あなた 貴方のゆくえをさがしもとめてどこにいるのどこにいるの いばら たましいろう′」く わたしの魂の牢獄にくべられる燃える茨の火を どうかおもいしって どうかふみにじって罪を負っていきていってわたしと 真っ赤な光。目にきた。 あ、電話 ! ( 電話の子機、着信して赤いラン。フついてる ) ( ッドホン途中で、はずした。その瞬間に世界が変わって、あっ帰れた、ってそのとき助か ったみたいに思った。音がある場所にもどってきた。知ってる音。うちの電話、鳴る音。 ( あたまふらふらする ) ひんしゆっ ふなよ 船酔いする人みたいで電話つかんだ。机の上、英文法の問題集、「頻出」とか「要点がわか る」ってタイトルの一部分だけ目のなかにのこった。もっと勉強しなきゃならない。とか、今 じゃなくていい 、よけいなこと浮かんで。雑念。 の「はいもしもしー 熱 モモコの仕事の電話はこっちにかからないから、あたしに来る電話だと思って。 時計見たら十一一時少し過ぎだった。
112 ためいき一個ついて、坂本くんが「発作ラクになった」って小さい声で言った。 安心した。 「よかったね」 「俺の病気のこういう甘えてるところが自分で凄い嫌いなんだけど」 「自分の持ってるもの悪く言ったってしようがないじゃん。あたしは、坂本くんも坂本くんの 持ってる持ち物も音楽もまとめてひとつだと思うよ。ばらばらじゃなしに、好きだよ」 視線、低い場所におろしてたの、まばたきといっしょに上げて、あたしのこと見た。あっ。 すこしこわい。ってそのとき思った。 ( 一一 = ロっていいのそれ ) って感じに。 ( ていうかあたし言って何が悪いのか知んない ) 本気の本心で言えるから。怖いわけない。って自分に答えた。 げんじ その瞬間にリビングの真ん中で電話、鳴った。先生の家の電話だけど。源司さんからだと思 ったから受話器すぐ取った。当たりだった。 夜中の、電話ごしだと、ふだんより源司さんの声低くきこえる。 かずし 「アカネのママ様にお知らせもらってさっき一回電話したんだけども、一至本人が大丈夫と言 ほっさ
なんとなく、あたしは源司さんを睨んで、止まってた。心の下側で、ちょっとだけ、源司さ んにむかって、今そんな言い方されるの腹立つ、っていう、トゲつぼい気持ちのでてくるの、 感じた。だけど源司さんのせいじゃないです。 「これどこ押したらいいんですか」 源司さんにきいた。どれでもボタン押せば通話になるって言われた。だから、そうした。 「はいもしもしー うそ 「えっ嘘。なんで電話したら出るの ? 」 藤谷さんの声がした。 ( 電話したらって ) 名前呼んだらなんでいるのって、言ったのと同じで。 ( なに言ってんの ) 先生、それおかしいよ。 「あたし電話出たらダメですか」 「ダメだよ」 のわざとまた言ってみたら、わざとみたいに、ダメって返事だった。 熱 また同じに怒ろうかと思った。 「だけどいいや、 いいから、あのさ聴いてくれる ? 歌詞できたんだけど歌っていい ? こ にら
そうなんだ。と思ったら。 「えつ、どういう意味卩誰が ? 桐哉が ? 先生が、電話にむかって、普通と違う声できいた。源司さんが一瞬で怖い顔して、先生のほ う見た。 「・ : ・ : うわ信じられない。 : ・俺、協力したくないけど、するしかないって話 ? すごくいや じしつほ だな。かんべんしてよ。じゃあ、交換条件で、俺の相談に乗ってくれる ? そしたら、譲歩し ないこともないよ。そう。じゃあね」 電話、切って。二つ折りの、元に戻して。藤谷さんが何秒間か、考えてた。 あたしと先生のあいだに、電話置いて。困ったなあ、ってひとりごと言って。 「朱音ちゃん何かオーヴァークロームの噂、聞いてる ? 」 「なんにもないですー 「そう ? そうだよね」 : って。それだけで黙られても。話、ハンパなとこまで聞こえてるし。 「先生そこで話止まったら気持ち悪い」 の「うん、僕も気持ち悪い。源司さん、ほんとは情報あるんだよね ? 熱 「俺スか」 源司さん、ヤだなあって顔したけど、あたしと先生に中指で、近く寄れって合図した。すご うわさ
「ダメでも歌えばいいじゃん ! 」 どな あたしが大声で電話に、怒鳴ったから、止められた源司さんが驚いてた。 「それでも歌うしかなかったら歌えばいいし。あたし聴くから。なんでわかんないの」 「迎えにきてくれる ? 」 「甘えるのダメです」 「うん。歌うよ」 藤谷さんが一言った。 ( あたし迎えに行かなくちゃ ) 右の耳で。 携帯電話の、あまり近くにきこえない音の、奥に。 気持ち、あつめながら。 つかんだ鞄から手はずして、源司さんのこと追いこして、歩きだした。源司さんにごめんな さいと思った。鼓膜の、まんなかに、声のかけらだけ、置いてく、囁く歌い方で、藤谷さんが 最初の音、歌いだしてた。まわりのひとがきっとみんな、ふつうに通りすがりに聴いてる、外 のの、道端なのに。かまわない歌だった。 熱 この歌、あたしにきこえたら、ほかはどうでもいいよ。きいても。きかなくても。 ( だれに見えてもいい ) こまく ささや
