168 ワッ、と雪崩を打ってかかってきた。 かかん 剣たちは竹千代を庇いつつ、果敢に応戦である。 つらぬ 「躑躅先輩との愛を貫く、正義の子鹿キック ! ええーい うらら ひとみ 「年上ゴロシの揺れる瞳 ! うふつ、お名前きかせていただけますか ? 僕、麗です」 でもまだ食欲はイマイチ ? 」 「オメン、オメン ! ォメンがいつばい 大勢の敵に囲まれた危機的シチュエーションだが、この期に及んでマタドール御面の食欲パ ワーはイマイチだ。 と、白熱するコスチューム対決のただなかで、着流し御面がマタドールに向かってドサクサ まぎ 紛れに宣言をする。 「 : : : プロレス、するぜ」 「え ? え ? プロレス ? 」 「竹中が無事に助けられたらタイへンは解決で、そしたら思う存分、おまえともとどーりにプ ロレス」 クタイへンは解決 % クおまえとプロレスみ 言われたとたんに、マタドールの顔の輝きがピカッと増したよう。 「えへへ、えへ ! 竹中のタイへンはもう終わり ? もとどーりにプロレス ? そしたらノー なだれ
ぶあいそう そして、ヒーローにはふさわしからぬ無愛想な口ぶりで「かったり ー」とつぶやく、ギンギ ラ着流し姿の御面五号。 やこ、つとりよう 一号はその名のとおり御面をつけているが、その他四人はどうやら顔にしかに夜光塗料を塗 っているよ、つである。 輝く御面隊に変身した、剣、朱雀、鹿ヶ谷、下北沢。 かば 元祖御面一号の青年団長梅之助が、すばやく竹千代を議員から引き離して、背に庇った。 危うく〃貞操の危機みを免れた竹千代が、 「キッ、キミたち : : ・・ううん、しゃなくって、正義の〃御面〃、ありカとうつ ! 」 よろこ 梅之助の背中にしがみつきながら、歓びの涙。 太っ腹議員が、怒りに震えて大声を上げる。 「くつ、くせ者だ ! 出会えつ、出会ええええええ 応して、竹麻呂配下の腰ミノ・ムームー隊がバタバタバタと駆け込んできた。 ろ きトでフがく る 彼らは、輝く正義のヒーロー五人を目のまえにして、たちまち驚愕する。 「ヒ、ヒーローがたくさんだっー ナ 「聞いてないつ、〃 御面みさまがマタドールだったなんてつ」 オ 「とにかく捕まえろっ、捕まえるんだ ! オレたちの腰ミノだって、マタドールや着流しに負 けないコスチュームだっ」
37 オトナになるだろ ! る 「竹中くん。〃月光稚児村みっていうのはなんなの ? 」 「そ、そのう : : : 僕のハバが建設しようとしてる、一大レジャーランドで : : : あっ ! 」 こた 下北沢に訊かれて、竹千代が応えるとちゅうである。 暗い道の向こうから、ゾロゾロと人がやってくるのが見えた。 気づいた竹千代が、あっ、と小さく声を上げて首をすくめるようである。 見たところ竹中家の迎えであるらしい。アーチに負けない七光りが、夜の田んばのなかをま っすぐこちらに向かって近づいてきた。 それはたとえるならば、〃エレクトリカル大名行列 % 総勢ざっと数えて一一十人ばかり。 はおりはかま 先頭を来る男が、金色に輝く羽織袴を着て、さらに金色の扇子を手にした、なんともファン タジックないでたちだった。 「なあなあ、朱雀う。アレって、もしかして竹中の父ちゃんか ? 」 ・マタドールとい ) し勝負だぜ」 したに 金ピカ大名に従うお供たちが「した お供たちの装いはなぜか、ムームーまたは腰ミノのツー 大名行列は大名行列でも、江戸とハワイの奇跡的融合と表すべき、奇々怪々なスタイルだ。 せんす 」と掛け声をかけてい
いなか 「ひやああああー、すんごい田舎だぞっ卩」 「入り口のところに素敵なオプジェが立っているね」 「はんとだ、いろいろ書いてある ? 〃ようこそ、かぐや : : : うーんと、なんとか伝説の里み」 「〃かぐや彦伝説みだろ」 やけに派手派手しい電飾に飾られたアーチが、村の入り口とおばしき場所に立っていた。そ れがチカチカとアヤしい七色の光を発している。 ちくりん あたりは田んばと竹林ばかり。 暗くていまはよく見えないが、おそらく四方は山に囲まれていると思われる。 ひな そんな鄙びた景色のなかで、やけに悪目立ちするアーチ。その横に、大きな立て看板がこれ 見よがしに立っていた。 げつこうちごむら 〃月光稚児村建設予定地み その看板のすぐまた横には、 〃稚児村建設、断固反対み 七色の光を受けつつ夜風にはためく、横断幕だ。 なにやらものものしい雰囲気の漂う村の入り口に、マタドール姿の剣、着流し姿の朱雀、白 軍服の鹿ヶ谷に、白衣の下北沢、そしてパイロット制服の竹千代が、いま降り立つ。 「ふん ! キミたちの美青年度を高めるには、まあまあのロケーションだね」
