今はーー」 よみがえ 胸を射られるような痛みが蘇る。彼女と命をわけた〈連獣〉は、クインティーザは祖国を 出たその時から姿が見えないままだ。 カロウは、ヴュティーラの苦しみがわかる、と言うようにうなずいた。 そうだ、彼ならば理解できる。ネルを持っ彼ならば。 ゾ」う・ほう . フイゼルワルドを後にして、初めて会う同胞だった。そこにヴュティーラはやっと気付い て、救いをもとめるように彼を見上げる。 「わたしーー」 ずっとどうしていいかわからなかった。誰にもきけなかった。フイゼルワルドの外の人は、 かな 〈連獣〉を持たない。〈連獣〉を持たない人々には、この混乱も哀しみもわかってはもらえな 「あの少年を〈あなたの従者〉と言ったのは、彼の持っ〈星〉があなたに従うものだからで ヴュティーラをはぐらかすように、カロウは話の続きをはじめた。肩透かしを食らったよう 章な気持ちになったヴュティーラは、〈星〉という一言葉にはツとした。 「〈星〉 ? ナグクルーン ? 」 砕 空の星とは違う、ある人々にさだめられた運命のことだ。正確な数はわかっておらず、同じ 時代に星同士が重なって生まれれば、影響しあうと言われている。
歌うようにエストウーサは言い、 この話はそれきりになった。 「ところで姉上。こちらでの仕事が終わり次第、われわれはすぐに西へ行こうかと」 「西 ? カリス湖、ですか ? 」 むだ 行っても無駄だ。あの結界を、彼らは打ち破れはしないのだから。 さえぎ アデレードはそう言おうとし、エストウーサに遮られた。 ともな 「そのために、ドウミリアンを伴ったナハルーンを、こちらへ向かわせているのです」 このテリア・ダッシリナへ。 はおう 「ドウミリアンは魔女の〈星〉。覇王にひざまずく時、その魔術はわたしの手に」 ドウーム ドウミリアン 〈聖覇者〉が〈魔女神〉を従え、湖へ、行く 「攻めるのですか」 皇太子を見つめ、アデレードは静かに訊ねた。 「そして、あれを奪うと ? 〈夢見る青〉を」 万能の宝の名をアデレードはロにした。あの湖にあるという、手にしたものの願いすべてを かな 叶える至宝・ : ふいにサキルが立ち上がった。腰の剣に手をかけるや否や抜き放ち、天幕の布を叩き斬る ! くせもの 砕 ( 曲者か ) みじかいセリーネの悲鳴を聞き、アデレードは腰を浮かせた。皇太子をかばうように、腕を
しの カロウの、忍び笑いが聞こえてくる。 「それだけ素直だと、だます人もだましがいがあったでしようね」 彼はそう言って、また笑いはじめる。一応、ヴュティーラに悪いと思っているのかこらえよ , っとしてはいるが、 , っまくしカオし ( すいませんねえつだ ) うれ 喜んでもらったって。ちっとも嬉しくない。彼女は自分のこの性格によって、いやと一一 = ロうほ ど首を絞められてきたのだ。祖国を出ては有り金を根こそぎ盗まれ、祭りだと言っては奇妙な 儀式に無理矢理ねじ込まれ , ーー 「いやんなっちゃう」 「ごめんなさい」 ばやくと、カロウはすまなそうな顔を作った。そして、ふと遠い目をする。 「久しぶりに、楽しく笑えた気がします」 おもしろ 「そんな、わたしのことで面白がったりしないでください。ひどすぎる ~ 」 ほおふく ヴュティーラは頬を膨らませた。 まわ 章まったく、自分の周りの男たちは、誰も彼もどうしてこう同じような反応を示すのだろう か。ヴュティーラがだまされたと言っては笑い、 素直だと言っては、笑う。 砕 ↑く、気に入らない ) うら 一体わたしにどうしろと一一 = ロうのかしらとつぶやいたヴュティーラは、限みがましくカロウを
