様子 - みる会図書館


検索対象: イズミ幻戦記 3
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1. イズミ幻戦記 3

七年前の〈崩壊〉から二か月後に、奇跡的にめぐり会えた、たったひとりの肉親なのだと けれど、と利光は言った。 「けど、お嬢さん、本当は姉御の妹じゃないんです。姉御の『娘』なんです」 キャラスンの人間でなければ知らないことだ。 サイボーグである彼女は年を取らない。いずれ娘は母親を追い越して老いてゆくだろう 美潮は自身を『姉』とり、母親であるという事実を捨てなければならなかった。いっか二 人の間に訪れる悲劇を、少しでも軽いものにするために。 獄「 : : : それも秘密なんですね ? 」 淵省吾が、静かに確認した。 うなす 利光が目を伏せて頷く。拓己は何を言ったらいいのかわからない様子で立っていた。 「わかりました。これで条件は五分五分だ」 あくまで事務的にそう告げてから、省吾はふと思いついて尋ねた。 イ「なんていうんです ? お嬢さんのお名前は」 キョウコ 「はい、あの : : : 京子さんって」 「があーんつ」 245 クライシス

2. イズミ幻戦記 3

114 美潮は小さく舌打ちをした。 ここまで憔悴している人間をたたき起こして自白剤を使うわけには、やはりいかない。下手 をすればショック死するし、障害の出る可能性もある。 ( それが狙いだったのか ? •) 今になって、美潮は気づいた。こちらに自白剤を使わせないための策だったのか ? あの挑 発は。 「なんてガキた・ : 苦々しい思いで、美潮は呟く。 「仕方ないね、もう一人のほうを先に使おう。仲間がこんな様子になってるのを見たら、少し はビビるんじゃないかな ・ーー松本ー 「へい、行ってきやす」 松本は足早に武器庫から出て行った。 こんとう 利光は昏倒した省吾の傍らにかがみこみ、その呼吸の様子をうかがっている。 てじよう 「手錠 : : : 外しちゃっていいですか ? ー 「あ ? ああ、かまわないさー どうせこの状態では逃げ出しようがないのだ。利光は慎重に、少年の手錠と足枷を外してや った。美潮は黙ったまま、その作業を見守っていた。 ねら しようすい かたわ つぶや しんちょう あしかせ へた

3. イズミ幻戦記 3

標準時間二十時二十分。 すきま 煉 こっそりと、拓己は部屋のドアを開いた。通路の様子を細い隙間からうかがい、それからも 淵 くう少しドアを押しあける。 記ふりむいてべッドのほうを見やったが、相棒は薄汚れた毛布のなかに頭まで埋まって身動き 幻もしなかった。寝るときはミノムシになるのが省吾の趣味らしい。拓己はそろそろと部屋をぬ ズけだした。 絶対に出歩くなよ、と省吾には念を押されているのだが : : : 省吾が起きるまでずっとべッド の番をしているしかないというのももどかしい。 省吾は毛布を引きあげ、壁際へ顔を向けて目を閉じた。 「他人、か ? こ ライフルを持ち直し、如月が尋ねた。 「他人ですよ」 「そうか : : : そうだな」 おだ ありがとう、と穏やかに告げて、彼はその足でマーケットを出て行った。標準時間十九時三 分のことである。

4. イズミ幻戦記 3

反射的に直立不動で利光はがている。どちらが年上だかわからない。 「おまえ、そんなんで周りの人間になめられてはいないか ? 」 「え ? 」 「いや : : : やめた、面倒くさい」 イズミは頭をひとっ振り、いまいましげに呟いた。かなり不機嫌な様子である。 「で ? 如月はどこに行ったかわかるのか、わからないのか卩 - 簡潔に答えてもらいたいな、 そこの小物 ! 」 あねご 「あの人だったら、姉御のところに : ・ 「姉御 ? ・ : なるほど、織田美潮か。おいおまえ、そんなに僕のことが珍しいのか までマジマジ見てりや気が済むんだ、【 どな ほとんどやつあたりの域で怒鳴りつけたイズミに対し、まだ・ほんやりしたまま利光が答え 「あ、いえ、その : : : さすがに素敵だなあと思ってて : : : すみません ! 」 イズミは数秒間沈黙すると、。ほっりと利光に告げた。 「なかなか見どころあるそ、おまえ」 ちょっと中に入れ、と手招きされて、おずおずと利光は室内に足を踏み入れた。どうも、こ つぶや

5. イズミ幻戦記 3

「京都かあ、遠いよね : : : でもちゃんと行くからさ、俺たち」 うなす うん、と拓己は自分で頷く。 「俺さ、やつばあんまり考えこまないことにしたから。俺が考えて省吾が考えたら大変じゃ ん ? 考える中身じやどうせ省吾にかなわないんだし。俺、考えないで動いてるほうが物事う まくいくみたいだよね、なんか悲しいけど」 現実がそうなのだから仕方ない。省吾に負けることではなく、省吾を助けることを考えれば 、、 0 ーし - し - 省吾が疲れていたら、自分が元気になればいい。 「響子がいてくれた時って、俺たち、まだ本当の友達じゃなかったのかなあ : : : もしかして」 獄そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。少しずつ、相手の秀か見えてくるのは確か しやがみこむのをやめて、拓己は立ち上がった。避難キャンプの一角に、テントをひとっ分 けてもらってある。昼すぎには出発したいと省吾は言っていたが : ・ : ・あの様子だと多分、困っ ている。 イイズミの「お供』の件だ。

