ロシアにとっての本当の問題は実は、ウクライナだけではなく、ガスパイプラインの到着 点がドイツにコントロールされているということなのだ。そしてそれは同時に、南ヨーロ ハ諸国の問題でもある。 ン。、ゞ ヨーロ 、 / カロシアの熊とだけの間に問題を抱えているひとつの平等なシステムである かのように素朴に捉えるのをやめるならば、ガスパイプライン「サウス・ストリーム」が 建設されないことがドイツの利益でもあるということが分かる。それが建設されると、ド ィッが支配しているヨーロッパの大部分のエネルギー供給が、ドイツのコントロールから 外れてしまうだろう。 「サウス・ストリーム」の戦略的な争点はしたがって、単に東と西の間の、ウクライナと ロシアの間の争点ではない。それはドイツと、ドイツに支配されている南ヨーロツ。、 の争点でもある。 ヨーロッパという階層システム しかし、もう一度言っておきたい。 この地図は最終的な地図ではない。 この地図の目的 は、ヨーロッパの現実に即したとっかかりのイメージをざっと田 5 い浮かべ、今日のヨーロ
もちろんロシア人たちは貧しいし、西ヨーロッパに暮らす者が、社会の自由度のことも 含め、ロシアのシステムを羨望することはあり得ない。 けれども今日、ロシア人であることは、強くて安心させてくれるひとつのナショナルな 集団に属することであり、心の中でよりよい将来に自己投影する可能性なのだ。どこかへ 向かって行くという実感なのだ。今フランスで、誰がこんな実感を持ち得るだろう ? ロシアは今日、期せすして、ロシア自体を超えるポジテイプな何かの象徴になりつつあ ころとは逆に、西洋の抱えている問題は、、 しくつかのロシア的価値のポジテイプで有益な 性格によって示されている。 ロシアは、「自由主義万能」の道を走る西洋諸国に追随しなかった国だ。あの国では、 国家には国家なりの役割があることが再確認されている。ネイションというものについて のある種の観念も同様だ。 ロシアは立ち直り始めている国なのであって、出生率の上昇や乳児死亡率の低下にもそ れは表れている。失業率も低い水準にある。 「新冷戦」ではない
2074.5 2 ロシアを見くびってはいけない 乳児死亡率の上昇から予見できたソ連崩壊 乳児死亡率が低下し、出生率が上昇しているプーチンのロシア 経済指標は捏造できるが、人口学的指標は捏造できない ロシアの安定化を見誤った西側メディア 国内で支持される権威主義的デモクラシー はロシアのエリート 養成機関 ロシア経済の二つの切り札 人口学的指標が示すロシアの健全さ 3 ウクライナと戦争の誘惑 2 ミ 45 家族構造からみたロシアとウクライナ 国家が機能してこなかった「中間ヨーロツ。、 人口学で確認できるウクライナの解体 「親派」と称される極右勢力 「プーチン嫌い」が真実を見えなくさせている
る 耳か ? ・ を 陸 大 今日の国際システムはどこか奇妙で、非現実的に田 5 えるよね。何かがうまくいっていな 亠い皆がやっきになってロシアに打ちかかっているのだが、ロシアの人口はわすか一億四 ョ五〇〇万人。国として立ち直ったのは確かだけれども、ロシアが世界全体の中で、あるい ツはヨーロッパに限定した中でも、ふたたび支配的な国家になるとは誰も想像できまい ロシアの力は基本的に防衛的なものだ。あの巨大な領土を保全していくだけでも、あれ ほど限定された人口、ちょうど日本の人口に匹敵する程度の人口では容易なことではない。 スノーデンを保護して西洋における市民の自由を守ったロシア エマ一一ユエル・トッドさん、ロシアをめぐる現在の危機をどういう視線で見ています 自ら進んでドイツに隷属するようになったフランス
ロシア崩壊こそアメリカにとっての脅威 愚かなプレジンスキー ロシア嫌いでドイツの脅威を見誤る 東欧支配で衰退したソ連、復活したドイツ ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る 地図が示す「ドイツ圏」という領域 フランスの協力によって完成した「ドイツ圏」 「被支配地域」ーーー南欧 「ロシア嫌いの衛星国 イギリスに近いデンマーク、ロシアに近いフィンランド 「離脱途上」ーーイギリス ドイツ覇権よりアメリカ覇権の方がマシ ンガリー 「離脱途上」 ウクライナ 「併合途上ー ガスパイプライン問題ー・・・ー争点は「ロシアウクライナ」でなく「ドイツ南欧」 ヨーロッパという階層システム ポーランド、スウェーデン、バルト三国
