反射的に直立不動で利光はがている。どちらが年上だかわからない。 「おまえ、そんなんで周りの人間になめられてはいないか ? 」 「え ? 」 「いや : : : やめた、面倒くさい」 イズミは頭をひとっ振り、いまいましげに呟いた。かなり不機嫌な様子である。 「で ? 如月はどこに行ったかわかるのか、わからないのか卩 - 簡潔に答えてもらいたいな、 そこの小物 ! 」 あねご 「あの人だったら、姉御のところに : ・ 「姉御 ? ・ : なるほど、織田美潮か。おいおまえ、そんなに僕のことが珍しいのか までマジマジ見てりや気が済むんだ、【 どな ほとんどやつあたりの域で怒鳴りつけたイズミに対し、まだ・ほんやりしたまま利光が答え 「あ、いえ、その : : : さすがに素敵だなあと思ってて : : : すみません ! 」 イズミは数秒間沈黙すると、。ほっりと利光に告げた。 「なかなか見どころあるそ、おまえ」 ちょっと中に入れ、と手招きされて、おずおずと利光は室内に足を踏み入れた。どうも、こ つぶや
「・ : ・ : なるほど」 「おまえは信じようとしなかったが、ジュリアが ()n ナン。ハーに対して高い評価を与えているの は事実だ。これからの世の中はジリアの手によって一新される。どれほど〈イズミ〉が抵抗 しようと、今回のサクラとの一件を見ても、既に実力の差は歴然としている。あの少年に勝ち めはない : 「まだわからないさ、それは」 「違うな、〈イズミ〉はひとりしかいない。アーマノイドは四人だ、しかもそれが限度ではな きつばりと風間は言いきり、如月を見た。 獄「生きのびるためにはジリアにーー・我々に協力するしかないんだ、如月」 淵「断ったはずだ。何度も一一 = ロわせないでほしいな」 淡々と、如月はそう答えた。この申し出を断るのは、これで三度目だ。 その度に風間を傷つけることはわかっている。ならばもう他人になったほうがいいと、なぜ 彼は気づかない : ズ な・せ気づかない ? 「俺は俺なりに、ジュリアの出したクイズの答えを探している最中なんだ」 「解答なら、ここで渡してやることもできる」 207
178 「如月も保父さんと化してるし。適職なのかしらと思ったのよ。それだけー じようず せつかい 「お節介なうえに子供のあしらいが上手でしよ。特に最近はすっかり身も心も捧げつくしちゃ って手に負えないわね。あらやだ、思い出したら腹が立ってきちゃった。この話題なしにして いただける ? 「変わったな : : : 」 風間が独白した。 意外なところで、意外と重要な反応が引き出せた。翠は彼の本意をつかみかねた。 「ねえ、教えていただけないの ? サイボーグじゃなかったら何なのよ、この子たち ? 駄目で元々だ。しつこく食いさがると、風間祥はどうでもいいことのように口をひらいた。 「人間以上のアンドロイドだ。アーマノイドと呼ばれる」 「アーマノイド : ・・・・何それ ? 「風間 ? 」 つぶや アオイが気遣わしげに呟いた。風間はかえりみもしない。 「人間の遺伝子をモデルに、まったく新しい方法論で〈ジュリア〉が生み出した。改造体とは 根本的に異なる新生命体だ」 「 : : : とんでもない世界だわねー ささ
「・ : ・ : どう使う ? 「中継基地をひとつ、破壊してもらう」 ずばりと答えた彼女を、如月は無言で見つめた。 「場所と目的を教えてくれー 数秒おいて、短く尋ねる。 美潮は軽く肩をすくめた。目は笑っていない。 「つまらない答え方をしたら殺されそうな顔だな。だけど理由はちゃんと話してある。察して はもらえないのか ? ふつ、と如月は片目を細めた。 「竜獄谷の西側に、小さな基地があったな」 「小さくても谷底の人間にとっては脅威さ。うちのキャラバンだって正面から〈ジ = リア〉と しわざ それがイズミの仕業なら、ドールの連中だって谷底に人が住んで やりあうには力不足だ。 るなんて思いもしないで撤退してくれるだろう。谷の者はようやく自由に地上へ出てくること ができるし、そこにムラがあるって秘密も守られる。万事好都合じゃないか」 美潮の言葉には、自然と熱がこもった。如月にもそれはわかっていた。 確かに、谷のすぐ傍らに〈ジリア〉の基地は存在する。俗にーー如月や師が集めたデータ かたわ てったい
「こりや高値がつくこと間違いなしってやっか卩」 三人は一斉に下品な笑い声をあげた。 さげす 彼は怒りすらしなかった。純然たる蔑みの目だけを連中に向け、黙って立っていた。 とにかく邪魔をされるのは困る。美潮は少年に負けず劣らず不機嫌な心境で、ロを開いた。 「ちょっと待ってくれ、どこの坊やだか知らないがーー」 「坊やはやめろ、坊やはっ ! 」 いきなり少年がカッとなって振り向いた。 「誰に口をきいてるかわかっちゃいないんだな、まったくー これだから身の程知らずの愚か 者にはっきあってられないんだ、あああ、面倒くさいし腹が立っリそれでも寛大な僕はちゃ いなかもの しいか田舎者卩」 んと訊いてやるからせいぜい人間並みの答え方はしてみせろ ! 淵 はあく 一気にまくしたてられて何を言われたのかとっさに把握できないまま、美潮は反射的に呟い 記ている。何か質問があるらしい、とだけはわかった。 「織田美潮ってのはおまえか ? 」 ズ 相手の反応など気にもとめず、そんざいな口調で彼が尋ねた。 「そうだが」 このくそガキめ、と思いつつ、美潮は無難な返答をする。 ほど おろ つぶや
