トリコにするだろ ! 201 あいさっ つつがない行事進行には欠かせない頼もしい青桃会会長の登場に、誰もが笑顔で口々に挨拶 をしかけたのだったが、 「そっ、そのお顔色はっ卩 からだ 「いや : : : 顔色というより、あり得べからざるお身体全体の輝きはっ卩」 まぶ 「眩しいつ」 くら 「眩しくて、目が眩みそうだっ」 髪も、 顔も、 っ 詰め襟制服も、 はらぼう 手にしたお祓い棒までも、 すべてがすべて、まばゆく輝く金色。 〃ゴールデン御霊寺みの出現に、青桃会メンバーたちは、あっ、と叫んで息を呑む。 「む。キミたち、早朝からご苦労なのだ」 いえ : ・・ : とんでもないつ」 「コンテストの準備のほうは、つつがなくすすんでいるだろうか」 とどこお ・ : ただし、金色のペンキが」 「は、はいつ。おおかた滞りなく : ペンキがどうしたとっ ! 」 「なにつー えり の
116 数々 ? 」 かなしば 「そのとおりですっ、躑躅先輩。僕も思わす金縛りですっ」 「ね : : : ねえ、如月。それしゃあ僕はこのへんで先に寮に帰るからね」 「うーんと、やつばし掘らなくっちゃ駄目 ? ミカド先輩の船に乗るだけしや、オヤツは足り ない ? 」 うつ 古井戸のなかからは、不気味に響く虚ろな声で、 『掘ってえ 『出してえ : し 呪いの訴えに入り混しる御霊寺の声を聞きとって、ゴールデン伊集院が目を輝かせた。 「ハッ ! そこにいるのは、もしかしてモナムールだねっ ? 恥ずかしがりやのキミならでは の、センスあふれる古井戸隠れんばなのさっー いま捕まえに行くよ、と。 こう′」う したい 黄金色の肢体を輝かせての神々しいターン。 そのままポオンと、井戸のなかへのダイプを決めた。 「うひやっ、トカゲが飛び込んだ卩」 「素敵ですっ、先輩 ! 僕も遅れずお供をしますっ」
188 「なんとっ」 「うひやっ卩」 大当たりのショックで伊集院はペンキ缶を取り落とす。 あやま フタのとれたペンキ缶は、過たず御霊寺青桃会会長の頭の上へと落下。 ヾンヤツ、と。 金色ペンキを頭からかぶって、見事に〃ゴールデン御霊寺〃の出来上がり。 かんべき 「素敵さ、密 ! 目にもとまらぬ完璧なお色直しつ」 「感心できないね、御霊寺くん。なぜならキミは服を着たまんまだよ。洗濯代がかさむと食費 が減ってカラダに毒なのさ」 ・ワ、つ 0 4 ・ 「えへへ、なんだかブッゾーが増えたみたい。 「スゴイですっ、先輩 ! 僕、目移りしちゃいますっ」 いきどお ペンキのおかげで全身黄金色と化した御霊寺は、憤りのあまりに長い髪を垂直に逆立てた。 : うむつ・ : うむつ・ うむむむむつ ! 」 「うむつ・ これで一一人は似合いの夫婦さ、と。 伊集院が御霊寺めがけて先制のダッシュ。 しいや御霊寺くんは僕のシモべさ、と。 菖蒲が負けすに追い上げる。
132 みなして降りた古井戸の底は、五人も立てばいつばいいつばいの狭苦しさ。 ゴッゴッとした石が円筒形の壁を作って、底には湿った空気が溜まっているものの水気は皆 無である。 「ああっ、モナムール ! 一一人の愛の巣にしては少うし地味で、いささか華やかさに欠ける印 象なのさ」 よろこ いっきよう けれどそれも一興なのさ、と歓ぶ伊集院に、ようやく立ち上がる御霊寺がお祓い棒を突きっ じゃま 「下がりたまえ、伊集院つ。秩序正しく行われるべき発掘を、くれぐれも邪魔しないでもらい 「おや。ナニを隠そう、スペシャル・ゴールデン・スタイルで僕も発掘作業に大参加なのさ。 キミとの愛を深あく掘り下げるために、このとおりシャベルもスコップも金色でトータル・コ ーディネート」 下がれ、と言われても、少しも下がる余地のない井戸のなかで、御霊寺がサワザワと長い髪 を逆立てる。 のろ ざれごと 「むう ! 聞けば耳が呪われる戲言っ。きええ 「なあなあ、朱雀う。なんだかヒンヤリして寒いぞ ? 」
