答え - みる会図書館


検索対象: 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印
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1. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

110 「ヴュティーラ、ではあなたは」 「戻らない」 顔を上げた。言いきってしまうとちらりとかすめる後悔を、ヴュティーラは押し殺した。 「戻れるって思ったら、先になんて進みたくなくなっちゃうわ。でもわたしたちは止まれな 。そうでしようカロウ、わたしたちは外の住人なんだから」 時は流れている。はるか先へと。 国を出てから悪いことばかりでも、明日は幸せになれると思いたい。そうやって一歩一歩ゅ くのだ。 、と思うのだ。 行ければいし 「ええ」 カロウは笑う。ヴュティーラにはなぜか、彼がほっとしたように見えた。 かえ ( でもそれなら、わざわざわたしを返還すって言わなくても ) したくないのなら、言わなければすむ。ヴュティーラはカリス湖から過去に行けるなどと は、知らなかったのだから。 「カロウ、なぜわたしにそんな話をしたの ? もしかして、そう一一 = ロう方法でしかクインティー ザは取り戻せないの ? 」 一人と一羽に戻れるのかときいた彼女への、これが答えなのだろうか。 〈霊獣〉が彼女の中に入るよりも前に、 行くことでしかかなわないのだろうか。

2. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

か」 「じゃあ、あれは夢だけれど本当のことなのね。あなたの教えてくれたことも全部」 「ええ」 きし しきふ 床板が軋み、むつつり黙りこくったカジャが隣の部屋から出てくる。さすがに敷布一枚では なく、カロウの用意した服を着ていた。 「地震に起こされちまった」 彼はつぶやいて、壁にもたれて座る。獣化した疲れが抜けないのか、目の下がくすんでくま になっていた。 「あの地震、夢じゃねえよな。今も揺れてやがるし」 だるそうに額を押さえ、カジャは一一 = ロう。 「ええ、何かが走り抜けました」 「何かって : : : なに ? 」 ヴュティーラはたずねる。そもそもここは結界に包まれ、時の流れすらない場所なのに、な ぜ地震なんて起きるのだろう。 けつかいかんしよう 「結界に干渉するような力がどこかで使われたのです。そんな時、ここは揺れます」 「ねえ、狙われてるって言ってたでしよ、レザンティアに。それじゃ、ないの ? 」 ゅうちょう 砕 いいのだろうか。 ひとごとのように悠長にしていて、 「帝国ではありません。狙ってきたのならばわかります」

3. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

名剣だった。友人の形見だなんていっていたけれど。 「カゼイヤ・オルトソン。こたえなさい。あんた何者 ? うちの兵士だったの ? だからわた しをダナクルーって。レオンを将軍ってⅡ」 カジャは強情に横を向く。ヴュティーラはその横顔に向かって怒鳴り散らした。 「答えなさいよ ! 片足の狼 ! 」 「狼 ? 」 聞きとがめたのは、レオンだった。何か思い出そうとするように、しきりに首をひねる。 「何だよ。レオン」 たず づえ 訊ねながら、シヴェックは仕込み杖を抜いた。 「姉さん、加勢しようか ? 」 彼は冷静に成り行きを見守り、だいたいの様子を判断したようだった。とりあえず、初対面 の男よりも姉の肩を持っ気になったのだろう。 「首もとに突きつけてやんなさい 「よさんか、ふたりとも」 刃をかざしたシヴェックに、レオンが止めに入った。 「放してやれヴュティーラ。カゼイヤ、ええと、オルトソン : : : か。おまえが言わぬなら、俺 が言うぞ。思い出した」 おおかみ

4. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

アデレードは立ち上がった。歩きかけ、入り口にたどり着かないうちに衛兵の敬礼が聞こえ る。すぐに人影がさし、白い指が布をたぐってかきわけた。 「遅れて申し訳ありません」 よろい エストウーサだ。彼は鎧ではなく、遠乗りに行く時のような格好をし、腰から細い剣をぶら 下げていた。 彼に続いて、サキル・リハンストンが入ってくる。いつもなら、共の役目はナハルーンの負 , っところだ。 「彼はどうしたのですか ? 」 訊ねると、エストウーサはまずしきたりどおりのを寄せあう挨携をした。そして、答え 「リヴィバへ戻らせました。城に縫いとめた〈魔女神〉を、取りに」 「ドウミリアン ? 」 くだ なれない言葉をかみ砕くように発音し、彼女ははツとした。 「ナグクルーンですか」 章「ま、。 あの、メセネットの黒髪の者です」 アキエをアデレードは思い出す。皇太子に従うはずの、〈星〉の一つ。月のような娘。 砕「メセネット、でしたか」 ふんいき どこのものとも思えない雰囲気に、これで理由がついた。 る。 まお

5. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

カジャの質問に押されている。 ろん 「カジャっⅡそんなこと一一 = ロうなら、今すぐここでわたしから巻き上げた路銀、ぜえええええ たかな えええんぶ返してもらうからねっ ! あれはわたしの一生で、いちばん高価い失くしものなの よっ」 「うるせえダナ、だまってろ ! 」 いらだ カジャは一喝した。いままでヴュティーラを煽っていたのだ。真剣な顔も苛立ったそぶりも 彼女をかわすための計算ずくだ。 まんまと引っ掛かったヴュティーラはロをつぐんでしまう。カジャは澄ました顔で話を元に 戻してしまった。 「カロウ、どうすればそれが出来るって ? 」 「方法は一つです。過去に戻ること。それで、あなたは何を取り戻したいのですか」 その問いに、カジャはうろたえたように視線を泳がせ、ちらりとヴュティーラを見た。 ( なによ ) まさか自分ではないだろう。ヴュティーラが彼に対して持っていないのは「信用」だ。取り 戻したいなら、面と向かって「ごめんなさい」と謝るべきだ。そうすれば、許さなくもない。 ( 違うってば。 : アキエかなあ ) こ いっかっ あお

6. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

116 「先ほどヴュティーラにもお話ししました」 「同じ事をか ? 」 「ええ」 「なくしたものを : ・・ : って ? 」 「そうです」 な 「ヘッ。こいつの失くしものなんて、せいぜい靴下の片つばとか、戸棚に隠したおやつだろう 「しつれいねっ ! 」 ヴュティーラは声を上げたが無視される。 「で。こいつはそれ取り戻したのか ? 」 「カジャわたしだって」 「いいえ」 「なんでだよ ? どうせ、またろくでもない遠慮でもしたんだ ? 」 「ちょっとっロ 「違います。やめたのですよ」 「なくしものが、ちゃちかったからだろ ? 」 まるで聞いていない。カロウはヴ = ティーラを気うように横目で見ながらも、矢継ぎ早の

7. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「エストウーサは、あれをほしいって言ってた。どんなことをしても、手に入れてみせるつ て」 。ししといったヴュティーラを、あの時彼は笑った。子供だと。 探検家になれま、、 それは、こういうことだったのだ。苦労して探さずにも、自分で結界を打ち破らずにも。 〈魔女神〉を使う。 獣人を使う 「欲のために、エストウーサは獣人を作ったの ? 」 「おそらくは」 「それのために、今人が殺されているって一言うの ? 」 「ええ」 「わたしは、ここで見ているしか出来ないの」 守られて、ただ守られて。 自分には力があるのに。」 負を取る手があるのにー カロウはネルの頭をなでながら言った。 紋「そのとおりですヴュティーラ」 「どうしてつ」 かわこて 砕 ヴュティーラは革の籠手を、剣の腹で激しく叩いた。 さっきからこればかりだ。やっていられない。

8. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「とじて ! 」 残されたシヴェックは、反射的に叫んでいた。この音は、内側から結界の破れた音だ。姉と カジャが出ていった。 いつものヴュティーラではない。 / 彼女自身は怒りに我を忘れていたようだが。 「行ってしまわれた」 ばつりとカロウはつぶやく。だが、はじめから止めきれはしないとわかっていたかのよう な、あっさりとした口調だった。 「あなたま、 。いかれないのですね、鷹の王子」 たず カロウが訊ねる。それが責めているようにもとれなくはなかった。 「勝手な言い草に聞こえるよ、それ。どのみち、打って出ることだけが戦いではないと僕は思 章うけれど」 守る者がいなくては始まらない。 砕 だから残ったのだと、シヴェックは仕込み杖を引き寄せる。 そして同時に、自分の戦いかたはそうなのだと知る。 ティーバに飛び乗ったレオンが後を追う。紙袋の割れたような音が、すぐに聞こえた。 づえ われ

9. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

毒づいたヴュティーラは、ロを手の甲でぬぐった。教育係だったシレウス老が見たら、この 世の終わりのような顔をして、空を見上げたに違いない。 「カロウ。こんなんで、わたしたちほんとに、ほんとに〈星〉がひきあっているの ? 」 「はい」 「冗談でした、じゃないのね ? 」 「ええ」 人生に絶望したくなる。どうして、もっとも意地悪なやっと。 「とにかく一度お休みになってください、鷹の姫」 カロウは、器を片づけはじめた。 「当分、外にお出しするわけには行きませんし、時間はたくさんあります。わたしも逃げませ んから、いろいろとおききになりたいことはあるでしようが」 そう言われるのを待っていたように、体が疲れを思い出す。急にだるくなった体に、その方 力しいかもしれないと、彼女は思った。 章「なんだか、見えない手にぎゅうぎゅう押し付けられているみたい」 「似たようなものでしよう。時の流れないここは、姿を変えられないあなたがたにはつらい所 砕 です」 「そうなの ? 」

10. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「出来ますが。この娘があなたとお話しになるかは」 「われらの声は、聞こえているのか ? 」 「聞こえているはずでございます。〈影針〉に、縫いとめられているだけでございますから」 「ドウミリアン」 エストウーサはアキエの目を見て話しかけた。 おもむ わな 「そのほう、なにゆえリヴィバにわれらと赴いた ? すでに罠と知っていたはずだ」 気付かないなどあり得ない。魔術師であればこそ、おのれの運命にも敏なはずだ。 びどう アキエは微動だにしなかった。 「ナハルーン、術を解け」 こた 「すでにといております。アキエ・ラヒメイ・ネイガル。殿下にお応え申し上げるがよい」 やはりアキエは動かない。話すことは何もないというように。 いや、実際そのとおりなのだろう。 あらが 「いずれにしろ、抗わぬつもりならばこちらにとっては好都合。おまえを、今から目覚めさせ る。わたしの〈星〉のために、存分に働くがよいー 「殿下、お下がり下さいー 占い盤を抱えたナハルーンが進み出る。彼は釣り下げられた球を揺らした。 きこん :