アカネ - みる会図書館


検索対象: 熱の城
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1. 熱の城

「あのなアカネな・ : 大通りの横断歩道で、赤信号で止まって、源司さんが言った。 あらたまった言い方で、声の量、少なめにしてた。 顔あげて返事した。 きっと、大事な話だった。 「うん、あのな。俺、もしかしたら、近いうちにアカネに、ちっとめんどうなこと言わなきや ならないかもしんねえそー 「え。なんですか」 「まあ、でも俺は、アカネも、てかウチの連中全員、自分のバンドすっげえ好きなの知ってる からな。最初つからバンドのこと好きすぎるよな。だからな、俺もつまんない口出しは、なる たけ、したくないけどなあ・ : 源司さんが、さらさらっと話した。 「ほんとは恋愛なんて好き勝手なプライベートで自由なモンだが、アカネはもしかすると、し のなくっていい苦労を、するかもしんないな。こいつがテン・プランクってバンドじゃなかった 熱 ら、もっと何か違ったかもしれないな」 よくない、ですか」

2. 熱の城

172 あたしの手から指、離して、ユキノがくるっと背中向けた。走って、階段おりていった。最 後も、風を起こすみたいに出ていく人だった。 「あーなんかあっちこっち跳ねる爆弾みてえ ! タクシー押しこんでくるわ。アカネはリハ戻 っとけな」 源司さんがぼやいて、そのあと追っかけていった。 うわ。スタジオのなか、うまく戻れないな。って思って、困った。 どういう空気になってるか考えたら怖かった。 あとさき いつも、後先わかんないで飛びだすの、悪い癖だった。 怖がってても、戻らなきゃなんない。あたしのドラム叩く場所そこだから。 「アカネさん」 すきま 防音ドアの ( ンドル、ガタンとまわして、重い扉と壁の隙間つくって、あたしの名前呼んだ 人いた。 「練習好キり・」 「はい」 「じゃあ、おいで」 普段の声で呼んでくれたの、尚だった。

3. 熱の城

238 「ひねると何なんですか」 「訊くな。俺の趣味アバンギャルドでスパイシーやからー 「そうなんだ」 「アカネ、武道館って字につられてこっちの出口に来たろ。でも集合場所が違うんだナ」 「あつほんとだー 今日はイベントで、他にも出る人たち多くて楽屋がきゅうくつだから、の待ち合わせは 道路はさんで反対側にあるホテルのラウンジだったのに、うつかり遠い出口に着いてた。 「え、源司さんもじゃないんですか」 「俺は武道館が大好きだから必ずこっちから出るだけで、間違ってないからな」 そうかなあ・ : 「お。そーだ、プレゼント、サンタにやる」 行かなきゃいけない方角に歩きだしながら、源司さんが肩にかけてる大きい鞄のポケットか ら、携帯電話とりだした。あたしに渡した。真新しくて、渋めの銀色に光ってた。 「今度のシングルのタイアップ、この機種の広告になったから。アカネも使っときな」 「え。はい」 電源、いれてみた。画面にいろいろ表示が出たけど、よくわかんない。あとで坂本くんに教 えてもらおうと思った。 かばん

4. 熱の城

240 「いいもわるいもないだろう、言えねえだろう、わかんねえだろう。なあ ? 俺はわかんねえ そ。だから、しりごみはすんな。やめたりすんな。でもつらくなったら俺にすぐ相談しろ。ア カネひとりの問題にしといてやりたいけども。そいつは出口まちがえりやテン・プランク分解 だから。な。ごめんな。俺なんかが、ズカズカ立ち入っちまって」 分解。 ( しない。わかんない ) 絶対しない。 なんにもわからない。 両方、思った。 「あたしは」 ロあけて言いかけたとき、あたしの持ってた携帯電話が、目覚まし時計みたいな音で鳴りだ した。あたしも源司さんも、ぎくっとして見た。そんな、電源いれてすぐ、鳴るとか思ってな 、刀ノ 「 : : : アカネ、それの番号」 源司さんが言った。難しい話する顔のままだった。 「まだ俺と藤谷しか知んないぞ」

5. 熱の城

一 114 「ええと : : : 」 あたしがごめんなさいって言っていいのか。困ったけど。 「すまんけどアカネよろしくな。なんかあったら電話くれな」 のらねこ 「失礼な野良猫けっこう好きなんよ鷓マゾやからー って、言われた。 かぜぐすり 遅くなるから帰っていいよとか坂本くんに言われたけど、何食べてから風邪薬飲むんですか ってきいたら、台所に食パンあったからそれって返事で ( しかも現物見たらナイフで切らない で手でちぎったあとがあんの ) 、はっきりいって最悪ですと思った。 「。ハンだけで生きちゃだめだよリ」 「何なの西条って神様 ? 」 ・ : 人はパンだけで生きないって言ったのキリスト ? いちいちそんなこと思って喋ってな むだ いです。坂本くんてツッコミも曲がってるっていうか無駄に教養ある。 ( あたし神様だったりスナイバーだったり大変だな ) 大変ていうか、違うけど。 「あのさ先輩、後ろに立っちゃいけない人って、なんでスナイバーなんだっけ」 しゃべ