190 ゴールデン青桃会会長を真ん中に挟んで、金ピカ・イトコ同士が白熱のステップ & ターンを 繰り広げ、 「なあなあ、朱雀う。どれがブッゾーでどれがトカゲだかわかんない」 一方、剣たちとは別に、朝日のなかで繰り広げられるイトコ対決を、少し離れた場所からジ ッと見守るまなざしが幾つもあった。 「ねえつ、見たかいっ ? 」 「みつ、見たよー こう′」う 「あの神々しいお姿は、間違いなく僕たちの白百合、伊集院先輩だっ」 「御霊寺青桃会会長もごいっしよさ。あれはきっと、今日の一一次審査を華やかに彩るスペシャ よきよう ルな余興のお稽古だね ! 」 まぶ 「眩しいつ。とてもじゃないけど、目を開けていられないつ。たぶん、黄金郷 : : : エルドラド の物語をプチ・ミュージカル仕立てになさった出し物に違いないよー 素敵だね。素晴らしいね、と。 ささや 口々に囁き合うのは、第一一校舎裏を望む茂みのなかでそれぞれオペラグラスを手にした一年 生たちだ。 〃光り輝くナゾの集団が、第一一校舎裏手で激しいパフォーマンス % そんな未確認情報を頼りに、『美少年コンテスト』二日目のための稽古を放り出してまで駆
トリコにするだろ ! 153 とどろ 雷鳴轟く第一一校舎裏。 いじゅういん 古井戸のなかでは、伊集院がひとり金ピカ・ターンを決めていた。 稲光に照らし出されるその姿は、ゴールド。 したい うるわ あたりに振りまく煌めきが、しなやかな肢体をよりいっそう麗しく見せている。 っふふふ ! もおいいかい、モナムール。それとも、まあだだよ ? 」 「ふつふつふ。ふ なわ 縄バシゴが巻き上げられてしまったので、その場に取り残されてひとりきりだ。 ひそか 片手にペンキ缶、もう片手にハケで〃愛しい密〃を黄金色にする魅惑の瞬間を、ウキウキと 思い描き、 「ああっー 想像しただけで昇天まっしぐらなのさつ。僕とキミとのゴールデン・コンピは十 五年まえからだけど、ついに今夜、新たな黄金時代の一ページが開かれるつ ! 」 たた 仏像の祟りのおかげで一一人はウッカリ結ばれるのさ、と。 喜びにステップを踏みつつ、麗しい笑顔。 ならく 「ハシゴをのばってキミのもとへとたどり着き、すぐさまキミといっしょに奈落の底へと逆戻 のろ り。呪いの抱擁を交わしたあとは、華々しく祟りの穴埋め ! 井戸の底で美しい伝説へと早変 わりを決めるのさっ ! 」 ほ、つよう きら
トリコにするだろ ! 139 「ねえねえ、やつばし生き埋めってお腹減る ? すんごく長いあいだ埋められてたんなら、飢 え死にしそーにならなかった ? あ、あ、良かったら竹中んとこでビスケット食、つ ? チョコ チップとメープルと、どっちの味が好き ? 」 ちなみにオレはチョコチップ、と金ピカ仏像に近づこうとするのを、うしろから朱雀が引き 留めて、 「わざわざ招待するなよ」 祟られたらどーすんだよ、とガッチリ足止めするあいだに、ツーステップで埋蔵仏に接近す るのはウキウキと目を輝かせた伊集院。 「パルドン、ムッシュウ仏像。参考のために訊きたいけれど、穴埋めのあいだのアレやコレや はどんなふう ? 地上と地中と、どちらがよりエキサイティングかを、僕と密のゴールデン・ ライフのために知っておきたいと思うのさ」 ちなみに二人の未来は黄金色さ、と。 華麗なる穴蔵ターンを決める〃天敵みを、すかさず御霊寺が遮った。 「たわけた質問に時間を割かないでくれたまえ、伊集院つ。いまは一刻も早く美男侍と美少年 仏師の怨念を消し去り、一一体の仏像を人目につかないよう保護することが大切なのだ ! さも なけれは、祟りによる強風と雷と地震とが学園を強く揺さぶり、秩序正しく平穏な学園生活を おびや 脅かすことになりかねないつ」 さえぎ