114 ( ナイザ、どうしてるだろう : ・・ : ) とうとっ たくら 唐突にテ・クラッドの少年を思い出す。エストウーサたちの企みを知らせようとつなげた通 信は、途切れたまま終わ 0 た。それから今まで案じているもなか 0 たけれど。 おおかみ と、ヴュティーラの夢の中を一匹の狼が駆け抜けていった。 後ろ足が一本欠けている。 片足の狼 ! けげん はっとしたヴュティーラに、カロウが怪訝な顔をする。ヴュティーラはてみじかにアキエの 予言を語った。 「じゃあ、今のは〈従者〉カジャですか ? 」 片足の狼と獣化したカジャを結び付けて、カロウが訊ねる。 「ちがうと思うけれど。だってカジャはちゃんと足あったし」 彼を洗濯小屋で見つけた時、四本の脚はそろっていたはずだ。 「そうだとも。俺はここにいるぜ」 暗がりから、カジャが姿をあらわした。 ( あんたなんかに会いたくないわ ! ) ヴュティーラは強く念じた。彼を呼んだつもりはない。夢から消えてしまえ , 「何でおまえがこんなとこ出てくんだよ。とっとと出てけよ」 ところが、カジャに同じことを言われる。夢の中でまでなんて奴だとヴュティーラはにらみ
せせら笑ったカジャに、カロウがかなしげな目をむける。 ふう 「あなたも、ひとをそんな風に言うのはおやめなさい」 「うるせ工な。俺はこいつの〈従者〉だってエのが、気にいらないんだよ ! 」 どな カジャは怒鳴り散らした。不機嫌の原因の一つはそれなのだ。 「なによっ、あたしだって、あんたなんかーー」 ヴュティーラが叫びかけた時、窓の外に何かが降り立ったー 黒い影がっかのま見え、ふっと消える。 「カロウ ! 」 ばっとう . 窓を指さしたヴュティーラは、抜刀した。この現れ方は、ただ者ではないはず。 「だれが しいえ、敵ではないはずです」 けげん カロウは侵入者があったことを認めたが、怪訝な面持ちでそうつぶやく。予定外の者なのだ ろう。 「わたし、見てーーー」 言いながら、ヴュティーラは立ち上がって入り口の布に触れた。 その瞬間、布を跡ね上げて何かが躍り込んだ。 彼女はとっさに、背をそらせてのけぞった。頭上を、黒い影が飛び越える。ふわりと、懐か しいにおいがした。
「『ドウミリアン ! 』」 「しぶといのね」 アデレードは感心したようだった。外見から、もっと儚いと思っていたかのような口調だ。 「これが魔術の領域でなければ、鞭を振るってやるのに」 ごく当然のように女王は言った。 はんちゅう エストウーサも同じ気持ちだった。自分の知る範疇のことであれば、腕ずくでも一一 = ロうこと を聞かせるだろう。 「『アキエⅡ』」 「うつ」 さこっ どんつう 鎖骨の下に鈍痛が走り、それが突然だったためエストウーサはうめいた。アデレードとサキ ルがはっとする。 紋「エストウーサ 「かまうな。 : ・・ : 来た」 砕 彼は笑った。 ( これが、カ ) 「おそらく、ドウミリアンを縫いとめている術を強めたのではないかと」 あれにかかると、痛みを伴うときいたことがあった。 むち はかな
説明を、カロウがそう言ってはじめた。ヴュティーラははっとする。彼のほうが、上手くや ってくれるだろう。 「この世には、人とは違う、とりわけ強いさだめを負って、生まれてくる者がいます。それ を、ナグクルーンと呼びます。〈時の証人〉とよばれる〈星〉の他は、何世代かに一度、気ま ぐれのように生まれます。〈星〉が一つ生まれる時代、いくつかの〈星〉が重なることが多い ようです。生まれた〈星〉は、さだめられた〈意味〉のままに動きます」 カジャが口をばかんとあけた。上手く理解できないようだ。 無理もない。ヴュティーラだって、時の流れを止められたり、砂漠の地下に住む魔旒に会っ たりしていなければ、「やーだ」と笑って済ませたかもしれない。 ましてや、自分がその〈星〉だなんて、かつがれているとしか思わないだろう。 「なんだそりや」 ほとんど呆然と、カジャが言った。 「それじやナニか ? アキエがそのナグなんとかで、だから皇太子にねらわれたっていうの か ? 」 「そのとおり。エストウーサもナグクルーンで、彼の〈おさめる〉力が、あなたの恋人を、求 めたのです」 〈星〉の力には「色」と「強弱」があり、同じ時代に同じような「色」をもつ者が生まれた場 合、弱い方が強い方にひかれるとカロウはつづけた。 ドウメし