6. 熱の城

痛めに握りかえして、ごめんなさいって言った。だれも味方じゃないならあたしが味方でいし と思った。だって知らん顔でほっとけなかった。 「ごめんなさい」 見た目、静かな、あたしよりおとなつぼい人なのに、すごい熱い中身で。ちゃんと手をつな いで、いっしょに防音ドアの外に出たけど、ユキノが涙とまらないで肩しやくりあげて泣くか ら、あたしの胸が伝染して痛くなった。 源司さんがすぐロビーに追っかけてきて、櫻井さん、下にタクシー呼びますよ、って言っ た。それから叱られた。 「アカネ、おまえが出てくのナシだろ。みんなのリハができないだろー 「あ。すみません」 そういうの頭から抜けてた。西条、冷静ってわけでもなかった。 からだ 身体、止まんないからやってた。 「ごめんなさい ! ユキノがまだ泣いてる途中で、でもびつくりした顔であたしを見て、またごめんなさいって Ⅱ 城あわ の慌てて言った。 熱 あたしの手、握って。 だめ 「朱音ちゃん、ごめんね。わたし、馬鹿で。こんなふうにしたら駄目なのに。いちばん、よく さいじしっ

7. 熱の城

りちぎ 源司さんが先生の後ろ姿から言われて、また律儀に腕時計見た。それから、あたしのほう見 て、まじめな顔して「ふたりとも同じ種類の・ハカつつうことで」って言った。 「そうですねー 「むちゃくちやサラッと同意しやがったなアカネ」 ( 熱、あるんじゃないかな ) 平熱より少し上。 止まってらんない慣性、ついてて。ビンポールとか、ロケットみたく。 ( 先生も坂本くんもそれが、おたがい、わかってていいな ) でもなんでふたりして同時にそんな暴走モードかな。交代制だといいのにな。 「絶対あいつら長生きさせたるわ、アホくておもしれーから」 源司さんが、残ってるコーラのストロー噛みながら言った。 「かっこいいなあ あたしが褒めたら、源司さんロのかたちゅがめてヒヒヒと笑ってた。幸せそうだった。 ( 踊 るバカに見るバカってことですかと言ったら頭ぐりぐりされました ) 煙草。電気のまぶしい自販機の前で、セーラムライトのある列見てたら、背中の真ん中、た たばこ かんせい

8. 熱の城

「うげ、うそ、やつべ、藤谷とカプった ! 」 あいっとカブりたかねえや、って本気の顔で源司さんが言った。 「一緒だとやばいんですか。それ、どっちの人が働きすぎってことなんですか」 あたしが言ったら、源司さんがまたニーツとロひらいて笑った。 がんじよっ 源司さんて見るからに頑丈そうな、骨の硬そうな人なんだけど、そのときは表情が少し困っ てた。おでこのあたりが。 「アカネっち、心配すんのウマイな」 「うまいもへたもないです、こういうの」 「ガッコ楽しいか ? 」 なんかスルッと別の話題に変えられた。うーんと・ : 「そらイイな。西条朱音なるべく普通でいてくれや」 「普通よ、 、をいいんですか。そうかな」 だいこくばしら 「あんたが大黒柱よ。ョロシクよ」 んーと : : : よくわかんないな。 城携帯電話、源司さんのポケットで鳴った。 ( この人、着メロを必ずの曲にしてて、藤谷 ひど 熱さんと坂本くんに「そのインスタントなアレンジ酷いよ、憎すぎるよリ」って毎回凄く嫌がら れてるのに、何言われてもやめない ) 。「普通です」って答えた。

9. 熱の城

現実っぽくない話、よく頭に入らないまま、先生にきいた。 「左手」 自分の手、持ちあげてみせて、先生が言った。手だったら死なない。 かった。よくないけど。ちがう、ぜんぜんよくない。 けんばん 先生の左手の、鍵盤弾く人の指のかたち。すぐそこにあって。見ると。 ( それ、先生の手だったら ) ( ピアノが ) 死ぬのと同じくらい駄目で。 考えたら凄く怖かった。考えるのやめた。吐きそうな気持ちした。 「桐哉だけの自由にさせたくない人たちがたくさんいるんだろうけど。あの人、ファンじゃな くて『教徒』の、救い主だからー 「そりゃあ、解散ってのは絶対、好きな人間の腹えぐるけどな ? 」 源司さんが、複雑そうに言った。 理屈じゃなくて、自分の内臓で知ってる人の言い方だった。 の「今は単に業界のウワサなんだから、あんまり真に受けてんなよアカネ。この手のウワサは、 熱 なん・ほでも出てくるもんだそ、キリないそ」 「俺が様子見て、話聞いてくるから、朱音ちゃんは心配しないでいいよ」 だめ とか、最初思った。よ

10. 熱の城

112 ためいき一個ついて、坂本くんが「発作ラクになった」って小さい声で言った。 安心した。 「よかったね」 「俺の病気のこういう甘えてるところが自分で凄い嫌いなんだけど」 「自分の持ってるもの悪く言ったってしようがないじゃん。あたしは、坂本くんも坂本くんの 持ってる持ち物も音楽もまとめてひとつだと思うよ。ばらばらじゃなしに、好きだよ」 視線、低い場所におろしてたの、まばたきといっしょに上げて、あたしのこと見た。あっ。 すこしこわい。ってそのとき思った。 ( 一一 = ロっていいのそれ ) って感じに。 ( ていうかあたし言って何が悪いのか知んない ) 本気の本心で言えるから。怖いわけない。って自分に答えた。 げんじ その瞬間にリビングの真ん中で電話、鳴った。先生の家の電話だけど。源司さんからだと思 ったから受話器すぐ取った。当たりだった。 夜中の、電話ごしだと、ふだんより源司さんの声低くきこえる。 かずし 「アカネのママ様にお知らせもらってさっき一回電話したんだけども、一至本人が大丈夫と言 ほっさ