音 - みる会図書館


検索対象: 熱の城
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1. 熱の城

そういう、必死に眼こらしても見えない谷間の湖の水が、低いところにあって。 ( こんな、底に沈んでる音、も、作る ) ( 見たことないよ ) テン・。フランクで鳴る音とは違う。 ひの 日野ヒビキの歌は、うしろの音全部、遊園地のオモチャとか、色派手なキャンディみたいに 鳴ってた。それもやつばりじゃ鳴らない音で。それはポップで電気で。狙いがあって。詐 欺師で。完成してて。プロで、売り物だった。 だけど音のしない音がヘッドホンから今はきこえてきてる。 あ。 ( 死ぬ、ことの音みたい ) チェロの中音域。 やさしいのに遠くて怖いからそう思った。 ( いのちの最後に鳴る音、どうして先生知ってんの ) あたしだって知らないのに。そんなこと思ったりして誰なのかなあたし。と自分がわかんな 城くなって。どこからそういう気持ちは来るのかな。 熱 どうしてうまれるまえからあたしのなかに持ってる、ような気が。 するのかな。

2. 熱の城

うわ。きつい 「え、でも、あたしが好ぎって思ったって、それで彼女に何かいいことあるのかな」 「ありますよ。朱音ちゃんに、好かれたいですよ。彼女もヒビキも同じです、テン・ブランク から藤谷さんを借りてくるのって、たいへんだし、勇気いるから。朱音ちゃんに自分を認めて もらったら、気分ラクです」 「認めるなんて、あたし偉くないのに」 「だって、藤谷さんのアタマのなかの、いちばんいいものが、朱音ちゃんだから。藤谷さんに 認めてもらうってことと同じです。ヒビキは、藤谷さんが負ける相手、だから、朱音ちゃんリ スペクトなんですけど。藤谷さんと仕事するとあぎれますよ。ヒビキに朱音ちゃんのドラムき かせて、『こうじゃなきやだめだ』って言うんです。それってただの自慢だし藤谷さんの勝手 じゃないですか。そんなに朱音ちゃんが基準なんだあって、びつくりしますよ」 ええ ? ぜんぜんそんなの、違う。と思った。けど。 せいいき ( 櫻井ユキノの、声域、五オクターヴあるって、坂本くんが気にしてた ) 城 利ロだって、桐哉は言ってた。 の 熱あたしが力あるって思う人達が、櫻井ユキノをそういうふうに気にするのは。 ユキノに力、あるってことで。

3. 熱の城

228 早く早くって呼ばれてる。身体、前にひつばられて、廊下でつまずきそうになりながら、す リビング あせ ごい焦って、居間に行った。だってそういう音だった。 急いで聴かないと。 ( 何か始まってた ) すごくいいこと。見逃すから。いのちがけで。絶対。 絶対そこにいなきやだめな音で。 あたしが大急ぎでリビング入ったら、そのとき藤谷さんがメインの黒いプレシジョン・べー えんりよ はだし ス抱えて、裸足で床に座りこんで、やつばり遠慮なしの大きい音量で、下から足元さらう音、 弾いてみせてた。あたしの右側の中指の爪に、びりびりって振動の伝染る音、残った。部屋の 左で、尚がそれ聴いて、フレットに置いた指の場所、変えた。仕返しみたいに斜め上から尖っ にはく た音、鳴って答えた。ちがうの ? って藤谷さんが低音の二拍で訊いた。べースラインこうい う進行じゃないの ? って、言葉なくても何言ってるかわかる音の出し方で。話して。 「西条」 ドラムセットの椅子から腰あげた坂本くんがあたしに声かけた。急いでた。あたしと思って ること、同じだった。説明できないけど、今。 「早くここ」 「ええ ? こ からだ ろうか