6. イズミ幻戦記 3

222 たよね。ああやだやだ」 「けっこう元気そうだわよ、この白鳥の王子様ー 「うるさい、やかましいっリ 誠意ってものが感じられないんだよ、おまえの言い方はっリ」 実際、イズミの様子は決して『元気』そうには見えない。 立っていることもできないまま、地面に転がりつつ、死力をふりし・ほって二人を脱出させた というのが真相だろう。 カガサワシズカ ジー。フの運転席に収まっているのは、香ケ沢静だ。不安そうにこちらをうかがっている。如 月は彼に無言の微笑を向けてやり、それからイズミを見おろした。 「どうだ : ・・ : 大丈夫か ? 「直接のダメージはほとんど回復した。だが問題は融合期間の限界だな。かなり強引に力を使 いまくっているから、集中力に負担がかかる」 「・ : ・ : 深刻なのか ? ー 「深刻だったらおまえに言うはずがない」 「なるほど」 要するに心配するなと言いたいらしい。器用なのか不器用なのか・ : 「できれば無茶はしないでくれ。本調子でないなら、特に」 「甘く見るな、如月。僕は常に・ハージョンアップしている」

7. イズミ幻戦記 3

148 より早くサクラのほうがとどめを刺していた。 はうかい つうかく 痛覚がズタズタに裂かれるのを、イズミは自覚した。この先にはすべての崩壊が待ちうけて いる。破減と無が。 逃げてなんかやらない。 「逃げてなんか、やるものかっ : 地面をでき、頭を持ちあげる。乾く瞳を必死にひらき、敵の姿を捜し求める。ぬるりと 濡れた感触が胸に広がり、腕から指先へとったい流れる。体液か ? 触れられたわけでもないのに、い つの間にか細かい傷が全身に走っているのだ。内側からの 裂傷だ。その様子を我が目で確認することは、今のイズミには不可能だった。 イズミは大きく深呼吸をした。 そして、まるでそれがたったひとつの戦法であるようにーー彼は立ち上がった。 傲と、顔をあげて。 だがもう敵の位置さえっかめない。もう何も見えない。 このまま動かない標的と化して爆破 されるだけか。限界なのか、すでに。 そうではないはずだ 「まだ終わらない : つぶや イズミは呟いた。イズミは終わらない。決して終わらない。 れっしよう

8. イズミ幻戦記 3

一瞬だけ翠の『本性』が出た。不似合いな倒を吐き出し、銃のエネルギーを確認しながら 出口に走り寄る。 「まあいいわ、こっちはドサマギよっ。あんたたち、少しは逃げられるように準備しとくの ね、車の一台やそこら自力でぶんどってきてやるわよっ ! 馬鹿にしやがって、ったくっ ふおん 不穏な空気を背負ったまま、翠は突風と化して身をひるがえした。あの勢いを阻める者はい ないだろう。拓己は省吾と目を見合わせた。 「・ : ・・・どうしよう」 「何が ? 」 省吾が問い返す。 淵平気な様子を装ってはいても、省吾の気力は限界に近い。拓己にはそれがわかっていた。 だから迷うのだ : 「拓己 ? 」 幻 もう一度、省吾が呼びかけた。拓己は立ち上がった。 イ「見てくる」 翠に借りた小銃を握りしめ、拓己は足音をたてずに武器庫を横切った。 拓己の手が離れると同時に、ゆっくりと意識が遠のいてゆくのを省吾は自覚した。浅い眠り 127

9. イズミ幻戦記 3

コンテナの陰とはいえ、ここはマーケットの真ん中である。いっ商隊の連中が通りがかるか わからない。何か手を打っ必要がある、とは如月も考えていた。 「それにしても、ろくに歩けそうな状態でもないからな : : : 」 「歩くことくらいできます [ 「歩くことしかできないんじゃないの ? 」 してき ムッとした様子で上体を起こしかけた省吾に、脇から拓己がぼそりと言った。鋭い指摘であ 「移動はあきらめよう。バンガローを使わせてもらえばい、。 : ・前から気になっているんだ からだ が、おまえさん少し身体が弱かったりするのか ? 」 質問と同時に如月から片腕を差しだされ、省吾は虚をつかれた風情で沈黙した。 淵無愛想に目をそらし、答える。 せんさい 「別に。繊細なだけですー 記 戦 幻 ズ 暇さえあれば宿なしの子供を拾ってくるお人好し、とのレッテルも、たまには役に立つ。 ミシオ その辺で知り合って連れてきた一一人組、という名目で、如月は一一人を美潮に紹介することに した。省吾の具合が悪いので少し休ませたいと言えば、バンガローの一部屋は確保できるの る。 ひま ひとよ わき ふぜい

10. イズミ幻戦記 3

無言のまま彼は三人組と美潮の間まで足を運び、そこで両腕を組みあわせた。あくまで当然 と言わんばかりの、あっさりした動作である。 異様な沈黙があった。たった数瞬のことながら、誰もその少年の行為に口をはさめなかった のだ。息をひそめて。 やがて彼はついと顎を上げ、不意に三人組のほうを見やった。 「やかましいな、蠅どもー それが第一声だった。 「こっちはこっちで考え事してるってのに、耳元で騒ぎたてるんじゃないよ。迷惑だ」 おおまじめ かなり不機嫌な様子で、大真面目にそう告げる。 こいつどこかおかしいんじゃないのか、と織田美潮はようやく思い至った。英雄気取りで割 って入ったようには、到底見えない。目立っ坊やだと思っていたら、その手のアブないガキだ ったのか。 「 : : : 迷惑だ ? 」 ぽかんとして問い返し、そしてヤクザたちも美潮と同じ結論に達したようだった。 「なーるほどねえ、こいつはいいや ! 」 まぎ 「おい坊主、どっから紛れてきたんだ ? そんなネンネな顔してこのへん歩いてちゃ、悪いお 姉さんに売りとばされちまうぜ」 はえ