先生 - みる会図書館


検索対象: 熱の城
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1. 熱の城

燗『此処を溿ほしても』 ユキノの声、ひびのある透明な石みたいだ。 ( この声やばい ) 声質。 ( 凄い変 ) C はらばらになる ) きれつ 亀裂が、入ってていっぺんに壊れてどっかいきそうな。 そういう石で。 ( やばい。きれい ) 先生の音楽、こんな声で歌う楽器あったら。 ( 藤谷さん絶対大事にする。やめなくなる ) 宝物になる。 此処を溿ほしても わたしのてのひらの中心に根をはった一輪きりの血色の蓮は咲き むごたらしく骨をちらして あと 消えない痕と後遺症と はす

2. 熱の城

櫻井ユキノのための音楽。 夜遅くに。自分の部屋のべッドにまるくなってヘッドホンして聴いてみた。先生の。 ふとん 何かから隠れるみたいに。布団の陰に入って。 ( 平気じゃ聴けない ) ふじたに ひとつめの音から藤谷さんの攻撃だから。 勝てるかわかんないから胸が。 ( でも負けてやられたままじゃ明日だめで会えない ) 蹴りかえす、足の。 準備する。 ( 水 ) パズル ( ナマじゃない。部品組み立てた細工 ) ( 古いアナログレコードの傷の雑音ざらざらしてる ) 真っ黒い水だった。 なぎ 真夜中の、新月の、凪の。いきものが生きてる気配が、しない。 さくらい

3. 熱の城

たた 対止まらないで叩く。 C せんぶ拾う ) 火のついてる火薬、てのひらで平気で拾って。怖がらない人の、声。 ( ここにある音がみんな一ヶ所に向かってく ) じしやく ( 磁石 ) こんな強い鋼鉄製のボディあるみたいな。 歌で。 なにゆってんの。 すごなぞ 凄い謎。 「馬鹿だねえ」 一曲最後まで鳴らした後で、ギター交換しながら尚が、念押しで先生に言った。 藤谷さんは、半分笑って、肩すくめてた。 「きみは本当に僕の歌が好きだよねー こ ・ : なんていうか、懲りない人だな、とあたしは思った。 その次の日の、夕方。

4. 熱の城

溶かした。普通より濃いめで。 「先生はこれで生き返っててください」 「ああっ。これ、高岡君に入れ知恵されたでしょ げんじ 「あたしに教えてくれたの源司さんです」 のれん オリジナル 「暖簾わけだよ、元祖は高岡君だよ。知ってるよ犯人なんか」 うら にお ちょっと恨めしい顔して青汁の表面の匂いかぎながら、藤谷さんが言った。 「犯人なんですか」 「うん」 「暖簾あるんですか」 「あるよ。かっこいいんだよ」 「かっこいいんだ : 「ユニオンジャックに勝てるよ。むかっくよねー 顔しかめて藤谷さんがグラスのなかみ四分の一になるまで一気に飲んで、いきなりびつくり してた。 「うわ何だろうこれ。必殺だ」 「あっ、あたしの作り方、味ちがってましたか卩 「ううん」

5. 熱の城

121 熱の城 I か小声で歌ってた人、いた。 いつも着てるコートの背中。 いつも、すぐどこでも道端しやがみこむ癖、ある人で。 「あれつ。早いね」 あたしのこと、下から斜めに見あげて。 「俺自分で思ったより早めに着いちゃったからしばらく待つつもりだったんだよ。あのさ」 あのさ、って藤谷さんがいつもみたいに言った。 「慰めるのと何もきかないのと、どっちがいい ? 」 「両方欲しいです って、あたしが答えた。贅沢だけど両方。いいよ、って先生が言った。藤谷さんの隣にあた しも座って、あと三分間だけ泣き足りないぶん泣いた。 みちばた ゼいたく くせ

