132 「オメン、オメン、捕まえたら食っていい ? はいでん 月明かりの下の拝殿まえ。 竹林から駆け出すヒーローを、グルリとみなして取り囲み、 「いまだ わっ、といっせいに飛びかかった。 「見ていてくださいつ、躑躅先輩 ! あなたの子鹿が頑張りますっ」 「あのう、あなた、もしかして美青年ですか ? 」 「くっ : : : どけ ! 」 「つーか、取るぜ、御面」 「えへへ。イマイチカが出ないけど、取って食うぞ、オメン」 ヾツ、とヒーローの顔から、朱雀と剣が御面を引きはがす。 輝く面の下には、人間の顔。 あらわになったその顔を見て、竹千代が真っ先に「ああっ」と驚きの声を上げた。 「梅之助ちゃんっ卩」 ・ : 梅之助ちゃん。 輝くヒーローの正体は、月光村青年団長の梅之助。 夜光塗料を塗った作業着に、同じく塗料付きのニット帽。古びてはいるが不思議な輝きを放
115 オトナになるだろ ! げ・つこう 月光村青年団会議所。 たけまろ 「竹麻呂め、ざまあみろだー 「気分が良かったな、昨夜はつ」 げつこうおめん 「これも〃月光御面みさまのおかげだぞ。我らがヒーロー〃御面〃さま ! 」 若者たちが集まって、肩をたたき合い、喜び合っている。 ちごむら 月光村の救世主〃月光御面〃の活躍で、『稚児村』建設反寸運動は今朝からたいそうな盛り ひたい あみち 上がりだ。村のあちこちに「建設反対」の横断幕が張られ、畦道を行く村人たちの額には「断 固闘う ! 」「月光村〃御面み同盟」と書かれたハチマキが。 つぶ 「この調子で竹麻呂の開発計画をぶつ潰そう ! 「おおうつ」 ささや うめのすけ こぶし 勢いよく拳を突き上げた若者が、腕組みで会議に参加している梅之助に向かって囁きかけ
173 オトナになるだろ ! 「なにつ卩」 きしうがく おもてを見ろ、と言われて、窓の外へと目を向ける竹麻呂。その目がたちまち驚愕に見開か れた。 御殿のまわりをグルリと囲む大勢の人の姿がそこにある。 月光村の村人たち。 そろいのハチマキにはっ御面み同盟』、そろいのハッピに夜光塗料で『好き好き〃御面〃 お 老いも若きもそろって拳を突き上げ、声をそろえて、 「『稚児村』建設、はんたあ 「オレたちの村を守れええ 、悪徳議員 「ナゾのネズミの手紙のとおりだったぞ。帰れ 「ク御面〃さま、サイコ あまりのシュプレヒコールの大きさに、竹麻呂はヨロリと一歩よろけた。 おもも 太っ腹議員が怒り心頭の面持ちで、 「かっ、帰るぞっ ! 一一度と来るものかっ ! 何が『稚児村』だっ、何が〃かぐや彦〃だっ。 いなか こんなド田舎のイイトコなしの村っ ! 」 脱いだ背広を急いで着込んで、足音高く部屋から出ようとする。 〃御面みさま、バンザ , ) 、 ~ く 5 ~ 、イ ! 」
げ・つこう たけなかごてん ここは、竹中御殿から少々離れた、同しく月光村のなか。 小さなプレハプ平屋建ての入口に、木の看板がかかっている。 『月光村青年団会議所』 村の青年たちが集まるための場所である。 なかからヒソヒソと話し声がする。 「聞いたか ? 竹中御殿の息子が帰ってきてるそうだぞ」 ちごむら 「ああ、聞いた。どうせ親子して『稚児村』建設をすすめる気だろう」 ろ 「このまんまにしておいたら、月光村の自然はメチャクチャにされちまうつ。 る なりゃあいいんだ ! 」 だんな け「とにかく竹中の旦那さまと話をして、それから : : : 」 じかだんばん オ 「御殿に直談判に言ったやつらは、会ってももらえなかったんだぞっ。のんびりしたことを一言 ってられるか ! 」 いったいどうす
175 オトナ ( なるだろ ! こ月光村の朝である。 村の入り口の電飾アーチの下。 ちょぼう 「また帰ってこいよ、千代坊」 うめのすけ 青年団長梅之助が、見送りに出てきてくれていた。 「月光村は不滅 ! 〃御面みも不滅 ! これからは、みんなの手で村を守るんだ ! 」 御面みさま ! 」 「はいつ、ク われ 「ありがとうつ、我らがヒーロー〃月光御面み ! 」 輝く空の月に帰るからと、五人のク御面みは夜の田んほを駆け去った。 手を振って別れを惜しむ村人たちの声が、いつまでも稲穂を揺らして響いていた。 げつこう おめん
