思われたら、おしまいだぞ」 疑いをかけられるような言動は慎もう、と首にかけたタオルをはすしながら、梅之助。 「遅かったしゃないか、梅之助。どこをまわってたんだ ? 」 おやしろ 「御社のあたりを見てきた。あのあたりにはまだ測量は入ってないな」 ばちあ 4 編けとり 「竹取神社はやつばり移転させるっていう話らしいぜ。村の守り神にまで、罰当たりなことし やがって ! 」 やますそ 「南の山裾には、温泉を掘るための調査が来てたぞ。県議会のお偉方に竹麻呂が招待状を出し たっていう話も、今朝聞いた」 おやじなぐ まっぞう 「松蔵んとこの田んばに無理やり建設会社のやつらが入って、松蔵の親父と殴り合いのケンカ になるところだったって」 ・ : だんだん強引になってきたな」 「そうか : しっと考え込んだ梅之助だったが、ふと思いついた顔でこう言いだす。 うわさ ろ 「それはそうと、みんな、噂を聞かないか ? 」 けそれはいったいどういう ? と、集まる青年団員たちが梅之助に注目する。 おめん オ 「〃御面〃を知ってるだろう」 「〃御面し つつし
れるらしい その様子を見つめて、剣が、 「うーんと、キンツバ姿の朱雀がクマにひかれた ? 」 : っーか、月には住んでねー」 しばらくのあいだ、うっとりと朱雀の手を握っていた竹千代だが、 ごっ、ごめんよ、篁くんっ ! 日 女月も、ごめんつ。どうしよう、僕、なんていうコ トをつ」 われ そのうち我に返って、とたんに顔を真っ赤にした。 竹千代にとっては思い出の神社であるらしい、竹取神社。 ちん ふつうの神社であれば狛犬が座っているべき参道の左右に、犬ではなく別の動物の石像が鎮 座しているようだ。 月ゆかりの神社であることから想像するに、ウサギ。 けれど、竹千代の主張によれば、〃月からのお使い〃であるクマらしい しもき物 0 わ けいだい 下北沢と鹿ヶ谷も、それぞれ境内の様子を眺めまわして、 「わかるな、僕、かぐや彦の気持ち。いちばん素敵な〃お兄さま〃が迎えにくるまでは、都の 貴族にだってお持ち帰りされないところに、すごく共感しちゃう」 「ふんつ。それなりに由緒ある神社だね。美青年の神秘的魅力を身につけるには、絶好のロケ ゆいしょ
「竹取神社の宝物の〃御面〃だよ」 「ああ、知ってる」 ゆくえ 「アレがどうやら、行方知れずになったらしいんだ」 「なっ : ・ : なんだってつ卩」 神社の宝物である大切な〃御面みが行方不明なのだと。 みは 思わぬコトを聞かされた青年団員たちが、そろって驚きに目を瞠った。 「〃御面〃っていったら、『かぐや彦伝説』と切っても切れない村の宝じゃないかっ」 「そうだ。月に帰っていく〃かぐや彦みをせめて思い出に残そうと、むかしむかしの村人が彫 ったっていう、神社に伝わる〃伝説の輝く御面み ! 」 「本当なのか、梅之助つ。一大事しゃないかっ」 あわ 捜さなくてはと慌てて出ていこうとする若者たちを、梅之助が「待て」と引き留めた。 「待ってくれ。話はそれだけじゃない。実は : : : その〃御面みが、夜の田んばのなかを飛んで いくのを見たっていうを聞いたんだ」 ク御面みが、飛んだ。 「ええっ ! 」 「とつ、飛んだっ ? 」 「〃御面みが飛んだって、どういうコトだっ ? 」 ひこ