166 たと 譬えるなら、月からやってきた五人の使者。 なかの一人が、ズィッ、とすすみ出て、 「我々は、正義の〃月光御面 「なんだとっ ? ォメン ? 」 「月光村の自然を守るため、月から遣わされた輝くヒーローだっ ! 」 ヒーローだ、と高らかに名乗る瞬間、五人はそれぞれにキメ・ポーズである。 よくよく見れば、ヒーローたちのコスチュームは五人五様。 名乗りを上げたヒーローは輝く作業着だが、他の四人はそれぞれに、 「えへへ、御面一一号だぞ ! 」 銀色の光を放っ〃マタドール御面みが一人。 つつじ 「見ていてください、躑躅先輩。〃必見 ! キュートな子鹿が大変身 ! 一一号よりかわいい御 面三号み ! 」 腰に手で胸を張るキラキラのク軍服御面〃が一人。 「こんなコトしたなんて上級生のかたがたに知られたら『意外な一面があるんだね』って、ま たモテちゃうかも知れない。 , 御面四号 ! 」 恥しらうそぶりも愛らしい、輝く白衣の〃医者御面〃が一人。 「つーか、わざわざコレ着た意味がわからねー」 つか こじか
すもう ミツなスッポンもおまえと一緒 ? 相撲も柔道もムエタイもケンカも、いままでどーりにおま えと一一人で思いっきし ? 」 腰ミノたちをやつつけたなら、今度こそ事件はすっきり解決・ : ・ : と、告げられるやいなや、 じゅう 減退気味だったパワーが、たちまち充てん完了になるらしい 、つれしーぞ、と。 そで 声を上げて、マタドール剣は輝く衣装を袖まくり。 よってたかって捕まえにくるムームー隊に、勇ましくも真正面から挑みかかった。 何が何でもやつつけろと迫る腰ミノを相手に、すばしこく逃げ、すばやく追いかけて、パン チ、パンチ、キックにパンチ。 「うわっ、強いぞ、この小柄な〃御面み ! 」 「子鹿キックにやられたっ : : : もうダメだっ」 たなか 「わ、わたしの名前は田中です、かわいい麗くん ! 」 ろ ぶっちさつづら る 朱雀扮する着流し御面は、輝く仏項面で腰ミノ隊長を一発で >ZO だ。 「 : : : そろそろ帰りてー」 ナ 帰って如月と一一人でハダカのプロレスがしたいぜ、とつぶやくが、剣のはうはシルバーに輝 オ く笑顔満面で。ハワー全開の絶好調。つぎからつぎへと腰ミノを倒し、ムームーをやつつけ、と どまるところを知らない勢いで、太っ腹議員に向かってまっしぐら。 ふん
「あの、鹿ヶ谷くん。僕のこの、お医者さまコスチュームなんだけど。北大路先輩なんかは、 お医者さまゴッコをご趣味の一つにあげていて : : : だから、あんまりオトナ効果は出ないと思 うんだよね」 まっげ 睫毛を伏せた〃上級生キラー〃下北沢が「僕の美少年度は白衣なんかしゃあ消せそうにない から」と、悪気のない挑戦的なセリフだ。 げ・つこ、つ ガタゴトと派手に揺れるバスのフロントには「月光村、村内無料バス」と書かれた古いプレ ひこ さび ートがついている。ついでに薄汚れた垂れ幕に「ようこそ〃かぐや彦伝説の里みへ」と、寂し げな宣伝文句が躍っている。 「ご、ごめんね、みんな。こんな乗り物しか用意できなくって。いま計画中のレジャーランド 。あ、ちな が建設されれば、もっと余裕のある暮らしができるからって 、ヾパは言ってて : おさななじ みにこのバスは、幼馴染みの青年団長に頼んで用意してもらったんだけど」 きようしゆく 没落気味で恥ずかしいよと竹千代は恐縮するが、剣は座席に立ち上がっておおいにハシャギ じようきげん つつ上機嫌。 「えへへ。このバス、なんだかギシギシいっててスペクタクルって感しだぞ。オレと朱雀がプ ふんいき ロレスなんかしたら、すぐにぶつ壊れそーな雰囲気 ! トカゲ先輩ん家のイカダとか、ミカド 先輩のお船とかも乗ったけど、いちはん好きだな、こーゅーの」 はず ひるがえ マタドール姿の剣がギッシギッシと弾めば、となりで朱雀の着流しの裾がヒラヒラと翻る。 きたおおじ すそ