108 方。 さんじようりよう つぶ うわさ 「〃三条寮を食い潰すみって噂されるほどの食欲を持っ如月くんなのに。まるで世界滅亡の 前触れだね。もしかしたら、僕たち、この月光村に骨を埋めるコトになって、一一度と素敵な上 級生には出会えない運命かも」 「うーんと、おかしーな。ふだんならもうちょっとは食えるのになー」 今朝も剣の食欲は回復せす。 山菜バーベキューをひととおり口に入れたところで、ご飯のおかわりもせずに、はやばやと お箸を置いている。剣自身は食欲不振の原因に思い当たるところがないらしく「なんだかおか ちやわん し 5 ぞ ? 」とお茶碗を見つめて首をひねるばかりだ。 そんな剣の様子に、竹千代は、 「如月 : : : ほ、僕のせいで」 すざく 自分と朱雀のコトが剣を悩ませているに違いないと察して、ますます落ち込み度が増す一 ししがたにしもきたわ 鹿ヶ谷と下北沢とが一一人の代わりにとはかりに、緑一色バーベキューと格闘で、 「下北沢くん ! キミ、ワラピをもっと食べてくれないかなっ」 すみ 「鹿ヶ谷くんこそ、青いキノコがさっきから鉄板の隅で焼け焦げているよ」 面倒くさそうに食事を終えた朱雀は、まだ不思議そうにお茶碗と見つめ合っている剣のすぐ そば。
ごめん さすがの朱雀も「御免だぜ」というセリフを飲み込む、ちょうど同しころ。 一方、剣たちはといえば、やはり食事の真っ最中である。 んまいっ ! イノシシって美味しーな ~ く〉く、 ( 2 —・」 「、つまっ、、つまっ、、つ いなか 「すごいね、キミ。僕、慣れない田舎体験のせいで、あんまり食欲がわかなくって」 「なってないよっ、下北沢くん ! 美青年への脱皮に備えて、しゅうぶんなエネルギーをとら ないでどうするんだいっ卩」 特大鍋いつばいのイノシシと野菜をまえに、剣は持ち前の食欲をいかんなく発揮だ。 一日ぶんの腹ペコを解消しようと、まるでディスポーザーのような勢いでイノシシ鍋をたい らげている。 鹿ヶ谷も負けしと、ご飯のおかわりが三杯目。すでに七杯終わって八杯目を頼む剣には及は ないものの、脱皮エネルギーの補充はカンベキな模様。 だどうやらイノシシがロに合わないらしい下北沢は、デザートの山菜ゼリーをつついている。 か 6 「それにしても、竹中くんと篁くん、いまごろどうしてるんだろうね」 おうせい け美少年一一人の旺盛な食欲のおかげで、特大鍋も一時間と経たないうちにきれいにカラッポ ちやわん オだ。ようやくお茶碗から顔を上げたところで、耳に入った下北沢の言葉に、「あれつ ? 」と首 かし を傾げた剣だった。 しもき 0 わ
「待ってくれつ、麗くん ! 」 さんじようりよう 可憐な足音を残して彼が走り去っていく先は、三条寮だ。 青桃院学園高等部一年生たちがゴージャスかっ優雅に暮らす、三条寮。 おもむき 古めかしい洋館建築の趣を漂わせるその建物の一一階、 211 号室。 ルームメイトのおせつかいで、キュートなクマ柄の壁紙で飾り立てられた部屋のなか。べッ つるぎおい ドの上で、剣が美味しい夢のなかを泳いでいた。 : : : うまそーなシチュ 「えへへ、むにや これってビーフ ? それともチキン ? もしかし たらスッポンかもしれないぞ、むにやにや ・ : : ・うへえー、よく見たら、シチューのなかにトカ なか : むに ゲ先輩が浮いてる ? でも、お腹ペこペこだからトカゲ先輩ごと食っちゃおーかなー きさ、りぞ、 学園高等部一年生の如月剣 ろ タンポポ模様のパジャマで、タオルケットの上に大の字である。驚くべき寝相の悪さと、夢 る ( な のなかでまで発揮される底なしの食欲さえなかったら、うつかり〃眠れる美少女みに間違えら けれそうな、〃カワイイ系美少年みだ。 オ 顎がはそくて、目が大きい 無類のケンカ好きだが、体型は美少年にふさわしく華奢である。 かれん きやしゃ
