仲間たち - みる会図書館


検索対象: LOVE WAY
45件見つかりました。

1. LOVE WAY

138 「解散 ? ー 「オーヴァークローム解散 ? すきま 暗闇の隙間から頻繁にきこえてくる囁き声、敢えて我々の近くでだれかがよく囀り交わして うわさばなし いる噂話。そんなものは日常にありあまる些事だからどうということはないんです。それより まず も、僕の足の歩行の拙さが、このごろ気にかかる。 あそ 僕らの騒音を呑みくだす戯びに、どうそ、ようこそ。 いつものように、約束どおりに、巨大な音響の鍵盤の一撃で僕らのステージは開始される。 贋物の金属的なハンマークラヴィーア。 スタインウェイのビアノなんてどこにも置いてない。 デジタルの、ただの電算機の仲間で鳴らすファンファーレ。 さつぶうけい そうしよく 殺風景な舞台を、強力な白色の光で装飾するのが僕らは好きだった。 まぶしければまぶしいほど、美しい場所のように思った。 透明な数字を、僕たちは数えた。 びよっし 十六拍子で。 僕らの約束事を、ステージの下で待ちうける彼女たちもなぜかよく承知していた。 ステージに純白の光が満ちてもまだそれがすべての合図ではないと皆がよく知っていた。 にせもの ひんばん ささや さ争

2. LOVE WAY

わいい声が「いらっキャア」までしか聞けなかった。入り口のまんなかに、カーネルサンダー スがうつぶせに転がった。 「ここも」 彼が言った。そうですかと僕は答えた。いつですかと訊いた。先月と彼が答えた。僕たちは ハウス・シャノアールに入った。この店ではま ケンタッキーの横の階段をのぼって、コーヒー だ働いたことがないと彼が言った。あんまり地元でバイト先を捜さないほうかいいでしようね と僕は言いたかったけれどやめた。 さえき 佐伯さんから話を聞きましたよと僕はきりだした。僕の仕事を気に入ってもらったようでど 彼ま、 , もと , も うも : : : と言った。彼は「打ちこみ屋」の僕の仕事を必要としているのだった。 / を とはいくつかのアマチ = アバンドを渡りあるいて歌ってきた人だった。でもいいかげん人間と まんえん ンドマンに蔓延しているグル 1 ヴ幻想 一緒に音楽をやるのはうんざりだということだった。バ を信じられないと言った。平等なタスケアイで音楽はできない、特定の誰かが「蜘蛛の糸」で 他の奴はそれにぶらさがるんだ、世の中にほんとうにたいした人間は一握りしかいない、俺は 握られた側だからあいつらとは合わないと言った。僕は、同感ですと言 0 た。あまりきちんと 耳をすまして彼の話を聞かなかった。 彼はいままでどんなメイハー構成でどんな曲調の音楽をやってきてどんな人間関係のトラブ ルがあったかを、かいつまんで話したけれど、さっきのカーネルサンダースを蹴った彼にくら

3. LOVE WAY

( フロイトが言った。人間には「生の本能」といっしょに「死の本能」がある。人間は、生へ からだ の衝動と死への衝動を、ひとつの身体にかかえてうまれてくる。生の本能はエロス、死への本 能はタナトス ) 衝動で本能だというんだ。 あらかじめ、持っているのです。 ( そうかな ) ひざ あしひざこぞう 膝の、右の脚の膝小僧の、てきとうなところにカッターの刃で切りこみをつくる。膜のぶつ ひふ あぶらみ んとする感触で皮膚が切れて、いっしゅん白い脂身がみえる。すぐに赤い血がもりあがってき て、ふくらんでこ・ほれる。 膝の裏側に、一筋の血の流れがまわりこんで落ちてく。靴下の布地にしみこむ。たぶんすぐ タナトス。それは死。 くっした

4. LOVE WAY

「たいして変わらないかもしれないよ。同じ人間だもの」 「そうかなあ」 ゅ、 2 つつ マルは憂鬱そうに、下を見た。でも、何かが変わっちゃうんだろうな、とつぶやいた。 「きっと変わっちゃうんだろうな、桐哉も人間だから」 野蛮なジャングルの奥底でうまれる、原始からの太鼓の響き。・ほくは商売でドラムを叩きっ はっしっ づけて、なまじ正確なリズムキープを習得してしまったから、音楽発祥の聖地には、おそらく もう帰らない。人類発祥のころの純粋な、無垢な、動物的な欲望だけでリズムを叩くことはも うない 「電気が足りないよ」 がしら ・ほくは出会い頭に、桐哉に言った。 ライ・フハウスの楽屋口に出てきた桐哉を、・ほくは熱心な追っかけのファンみたいに待ち伏せ ア て、話しかけたのだった。 カ実際、熱心な追っかけのファンは十数人 : ほくの背後に待ちうけていた。 な ・ほくがひとりでその場の平均年齢をあげていた。 よ さ しかも、他の誰よりも無礼だった。 「きみの音楽はもっと、機械仕掛けで、マガイモノっぽく鳴っているほうが似合うよ」 やばん

