「目にモノ見せてくれるぞっ、〃御面」 ほんろう それまで腰ミノ隊を翻弄していたヒーローが、おもむろに竹麻呂のはうに向き直った。 七色ライトアップの竹中御殿をバックに、互いに睨み合う竹麻呂と〃御面み かたの 竹千代が両手を胸に組んで固唾を呑む。 突如としてヒラリッと跳躍した〃御面〃が、仁王立ちの竹麻呂を見事に飛び越えた。 みやげ 飛び越えしなに、どんっ ! と竹麻呂の背中に置き土産のキック。 あっ、とよろけた竹麻呂は、田んばの泥のなかへドボンと落っこちる。 「見ろつ。〃卩 面みさまが消えるつ」 「本当だ ! ああっ、いまのいままで輝いてたのにつ」 くらやみ 皆が見守るなか、光り輝く〃月光御面みの姿があっという間に、田んばの暗闇のなかへと消 え去った。 ろ 田んほのなかで竹麻呂が怒りに震えている。 る : ・くそおおおっ : : くそう : ナ 泥まみれの父のもとへ、竹千代が助け起こしに駆け寄っていき、 オ ・ : じゃなくって、父上、大丈夫 ? 僕の手につかまって」 息子の手につかまる竹麻呂だが、みすからの重みがわざわいしてバランスを崩し、あえなく におうだ
143 オトナになるだろ ! ′」りようじ 田んばの稲のあいだから、その様子を御霊寺が見守っている。 つ、コレは一大事つ」 「む 「チュチュッチュ ! 」
超人的食欲を誇る剣の、天変地異の前触れともとれる、食欲不振。 ようやく風呂から上がってきた竹千代が、 「ご、誤解なんだよ、如月。僕と篁くんとは、」 に何でも : いまのは、蛾に驚いただけで、 言ってみればアクシデントっていうことで : : : 」 けんめい 懸命に説明する竹千代であるが、剣は鍋を見つめてしょんほりと意気消沈。 あとから上がってきた朱雀が、 「如月」 剣に向かって、そう呼びかけたところで、 「ああっ ! アレはナニっ卩」 とつじよ 突如として悲鳴を上げたのは、一人露天風呂の湯加減を確かめていた下北沢だ。 「みんな、見てつ。アヤシゲな光が田んばのなかを飛んでるよっ ! ホタルにしては大きすぎ るよねつ。にしては小さすぎるかな ? 」 アレはなんだろう、と叫ぶ声を聞いて、鹿ヶ谷がますは駆けつけた。 「ホントだ。ナゾの飛行物体みたいだねつ。もしかすると、僕を求めて飛んでいらした躑躅先 たましい 輩の魂 ? 〃子鹿はココです〃と手すりから乗り出す鹿ヶ谷だが、光る物体はこちらへは向かわずに田ん ばのなかをターンだ。 てんべんちい
106 竹千代ともどもふたたび田んほのなかだ。 その様子を見て、村人たちは大喜び。 「やったぞ、バンザイ ! 」 「我らがヒーロー〃御面みさま、バンザイー
「ご、ごめんなさいつ、パパつ」 行こう、と剣たちを急かした竹千代は、御殿からの坂道を転がるように駆け出していく。 竹麻呂につき従っていたムームーたちが、いっせいに朱雀を捕まえようと追ってきた。 「お待ちあれつ、〃婿どのおおおおお〃っ ! 昨晩はみなさんごいっしょでご不便をおかけし ましたが、今夜からは竹千代と一一人きりのお部屋を支度させますからなっ ! 」 竹麻呂の声を背後に聞きながら、剣たちはひろびろとした田んばの緑に向かって猛ダッシ ュ。〃竹林大名みもムームーも追いかけてこないとわかるまでは、そのまま振り返らすに駆け ていく。 自然豊かな月光村。 朝の明るい光の下で見ると、ますます緑が美しい 夏の風にそよそよと稲がそよぎ、ト日 ノ丿のノがところどころに光って見える。 鳥が鳴き、虫が鳴き、動物が鳴く。 「なあなあ、朱雀 ! あそこに牛がいるつ。あっ、あっ、あっちはニワトリ ? あれって捕ま えて食っちやダメ ? 」 きたおおじ きりがみね 「なんだかとっても癒される景色だね。北大路先輩のことも、霧ケ峰先輩のことも、美少年に はありがちな、ほんのちつばけな過ちだったって思えてきたもの」 「なってないよっ、キミたち ! 田んほの稲や小川のせせらぎから〃美青年の極意みを感し取
