ここのえりようたかむら 「ここだけの話、九重寮の篁くんがけっこうな人気らしいんだ。はら、彼、大人びた感しだ えり っ ろう ? 美少年としてはイマイチの評価だけど、中等部生から見ると『早くも灰色詰め襟の似 合いそうな〃お兄さまオーラみが漂ってる』って、評判だって」 、つい , フル 「僕たち高等部一年生は、夏休みから秋までが難しいのさ。少年期の初々しい魅力から一歩出 いろか て、美少年と美青年のハサマに揺れる色香を、どう醸し出すかっ ! そんな微妙な進歩が求め られるんだもの。一一学期が始まったときに、先輩たちの目にその進歩が映らないと、いったん きずな 結ばれた〃特別な絆みもなかったことになりかねないー あるものは鏡とにらめつこをし、あるものは「香水をもうちょっと大人っぱいものに変えて みようかな」と真剣に悩む様子。 高等部一年生にとっての夏休みは、楽しいばかりのバカンス・シーズンにあらず。待ち受け る二学期に備えて、美少年度にまた新たな輝きを加えるべき、飛躍の時期。これまで〃愛らし い下級生みとなるべく、ひたすら努力を重ねてきた彼らに訪れる、苦悩と試練のプレセカン だド・シースンた。 な「ああっ、やつばり香水は変えよう ! 」 ガ「僕は、このあと行く予定だった〃エーゲ海クルーズ〃を、もうちょっと大人っぱい深みのあ オるクゴピ砂漠縦断ツアーみに変更するよっ」 いかにしてカワイイだけの美少年から脱皮するか : : : そんな悩みに彼らが頭を抱えるなか、 かも
ただいま学園は夏休みの真っただ中。 まぶ ひざ セミがミンミンと鳴き声を上げ、校舎の窓ガラスが眩しい陽射しにきらめいている。 生徒はそろって帰省中かと思いきや、一年生の暮らす寮には人影が多数。制服姿の彼らが、 そこここで熱むに語り合っていた。 あおたが 「聞いたかい ? 早くも中等部三年生のあいだでは『輝ける麗しの上級生、青田買いマップ』 が出回ってるって ! 」 「〃お兄さま候補、高等部一年生。隠し撮りナマ写真〃が、高値で取引されてるって聞いたよ」 せいとういん 青桃院学園は、森のなかである。 けんら & 」うか つど そもそも良家の子弟ばかりの集う、由緒正しく絢爛豪華な学びの園である。 おごそ そしてそこは、陸の孤島に厳かに咲く、全寮制の男子校である。 ゆいしょ うるわ その
190 しんどうたっき こんにちは、真堂樹です。 せいとういん 青桃院学園風紀録『オトナになるだろ ! 』をお届けいたしますつ。 まか かれい ゴージャスで摩訶不思議で華麗なる美少年の花園、青桃院学園。そんなめくるめく口ケーシ つるぎすざく ョンで展開される、剣 & 朱雀の食欲先行型ラブ ( ? ) 。一冊読み切りタイプのお話ですので、 はしめてお手に取られるかたも、どうぞお気軽に読んでみてくださいね D さて、これまでひたすら先輩がたに愛されるべく、美少年道を突き進んできた高等部一年生 諸君ですが、どうやら夏休み後半から一一学期にかけては、彼らにとって重要なターニング・ポ だっぴと イントらしいです。 " 愛らしいキミ。から " 素敵なお兄さまみへと華麗な脱皮を遂げるための、 第一ステージ : ・ なんてゆーんでしょーか、そう、果物でいうと、まだ青かった果実が赤く 、フ 熟れはしめる、あの季節 ? とりあえず〃カッコイイ系〃朱雀はすでに、中等部生たちの青田買い候補筆頭に上がってい 、あどか医、 0