109 拓己がもがき苦しみつつ、やっとのことで抱擁地獄から脱出する。目の前が栗色でちかちか びほう する。これは : : : この相手は、忘れるにはかなり印象的すぎる美貌の主で : 「えつ、何で卩」 思いきり声をひそめ、なおかっ勢いこんで、拓己はそれだけ尋ねた。 「何でって、何がかしらね」 栗色の髪をばさりと払って、翠は白々しい答えを返した。天井にあいた穴から、極紐型ワイ ャーを引きぬいて戦闘服のポケットにしまいこむ。 と思ったら、今度は超小型のレーザー銃をとりだして窓際に歩みよる。音もなく窓枠を光線 がなそり、一周したところで翠は手を止めた。無駄な行動はまったくない。なさすぎて事情が 獄さつばりわからない。 淵「要するに助けに来てるのよ。お礼くらい言ったらどう ? 「 : ・・・・ありがとう」 ありがたいことだけは確かだ。拓己は素直に頭を下げた。 改めて翠がふりむいた。 ふんいき ズ イ 相変わらず、派手な雰囲気の美人だ。自分のペースだけで動いているところも。 「如月はいないのね。どこ行っちゃったの ? 」 「わかんない。、 とっかで時間つぶしてくるって言って、夜明けまで」 は、つようじ′」く ′、り・い・つ ′」くーそ まどわく
やって、ねえ・ : : ・」 おやじ 「ちょっと待ってくれ、親父に色男呼ばわりされても俺は嬉しくないそ」 「あたしゃ別にからかっちゃいませんよ。ただ、兄さんみたいな好青年は早死にしやすいから 心配してるだけじゃないすか。人間、もうちょっと、汚く、ずるくなっていかにや、世の中く ぐりぬけていかれんってもんでしよう、ねえ ? こ 如月は我慢するのをやめて、気がすむまで笑うことにした。まったく、たいした人間観察 ッカサ ( 師に聞かせてやりたいな ) おおまじめ あのひねくれた親友なら、大真面目に親父の肩を持つだろう。いや、もしかしたらやつばり こうがん 大笑いするかもしれない。「おまえが好青年だったら、俺なんて紅顔の美少年で通るな』とで も皮肉をまじえて。 残念ながら、厚顔の師隊長は現在遠い空の下である。 「兄さん兄さん、そこで笑われてると注文取りができんのですが」 「ああ、そいつは失礼ー 背中の大型ライフルを隣の席へおろし、如月はようやく真顔を繕うことに成功した。 「水をくれ」 「へい毎度」 きたな うれ つくろ
「ええええ、いや実はですね、あたしゃずーっと長いこと運び屋やってまして、だだっ広い世 そろ しいかげん飽きがきまして、まあようやっと物資も揃 間をあっち行きこっち行き、もうこりや、 ひま ったし暇ももらえたし、ここらで落ちついてみようかってんで一旗あげてみたんでさあ、えへ へへ」 「そいつはめでたいな」 如月はもう一度、店内の全体を見渡した。客は十数人。どの顔も、抜けめのない商人タイプ と屈強な戦争屋タイ。フのどちらかに分類される。 ふ、つば、つ 目の前の青年の風貌に、店主はかすかにおやという顔になった。着色された照明の効果、で はないはずだ。その両眼が深いグリーンの影を宿しているのは。 編 だがむしろ店主が気を引かれたのは、この場に似合わない彼の「若さ』だった。それは表面 ふんいき まともすぎる。 的な年齢よりも、その人物の与える印象や雰囲気の問題だ。 「すいませんが兄さん、こういう店は初めてですかね ? こ 記「か ? 」 幻問い返して、思わず如月は笑いだしそうになってしまった。 「何だ ? そんなに俺はな世間知らずに見えるわけか ? こ 「いえいえ、そりゃあたしの失一言になっちまいますよ。青いって言ってるわけじゃないんでさ あ。けどねえ、兄さん : : : 珍しいじゃないですか、こんな色男が、背中にそんな大砲しよっち くつきよう・ ひとはた
編集部では、この作品或いは当文庫へのご感想・ご意 見・ご要望などお待ちしています。あわせて、作者へ のお便りも大歓迎です。どうそ左記までお送りくださ い。でき得る限りお応えしたいと考えております。 〔宛先〕 川ー団東京都千代田区一ッ橋二ー五ー一〇 集英社スー ーファンタジー文庫編集部 ( 或いは編集部気付作者まで )
192 息をつめ、イズミは再び頭を持ちあげた。 ちゅうすう その姿勢を保つだけでも、体重をかけた握り拳が震える。まだ身体の根幹が、神経の中枢が 回復していない。 「説明しろ」 イスミが言った。 「説明してくれ : : : どういうことなのか」 「・ : ・ : わかったわ」 「おい、おまえ」 静を見据える目を細め、イズミは確認する。 「サイボーグなんだな : : : おまえも」 : ええ」 香ケ沢静は、こっくりと頷いた。ゴーグルの内側にダークグリーンの光を宿らせて。 せいぎよ ジュリアの犯したたったひとつの失敗は、おまえたちの精神制御を解いてしまったことだ カ / ウショウゴ 叶省吾はそう言っていた。その真相は、省吾にしかわからない。確かに表層部分の意識なら