あわ 慌ただしくやって来たかと思うと、とるものもとりあえす息子に向かってそんな確認。 そこへバタバタと〃腰ミノ家臣みが駆け込んでくる。 「ごっ、ご注進 ! 竹麻呂さまっ、村の様子を見てまいりましたつ。昨夜のコトがやはりすで うわさ にになっているようです ! 」 息せき切って〃家臣〃が報告するのが、今朝の村の様子である。 つじ 「青年団の会議所に若い連中が集まり、歓声を上げています。田んばの辻やバス停あたりにも 人が群れて、〃御面、御面〃と口々に」 「なにつ、〃御面 〃腰ミノ家臣みの言葉を聞いて、竹麻呂がすぐさま顔色を変えるようだ。 「〃御面〃というのは何だ ! 昨夜あらわれたという光り輝く不審者のコトかっ ? 」 「ど、どうやらそのようです。村人たちいわく『正義の使者の〃月光御面さまみが、月光村を 救いにあらわれた』と」 「〃月光御面みつ ? 」 「はい。 竹麻呂さまの推し進める『稚児村』建設計画に反対するものたちの、すでにヒーロー となっています ! 〃月光御面みについて行こう、と会議所まえには横断幕がっ」 なにやらただごととは思えない竹麻呂の様子に、おすおすと竹千代が口を差し挟み、 「あのう、 ・ : しゃなくって、父上。いったい何があったの ? 光り輝く不審者っていう お
ついでにドーナッとか焼きそばとかも回ると いーな、と。目を輝かせる剣に向かって、竹千 代がべそをかきながら打ち明ける。 げつこうち′」むら 「ううん、違うんだよ、如月。建設計画中の『月光稚児村』は、全国の美青年実業家のための 〃癒しの里みなんだ」 美青年実業家のための〃癒しの里〃『月光稚児村』。 ナゾのコンセプトのレジャーランド建設が、自然豊かな月光村で進行中。村長竹中竹麻呂が 強気で押し進めるその計画に、どうやら村人たちが反対しているらしい 「ひやー。ク癒しの砂糖〃って、すんごく甘そー」 「美青年実業家 ? なんだか素敵な響きだね」 「なってないよ、竹中くん ! 躑躅先輩のような美青年は、僕のような美少年でこそ癒される べきなのにつ」 : っーか、ムームー腰ミノで癒されるかどーか疑問だぜ」
154 その夜。 たけなかごてん 竹中御殿はつねにない歓迎ムードに包まれた。 いつもどおりの七色ライトアップはもちろんのコト、〃美少年城みの電飾が御殿を華やかに 田んばのなかに浮かび上がらせる。 ちくりん ムームー腰ミノ〃議員センセイ歓迎スペシャル・チームみが高らかに『竹林サンバ』を歌い 上げ、涼しい夜風のなかをエレクトリカル大名行列接待バージョンが、大事なお客の出迎えに と繰り出していく。 げつこう 「ようこそ、、月光村へー きんらんどんす はおり たけまろ 金襴緞子の竹林羽織でキメた竹麻呂が、リムジンでやってきた県会議員を村の入り口で抱き 締めた。 「わしが月光村村長にして、この一帯の山々を先祖代々所有する、竹中家十三代目当主の竹中 ちごむら 竹麻呂です。ぜひとも『月光稚児村』建設にご助力を、センセイさま ! 」
翌朝。 げつこう 月光村青年団会議所に、若者たちが集まっている。 「聞いたか ? あの話をつ」 「ああ、聞いたつ。まるで奇跡だ ! 」 「オレは聞いただけしゃなくって、見たぞ。夜の田んばで光り輝いてたっ」 たけ、こり 「間違いないー アレは竹取神社のお使いだ ! 正義の使者の〃御面さま〃だ ! 」 「〃御面さま〃っ ? 」 「スゴイぞっ、〃御面さまみ ! 」 「ああ。〃月光御面みさまだな」 よろこ うめのすけ 歓びに沸き立っ若者たちのなか、梅之助が腕組みでそう言った。 今朝から村は大騒ぎになっている。 昨晩の騒動のニュースが、またたく間に村しゅうに伝わった。 おめん
147 オトナになるだろ ! はイマヒトツだ。 ふろしき ほうもっ 宝物の御面を大切に包んだ風呂敷を抱えて、梅之助が言う。 「持ち出した宝物は、これからちゃんと返しにいってくる。御面は一一度とつけないよ。いまご だんな ちょぼう ろ千代坊が、竹中の旦那さまに建設中止をかけ合ってくれてるだろう。様子を見て、オレたち 青年団が、あらためて御殿にお願いにいくつもりでいる」 そもそも月光村の間題だから、あとはまかせて学園に帰ってくれ、と。 言われるが、剣はどうも納得しきれない顔色だ。 「なあなあ、竹中って、ちゃんと学校帰ってくるのか ? クマ柄パジャマとかはなくてもい ーけど、竹中とピスケットがなくなると寂しーぞ。でもって、朱雀はもうプロレスしないの すもう か ? 竹中と夜じゅうハダカで相撲とるんしゃなかったのか ? 」 剣の心配をよそに、一行はそろそろ帰りのバスへと乗り込むコトに。 ポンコッ寸前の「月光村、村内無料バス」。 手を振る梅之助に見送られて、月光村とも竹千代ともいったんお別れだ。 エンスト三回に、急プレーキ一回。 縦横上下斜めに激しく揺れてから、バスはどうにか発車した。 緑美しい田園風景のなか、学園に向かって出発である。 「なあなあ、あそこにまた腰ミノたちが行列つくってる」