216 当人がすでに着ているものとおそろいの、金ピカ着ぐるみ。 それを朱雀の頭の上から一気に被せ、 「助かった ! びったりだよっ」 「うひやっ、クマ ? しかも金色 ? 竹中の顔もおそろいで金 ? 」 「ふふつ、かわいいだろう ? 会心の出来上がりのゴールデン・テディベア ! 徹夜で縫い上 げたから縫い目は多少ふぞろいだけど : : : あっ、もう出番だっ。頑張ろう、篁くんつ」 いつにない腕力を発揮して、竹千代が朱雀をステージ上へと引っ張り上げる。 あとに残される剣は、鹿ヶ谷の特訓でヨロヨロとステップの稽古。 ステージにあらわれた一一匹の金色グマにもパチ。ハチと健闘を讃える拍手が寄せられて、それ を見守る御霊寺が役員席で金髪を逆立てていた。 おかん 「むむうつ ! あれは、篁つ。それにしても、この悪寒はどうしたコトだろう。いまだかって けいしよう きざ ない危機の兆しに、このわたしの霊感が激しく警鐘を鳴らして : : : 」 警鐘を鳴らしているようなのだ、と。 言おうとするとちゅうて : 、ツ、と切れ長の目を見開き、ガタン、と御霊寺は椅子から立ち 上がる。 舞台上では竹千代と朱雀とが『森のクマさん』あらため『金のクマさん』に扮して、歌とダ ンスを披露中。 かぶ ーしこ たた ふん
「僕はエントリーナンバー十番が本命なんだ。実は秘密の約束がもうできていてね」 敷き替えられた金色絨毯の上の座席がしだいに埋まり、『美少年カタログ』を手に赤ペンを 走らせる姿が多くなる。 白詰め襟の三年生も、灰色詰め襟の一一年生も、一一日目のステージに期待大で、にこやかに美 少年談義に花を咲かせている。 光り輝くエルドラド風へと見事に改装されたステージでは、行事委員が緊張の面持ちでしき りにマイクテストを繰り返す。 やがて、 「あっ。見たまえよ、帝前会長のお越しだ ! 」 「楽しみだね。〃青桃院のカリスマみは、いったいどの子に白羽の矢を立てるんだろう」 お付きと取り巻きとを従えてやってきた帝貴人も、ゆったりと特別席に着席した。 きら 舞台そでの青桃院役員席では、〃ゴールデン御霊寺みが厳しくも煌めく顔色で、青桃会メン 材ハーたちにきびきびと指図。 「むつ。出場者たちの集合が遅れているようだが、どうしたことだろう。寮長からはなんの連 ふゆかい 絡も ? むむつ、舞台の色が目に突き刺さるようで不愉快なのだ。次回からはこの手の趣向は 避けるようにと、来期の役員に申し送りをしてくれたまえ。しかし、集合が遅いつ。このまま ししようきた では、コンテストの進行に支障を来してしまう ! 」 203 じゅうたん しらは おもも
なか 剣はお腹を押さえてガッカリ顔で、朱雀は「やつばり掘るのかよ」と舌打ちだ。 ハケとペンキをいったん置いた伊集院が、金色スコップを嬉々として握り締め、 ひそか 「燃える、燃えるよっ、マイ・ディア・密 ! 僕とキミとをつなげるゴールデン・トンネルが 今宵ついに大完成つ」 振り上げ振り下ろすスコップで、果敢に井戸の石壁に挑みかかる。 剣と朱雀もそれにつづいて、仕方なくシャベルで穴掘りだ。 鹿ヶ谷は両手に懐中電灯で、照明担当。 とな 御霊寺はひたすら呪文を唱えて、お祓い棒を振りつづける。 あっき うら しず 「きえええ いつ、悪鬼退散、悪鬼退散っ ! 鎮まりたまえ、恨み多くし たた いにしえ ちごがもり びなんざむらい ぶっし て我が学園に祟りし古の怨霊よっ。稚児ケ森家ゆかりの美男侍に、美少年仏師。荒ぶることな く速やかにこの地を去りたまえつ」 「おやおやっ、コレはもしかして愛の掘り出しモノ ? 」 「なあなあ、朱雀う。石が崩れて、向こうに穴があるみたい ? 「 : : : なんか光ってるぜ」 「さすがですっ、先輩 ! もしかすると、先輩とおそろいで金色に輝くお宝ですっ」 まぎ 「むう つ、これはつ、紛れもない災いの気配っ ! 伊集院を除いて ひとまず下がりたまえ、キミたち。悪霊たいさあーーーー・・・・・・・・・・・・・・・・・ー・ーーーーーーん ! 」 こよい かかん