獣人 - みる会図書館


検索対象: 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印
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1. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

誰も知らない土地。 さばく テ クラッド 人々はその砂漠をそう呼んだ。誰も知らない土地 大陸の南に位置する砂漠は、長い間未踏の地だ 0 た。そこがかって魔の住んだ領域だ 0 たからかもしれない。足を踏み入れたものは次々と消える。そんな言い伝えがあったせいかも しれない。 後に〈三十人の開拓者〉と呼ばれる一団がその砂漠を目指したのは、当然の成り行きだっ た。彼らは流れ者。人の社会の、はぐれ者。 いまからおよそ百十数年前、まだ〈機械〉が存在しなかったころ、人と獣とが一対になる テューナス は′、がい 〈連獣〉が制度として機能していたころ、これを持たない者たちは迫害された。そしてまた、 あや テューナスを持ちはしても怪しげな物を作り売りする者たちも、世の人々から疎んじられてい 彼ら 〈三十人の開拓者〉は後者だった。三十人の中には、〈連獣〉を持つ者も持たない 者もいた。共通するのは、手先が器用なことのみ。民族もさまざまだった。東も西も。 っ ) 0 0

2. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

三人は獣人を切り払いながらアキエやエストウーサを探す。 「くそっ。どっからわいてくんだ、こいつら」 いっこう 一向に数の減らない獣人に、カジャがうなる。二人とも、これだけの数を相手にするのは初 めてだ。 「もしかしてアキエが、作らされているのかもしれない」 いくらなんでも、リヴィバにあるという施設から、根こそぎの獣人を持ってきたりはしない だろう。彼らには、一体でも貴重な武器のはすだ。 「だとしたら、あいつに意志はないってことか」 カジャがつぶやく。誰がすきこのんで、あんな物を生み出すというのか。 「その前に、意志があったらアキエは攻めてこないでしよう」 今の彼女に殺人はむかない。彼女のささやかな願いは、カジャと共に暮らすことだけだ。 わたしは逃げない ) ( エストウーサ。いるなら出てくればい、、 まばろし 彼女に求婚した、あのまなざしは幻のようだ。いや、幻だったのだ。エストウーサの目的 は、きっとヴュティーラの〈星〉を手に入れることだけだったはず。 「エストウーサ ! 」 つぶや フイゼルワルドを攻めるつもりなら、とヴュティーラは呟いた。 ( 返り討ちにしてくれる ! ) もう帰れない故郷。けれどあそこは変わらない。〈深き緑の王国〉は、あの姿のまま永遠に

3. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「あわれな。あんな姿に造り替えられて心を押し殺されて。われわれの仲間なのに」 「カリス湖の人なの ? 」 いまわの際に「助けて」と言い残し死んだそれを、ヴュティーラは思い出す。あの鳥型の獣 人を、彼女は殺すことでしか救えなかった。 「なかにはそういう者もいますが。われらのようにテューナスを持つものの仲間、と言いたカ ったのです」 カジャが青ざめる。獣人と、自分の獣変を重ねあわせて考えたに違いない。 「この湖には、並外れた魔カかテューナスを持った者だけが入れるのです。われわれはひっそ りと暮らすために、〈夢見る青〉にそれを願いました」 かし どこかできいた、というような顔をレオンがした。彼が首を傾げているうちに、カロウはっ づける。 「わたしの守るものです。帝国はそれを狙って、自分たちに操れるテューナスを作ろうと 「生きた武器か」 レオンがうめいた。 「ひどい ! 」

4. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

カジャの声に振り向くと、彼は人に戻っていた。今度は裸ではなく、さきほどの服を身に着 けている。 かんちが 「やっとコツがわかって来た。ダナクルー、 勘違いすんなよ。あんたを乗せてきてやった のは、利害が一致するからだ。アキエを探してくれるな ? 」 彼の心配はただ一つだった。 アキエ、無事だろうか 獣人を倒しエストウーサと向かい合うのも、その手からアキエを奪い返すのも、要するに元 を断てばい、。 それは同じだった。 ヴュティーラとカジャは視線を交わした。 「人に物を頼む時は、お願いしますが普通でしよ」 「よくいう。乗せてきてくれてありがとう、だろ」 二人はかすかに笑い、次の瞬間走り出した ! 動く獲物をもとめて、獣人があちこちから糸に引っ張られるように立ち上がった。静かな田 1 〕のような風景のなかを、異臭をさせて向か 0 てくる。 「カゼイヤ、剣の腕はなまってないな ? 」 「なまらせるかよ、将軍」 うれ 砕 レオンが憶えていたことが、カジャには嬉しいようだった。かまえた大剣を、しゃッと振

5. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

ヴュティーラは首にかけた護符をつかんだ。〈連獣〉は、無理矢理押さえつけて作るもので も、力を奪い取るためにあるものでもないのに。 しトでつがい 人が生まれたときにやってくる〈霊獣〉。一人と一匹は、生涯の分かちがたい友となる。 ( だから「助けて」だったんだ ) おそ リヴィバで彼女に襲いかかった獣人の言葉に、納得がゆく。彼らは苦しんでいた。最後の、 なけなしの心でヴュティーラに訴えていたのだ。 「カロウ ! 」 「お出しするわけにはいきません ! 」 ヴュティーラの悲鳴は、冷たい彼の声に咄まれた。 「ここはいちばん強い結界です。ここも破られたら、われらには後がなくなる。すべてをなく します」 「でもっ」 「鷹の姫よ。あなたは〈夢見る青〉を奪い取り、ドウミリアンやポーザマーをカでねじ伏せた じ′」く くんりん 制覇者が君臨する地獄を見たいのですか」 いな 「否やはききません。ヴュティーラ、われわれは、われわれのもっとも大事なものを守りま 砕 的 いつのまにか、部屋の中にいる人が増えていた。カロウに従うように、五人の男女が取り巻

6. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「エストウーサは、あれをほしいって言ってた。どんなことをしても、手に入れてみせるつ て」 。ししといったヴュティーラを、あの時彼は笑った。子供だと。 探検家になれま、、 それは、こういうことだったのだ。苦労して探さずにも、自分で結界を打ち破らずにも。 〈魔女神〉を使う。 獣人を使う 「欲のために、エストウーサは獣人を作ったの ? 」 「おそらくは」 「それのために、今人が殺されているって一言うの ? 」 「ええ」 「わたしは、ここで見ているしか出来ないの」 守られて、ただ守られて。 自分には力があるのに。」 負を取る手があるのにー カロウはネルの頭をなでながら言った。 紋「そのとおりですヴュティーラ」 「どうしてつ」 かわこて 砕 ヴュティーラは革の籠手を、剣の腹で激しく叩いた。 さっきからこればかりだ。やっていられない。

7. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「もういいよ。あとは俺が自分で。そうだよダナクルー。俺は王立軍の兵士だった。あのまん まいきや、本隊にあがって、あんたと顔合わせてたかもな。 や 辞めたのは、テューナスのせいだ。俺置いて、いっちまいやがった」 「御前試合からあまりたたん頃だ。カゼイヤの黒狼が、榻古中誤って刺され息絶えたときいた のは」 「息絶えた」 〈連獣〉と人は共にある。どちらか片方の死ぬ時、もう一方の命も潰えるはず。 「俺だって死にたかった。でも、生き残っちまいやがった」 理由は誰にもわからず、かといってフイゼルワルドでは〈連獣〉なしに生きてゆくのも難し 彼は国を出たというのだ。 ならく ろぎん 「それからはお決まりの奈落人生だよ。はつ。あんたの路銀を奪うようなね」 ヴュティーラは奥歯を噛み締め、渾身の力をこめてカジャのを叩いた。 「だましてたのね ! 」 クインティーザを失ったヴュティーラの、苦しみがわかるたったひとりの人のはずだったの 怒鳴りつけられたのを思い出す。たかが〈連獣〉とまで言った。 フイゼルワルド人が。 こんしん まお

8. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

あなんでわたしたちは助けてくれたの ? あの洗濯小屋で捕まっていれば、獣人にされちゃっ たから ? でも同じ目には仲間だってあっているじゃない ! 」 わたしが〈星〉だから ? 〈星〉はあとで役に立つから ? びりびりと心がしびれる。怒りが支配する。 感情がヴュティーラを、〈起こそう〉とする。 カジャががくんとうずくまった。それに気付かずに、ヴュティーラは叫んだ。 「未来を助けろったってねえ、目の前の人に何にもしてやれないようなャツには、そんなたい そうな物、助けらんないわよ ! 」 そんな者は、王ではない。 王にはなれない。 「カゼイヤ ? おい ! 」 レオンの押し殺した声にはっとする。 彼女たちの注目するなか、カジャがふたたび獣化した。 今度は血を吐かない。 紋「カジャ : 獣化を繰り返す彼の体が心配になる。 どうぶる 砕 だが黒狼になったカジャは胴震いをし、床を掻いてヴュティーラを見上げた。 「な、によ」

9. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

金色の光が腕のように伸びて、それをはじく。 「おのれ ! 」 カジャはティーバを連れ、ヴュティーラたちの前に立った。この場にいる限り、カジャは盾 の代わりになる。アキエの魔力攻撃は避けて行くのだから。 へび 魔術師の制裁を受けたのか、金色の〈それ〉は蛇のように延び、錐もみした。激しく苦しい ひび のか、人のものならぬ低い声が長く響く。 らち ( 埒があかない ) ヴュティーラは地面を蹴ってエストウーサの懐へ飛び込もうとした。 「あっ」 ばちっとなにかがはぜ、強い痺れと共にヴュティーラは投げ出される。 アキエの光なのか。近づけない。 ( これじゃ、アキエが擦り減るだけ ) 彼女は命を賭しても、カジャを守ろうとするだろう。そのたびに従わせようとするナハルー ンの魔術が体に食い込むのだ。 ( 決着をつけなければ ) こんとう 砕 カジャの獣化もいつまで持つかしれない。また、昏倒してしまわないとも限らない。 あた 辺りに、じりじりと残りの獣人たちが集まってきている。 ふところ きり たて

10. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

210 おそ かぎづめ 最初に襲いかかった鉤爪を、ヴュティーラは切り払った。森で出会ったあれに似た、手を武 器にした獣人。 「無理するなダナクルー アンタの剣は細いー 刃渡りもカジャやレオンの物よりはだいぶみじかい。仕留めるには、敵の懐に飛び込まね ばならない。 「はじめからわかってる。そういう稽古はいやってほど積んできたわよ ! 」 ヴュティーラは叫び返した。 「俺が保証する」 なな レオンが答える。獣人の腕を落とし、肩から腹にかけてを斜めに断ち切った。 血しぶきに、腕をかざして顔をかばう。 「アキエ ! 」 カジャが呼ばった。辺りを見回しながら先へ進む。 「アキエ ! 」 けつかい カリス湖の結界は、自分の位置をつかみにくい。常にここは膨らみ、またしばんでいるので はないだろうか。 カロウの家からそれほど離れたつもりはなかったのに、ヴュティーラたちは見たことのない 場所にいた。、とはいっても、岸からここまでの道を知っているのは、彼女しかいないのだけれ ど。 つね ふく ふところ