171 オトナになるだろ ! 「どうせ村の青年団の連中かなにかだろう。わしを田んばに蹴り落としたあげく、議員センセ よ、フしゃ めいよ ィさまにご無礼をはたらくとは、なんたるコトだっ。もう容赦するものか ! 器物破損と名誉 きそん 毀損と不法侵入とその他モロモロで、五人まとめてぶち込んでやるぞ ! 」 「や : : : やめて : ・ 「なにをグズグズしているつ、竹千代 ! あらためて別の部屋で議員センセイの接待をするの だっ。『稚児村』建設と竹中家の未来は、おまえにかかって : : : 」 「やめて 〃御面み五人をあらためて取り囲んだ腰ミノ・ムームー隊。 もうぜん その彼らのまえに、いままでにない大声を上げた竹千代が、猛然と飛び出した。 「千代坊っー のどっぱ キッと竹麻呂を見据えて、竹千代はゴクンと喉に唾を飲み込む。 ギュッと拳を握って腰に当て、鹿ヶ谷ばりにググッと胸を張り、 「。、パに言いますっ ! 僕つ、『稚児村』建設には反対ですっ」 建設反対、とキッパ ) ー言い切った。 「僕つ、この村のコトが好きなんです。特に竹取神社が大好きなんです。田んほがあって、 しいところがたくさんあるつ。『稚児村』はそ 川があって、野生のテディベアはいないけど、
39 オトナになるだろ ! 「さてはあなたがつ、我が息子が契りを交わしたというクお兄さま〃っ ! 」 ク契りを交わした、お兄さまみ 剣たちは、突然のコトにびつくりである。 竹千代だけがひとり、泣きそうな顔で立ち尽くしている。 オトナ・コスチュームの五人が、夜の田んばのなか、七色大名パレードに囲まれて、 「うひやっ ? チギリ ? 」 「なってないよ、篁くん ! キミの不純同級生交遊の相手は如月だとばかり思っていたのに つ」 「竹中くんって、意外とやるんだね」 : つつーか、交わしてねー」
翌朝。 げつこう 月光村青年団会議所に、若者たちが集まっている。 「聞いたか ? あの話をつ」 「ああ、聞いたつ。まるで奇跡だ ! 」 「オレは聞いただけしゃなくって、見たぞ。夜の田んばで光り輝いてたっ」 たけ、こり 「間違いないー アレは竹取神社のお使いだ ! 正義の使者の〃御面さま〃だ ! 」 「〃御面さま〃っ ? 」 「スゴイぞっ、〃御面さまみ ! 」 「ああ。〃月光御面みさまだな」 よろこ うめのすけ 歓びに沸き立っ若者たちのなか、梅之助が腕組みでそう言った。 今朝から村は大騒ぎになっている。 昨晩の騒動のニュースが、またたく間に村しゅうに伝わった。 おめん
175 オトナ ( なるだろ ! こ月光村の朝である。 村の入り口の電飾アーチの下。 ちょぼう 「また帰ってこいよ、千代坊」 うめのすけ 青年団長梅之助が、見送りに出てきてくれていた。 「月光村は不滅 ! 〃御面みも不滅 ! これからは、みんなの手で村を守るんだ ! 」 御面みさま ! 」 「はいつ、ク われ 「ありがとうつ、我らがヒーロー〃月光御面み ! 」 輝く空の月に帰るからと、五人のク御面みは夜の田んほを駆け去った。 手を振って別れを惜しむ村人たちの声が、いつまでも稲穂を揺らして響いていた。 げつこう おめん
100 その日の夜である。 げ・つこう ゆり ゅうが 月光村上空を、百合柄ヘリコプターが優雅に夜間飛行。 うるわ ヘリから落とされた麗しのラブレターが、田んばを吹き渡る夜風に乗って、竹中御殿近くの ちくりん 竹林へと見事な降下を決める。 ひそか 『僕の密へ : : : 華麗なる愛の書簡その三 みかさやま ポンソワール、モナムール。密林生活中だと、三笠山から聞いたのさ。 のみいち 今日の蚤の市は、イマヒトツ。エキサイティングなアレコレとの出会いは、どうやら明日に 先送り。 代わりにエッフェル塔のキーホルダーを、キミのためにと買ったのさ。 熱帯雨林のなかのキミを思うと、たちまち僕のアマゾン川も大逆流ー ミッュビナマケモノといっしょに、蚤の市探検の成功を祈っておくれ。 かれい たけなかごてん