てやってきた : ・ 『わたしのものになってください、かぐや彦』 『いや、わたしの屋敷にいらっしゃい、かぐや彦』 けれども〃かぐや彦〃は首を縦には振らす、ただ哀しい顔をして夜ごとの月を見上げてい 『ああ、帰りたい : 美しい〃かぐや彦〃の溜め息が千を数え、万を数えた、ある夜。 とうとう月からのお迎えが、御車を連ねて彼のもとへと降りてきたのでした。 。、パに叱られて。『そん 「僕 : : : こんなふうに頼りない非美少年だから、小さいころからよくノ あとっ なことで跡継ぎがっとまるのか。おまえがしつかりしないと竹中家はおしまいだ』って。その 引たびにこの神社に来て、お月さまを見上げてたんだ。パヾははんとのパパしゃなくって、僕は 実は月から落ちてきちゃったクかぐや彦〃なんだ、って。こんなふうにいまは泣いてばかりだ る な けど、いっかきっと月のお兄さまが僕を迎えに、この神社に降りてきてくれるんだ、って : ナ 自分に言い聞かせてた。そう思うと気持ちもアップして。なのに、その大事な竹取神社が、 オ 『稚児村』建設のために移転させられちゃうって : : : 」 聞いたときにはピックリして。でも、それも竹中家のため、自分のためだと言われて、とて たて
ろ だ青年団の若者たちが、こぞって竹取神社へと駆けだしているころ。 こちらは、竹中ムームー御殿。 ちくりん きんびようぶ け〃竹林大名〃竹中竹麻呂が、金屏風のまえで腰ミノ秘書に分厚い資料を広げさせていた。 たけちょ オ 「まったく、竹千代のやつにも困ったものだ」 ぐち かたち良く整えたピカピカのロヒゲをいしりつつ、息子についての思痴をこばしている。 「飛んだク御面みは夜の田んばの上をクルリとまわって、『月光稚児村』建設予定地へと消え たらしい。それを聞いてオレはこう思ったんだ。もしかすると竹取神社の神さまが、竹麻呂の 横暴にお怒りなんしゃないかって。〃御面みは盗まれたんしゃなくって、神さまが〃御面みに 宿って、竹麻呂の計画を阻止するために村に降りてくださったんしゃあないかってな ! 」 梅之助の話に、会議所のなかは一瞬シインと静まり返る。 沈黙のあとにやがて、若者たちが口々に、 うれ 「もしも、本当にそんなコトがあるなら : : : どんなに嬉しいか」 「この際ク御面〃でも〃仮面〃でもいいから、オレたちの村を救ってほしいつ」 「なあ ! みんなでこのあと、竹取神社にお参りこ ) 、 ( し力ないか ? 」 「そうしようつ。伝説のクかぐや彦〃が、月光村を助けてくれるかもしれない ! 」
ちごむら ・ : 夜空の月のように輝く〃ナゾのヒーロー〃が、『稚児村』建設予定地にあらわれた。村 たけなかたけまろ 人の反對を聞かずに強行に建設を推進しようとする竹中竹麻呂の手下どもが、その光り輝くヒ ーローによって懲らしめられた。 竹中家の土地だからと、村人が無理やり田んほを取り上げられた場所では : : : 抵抗する村人 を力すくで追い出したガラの悪い建設会社の男たちに、ヒーローが無敵のパンチ。 美味しいタケノコがとれる村の東の竹林 : : : 春には村人たちが集まってタケノコ祭りを開催 するが、そこに竹麻呂が問答無用で『稚児村大浴場建設予定』のロープを引いた。顔にキズの やと ある元ボクサーが見張りに雇われ、村の若者たちに睨みをきかせていたが、その元ボクサーに ヒーローが正義のキック。 たくま 「銀色に輝く逞しいバディー、首には輝くマフラーを巻いてたらしい」 「顔には御面 ! 竹取神社に伝わる、宝物の御面だ ! 」 ひこ 「かぐや彦が月から戻ってきて、村を救ってくれるぞ」 ろ 「打倒、竹麻呂つ。打倒、竹中家つ」 る な〃月光御面みバンサイ ! と、青年団員一同がそろって歓喜の声である。 ナ オ梅之助はしめ青年団の若者たちが〃御面みプームに沸いているころ、竹中御殿近くの竹林に ごりようじひそか は御霊寺密の影があった。 ちくりん にら
