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検索対象: イズミ幻戦記 3
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1. イズミ幻戦記 3

ちくせき 「ここには、サクラが「生きた』間に蓄積したデータが収められている。貴重な材料だ」 ずるり、と背後で、脚をひきずる音がした。無関心のまま、風闃か続けた。 「勿論、君のユニットも重要な材料となるだろう。今後の〈ジリア〉のために」 ずるり、とさらにアオイは身体を前〈とひきず 0 た。正常な声はもう出ない。変にれた、 非人間的な声しか。 : スカ・ : ・ : 私には、わかりません : ・ 「風間・・ : : なせデ : ・ きれつ 右腕は肩から失われ、左腕も胸部の深い亀裂から、今にも分離しようとしている。 くどう 膝から下はまったく駆動せず、彼女は必死に岩場をい進んだ。 「カザマ : ・ : ・ワタシ ( : : ・・私は」 淵「君は優秀だ、アオイ」 風間が言った。 彼が振り返る。冷ややかな表情で。 「だが君のしたことは余計な独走だった・ : イ「ワカラナイ・ : ・ : ワカリマセン、カザマー 「急ぎすぎたんだ。君も、サクラも」 風間ニ : : : どうすればよかったのですか、風間」 「ドウスレバ、ドウ判断スレバ、 もちろん

2. イズミ幻戦記 3

130 くだ 砕けた。 「まだ足りない」 じやき 邪気のない口調で彼女は呟いた。 「全然足りないね ! 「あ、うわっ : はがたがたと震える手で銃を持ち上げた。 ばか 「くつくつくっ : : ・・馬ー鹿」 嘲笑と共に、爆発が起きた。 吹きとんだのは銃と、ついでに指が数本。内部から異常な圧力がかかり、銃を構成するすべ ての部品が分解したように見えた。 悲鳴をあげる暇さえ、彼女は相手に与えなかった。ぎりぎりまで凝縮した殺意 「もっと派手じゃなきやさ、つまらない」 ぐしゃん、と水風船が割れる時の音がした。 獲物の姿は、すでに彼女の前になかった。そこには内側から破裂した人間のかけらだけが残 された。 濃色の液体がどろりと地面を流れた。こらえきれず、彼女は声をあげて笑いはじめた。 十メートル先に停められたトラックの表面を、細かい光が駆けめぐった。火花だ。金か不 ちょうしよう ひま つぶや

3. イズミ幻戦記 3

「驚いたね、もうお目覚めか」 不意に照明がっき、そんな声が響いた。青白くぼやけた光に省吾は両眼を細めた。 「薬はあまり効きませんよ。普段からよく使っているので」 てあら 「すまないね、坊や。手荒なことはできたら避けたいんだが、こちらにも時間の都合があっ オダミシオ 織田美潮は省吾の前まで来てしやがみこむと、真顔でそう言った。思いのほか声は優しい 「知られたら困る相手でもいるんですか」 キサラギ おんびん 「穏便には片づかないだろうね。でも如月だって、結局いいようにわたしらを騙していったわ けだから、お互い様な部分もあるんだ」 獄「見事に本人たちの意志を無視してくださった理屈ですね、それは」 どな 淵省吾の言葉には自然と怒りがこもる。ふざけるなと怒鳴りつけてやりたいところだが、吠え るだけ無駄なことも省吾は知っていた。 「許されるとは思っていないし、坊やは何も悪くない。申し訳ないと思うよ。ただ、これ以上 お互いにな思いをしないために、少し協力してもらいたいのさ。・ : : ・坊やが本当のことを言 イってくれればいい」 「すでに充分勝手なことをやっているんですから、とりつくろわずにエゴイストらしく話した らどうですか」 101 だま