「アキエ ! 」 カジャが息をのむ。そのまま倒れるのではないかというほど青ざめた。 いちべっ エストウーサはそんな彼を一瞥し、ヴュティーラに弱々しい笑顔を向ける。 「ヴュティーラ、案じていた。あの小屋から急に、あなたが消えて」 やさしい声が、今は気味が悪い。すべては演技だ。それが手に取るようにわかる。 「あなたの〈鷹〉がいなくなって ? つかえる力が減るものね」 「ヴュティーラ何を : ・・ : 」 「獣人のことまでみんな知ってるわ。いまさら、そんな顔してくれなくて結構よ」 「ーーそうか。ならばそれまでのこと」 エストウーサはふいに、気うような表情をやめた。冷たい笑顔に変えてゆく。 「おいで、ポーザマー。おまえも、わたしの足元にひざまずくさだめなのだから」 「それはわたしのさだめじゃないわ。わたしの〈双頭の鷹〉は、そんなこと言ってないもの」 彼女たちのさだめは、兄弟で殺しあうことだけ。同じ国では生きていけないことだけ。 「わたしには、何のことかわからぬ」 紋「あんたの言ってることだってめちゃくちやでしよ。何様のつもりよ、アキエ返してよ ! 」 「出来ぬ。あれはわたしのものだ」 砕 「あんたのものは、あんたの命だけよ皇太子さま」 こら ヴュティーラはエストウーサを睨みつけた。今なら、彼を嫌いだといったナイザの気持ちが
ひと′一と はにやー、眠い。本気で眠いと独り言が多くなりません ? 「びにー 意味不明系のやつ。実は今もゆってるんだけど。 ぎおん 最近お気に入りの擬音は「だハ ~ 」です。疲れた時に使うの。 某百貨店のペットショップに、ついこの間まで「アメリカンコッカースパニエル」という、 たれ耳巻き毛の小犬がいたんですが、そいつがわたしそっくりでさあ。元気いつばいの小犬の おり はすが、檻の中で絶対に立ち上がらないでやんの。「だるいの ~ 」といわんばかりに転がって て、ポール遊びもロだけでするし。 あおむ その犬のテーマ擬音 ( なんだそりや ) が「だハ ~ 」なので、これを言う時は仰向けに床に伸 びるのが正しいのです。っていっても、わけわかんないよな。わたしは「ナッコちゃん」と勝 手に呼んでましたが、おととい会いに行ったら、いなかった。ショック。買い手がついたのな らいいんだけど、あまりのバカさ加減に処分されてたらどうしよう。飼っときやよかったかな あ。ひとりと一匹で「だハ ~ 」ってするのが夢だったんだけどなあ。 とかなんとか言ってる間に、最後のページだよ。 そうそう、わたしパソコン買いました。例の半壊してたワープロがめでたく全損したので。 あきはばら でんじは それで秋葉原に行ったのですが、地獄だったっス。体調が悪かったせいか電磁波攻撃をもろに 食らって、ほとんどテックにいた時のアキエ状態。頭は痛いわ体は重いわ。お金払ってレシー とか「ぐびー」とか。
高くなればどうなることか。夕方には、呼吸も出来ぬほどになっているに違いない。 ぎんがい それまでにはここを離れたかった。残っている仕事は、墓穴掘りと飛行艇の残骸を解体する ことだけだ。石だらけの固い土を掘るのも、機械を使って鉄骨を焼き切るのも彼のすべきこと とは一 , つ。 サキルを含む数人の警護兵に守られて、エストウーサは森を歩いた。昨夜から、小さな地震 が続いている。それはおさまる気配を一向に見せなかった。 皇太子が来たと姿を見せて知らしめながら、エストウーサは思う。 ( ここにいても、それほどの効果はもうない。生存者がいなくなった今では ) 黒焦げの亡骸が、彼をたたえるはずもない。彼はここをち、すぐにカリス湖へ向かうのは はくしやく 止めようと考えていた。近郊のガ・ラスハ伯爵領へ立ち寄るのだ。そこで手当てを受ける者 たちの前に姿をあらわした方が、ずっと良いだろう。 ( 姉上に、ひとこと申し上げておかなくては ) アデレードはそうしろと言うだろう。共についてくるかもしれない。 「サキル、いまどのくらいの時間だ ? 」 紋空を見上げながらエストウーサは訊ねる。ナハルーンは「明朝の到着」と言った。 そろそろ着いてもよい頃だろう。 ふところ 砕 サキルは懐から、〈機械〉式の時計を引っ張り出した。日の出から、一刻が過ぎようとして