6. 熱の城

「 : : : 何が悪いのか俺もわかんないや。謝らせてごめんね。朱音ちゃんどうかしたの、何かあ った ? か相談冫 このったほうがいい話 ? 」 「でもあの。あたしは平気だから、帰る、です」 じゃま 邪魔しにきただけだった。 「ちょっと仕事場、来たくなったんです」 「そう ? 「あの。今、あたしに何言う途中だったんですか」 「それ訊いちやダメ」 ダメなんだ。 「ごめんなさい」 「朱音ちゃんが俺に謝っちやダメだよ」 ダメって。 言われすぎて何か我慢、切れた。 「じゃあ何だったらいいのかわかんないよ先生のー の「そこにいてよ。朱音ちゃんのいたいだけ好きにしててよ。怒らないでよ」 降参って感じで両手あげて、言われた。 何に降参なのか知らない。

7. 熱の城

さいじっ 「もしもし、西条ですけどー 声、返ってこなくて。 あたしまだ耳が違う場所に行ってるのかなって。 三秒くらい、止まって。 黙ってる電話、聞いてた。 ( ノイズ ) 風、ひっかかる、小さい音した。うわ、って全部わかった胸の手前で。どうしよう。 息でわかった。 「坂本くんどうしたの ? 」 肺で風。痛い音で鳴るときの。その呼吸の感じしたから。誰のだか、知ってる。 「しゃべれないの ? こ じんぐうまえ ししつるす どうしよう。神宮前の家。今夜先生いない。尚も留守だったら、坂本くんひとりだ。 ぜんそく ひとりで、喘息の。発作で。 発作ずいぶん。 よくない。 「あたし今から行くー 知らないうち立ちあがって大声で言ってた。 さかもと ほっさ

8. 熱の城

242 「え、歌うってどこで」 「だからここで今ー 「先生どこにいんの ? こ 「だから武道館の前」 「それ、待ち合わせの場所ちがうよ」 「そうなんだっけ ? でも歌えるかわかんないんだよ。怖い歌なんだよ。僕のなかで勇気が必 要なんだよ、しかも黒い勇気で、ガソリン的なやっ」 待ち合わせの場所ちがう、ってあたしが言ったら、源司さんが、ああやつばりなって顔で、 今あたしたちの来た道、ふりかえった。そのまま坂道をあがって武道館のほうに戻っていこう とした。 ( そうじゃなくて ) かばん 源司さんの鞄、左手でつかまえて、あたしがそれ止めてた。 ( 今、源司さんに行ってほしいんじゃなくて ) 歌。 歌うって。 「ききたいから歌ってください」 「嘘だよ。ダメだと思ってるよ」

9. 熱の城

弱点ぽい場所、すぐみつける人だった。わざと、そういうことできる。この人。 ( : : : 優しいんだ ) ぜんぜん優しくない種類のセリフ言われたけど逆に、そう思った。 りちぎ 律儀で。 ちゃんとしろって意味で。 ほんとは、勝負の相手だから。 ( 西条朱音、何もしてません ) そんなの言えないし。負けたくないし。負けそうな顔も、したくないし。 ( ドラムなくても ) つよい、気持ちの栓、ぬけてたらだめだ。 自分にそう思った。 「先生の味方、してます」 「チアガール ? 」 笑われた。 の「立派なお役目あって、よかったネ・ : 熱 桐哉が唇で笑いながら言って、腰の後ろから煙草とりだしてくわえて、火つけた。全部、右 手一本でやってた。左手には黒い手袋、はめてるの見えた。 せん

10. 熱の城

あたし単純だった。 内緒になんないくらい、うれしくなってた。 とても。 「どうっていうか、先生そう言ったらやるの決まりじゃんいつも」 「うん。でも朱音ちゃんも悪党だよ」 「そうなんですか」 「俺の味方なの ? こ って、真顔で、きかれた。 ( 最初つから知ってること訊くの ) ずるいよ。 「教えない」 「ああ、そうなんだ」 ごせんし 苦笑いした藤谷さんが、左手でテーブルの上のポールペンと新しい五線紙つかんでひきよせ て、座ってる椅子をそっちに向けて、唇に一回ペンのはしつこ当てて、噛んだ。それから、も おんぶ ここにあたしなんかもいないみたいに、音符、すごい速い勢いで書 のう世界変わったみたいに、 熱 きはじめた。ス。ヒード、 ぜんぜん止まらなかった。どう書くか途中で考えなくて、完全にでき あがってるもの、書いてるだけだった。