「待ってくれつ、麗くん ! 」 さんじようりよう 可憐な足音を残して彼が走り去っていく先は、三条寮だ。 青桃院学園高等部一年生たちがゴージャスかっ優雅に暮らす、三条寮。 おもむき 古めかしい洋館建築の趣を漂わせるその建物の一一階、 211 号室。 ルームメイトのおせつかいで、キュートなクマ柄の壁紙で飾り立てられた部屋のなか。べッ つるぎおい ドの上で、剣が美味しい夢のなかを泳いでいた。 : : : うまそーなシチュ 「えへへ、むにや これってビーフ ? それともチキン ? もしかし たらスッポンかもしれないぞ、むにやにや ・ : : ・うへえー、よく見たら、シチューのなかにトカ なか : むに ゲ先輩が浮いてる ? でも、お腹ペこペこだからトカゲ先輩ごと食っちゃおーかなー きさ、りぞ、 学園高等部一年生の如月剣 ろ タンポポ模様のパジャマで、タオルケットの上に大の字である。驚くべき寝相の悪さと、夢 る ( な のなかでまで発揮される底なしの食欲さえなかったら、うつかり〃眠れる美少女みに間違えら けれそうな、〃カワイイ系美少年みだ。 オ 顎がはそくて、目が大きい 無類のケンカ好きだが、体型は美少年にふさわしく華奢である。 かれん きやしゃ
良家の子息が集う私立桃学園は、全寮制 のアヤシイ男子校。学園はいま夏休みの真っ 只中。しかし高等部一年生にとっては、楽し いだけではなく、〃愛らしいキミ〃の美少年か ら〃素敵なお兄様みの美青年への華麗な脱皮 を求められる重要なターニング・ポイント。 そんななか剣と雀は、作千代の招待を受け、 彼の実家のある竹取月光村へ同行。そこで、 竹千代が朱雀にしたお願いごととは : 恋気分いっぱいの夢曽小説誌 ! 朝 t 1 月、 3 月、 5 月、 7 月、 9 月、 1 1 月の 18 日発売 隔月刊ですの蕉お求めにくしにともありま魂 あらカしめ書店にこ予約をおすすめしま魂 集英社
「誤解しないでほしいな , ただのお金持ちの息子じゃなくって、容姿端麗な美少年なんだか 「あのう、あなた、僕たちよりも年上ですよね ? 」 心なしかあまり好意的でない様子の梅之助が、チラ、と、先はどまで竹千代のそばに立って いた朱雀の顔を見たようだった。 「あんたが、千代坊の : そう言いかけて黙ると、あらためて竹千代のほうへ向き直る。 「元気そうで良かった。春には帰ってこなかったから、少し心配してたんだ」 「うん。この春は高等部進学で、いろいろ忙しかったし。こんな僕でも、上級生の先輩がたに 気に入られるように、いろいろ努力してみたんだよ。梅之助ちゃんには言ったつけ ? 希望通 ししゅう りに手芸のクラブにも入れたんだ。今度、得意の刺繍で梅之助ちゃんのタオルにって名 。、。、には内緒にしか ( いと : 前を入れてあげるからね。でもノ : ほら、。、パはお金にならないこと は好きじゃないから」 「 : : : 例のレジャーランド建設、話がすすんでるみたいだな」 ク例のみと言いながら、梅之助が目を細めたようだ。 竹千代は申し訳なさそうに肩をすくめて、しょんばりとうなだれる。 「ごめん」 たんれい
すざく べッドの端に腰をかけて、そんな剣を見下ろしているのは、同しく高等部一年の篁朱雀だ。 こちらは、ここが共学校でさえあったならさぞかし女子にモテたに違いない〃カッコイイ系み 男子。「シチュー、やめとけよ」と、剣の寝言にぶつきらばうなツッコミを入れたあとにゆっ かが くりと〃大の字タンポポ〃の上に屈み込み、すばやく寝込みを襲う体勢へと持ち込んだ。 おも 目下、朱雀は剣に対して、良からぬ想いを抱いている。 これまでさまざまな理由でふいにしたラブ・チャンスは数知れない。 けれどいま、学園は夏休み。 窓からそよそよと夏風の吹き込む部屋に、一一人きり。 どんかん いちしるしく鈍感、かっ、ラブ・チャンスさえ食べ尽くす食い意地の持ち主、剣をまえに、 朱雀にとってはいまこそアタックの好機だ。 「如月」 : シチュー 「、つにや : 「食うぜ、おまえのこと」 「、つにやにや : : : トカゲ入り : カ 「きゃああああああああああ すさ 突如として響き渡った凄ましい悲鳴に、ガノ ヾツ、と大の字剣が飛び上がった。