4. イズミ幻戦記 3

コンテナの陰とはいえ、ここはマーケットの真ん中である。いっ商隊の連中が通りがかるか わからない。何か手を打っ必要がある、とは如月も考えていた。 「それにしても、ろくに歩けそうな状態でもないからな : : : 」 「歩くことくらいできます [ 「歩くことしかできないんじゃないの ? 」 してき ムッとした様子で上体を起こしかけた省吾に、脇から拓己がぼそりと言った。鋭い指摘であ 「移動はあきらめよう。バンガローを使わせてもらえばい、。 : ・前から気になっているんだ からだ が、おまえさん少し身体が弱かったりするのか ? 」 質問と同時に如月から片腕を差しだされ、省吾は虚をつかれた風情で沈黙した。 淵無愛想に目をそらし、答える。 せんさい 「別に。繊細なだけですー 記 戦 幻 ズ 暇さえあれば宿なしの子供を拾ってくるお人好し、とのレッテルも、たまには役に立つ。 ミシオ その辺で知り合って連れてきた一一人組、という名目で、如月は一一人を美潮に紹介することに した。省吾の具合が悪いので少し休ませたいと言えば、バンガローの一部屋は確保できるの る。 ひま ひとよ わき ふぜい

5. イズミ幻戦記 3

ようだった。浅い呼吸をくりかえし、やがて力なく首を横に振った。かすれた声が如月の耳に 届いた。 「おまえの手じゃ嫌だ」 イズミの片か、如月の手を押し戻した。彼に涙がったうのを、如月は見たように思っ さつかく た。錯覚だろうか ? 「響子じゃなくちゃ駄目なんだ」 その一瞬が、とりかえしのつかない空白を生んだ。 ( しまった ! ) 如月が気づいて再び手をさしのべた時には既に遅かった。強烈な白か目の前で一気に広が 編り、息詰まる圧迫感が如月の腕を掴んだ。 淵待て、と叫びかけて、そのまま如月は動きを止めた。 くどさり、と鈍い日がした。 記ジャケットに包まれた肩が、横倒しに地面に転がった音だった。 続いて、思いきりコンテナの壁に激突した音と ズ 「いてえっリ」 イ をあげて後頭部を抱えこむ、どこかで見たような影。 「痛い痛い痛いっリあの野郎なんなんだいきなりつ ! ばかっリちくしよおおっリ」

6. イズミ幻戦記 3

たのだ。これは間違いなく自分のミスであり、認識不足だ。 「響子に会えば、全部の謎が解ける」 絞り出すように、イズミが呟いた。その声はますます苦しげになってゆく。 「僕だけを置いて : : : 響子 : : : 響子に会えなかったら僕は : : こんな所、いてもいなくても同 じなのにつ 「イスミ : : ・ウ」 タ闇の中でも、少年の顔色がひどく悪くなっているのがわかった。危機感を覚えて、如月は 一歩前に出た。 「どうしていないんだ、響子 : : : 」 うつろな一言とともに、イズミはバランスを失って地面に膝をついた。 素早く彼の肩を支え、如月は呼びかけた。 「しつかりしろ。そこで絶望するな、自分の足で立つんだ ! 俺がカになる。聞こえるか ? イスミ、俺のことが見えるか もろ くず ここで手を放したらイズミは消えてしまう。それは直感だった。今にも崩れそうな脆い存 在。どう言えば支えになるのか。 細い肩を震わせて、イズミはのろのろと顔を動かした。しばらくは如月の姿も目に映らない つぶや ひざ

7. イズミ幻戦記 3

「あまり元気がないんだな : : : 」 静かな声で、如月はそう切り出した。 「余計なお世話だ。だったらどうだっていうんだ ? 言っとくが僕はおまえの説教など金輪際 「心配してるんだ」 強・うがく その一言で、イズミは数瞬間だけ完全に沈黙した。驚愕に似た反応だが、呆れはてたのかも しれない。結果としては彼をますます不機嫌にさせることになった。 「くだらないね ! 世界中の人間の心配でもしてろ、おまえは」 「そんな風になれたらいいな。確かに」 話にならないとばかりにイズミは頭を振る。如月も本題へ戻ることにした。 いちもくりようぜん 「おまえのことは「酒場』で聞いた。三日前まではあの一一人組のとった進降か一目瞭然だった んだがな、どこに消えたかと思ったら : : : 予想外の事態になっていた」 「僕にとっても予想外だ。まあいいけどー ゅうきゅうごう 「 : : : どういうことなんだ ? どうして〈有機融合〉に成功した ? タクミ 「答える義務があるのか ? いっか拓己にでも聞いとけ」 うんぬん イズミの語調から察するに、生命の危機にさらされて云々といったシチュエーションで融合 あき こんりんざい

