菖蒲 - みる会図書館


検索対象: トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録
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1. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

『ああああっ、牡丹さまのお子さまがっ』 ついには赤子一一人を、ケンカの勢いで床へとおっことした。 ゴロゴロゴロと華麗に転がるとちゅう、一一人の赤ん坊は右になったり左になったり上になっ たり下になったり。ようやく転がり終わったときには、あろうことか、どちらがどちらだか判 別不可能に。 『おそれながら、わたくしと三笠山とは、天下分け目のジャンケンをいたしました。そして悔 しいコトに : : : 勝ったのは、三笠山のほうでした。あまりのショックに泣きじゃくっていらし た菖蒲さまは、わたくしの腕に抱かれ、ほどなくスャスヤとお休みに。やがて、橘さまのお好 やしき みに従って伊集院家のお屋敷を出られることになりました。ですがつ、わたくしは信しており ます ! 断固として、菖蒲さまこそは伊集院家の跡取りさまっ。右になった赤ん坊さまであろ うと、左になった赤ん坊さまであろうと、たとえ橘さまのお子さまでいらっしやろうとなかろ うと、この畝傍山が腕にグッと抱き上げましたかたこそが、プリンスにしてナンバーワンにし て、紛、つコトなきホンモノつ。さあっ、いかにピンポー暮らしでありましよ、つとも、自信をお 持ちください、菖蒲さま ! 』 菖蒲さまこそが、輝ける〃プリンスみなのです、と。 ふたたび針と糸とを手にしつつ、畝傍山が叫んでいた。 思い出して菖蒲は、茂みのなかで微笑する。

2. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

184 みは きよ、つがく 、ツ、と目を瞠った菖蒲は、クルクルと驚愕のターン。いま明かされる予想外の〃秘密〃 からだよじ に、しなやかな身体を捩り、 「そうだったのかい、御霊寺くん。そんなコトとはっゅ知らず、思わぬ回り道を来てしまった のさ」 「なあなあ、朱雀う。イトコトカゲが納得してる」 「 : ・・ : 放っとけよ」 「けれど、そうと決まれは話は早い。いざっ、御霊寺くんを我がモノにつ」 けんせい 御霊寺めがけてさっそく詰め寄ろうとする菖蒲を、すばやく伊集院が牽制する。 コワカ 「そう簡単には渡さないのさ、ムッシュウ・ソックリ。だって僕と密とは、押さば引け、 ば押せの、とっても深い仲だから ! 」 「なんのつ。伊集院家が僕のモノになる運命なら、しよせん御霊寺くんも同しく僕の名前で予 約済みなのさ。だって僕は、プリンス菖蒲 ! 自他ともに認める、不遇の王子つ」 僕のモノさ。 いや僕のモノなのさ、と。 御霊寺をなかに挟んで、伊集院と菖蒲とが睨み合いだ。 しばふ 第一一校舎裏の芝生を明るい朝日がキラキラと照らす。 伊集院と、菖蒲と、運動部精鋭たちの上半身と、キケン仏とフシン仏とが、その光に眩しく にら

3. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

102 よみがえ 胸に蘇るのは、どうやら式神ネズミのヒトコトであるらしい 『チュー』 いじゅういん 伊集院よりも敵のほうがマトモなら、一一人を〃取り替えっこみしてしまえばいいのではない だいたん か ? とすすめる、思いもよらない大胆意見。 「むつ、むむつ。この期に及んでまだ迷うとは、我ながら情けないコトなのだ ! 確かにあの あやめ 伊集院菖蒲とやらは、姿は瓜二つながら、アレとは似ても似つかない有能ぶりだった。しか し、あくまでも〃敵〃は〃敵〃 ! そもそも学園転覆を狙う不届き者であることに、違いはな ちつじよ いつ。いや、だが、とはいえ、あの秩序正しい行いの数々。加えて、青桃院生としてはるかに アレより好ましい、節度ある態度 ! 」 つつじ 〃天敵み伊集院躑躅にソックリだった、〃学園の敵み伊集院菖蒲。 もしも、あの菖蒲と話し合うことができたなら。 もしも、あの菖蒲が青桃会副会長であったなら。 わずら もしも、一一度と天敵色魔に煩わされることがなく、平穏かっ秩序正しい日々を送ることがで きたなら。 「あれつ ? ごりよーし先輩、どーしたんだ ? なんだか上向いて固まっちゃってるぞ」 「心霊現象だろ」 「うむむ・ :

4. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

154 逃がさないのさ、モナムール。 すばやく引きすり込んでみせるのさ、と巻き毛をかき上げてのヤル気のポーズ。 ート。もしかするとこの期に及んで、愛 「それにしても遅いね、マイ・ディア・スウィートハ しり′」 のアリ地獄に尻込みを ? 」 ハケを振り振り伊集院が、地中の誘惑ダンスを踊りつづけるその上で。 あやめ 「伊集院菖蒲と肉体派の手下たち、ここに参上 ! 」 地上に上がった剣たちを、金色に輝く一団がグルリと取り囲んでいた。 伊集院菖蒲と、運動部精鋭たち。 菖蒲を筆頭に、誰も彼もが金ピカのルックスだ。 くら たくま 白馬ビリーの鞍につけられていたペンキ缶は一つ残らすからつばで、逞しい運動部員たちは 金色の上半身を輝かせて誇らしげに胸を張っている。 おす 「いっそジャージのズボンも脱げばよかったな、押忍 ! 」 「ペンキが足りなくて階しいコトをしたぞ、押忍つ」 彼らを率いる、菖蒲。 黒巻き毛を除く全身がゴールド一色という、輝ける姿。 運動部員から借りた体操着の短パンも見事に金色ペンキで塗られて、髪と、背中の花柄リュ

5. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

なさそー」 きさら」 「ああっ、躑躅先輩 ! 僕、素行不良の如月なんかとは違って、浮気者の美少年しゃないんで すつ。でも、ちょっとでもよそ見をした悪い子って思うんでしたら〃駄目だね、僕の子鹿みつ て叱ってくださいつ」 「 : : : 御霊寺先輩。仏像抱えて逃げなくていーんですか」 囲まれてますけど、と冷静に忠告する朱雀を、御霊寺は制して、 「諸君。ここは、この御霊寺にまかせてくれたまえ」 せきばら ゴホン、とおもむろに咳払いしたあとに、一歩まえへとすすみ出た。 黄金色に輝く伊集院菖蒲の真正面。 「おや、そこにいるのは確か、御霊寺くん」 ひた、とこちらを見据えるその〃学園の敵〃に向かって、語りかける。 「伊集院菖蒲くんとお見受けする。ご存しのとおり、わたしは御霊寺密 : : : 伝統ある我が青桃 ろ 院学園において、青桃会会長職を預かるものなのだ」 あいさっ にあらためて以後よろしく、と礼儀正しく挨拶したあとに、 コ 「ついては話があるのだ、伊集院菖蒲くん。我々と手を組まないか」 〃手を組まないかみ てんぶくねら よりによって青桃院学園転覆を狙う菖蒲に向かって、そう問いカーた しか

6. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

トリコにするだろ ! 179 とつじよ 突如として、あたりに大音声が響き渡った。 あやめ 声を上げたのは、金ピカ・プリンス伊集院菖蒲。 〃ニセモノ〃と叫んでまっすぐ睨みつけるのは、はかの誰でもない伊集院だ。 ひとみ まぶ 宝石のような瞳と瞳が、朝の光眩しい第一一校舎裏でバッチリと見つめ合う。 御霊寺をなかに挟んで向かい合う、黄金色の〃ダブル伊集院 % っふつふつふつふつ ! 」 「ふふ : : : ふつふつふ ! ふ 菖蒲がまずは一歩まえへとすすみ出た。 「井戸の底に入りつばなしかと思ったら、しぶとく僕の目のまえに再登場だね。けれど〃ニセ せいとういん モノ〃、キミの役目はもうとっくに終わったのさ ! すでに仏像も青桃院学園もすっかり僕の モノで、伊集院家の跡取りの座も同じく僕のモノ。というコトはつまり、世界のすべてが僕の 思うッポだよ ! 」 キミの出る幕はもうないよ、と自信満々のホンモノ・ポーズ。 対する伊集院が、おや、と驚きに目を瞠った。 「おや、おやおやおやつ。キミは確か、僕のイトコのソックリさん。梅、ではなくて : : : 菊、 ではなくて : : : 木瓜、でもなくて : : : もっと地味で華やかさに欠ける、そう菖蒲 ! それで、 ええと、ムッシュウ・ソックリ。僕のナニが誰のツポだって ? 」 たず ナゾナゾ・ターンを決めつつ、詳しいコトを聞かせておくれと訊ねれば、嬉々として菖蒲が にら

7. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

ぜいたくきわ 見事に金の仏像を掘り返し、贅沢極まりないイベントを引っ繰り返し、ついにクニセモノみの 運命をどんでん返しで、明日からは晴れてこの僕が伊集院家の〃お坊ちゃま〃」 すき ・ : もし隙があったなら、この際〃ニセモノみを始末してもかまわない。 ふつふつふ、とはくそ笑んで、菖蒲はジリジリと茂みのなかを前進する。 実は彼は、伊集院躑躅のイトコ。 うりふた なおかっ、瓜二つのソックリさん。 たちばな けんらー」うか 父である橘が伊集院家の絢爛豪華さを嫌って家出しさえしなければ、いまごろは躑躅と同じ ゅうが く青桃院生として優雅な生活を送っていたであろう、お坊ちゃまである。 「ああ、成功を目のまえにして思い出すよ。夜泣きを繰り返す幼い僕に、畝傍山が何度も何度 も語ってくれた、アノ話。そう、アノっ : : : 僕こそが伊集院家の跡継ぎなのだと明かしてくれ た、秘密の〃プリンス伝説みつー うっとりと笑みを浮かべて、菖蒲はその〃伝説みを回想する。 だ思い出すのは、すき間風がピューピューと音を立てて吹き込む、狭い部屋。 ふとん しつじ け布団が薄くて寒いと泣く自分に、執事の畝傍山が夜なべをしながら寝物語に聞かせてくれ コ、」 0 『よろしいですか、菖蒲坊ちゃま。いまはこのような暮らしを余儀なくされておいでですが、 実は、菖蒲坊ちゃまこそが、伊集院家で優雅にお暮らしになってしかるべき、跡取りさまでい

8. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

まかせてくださいつ、と運動部員たち。 まかせたよキミたち、と伊集院菖蒲。 誰からともなくガッチリとスクラムを組んで、えいえいおうつ、と気合いの入った掛け声 『美少年コンテスト』会場から聞こえてくる歓声のなか、菖蒲が宝石のような瞳を輝かせてつ け加える。 「ところで最初に言っておくけれど、諸君。この仕事、もちろんバイト代は出ないから」

9. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

トリコーするだろ ! こもんじよちごが 集院家を家出したあとは、長きにわたる放浪生活。研究のためにと手に入れた古文書『稚児ケ もりけひぶつまいぞうき 森家秘仏埋蔵記』の一部を菖蒲に奪われたことが、今回の騒動の発端になっている。 いまごろ埋蔵仏と青桃院学園と菖蒲はいったい : しつじ みかさやま 溜め息をついて夜の湖を眺めるところに、執事の三笠山がやってきた。 ふるだぬき 「橘さま、失礼をいたします。シェフ特製古狸夜食をお持ちしました」 、つ 銀のトレーを持った使用人を従えて、テラスの入口。もの憂げに過ごす橘の心中を察するら おもも しく、気づかわしげな面持ちである。 からださわ 「あまりご心配なさっては、長い自給自足生活で弱られたお身体に障りますよ」 どうぞ夜食を召し上がって精をつけてくださいませと、テープルの上にズラリと夜食を並べ させ、 「きっといまごろは躑躅坊ちゃまが、見事にナゾの仏像を掘り返していらっしゃいます。目的 せいとういん を果たせずに、菖蒲さまも仕方なく退散なさっておいででしよう。青桃院学園の平和は無事に 守られ、伊集院家の華麗なるお血筋もめでたくスキャンダル知らすのまま」 こですから心配はご無用です、と。 なぐさ 慰める三笠山に、橘が首を振ってみせた。 「そうとは限らないのだよ、三笠山。アレは : : : 息子の菖蒲は、父親のわたしから見ても、ひ 盟しように優れた能力の持ち主です。これまでの暮らしぶりの差こそあれ、躑躅くんにもひけを た すぐ

10. トリコにするだろ ! 青桃院学園風紀録

160 尽くすことも不可能ではない ! 」 信用してくれたまえ、と御霊寺。 運動部一同が熱いまなざしをこちらによこす。 ゆっくりと歩んでくる金ピカ菖蒲が、御霊寺の目のまえに立ちどまった。 「ふふ、話がわかるようだね。御霊寺くん」 「むう。そもそも敵であるハズのキミにこんなことを一言うのもなんなのだが : : : わたしは、キ ミをアレよりもずっとマトモかっ有能であると認めるのだ」 「おや。そんなコトは当然の事実なのさ。生まれたときから、僕が〃光みで彼は〃影〃」 「えへへ 、だってトカゲだもんな」 「キミにはアレと違って、知性および品性というものを感しるのだ。アレにはあたりまえの奇 ふらち 怪な追跡行勲および意味不明のたわごと、加えて不埒きわまりない淫らな舞踏も、キミには いっさい無縁だと信しられる」 「ふつふつふつ。それも一一一一口うまでもないコトなのさ。なぜなら僕は、彼とは育ちからしてまっ たく違う、高貴な菖蒲だから , せいれんけつばく 「であるからには、ともに手を組み、清廉潔白にして秩序正しき未来のために歩むことができ ると思うのだ、菖蒲くん」 「つまり、御霊寺くん。キミは僕のシモべになるということだね ? 」 みだ