4. 熱の城

ないのに。どんどん、悪くしちゃうのに : 「でも、わかるから なんとなく、そのとき喉の手前に浮かんだことそのまま答えた。 「気持ちはわかるから」 「・ : ・ : ありがと」 あたしの顔を、じっとみつめて、コキノが言った。 をしいって思 「あのね。朱音ちゃん。わたし : : : だけどテン・。フランクなんか早く壊れちゃえま、 ってるの」 え ? 「テン・ブランクは好き。朱音ちゃんのことも好き。だけど嫌いになったの。ううん嫌いじゃ なくて、今でも好きだけど、の音楽聴いたら泣くけど、今はおなじに憎んでるから 変わらない、じっと視線はずさない表情で、涙のこってる顔で、ユキノが。 本気の一言葉で、言った。 「優しくしちゃだめだよ。ユキノに優しくしたら、きっとあとで朱音ちゃんは困るから。わた しどんな手をつかっても、朱音ちゃん、わたし、もしも朱音ちゃんに殺されても、それでもい いから、どんな悪い手段ででもあの人を手に入れるの。そういう覚悟してるの」 手に入れる覚悟って。 のど

5. 熱の城

226 「そうよ朱音ちゃんはテン・。フランクで幸せにしてもらう約束なんだから 運命、決まってることみたいに、言われた。 「だから朱音ちゃんが大変そうにしてるあいだは、藤谷さん訴えてやるって瑛子は思っている のですわ。もしくは、呪いかけてやる ! 」 うわ。そうなんですか。 「ええー : ・ : ・呪いなしでお願いしますー 「だってけっこう泣かされてるじゃないの」 「それは、ていうかそれも、自分のことだし」 「うーん、瑛子は (---qn のファンでもあり、ファン心理ってフクザッですけど。朱音ちゃんはそ うやってホントに、そっちで生きてく人になるのねえ」 さいじしっ・ さくらい ひの でも、西条朱音は、櫻井ユキノや日野ヒビキと同じ生き物じゃなかった。ああいう強い化け 物っぽい生き方、できてる気はしなかった。 結局、あたしはあたしにしか、なってなかった。 「だけど瑛子ちゃん、幸せにしてもらうってゆうと、お嫁にいくみたいじゃないですかー 「ふんふん ? 朱音ちゃんそれは路線外なの ? こ 「あたしが、幸せにしたい人ばっかりです」 「おやまあ、女王様ね」 のろ よめ

6. 熱の城

じらんなくなった。ぎりぎりで、いちばん大事なもの何って自分にきいた。いちばん大事でい ちばん壞しちゃいけないものは知ってた。あたしの音。 ずるく鳴らないで。 覚悟、ある音で。 「朱音ちゃん、百メートル競走しようか」 座ってる地面から、両脚、動かして。ゆっくり立ちあがって、藤谷さんが言った。え ? じつほ 「俺が負けたら、バンドのスケジュール、できるかぎり譲歩して考える。朱音ちゃんが負けた ら、バンド優先して、合間に受験でもなんでも俺の知らないところで自力でがんばってよ」 ん。でも」 「俺の足悪いから無理だと思ってる ? けど俺は男だから、たいがいの勝負でだったら朱音ち からだ ゃんに勝てちゃうよ。身体のつくりが違うから、ハンデつけても甘くないよ 全部、さらっと言われた。 いろいろ、冷たいっていうか、怖いセリフ混ざってた。 ( 男だから ) の何。 たた 熱 頭の、上のほうから、叩くみたいに来る言葉で。そういう種類の言葉、使える人だってこと も、知ってたけど。むきだしな感じ、がした。しようがないと思った。優しくなくても、驚か