136 「千代坊。オレは別に、竹中家を潰そうと思ってこんなコトをしたんしゃないんだ」 「え ? 」 「オレがどうしても守りたかったのは : ・ : この神社だよ , それだけ言うと、梅之助はまた歩きだす。 竹千代は目を丸くして、ふたたび呆然だ。 神社を守る一一体のクマ像のあいだを、剣たちに囲まれて梅之助が去っていく。 ふと境内を明るく照らす、月明かり。 白い月光に促されたかのように、竹千代がおすおずと声を上げた。 「ま : : : 待って、如月」 「うにや ? 」 「お願い、待って ! 篁くんつ」 最初はぎくしやくと動いた竹千代が、ハタハタハタと走ってみなのところまで追いつく 「ほっ : : : 僕」 「どーしたんだ、竹中 ? 腹減ったのか ? 」 「ば、ば、ほ、ば、僕・ : ・ : つ」 ためら 「なってないねっー 告白を躊躇うのは美少年としての名折れさつ」 け・い・たい たかむら
131 オトナ ( なるだろ ! 「あっ、〃 御面みが神社に入っていく たけとりじんじゃ 竹取神社。 〃月光御面〃が、鳥居をすばやくくぐり抜けた。 いしだたみはやて ちくりんやみ 参道の石畳を疾風のように駆け抜けて、〃御面みは竹林の闇へと飛び込んでいく。 輝くコスチュームに、輝く御面。逃げ込んだ竹林のなかで、ゴソゴソ取り出す真っ黒な上着 あわ そで を着ようと、慌ただしく袖を通すところで、 「きえええ 「チュチュ 鋭い気合いの声が、暗闇の上のほうから彼めがけて降ってきた。 同時に竹林のなかに風が巻き起こり、ヒーローク御面みの手から上着を取り上げてしまう。 「しまった ! 」 おうじよう からだ 隠れミノを失って、銀色ヒーローは立ち往生。どこへどう隠れても、輝く身体を隠せない。 「くそっ」 こそこへバタバタと剣たちが突入だ。 「いたよっ」 「あそこだー 「面倒くせーけど、こーなったら捕まえるぜ」
118 健気にク朱雀とは遊ばない宣言みをする剣は、オメンホカクが目下の楽しみ。「オメンとな ししが らプロレスしてもいし 空手チョップとか回し蹴りとかでもタイへンしゃない ? 」と、鹿ケ たに 谷にしつこく確かめている。 剣たちのもとを離れた竹千代が向かったのは、御殿の外だ。 あぜみち 畦道を小走りで走って、やがてたどり着くのが竹取神社。 一人きりでスタスタと竹林のなかに入っていって、神社のまえ。 「お ? 千代坊 , そこには先客の姿があった。 梅之助である。 さいせんばこ 賽銭箱のまえでこちらを振り返って、「千代坊」と目を丸くした。 青年団会議所から農作業に向かうとちゅう。ジーンズに真っ白なタンクトップ、手には風呂 敷包みで、首にはタオルという格好だ 一瞬気ますい空気が流れたが、 「あの、梅之助ちゃん。そのタオル、良かったらいまちょっとだけ貸してくれる ? 竹千代が先にそう声をかけて、梅之助のはうへと歩み寄った。 たけとりじんじゃ
田んほのなかにひっそりと立っ神社である。 広々とした景色のなか、まるでそこだけ忘れ去られたように茂る竹林のなかに、見るからに 古そうな社殿が見えていた。 「ひやあ 5 ~ 、涼しいぞっ。なあ、竹中。アレって犬 ? 犬は食っちやダメ ? あ、犬じゃな だを」 まんじゅう くってキツネ ? それともウサギ ? えーっと、クマ ? えへへ、どっかに団子とかお饅頭と かないかなあー」 「 : : : あっても食ったらバチが当たるだろ」 「ここはね、如月、僕の思い出の場所なんだよ。僕、青桃院に入学するまでは、この村で暮ら していたからね」 思い出すなあ、となにやら遠い目をして社殿の屋根を見上げる、竹千代である。 しか 「小さいころから、よ / 、 。、パに叱られて : : : ほら、そこに〃月からのお使いみが石で彫られて いるだろう ? ふつうの神社だと狛犬だけど、ここではウサギなんだって。でも、僕にはクマ ひこ にしか見えなくて。ええと : : : 僕、キミたちに教えたかな ? この月光村には『かぐや彦伝 説』っていう物語があるんだよ」 「『かぐや彦伝説』 ? 〃かぐや姫〃とは違うのかと、そろって首を傾げる一同だ。そういえば村の入り口の七色アー チにクようこそ、かぐや彦伝説の里へ〃と書いてあったつけ、と剣は思い出す。 こまいぬ かし