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検索対象: 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印
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1. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

加「人の世に住めないって、本当 ? 」 「あ、ああ。うん。俺たち、変わってるらしくて、なじめないんだ」 とまど 戸惑いながらもエイは答えた。 「かわってる ? 見た目は人みたいだけれど ? 」 「見た目のことじゃないんだ。俺たち、変な物作るって怖がられたり嫌がられたり。俺や父さ んはテューナスもないし。あ、テューナスって知ってる ? 」 壁の上の彼は、うなずいた。 「知ってる。 : : : 静かに、暮らしたいの ? 」 彼は重ねてきいてくる。こだわるなと思いながらも、エイはうなずいた。 だめ 「好きな物作って、それを駄目だって言われないところでね」 ここに、住む ? 僕の願いを聞いてくれるなら、ここに住んでいいよ」 「ここに ? 」 ェイはおうむがえしに訊ねた。立派な要塞だ。 もう、誰にも追われることなく暮らしていける。 「僕を、置いてくれるなら、ここに住んでいいよ。ここは僕の物だから。僕を追い出さないな ら、どこかに置いてくれるなら、好きに暮らせるよ」 「要塞がきみのものなら、誰もきみを追い出せないだろ ? ェイは言った。立場が逆だ。テ・クラッドに置いて下さいというのはエイたちの方だ。

2. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「だって、数がいつばいいるなら」 ひと 彼は弱々しかった。たった独りで暮らして、心細いのだろうか。それとも、ひとりきりで生 きてきて、大勢に追い立てられたことがあるのだろうか。 ェイはそうやって追われつづけ、信じる心をなくした者をたくさん知っていた。〈開拓者た ち〉の中にも、かってそうだった者はいる。 彼らの仲間になろうとして、なりきれずに去っていった者もいる。 「俺だけで、ここに住めるかどうかは決められないんだ。父さんに、俺たちの頭にきいてみな いと」 「じゃあ、きいてみてよ。すぐにきいてみてよ」 彼は軋拗だ 0 た。それがまるですがり付くみたいに、エイには聞こえた。 「どうして ? 」 「 : : : わかった。きいてみる。待ってて」 壁の上の彼がうなずく。彼は、言った。 「待ってる」 章そして、彼は名乗った。ウイラ・ジーンと。 砕 かしら

3. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

そこでは彼らは〈異端〉でしかない。〈連獣〉のあった時代、メセネットや〈開拓者たち〉 が異端であったように。へ連獣 > のすたれた今、フイゼルワルドが〈特別〉になったように。 いやそれ以上に。彼らは人ですらないのだから。 ようやく出会った眷族との対面に、懐かしさよりも先に寒気を覚えたのをウイラ・ジーンは 今でも思い出す。 〈運命の女〉だと、直感した。 / 彼女が、彼の人生を決める〈星〉を産んだ : ・ まだ目も開かない赤ん坊が、百年以上もまえからウイラ・ジーンを苦しめてきた。彼は自分 あやま の〈星〉を知らず、〈うたって〉はいけないと知らず、大きな過ちをいくつも犯してきた。 〈竜〉の子供。 けっえんしゃ まさか、彼が砂漠を明け渡したエイ・グランザの血縁者として生まれてくるなんて。 皮肉なものだ。テ・クラッドに〈開拓者たち〉を招き入れなければ、リカレドは生まれなか ひこうてい った。〈機械〉はこんなにも発達せず、飛行艇が墜落して、魔族の末裔の娘とテ・クラッド評 議会長が出会うこともなかったはず。 さだめの環は回っている。誰かの知らないところで、誰もの知らないところで 章彼らは運命に引き寄せられる。だが運命もまた、彼らに引き寄せられる。 あの時、ウイラ・ジーンはエーメラインの手から赤ん坊を奪い、床に叩き付けることも出来 それをしない未来を選んだのは、彼自身だ。 いたん なっ まっえい

4. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

( カゼイヤ・オルトソン めまい 目眩がするほどの怒りを覚えた。すべてを知っていた人間の、すべきことではない。 王女としての誇りが、ヴュティーラのロを開かせる。 「おまえを一生許さない ! アキエの予言など、おまえとひかれあう運命などないわ。アキエ がドウミリアンでも、あり得ない」 ヴュティーラは言って背を向けた。これ以上、彼と何も話すつもりはなかった。 しゃべ 「てめえの都合ばっかで、もの喋りやがって」 にくにくしげにカジャが吐き捨て、ヴュティーラは振り返った。 「なんですって」 「あん時てめえが慰めてもらえなかったからって、恨むなよな。そうやって他人に頼りたがる くせ 癖が悪いんだぜダナクルー」 「なっ」 「なぐさめてもらおうなんて、甘いんだよ。あんたはずっと、お城ん中でちやほや育ってきた のかもしれないけれどなあ ? 」 紋「きさま」 「あんたは黙って下さい、将軍。ほら、こうやってあんたのためにいつも誰かが手を貸してく 砕 れるんだ。いい御身分だよ」 しっと 「結局そんなの嫉妬じゃん」 うら

5. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

ヴュティーラは、昔の自分を見ているのだ。レオンは二十歳くらい。王立軍で一隊をまかさ れる地位にあった頃だろうか。 「どうして : まばろし つぶやいたが答える者はおらず、やがて、幼いヴュティーラの幻は、にじむように消えて っこ 0 虹が急ぎ、別の幻が浮かびあがる。 懐かしい王城のいちばん高い塔の屋根に、ヴュティーラがいる。さっきよりももっと幼し 五歳になるかならないかの頃だ。 かか はるかな町並みを見て、はしゃいでいる彼女を抱えているのは、長兄ポルドウェイだ。七つ 違いだから、十二、三歳のはずだ。 塔の窓からは、少女と見まごうアシリアックが半身を乗り出している。青ざめて、屋根の上 の二人にしきりに何かを言っている。危ないから降りてよ。そんなところだろうか。 アシリアックの足元では、ほっておけと言わんばかりにしらけた顔をしたシヴェックが本を そん 紋読んでいる。屋根の上では、げらげら笑っているのだ。心配するだけ損だというのだろう。 あの時見た町並みを、ヴュティーラは覚えている。夏だった。谷のあちこちに作られた町の 砕 屋根が光っていて、風車をいきおい良く回す風が吹いていた。 まだ兄弟が幸せだった頃。血まみれの予言も、誰も知らなかった。 おさな

6. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「住んでいるのが女ばかりだといいな」 「美女ばかりならな」 気楽な笑い声が、青年たちから上がる。ナジーレは「馬鹿め」という顔をしてにやりとした が、何も言わなかった。かわりに、数少ない女性たちからしい視線が飛ぶ。 「ふん。何が女だか」 「そういうところに住んでる女はね、魔物と相場が決まってるの。頭からガリガリかじられて も、知らないよっ」 「へつ、おまえらとは違うよ。美女はね、おしとやかなの。ま 力さつに腕まくりしてわめいたり しないの」 「なにさ、ぶつよっ」 「おーおー、お熱いことで」 中年の男が、汗をぬぐいながら冷やかした。言い合いをしていた男女が、ばっと離れる。 「なっ、なんだよ」 「あたしたち別に熱くなんか」 「そーおかあ ? うつれしそうにケンカしてたように、見えたけどなあ」 二人が赤くなる。ェイもナジーレも、それを見てどっと笑った。 「行くぞ、エイ」 あせ

7. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

彼女の左手と額に、リヴィバの紋章が浮かんでいる。空から聖都を見下ろした時に見える星 型だ。 「なぜ、その紋章が浮かんでいる ? 」 「あの地に縫いとめられた〈魔女神〉でございますから。わたしの術でこうして外に出ており ますが、属するところは変わらないのでございます」 けもの あかし つまり、見えない鎖でつながれた獣のようなものなのだろう。その証というわけだ。 「心をなくしているのか、ドウミリアンは」 「そうではありませんが、自分で動くことがかなわないのです」 へだ エストウーサはアキエの顔をのぞきこんだ。深い色の瞳は、・ カラス一枚を隔てて彼を見てい るかのようだった。 あきら すべてを諦めきっているのだろうか。感情のかけらさえ見られない。 「ナハルーン、ドウミリアンと話が出来るか ? 」 とうとっ エストウーサは唐突に言った。自分が〈聖覇者〉の贄になると知っていてなぜ、ここまで静 かでいられるのか、訊いてみたい気になったのだ。 「話などしてどうなさいます ? わ 砕 ふと湧いた興味だった。 「出来ぬなら、よい」 くさめ・ にえ

8. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

まぶか くちびる 目深にかぶった帽子で、目は見えない。薄い唇が、笑う。 「パズドリアの旗印に、もしやと思ったらあなたがいた。だがまさか、お二人もごいっしよと は。危うく、殺されるところだった」 じじよ アデレードは、私的な空間には気に入りの侍女以外はめったに置かない。サキルのような腕 の立つ者がいるとは、考えていなかったのだろう。 「間の悪いところに来たな」 エストウーサが笑いながら言う。彼女に限って「殺されかける」など、あり得ないと言うよ リザナは彼にも、同じように笑みだけを返す。そして、爪で帽子をはじいて脱いだ。 はだ 夜のような黒い肌と髪が現れる。天幕へ戻ってきたセリーネは、彼女を認めて、姿が外に見 しんちょうた えないように凜重に垂れ布を直した。 外の兵士たちは誰も、この西方人の存在を知らない。彼女は〈影兵〉。陽の当たる場所に、 姿を見せはしない。 リザナを、トランセルバに向かわせたのはもうすいぶん前になる。彼女はあの国の〈ラ・ク 章クル〉の祭りに乗じて、都を混乱させ、さまざまな仕掛けをしてきたはす。 この女王と、皇太子の命令で。 砕「ちょうど、帰りの道に当たったのか」 % 「まあね。それは後で。飛行艇なんかが落ちると、こんな辺境まで、大変なことだ」 、つ . っ ) 0

9. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

災いの〈星〉、ナイザを逃がしたことよりも、ヴュティーラが離れたことの方が不安を呼ぶ。 『鷹を制すもの、世界を制す』 はおう だが、鷹は覇王の手から逃げた。いともたやすく 「エストウーサ、アキエのように縫いつけるわけにはいかなかったのですか ? 鷹が、逃げら れぬよう」 ヴュティーラを連れ帰らず、リヴィバに籠めてしまえば良かったのではないか。そんな気持 ちがかすめる。 「わたしもそうするのが良いと思ったのですが、ナハルーンが出来ぬと。彼らには、ドウミリ アンを縫いとめる法は伝わっていても、鷹は知らぬのだと申しておりました」 アデレードは「〈鷹〉について詳しいことは知らない」と言った、ナハルーンを思い出した。 エストウーサは薄い笑みを浮かべ、つづけた。 「かわりにと思い、求婚しておきましたが」 アデレードは、思わずセリーネと顔を見合わせた。 皇太子が、求婚 ? 「それは。たしかに、あの娘はあなたに好意を持ってはいたでしようけれど : : : 」 「ええ、ですから。行き場をなくして、困っていたようですしね 後で、やっかいなことにならなければいいのですが」 「知っていますけれど : おり 「ご案じなさりますな。鷹を入れる檻を、見つけるまでのこと、ーー」

10. 砕けた紋章 : アル・ナグクルーンの刻印

「向こうで、吐いてこい。楽になるぞ」 「それが出来てれば、とっくに良くなってるよ」 「出ないのか ? 」 「そう言うのとは、ちがうんだ」 話しつづけるのがつらくなり、ナイザはロを結んで目を閉じた。 ( なんでこんなに長いんだ : : : ) 野営地の食事に毒を盛られていたのではないか、とさえ思えてくる。女王アデレードは想像 いくえ わな 以上にずる賢く、幾重にも罠を張りめぐらせていたのではないだろうか。 「毒でも盛られていたんじゃないの ? 」 シヴェックが同じところに疑いを持った。それを、レオンが鼻で笑う。 「それならば、わざわざ、しかけてなど来ない。一服盛って、明け方冷たくなっていたら、手 足を持って森の中に捨てにゆく 「そうだよね。死ぬほど苦しんでいるわけでもないしね」 「苦しんでるよ」 けろっと言ったシヴェックに、ナイザは低くうなった。 ヴュティーラの血筋の者は、なぜこうもおおざっぱなのだろうか。 「逆に、食った方がいいかもしれないそ。今朝から、ろくに腹に入れてないだろう ? 」 「食いたくないんだ」 いつぶく