7. 熱の城

タムのチューニングが気に入らないって神経質に言ってるところで。「厳密に言うとズレてな おんじよっ すなあらし いけどこの音場だと返りが砂嵐と波長似てて俺が気持ち悪い」とか言われて。耳のよすぎる人 は大変だな。なんて思いながら調整してくれてるの待ってた。 左の、斜め前から、太い厚い音。 一回鳴らして尚が音止めた。 どんき ( 鈍器つぼい ) なぐ 殴られたら痛い ギター ( 轢かれたり ) ( トレーラーの、高速道路行くタイヤ ) そういう音が弾きたいのかな。気分。 じゃあ、どう叩こうかな。 C ハランスとると普段よりうるさくなっちゃうかな ) そんなこと考えたり別のこと考えたり、しながら。リハスタの空気、だんだん人の温度が増 えて、変わっていくのをぼんやり待ってたら。 「西条の耳は」 びしつ、と高い場所からスネアの真ん中にスティック叩きおろして坂本くんが言った。すご たた ひ

8. 熱の城

232 ( 心臓の裏から男の人の拳で ) ずきって背骨から胸の真ん中ぬける痛いのがほんとに来た。凄く、驚いたから。表面光るギ ター、尚の腕のなかのミドリ、生き物になって歌いだしてた。はじめてきくのに、何千回きい たくらい知ってた音が、大声で鳴ってた。これしかないって、曲がもともとの遺伝子で持って る音、で。 藤谷さんが、両目、みひらいて尚のこと見上げてた。 べースの音がそっちにひきこまれて元と違う場所にいっても、それでかまわない弾き方で、 尚の右腕が、カで、音楽の行き先にべースラインごと連れていった。曲のカタチ、もっと変わ がくふ るけど、かまわない。楽譜にないけど鳴らさなきゃなんないもの、わかって、ギターと同じ瞬 間あわせて、二発蹴りつけたら、目の前光って真っ白っぽくなった。 ( いま四人おなじ音で ) 合わせて。 全員でその場所で、同じこと気がついて一緒に鳴らしてた。 ( なんでわかってんの ) なんでって。 言えない。 でも、かんたんなことで。 こぶし

9. 熱の城

「 : : : 何が悪いのか俺もわかんないや。謝らせてごめんね。朱音ちゃんどうかしたの、何かあ った ? か相談冫 このったほうがいい話 ? 」 「でもあの。あたしは平気だから、帰る、です」 じゃま 邪魔しにきただけだった。 「ちょっと仕事場、来たくなったんです」 「そう ? 「あの。今、あたしに何言う途中だったんですか」 「それ訊いちやダメ」 ダメなんだ。 「ごめんなさい」 「朱音ちゃんが俺に謝っちやダメだよ」 ダメって。 言われすぎて何か我慢、切れた。 「じゃあ何だったらいいのかわかんないよ先生のー の「そこにいてよ。朱音ちゃんのいたいだけ好きにしててよ。怒らないでよ」 降参って感じで両手あげて、言われた。 何に降参なのか知らない。

10. 熱の城

105 熱の城 I ( 時間なんかかかってない、一瞬ですむ気する ) あいかぎ タクシーおりて、青つぼい道路、陸上競技の選手みたいに走って、いつもの道筋。合鍵、魔 法の鍵より大事に持って、行った。家の前の階段あがって、扉あけた。昔にここの家のドアあ けたときの記憶いくつか、同時にダブって変な感覚した。あっ、インターフォン忘れた。玄関 が暗くて、照明のスイッチいれたとき思った。 ( 光 ) ばちつ、て白と黄色の混ざってる光、目の前でついた。 まぶしかった。 チューニング ( の音。調律の基調音の、 440 ヘルツが ) どこかで鳴ってる、音がきこえた。 チューナー鳴らしてる。 リビングの電気もついてなくて、だけどそっちから音がしてた。 ( わかったあたしこの家に、電気つけにきたんだ ) 光。光もっと。 むだ ないと足りない。電力無駄でも叱られても。って思った。 ろうか けんばん : 鍵盤、半音の濁る、不協和音きこえた。廊下、走っていって、半開きのリビングのドア 大きくあけて壁のスイッチ押した。明るくなった。ダッフルの厚手のコート、肩から背中に巻 しか