それから両目いっぺん閉じて、ためいき一回っいた。 「あのね。そこにいてよ。そこにいてくれる ? まだ大丈夫 ? 」 「はい」 あたしが返事したら、藤谷さんが机の上の電話機に手のばして、どこかにダイヤルした。源 司さん呼ぶのかと思ったけど違った。 「もしもし、僕。今から、僕の『お願い聞いて権』使っていい ? そう今。今すぐ。今。いっ ものスタジオにいるから二分で来てくれる ? 二分無理 ? 十五分だったらどう ? 」 受話器のむこうで、だれか、低い声で文句言ってるのがきこえた。 うわ : ・ 相手わかった。 「来ないの ? なんで ? 朱音ちゃんここにいるのに ? 早く来ないと冷めるよ、おいでよ」 「ええ卩あの : ・・ : 」 あたしがロあけたときには、先生もう電話切ってた。あのさ先生 : ・ 「先生、あたし餌じゃないよ」 の「うん。でもちょうどいいから」 熱 「ちょうどいいって」 「絶対来るよ」 えさ
「ああ来たつ。どこにいんのあんた」 コーラの缶置いて、とびあがって源司さんが答えてた。あっ、源司さんが玄関で待機してた ゆくえ 理由わかった : : : 藤谷さん行方不明なんだ。 って、西条それくらいのことじゃ驚かなかったのに。 「ここ」 あたしの真後ろから返事した人がいた。うわあああああん " 「あーもおおーっ先生はリ知らないうちに後ろに来るの禁止 " 「えつなに ? 朱音ちゃんスナイバーなの ? こ 「その距離から電話すんなや、アホかー 「だって確か源司さんに電話するって約束したんだよね ? でも約束したの今思いだしたんだ けど。つまり要約すると忘れたんだけど、それだと僕の心情として申し訳なかったから。ごめ んね、遅れました、ていうか迷っちゃった。あのさ、そこの道の角にウチの方向こっちですっ て矢印の看板立てとかない ? 俺ヘンゼルとグレーテルみたいになっちゃったよ、チルチルと ミチルだっけ ? 道に撒いてたパンくず食べられた人いたよね ? 「どっちでも誰も困らんからそこを真剣に考えんな。看板は立てねえし」 「だめかなあ : : : 」 「あんた自宅を観光名所にしてどうすんだ」 たいき
眠れるし幸せだな」 時間的には朝が近いよ、と俺は言う。坂本君、コントロール・ルームの電気消しちゃって、 そ、つじゅ、つ 真っ暗にして作業したことある ? コンソールが光ってさ、宇宙船の操縦してる気持ちになれ むだ るよ。そんな余計な無駄な話をしながら藤谷さんが歩ぎだす。均等じゃないリズムで、スタジ オに戻る階段をの・ほる。 「破減はやめてよ」 「坂本君は大丈夫だよ」 「でも藤谷さんにだって音楽より大事なものはあるんじゃないの」 「どうかなあ、あるといいねー 携帯電話、振動が鳴って、藤谷さんが階段をの・ほりながら電話に出る。「ああ : : : そうなん だ。よかったね、ひとまず」と答える。現実というものの知らせ。たぶん最良でも最悪でもな つきあわなきゃいけないこと。 くせ 俺は目の前をとぎれないで進む藤谷さんの癖のある足音を聴いている。左側に鳴るリアル。 イ いそう 、っそ 右の位相に振って、もうひとつの音を聴く。嘘を混ぜない鏡で。一瞬の光を映す。その音を聴 ス ( それもきっと綺麗だから ) はねかえる、夜の反響。そして消えないストロボライツ。
いやがって、あんま信用できねえんで」 カズシだって。 「で、どうよ」 「発作、らくになったみたいです」 「そ ? 俺はいつでもそっち行けるけど、アカネどうする」 どうしょ一つ。 あたしの考えが止まったら、坂本くんが片手あげて電話もらうって合図した。あんまり場所 動かないで、電話機のコードひつばって受話器うけとって。 かぜ せき ぜんそく 「風邪の、咳でるけど、喘息はそんなひどくない。え ? いらない」 しかめた顔して、返事してた。 ・ : ほんとにいらない。おやすみな 「三十八度。 : : : 医者に薬もらってあるから飲んでねる。 さい。おっかれさまです。勤務時間外に、迷惑かけてすみません」 ポンって受話器、あたしに返された。源司さんが怒ってた。 「だあーもーかわいくね工ガキはマジでむかっく の「あの、あたし何か食べるもの用意して、そしたら車で帰るですー けが のらねこ 熱 「なんかあれだ、怪我した野良猫が足ポッキリ曲がってんの見ちまって、動物病院連れていき うな てえのにフーツとか唸られて逃げられることあるやんな卩俺そのキモチしてんそ今」
まあけて亀みたく顔出して「こらー、タクシーっかいなさいよー。金貸すし。つうかあんたの くっ 稼ぎから引くし」って言った。あたしどうやって行くかよく考えてなかった。玄関で靴ひも結 びながら二万円借りた。泣いてた顔どうかしなくちゃなんなくて、ティッシも貸してもらっ た。保湿の。やわらかいの。 「んでさ、誰かマネージャーに電話した ? 」 「え。あ。してないと思う げん ぜんそくほっさ 「しようがないなあー、ママ様が源ちゃんに電話しておいてあげます。喘息の発作ひどいとき は早めに救急車呼ばなきゃいけないこともあるよ。あんたが自分で全部めんどうみちゃだめだ よ、医者じゃないんだもん。様子見て、悪かったらすぐ救急車。でも安心するのがいちばんい いから早く行ってやんなさい」 恩着せっぽく言われたけど。モモコが母親でよかった。 ( 関係ないよ、夜でも明るいし ) 建物に、電気たくさんついてる。 外は、空気冷たかったけど。寒いの強いし慣れてるし。何も怖くないし平気だし。 なんでもない。 ( 真夜中、アスファルト走るのは、昼間よりも時間短く感じるからいい ) かせ