8. イズミ幻戦記 3

( ナンバー 4190888 : : : ) この名称を、ついに自分は忘れきることがでぎなかったらしい。如月は軽く肩をすくめた。 深く懶えていても、何の得にもならない数字だ。 「へいお待ち」 カウンター越しに、主人がアルマイトのカツ。フを差し出した。 「二千リングね、兄さん」 「ついでに尋ねたいことがあるんだが、かまわないか ? ー まゆ 握らせたのは、クラウン紙幣のほうだった。店主が少しだけ眉を動かす。料金の五倍だ。だ が、さすがに慣れたもので、店主も他人の目を引きつけるような真似はしなかった。 たの 「そりや、兄さんの頼みとありや」 「ありがたいな。ーー実は、ガキの二人組を捜しているんだ。二人とも十七歳で、俺に輪をか けて「初心な世間知らず』ときている」 「そいつはいけませんねえ」 「片方は元気で威勢のいい坊主、もう一人は左眼が悪くてグラススコープを使っているはず だ。二人して、三日前から迷子なんだが : 人のいい店主はしばらく考えこみ、結局首を横に振った。

9. イズミ幻戦記 3

如月も砲撃を中断している。急に静まった谷底の戦場で、淡々とイズミが言う。 「気づかなかったんだな ? 僕がどうして如月にこのまわりを攻撃させたのか。ま、わかりつ こないから教えてやろう。空間を読んでいたんだ、僕は」 「こういうことさ」 たてつづけに破砕音が起きた。鏡がー・ー反射板が破壊される音だ。それはサクラの念によっ て形成された無形の壁。 念の檻、である。 サクラが、声もなく一歩後退した。見切られた。完全に。 こんな時どうすればいいのか、誰も教えてはくれなかった。 淵「あたしは : ・ : こ ばうぜん 茫然と、彼女は呟いた。 轆「あたしは負けるのか ? こ 「神様に聞くんだな」 まゆ イ眉をひそめてイズミは答え、握りしめた右の拳を顔の前にかざした。 この僕 「罪なぎ者を殺した報いが下るかどうかはとりあえず僕の知ったこっちゃないがっ をいじめた罪はとっても重いっリそれが全てだリそれが正義だリそれがこの世の定めと 233

10. イズミ幻戦記 3

230 集中した。 「死んじまえっ " サクラが叫ぶ。カ場を保ちつつ、イズミの表情に隠しきれない苦痛が浮かんだ。その身のあ ひざ ちこちでーー肩で、膝で、指で、音もなく血煙が舞った。 ( 何だ、こいっ卩 ) こうよう 昂揚と敵意の内側で、サクラは思う。前に戦ったときと、何も変わりはない。何も新しい戦 法を用意してきたわけではないのだ。 これなら勝てる。簡単に、勝てる。 「馬鹿じゃん、おまえ ! 余裕が戻った。サクラは笑いだした。 「きれいに、死んじゃえつ 「如月、そこから撃て ! 僕ごと撃っちまえ ! 高熱と圧力に耐えながら、イズミが声をはりあげたのはその時である。 イズミの真後ろから、突如、砲撃が来た。サクラは目を瞠った。 膝をついて砲身を固定しつつ、如月は攻撃を続行する。イズミとサクラの両者に対して。 爆発かいくつも起こり、サクラは舌打ちをしながらそれを防いだ。子供だましだ。こんな邪 魔をしても、イズミへの攻撃が甘くなることはない。 みは