113 オトナになるだろ ! ほかく 「うふ。もしかしたら〃御面み捕獲のとちゅうに、年上の村人と知り合えるかもしれないね。 ひと夏のアバンチュールは、美少年にオトナの魅力を添えるスパイスになりそう。そういえ おさななじ うめのすけ ば、竹中くんの幼馴染みの梅之助さん、けっこう僕の好みだった」 「み、みんな : ・ 竹千代が退学せすにすむようにと、それぞれ知恵を絞り合う四人。 聞いた竹千代はウルウルと目をうるませて、感激したような、なぜだか悲しいような、複雑 おもも な面持ちだ。 と、そこへ天井裏から不気味な声が降ってくる。 ちつじよ 『輝ける歴史を誇る青桃院学園の、秩序正しい高等部一年生諸君 ! キミたちがいま行おうと たた しているコトは、実に褒め称えられるべきコトなのだ。まだまだ未熟な第一学年から、下級生 たずさ の手本となってしかるべき第一一学年への成長の途上。同級生同士ともに手を携え、一つの目的 なと に向かって力を合わせ、見事に成し遂げる機会を、逃してはならない ! 』 ぬし 声の主は御霊寺と、式神ネズミ。 聞いた剣たちは、 「ああっ、いまのを聞いたかいつ。美少年の守り神のお告げに違いないよっ ! 」 「なんだか年上っぱいお声だね。うふ」
ら」 どうやら人知れす悩みを抱えているように見える、竹千代である。 いそいそと立ち上がった彼が、自分の個室へと引き返していこうとするところで、突如、窓 の外から軽快な足音が聴こえてきた。 バッカ。ハッカとリスミカルに、ソレはこちらへ向かって近ついてくる。 覚えのあるその音に、剣、朱雀、竹千代がそれぞれ即座に反応だ。 「うえ ? この音って、もしかして ? 」 「・ : ・ : 逃げよー、つつっても、もー遅いぜ」 「ああっ ! あの白く輝く麗しいお姿はっ ! 」 剣のプライベートルームのドアが、とたんにバカッと激しい勢いで蹴破られた。 さっそう 颯爽と登場したのは、鼻息荒い白馬にまたがる絶世の美青年である。 「ポンジュ ルっ ! ポーイズ・エン・ジェントルメン ! 」 いじゅういんつつじ 青桃院学園高等部一一年生、伊集院躑躅。 せいとうかい 学園長の孫にして、学園の生徒会である青桃会の副会長にして、風紀委員長にして、〃学園 しらゆり の白百合みと賛美される、超絶美形。ロシア貴族と華族の血を引く華麗なる家柄の生まれにし て、ごくごく一部を除く学園生すべてにとっての輝けるアイドルだ。 みわくひとみ フワフワの巻き毛が美しく、魅惑の瞳はまるで宝石のよう。
じようきげん 上機嫌の竹麻呂が扇子をひらめかせると、ムームーの一団が剣たちを取り囲む。 御殿入り口を入ってみれば、さすがは旧家。山林長者と呼ばれるのにふさわしい、立派な造 りの屋敷だった。 ふすまえ ピカピカに磨かれた床に、ズラリと並んだ見事な襖絵。 びようぶ 惜し気もなく飾られた何枚もの屏風が、キラキラ輝きながら剣たちを歓迎だ。 「えへへつ。これならイノシシも金ピカかなー。すんごくウマそーなもの、食えそーだなー」 「つつーか、没落してるよーには見えねー」 「竹中くん。このご実家を見たら、一も一一もなくキミに靡く上級生も多いと思うよ」 「ううん。御殿はあるけど、お金はないもの。お気に入りのテディベアを買うためには、山を 切り売りしなくちゃいけないくらいで : : : 」 こた おすおすと応える竹千代が、先ほどからチラチラと見上げるのは朱雀のはうだ。 〃お兄さまみ 青桃院学園においては、将来にわたって〃おっき合いみをつづけ、公私ともに頼りにする上 級生を見つけることが、下級生にとっての学園生活における最優先事項の一つである。そのた めに高等部一年生たちはみな、かわいらしさに磨きをかけ、より良い上級生に振り向いてもら しよう・じん えるよう、日々努力精進を重ねている。 クお兄さまみと呼ばれるからには、学年が上の先輩のこと。けれども、朱雀は竹千代と同し高 なび