せいとういん 「ふん ! 一一学期いつばいで退学どころか、夏休み中にひっそりと青桃院学生徒名簿から抹 しよう 消、なんていうコトになりかねないよっ」 「上級生で頼りになりそうなかたを紹介しようか。例えば、北大路先輩とか、霧ケ峰先輩とか」 はかな つの 「学内新聞で寄付金を募るのはどう ? 見出しは、そうだね〃哀れ、竹林に消えた儚い夢ー やわはだ 湯煙に濡れる美少年の柔肌の誘惑。求む、善意のココロザシみ」 どうやら推し進める一大事業が難しい局面にあるらしい、竹中家。 その事業が成功するかいなかにこれからの学園生活がかかっている、竹千代である。 剣たちは同級生らしく、おのおの竹千代の心配だ。 「一一年生の先輩を通じて、卒業生のどなたかに援助をお願いするっていう手もあるけど」 さまよ 「なってないっ ! 才能ある僕にしては、見出しがイマイチさ。〃悲惨 ! 彷徨う美少年をふ たたび襲う竹林の悪夢。魔の三角関係が招く涙の結末に、義援金大募集 ! みで、どう ? 」 「うーんと、そのオメンを食っちゃうってゆーのはダメ ? でも、今日はなんとなく食欲が出 ろ そ 5 にない ? 」 る 山菜サンドの一一つ目に手を伸ばしかけて、やつばりやめた、と剣はあきらめる。 けお腹をおさえて「おかしーぞ」と首を傾げる剣を見やって、朱雀がポソッと、 しっと オ 「 : : : 嫉妬されてるんだかどーだか、イマイチ判断に苦しむぜ」 かし まっ
168 ワッ、と雪崩を打ってかかってきた。 かかん 剣たちは竹千代を庇いつつ、果敢に応戦である。 つらぬ 「躑躅先輩との愛を貫く、正義の子鹿キック ! ええーい うらら ひとみ 「年上ゴロシの揺れる瞳 ! うふつ、お名前きかせていただけますか ? 僕、麗です」 でもまだ食欲はイマイチ ? 」 「オメン、オメン ! ォメンがいつばい 大勢の敵に囲まれた危機的シチュエーションだが、この期に及んでマタドール御面の食欲パ ワーはイマイチだ。 と、白熱するコスチューム対決のただなかで、着流し御面がマタドールに向かってドサクサ まぎ 紛れに宣言をする。 「 : : : プロレス、するぜ」 「え ? え ? プロレス ? 」 「竹中が無事に助けられたらタイへンは解決で、そしたら思う存分、おまえともとどーりにプ ロレス」 クタイへンは解決 % クおまえとプロレスみ 言われたとたんに、マタドールの顔の輝きがピカッと増したよう。 「えへへ、えへ ! 竹中のタイへンはもう終わり ? もとどーりにプロレス ? そしたらノー なだれ
超人的食欲を誇る剣の、天変地異の前触れともとれる、食欲不振。 ようやく風呂から上がってきた竹千代が、 「ご、誤解なんだよ、如月。僕と篁くんとは、」 に何でも : いまのは、蛾に驚いただけで、 言ってみればアクシデントっていうことで : : : 」 けんめい 懸命に説明する竹千代であるが、剣は鍋を見つめてしょんほりと意気消沈。 あとから上がってきた朱雀が、 「如月」 剣に向かって、そう呼びかけたところで、 「ああっ ! アレはナニっ卩」 とつじよ 突如として悲鳴を上げたのは、一人露天風呂の湯加減を確かめていた下北沢だ。 「みんな、見てつ。アヤシゲな光が田んばのなかを飛んでるよっ ! ホタルにしては大きすぎ るよねつ。にしては小さすぎるかな ? 」 アレはなんだろう、と叫ぶ声を聞いて、鹿ヶ谷がますは駆けつけた。 「ホントだ。ナゾの飛行物体みたいだねつ。もしかすると、僕を求めて飛んでいらした躑躅先 たましい 輩の魂 ? 〃子鹿はココです〃と手すりから乗り出す鹿ヶ谷だが、光る物体はこちらへは向かわずに田ん ばのなかをターンだ。 てんべんちい
