る。工ストゥーサの誘 いを受け、レサンティ ア帝国を訪れるが・・・ ナイザ く麟 > を自在に操る テ・クラッドの少年。 ヴュティーラと共に旅 を続けてきた。帝国に はスパイとして潜入す るか黯殺者に狙われ・・・ ′ノ アキエ カジャと旅する少女。 迫害された一族メセネ ットの出。工ストウー サの陰謀により、聖都 リヴィバに幽閉される。 カジャ ヴュティーラから で金をまきあげた少年。 帝都て疾良に獣化す るが、森の奥ての青 年カロウに助けられる。