5. LOVE WAY

130 みつともないなあ 僕はあの人が人間でなければどんなにいいかと ねがう、 じしよう 仮想の事象であれば どんなにのそましいかと ねがう、 生き血も息も目玉もなみだもあらゆる水をも 必要としない 機械仕掛けの幻想であれば 幻想であれば、 ( そしたら僕らは決して出会わない。 )

6. LOVE WAY

合唱が。 ったない、鍛えてはいない、。フロフェッショナルではない人間たちによる歌が、舞台の外か おの ら、客席から、大地から自ずから生まれるもののように。 せんりつ 僕らの創った旋律を、つないでいた。 ひとつに固まっていく音楽。 そうして新たな地平へと、拡がっていく音楽。 ゅ、 3 」う ( 今、この瞬間かぎりの融合でも ) き于な 一瞬かぎりの、透明な絆のひろがりを、彼らは、ひとりひとりで、つないだ。 真崎君、自分自身がいままで彼らに教えた旋律を、こんなふうに贈りかえされて、きみ、驚 いているけれど。 案外、よくあることなんじゃないのかな。 たとえばナッとか。 きれい 名も知らない綺麗な花なんかや。 たとえば僕とか。 そんなものだよ。きっと、めずらしくもないんだ。 大丈夫だよ。 僕は、彼の背中をながめた。 きた

7. LOVE WAY

「あなたもふつうの人間ですよね」 だめ 「じやア、駄目なんじゃねえの。・ : ・ : 辞めんの ? いっ ? 「いつなんて僕に訊く人かな」 「死んじまえば ? 」 「まだあなた、見終わるには惜しいんです」 「遠くから観劇 ? 「じゃないと巻き添えでしよう」 無感情な会話だった。 「巻き添えだなアー 虫けらの話みたいに桐哉が答えた。 ひざ わたしは、膝を地べたにこすって痛い思いをしながら、這った。車の陰から、白い電灯の下 に出た。マヒロが先に、わたしに気がついた。それこそ虫けら以下の、空気を眺める表情で見 ざんこく た。残酷な人だった。 一桐哉の優しさとは、種類が違っていた。 ン「真崎君、観客にサービスしすぎですよ」 ア そう言った。 ( 観客 )

8. LOVE WAY

レコード会社の制作ディレクター佐伯は、バ ンドを組んでは潰してはかりいるポーカリス しんざきとうや ふじたになおき トと出会う。天才藤谷直季の弟・真崎桐哉。 桐哉のバン 神様に選はれたを持っ男 ドの解散ライプを訪れた佐伯は、彼に向かっ て言い放つ。「歌わなきや死ぬ人間なんてい ( 「さよならカナリア」 ) カリスマバンド・オーヴァークロームの誕生 と軌跡を描く、 5 編のスペシャルストーリー ! つぶ さえき 恋気分いっぱいの夢 0 小説誌 ! 朝 t 隔月刊ですの蕉お求めにくしにともあります あらかじめ書店にこ予約をおすすめします 集英社

9. LOVE WAY

もせずに、生きていた。 それだけはしない子だと思っていた。 / 、さ あんたは、まだきれいなままで、腐らないで踏ん張れる子だって信じてたよ。 それなのに。 ( みんな、ハナが犯人って知ってるよ ) ( あたしらの所に帰れると思わないでよ ) わたしは返事を書いた。 ハナが桐哉を刺したって話は、インターネットに、わたしが自分で書いたんだ。 ハナはそんな醜い人間でした。 カリンがなぜ、わたしをきれいだと思ってくれたのか、わかりません。ごめんなさい。 ごめんなさい。ありがとう。さよなら。 ( わたしは彼の歌しか要らなかったけれど ) いっしょ ( 決して手に入らないものを、一緒に追っていられた短い時間は、たのしかったです ) 工 カリンからメールは返ってこなかった。 ンわたしの家族は、マンションを出て、遠い土地に引っ越した。わたしのいどころを知ってい ア る人は、いなくなった。 みにく

10. LOVE WAY

230 わあっ、と誰かが息をのんで言った。 信号が青に変わったのだった。 いた学・ら 桐哉が、ふと声を切って、まわりを見渡して、悪戯を仕掛ける口調で言った。 「最初から聴く ? 」 こば 歩道のヘりから、交差点のなかに聴衆がいっぺんに零れ出て、彼にむかって突進した。彼ら のコーラスを指揮する手つきで右腕をあげて、桐哉が歌いだした。 ぼくは、他の客と同じように走りはしなかった。ただともかく日の出と共にその即席のステ ージから迷惑なバカな人間を連れて逃走しなけりゃならないことはわかっていた。だから、や れやれとつぶやいて、それからは、やつばりほとんど陽気な心地で、路上のパーティーを見物 していた。 かなたばら 白く裂けてゆく夜空の彼方に薔薇色の火が灯り、そこに朝が来るまで。 とも