「食欲不振、治ったかよ」 「えへへ、イマヒトッ」 「原因、わかったかよ」 「えへへ、竹中のタイへン ? 」 「このままオレとプロレスできなくっても構わないかよ」 「えへへ、えへ ? 」 かし えへ ? と言ったきり首を傾げる剣に向かって、朱雀は夜の闇に乗してのアタックだ。「わ きさらぎしっと からないんなら、この際カラダに訊いてやるぜ」と〃如月を嫉妬させてやるぜ作戦〃をおもむ ろに中止して、 「ハダカのプロレス、するせ」 「うひや ? 」 すもう 「マワシ抜きの相撲でもいーぜ . ろ だ 「うひやひや ? 」 る 「帯だけの柔道でもかまわないぜ」 ナ 「ひやっ卩オピだけっ ? ソレってなんだかタイへン、しゃなくてヘンタイな感し ? 」 とつじよ たけとりじんじやけいだい オ 月夜の竹取神社境内で突如繰り広げられる、真夏の夜の格闘アバンチュール。周囲を囲む一 かた・の 同が、固唾を呑んでの観戦だ。
109 オトナになるだろ ! 「具合、悪いのかよ」 「えへへ。そんなコトないない」 「原因、なんだよ」 「えへへ。全然わかんない」 「もしかして、オレのせーかよ」 「え ? え ? オレの胃袋どっかに隠したか ? 」 「 : : : 自覚なしかよ」 参ったぜ、と朱雀はあたまをかくが、剣のはうは出されたばかりのデザートの山菜プリンを まえにジッと考え込む体勢だ。 ー・バトルを終えた鹿ヶ谷が、腰に手で胸を張りつつ一一 = 〔う。 下北沢とのバーベキュ 「だ ) たい、竹中くんの身の振り方を心配するあまりに食欲がなくなるなんて、なってない うるわ つつじ よ、如月剣 ! 繊細な美少年の神経は、麗しい躑躅先輩のためにこそ使うべきさつ」 ほほえ ひとみ 揺れる瞳の下北沢も、うふふと微笑んで、 「如月くんって、意外と友達思いなんだね。でも、僕の経験上、同級生との友情は、上級生と さまた のお付き合いに妨げになるコトが多いんだ」 そんなコトしゃあ二学期に向けての準備は全然だね、と。名うての美少年一一人が口をそろえ かっ ての〃喝みである。 せんさい
190 しんどうたっき こんにちは、真堂樹です。 せいとういん 青桃院学園風紀録『オトナになるだろ ! 』をお届けいたしますつ。 まか かれい ゴージャスで摩訶不思議で華麗なる美少年の花園、青桃院学園。そんなめくるめく口ケーシ つるぎすざく ョンで展開される、剣 & 朱雀の食欲先行型ラブ ( ? ) 。一冊読み切りタイプのお話ですので、 はしめてお手に取られるかたも、どうぞお気軽に読んでみてくださいね D さて、これまでひたすら先輩がたに愛されるべく、美少年道を突き進んできた高等部一年生 諸君ですが、どうやら夏休み後半から一一学期にかけては、彼らにとって重要なターニング・ポ だっぴと イントらしいです。 " 愛らしいキミ。から " 素敵なお兄さまみへと華麗な脱皮を遂げるための、 第一ステージ : ・ なんてゆーんでしょーか、そう、果物でいうと、まだ青かった果実が赤く 、フ 熟れはしめる、あの季節 ? とりあえず〃カッコイイ系〃朱雀はすでに、中等部生たちの青田買い候補筆頭に上がってい 、あどか医、 0
げ・つこう つるぎ 夕暮れ近くなって、月光村散歩から帰ってきた剣たちである。 「うへえええー、腹減って死にそーだぞ ! ・・・ : 」 たけなか 散歩のとちゅうで立ち寄った竹中家所有の畑で、とれたて夏野菜と、とれたてフルーツを味 かゆ わっただけ。朝のお粥はとっくに消化し終わって、剣のエネルギーはすっかり底をついてい ごてん きかん る。「肉食わなきや死んしゃうぞ」と情けない声で訴えながらの、御殿への帰還だ。 たけちょ すざく 竹千代のための〃お兄さまみ作戦決行で、朱雀は御殿のてまえから格別に竹千代と親しいフ リである。 から 朱雀の腕に自分の腕を絡ませながら、竹千代は剣に謝ることしきり。 きさらぎ たかむら 「ごめんね、ごめんね。ほんとにごめんね、如月。キミの篁くんを奪うつもりは、これつばっ ちもないからね」 ちくりん 御殿を入るとムームーたちの出迎えだ。お食事の支度ができています、と竹林柄フリルを揺 らしながら案内してくれる。