この基準から見ると、ロシアは世界でも女性の地位が最も高い国の一つであって、スウェ ーデン ( 男子学生一〇〇人に対して、女子学生一四〇人 ) に次いでいるのです。 ロシアの合理的な外交 ウクライナ危機におけるロシアの外交的観点は文化主義的ではなく、非常にシンプルで す。つまり、ロシアの指導層はウクライナに Z < O の基地を望まない。そんなところに 基地を作られたのでは、バルト二国とポーランドから成る包囲網がいっそう強化されてし まうというわけです それだけのことなのです。 ロシアが望んでいるのは平和と安全です。自国の復興を完遂するためにロシアは平和と 安全を必要としていて、クリミア半島で見られたとおり、今ではそれを獲得する手段を持 っているのです。 最後に、人類学者からの助言を一つ付け加えます。自分たちの道徳観を地球全体に押し 付けようとするアグレッシプな西洋人は、自分たちのほうがどうしようもなく少数派であ り、量的に見れば父系制文化のほうが支配的だということを知ったほうがよろしい 1 ー 4
ロシア経済のニつの切り札 あなたはロシア社会がむしろうまくいっていると断言されるわけたが、経済はどうで すか。うまくいっていませんよね。 経済の領域には立ち人りすぎないようにしたいと思っています。ただ、ロシアの成長率 一・四 % と失業率五・五 % は、オランド大統領を羨望で青ざめさせるに十分だということ には注目しておきたいですね。わが国の大統領をあまり打ちのめしてはいけないので、ロ シア大統領の支持率については何も言わないでおきますけれども。 もっとも、ロシアが主として地下資源の開発に依存する「不労所得経済」によって、ま 「た、ますます農業によって生きているというのは本当のことです。それ以外の点に関して び いえば、ロシアは従来からの産業で残っているものを護ることを目的とする保護主義経済 見にとどまっています。 を アあの国の切り札は二つです。潜在的な富に満ちた一七〇〇万平方キロメートルの広大な ロ 国土と、八〇万人のユダヤ人がイスラエルへ去ったとはいえ、それでもなお、大勢のハイ レベルの科学者たちを擁する一億四四〇〇万の人口 ( 二〇一三年 ) です。
超えている。デンマークは西の方に目を向けており、ロシアのことをさほど気に病んでい フィンランドはというと、ソ連と共に生きることを学んだ国であり、ロシア人と理解し 合う可能性をなんとしても疑おうとするような理由を持っていない。 たしかにフィンランドはロシアと戦争状態にあったことがある。一八〇九年から一九一 七年の間、ロシア皇帝の帝国に所属したが、それは一つの大公国という形であって、その おかげで事実としてはスウェーデンの支配から逃れていることができたのである る 耳フィンランド人たちにとって、自分たちの国を植民地化しかねない強国は実はスウェー をデンなのだ。だから彼らが本当にスウェーデンのリーダーシップのもとに戻りたいと田 5 っ 大 ているのかどうかを私は疑う。 亠地図の上では、フィンランドとデンマークは南欧諸国と同様に支配されているというこ ョとになる。バカけていると思うかい ? フィンランド経済はすでにロシアに対するヨーロ ツッパの攻撃性の代償を支払っている。また、デンマークはイギリスが離脱していくことで 困難な状況に置かれるだろう。
というたけなのに、状況を見ているとほとんどまるで、住民の意思に反してクリミア半島 を力すくでウクライナにふたたび戻すために戦争をしに行かなければならないかのような、 途方もないドラマを見ているかのようです。なせ扱い方にこんな大きな差があるのでしょ その問い への答えの鍵はロシアにはないね。西洋の側にある。 西洋はたしかに世界で圧倒的に支配的だが、それと裏腹に今日、そのさまざまな部分に 耳おいて不安に駆られ、煩悶し、病んでいる。財政危機、所得の低迷ないし低下、経済格差 をの拡大、将来展望の不在、そして大陸ヨーロッパにおいては少子化など、いろいろな問題 大 がある 亠イデオロギーの側面から見ると、ロシア脅威論はますスケープゴート探しのように、も ョっといえば、西側で最小限の一体感を保っために必要な敵のでっち上げのように見える。 はもともと、ソ連に対抗して生まれた。ロシアというライバルなしでは済まないのだ。 イ もっとも、ロシアが西洋世界に対して二、三、「価値」の問題を投げかけていることは 事実だ。しかし『ル・モンド』紙が繰り出す反プーチンでロシア嫌いの愚言が示唆すると
・ブッシュのアメリカはプレジンスキーの路線に忠実で、ロシアに対する対決姿勢を維 持し、かってソ連の衛星国だった諸国を頼りにし、バルト三国とポーランドを反ロシア姿 勢の特権的パートナーとしているという印象を抱いたのでした。 オバマ大統領による路線転換 ハラク・オバマのホワイトハウス人りと時を同じくして、アメリカの姿勢が一変しまし た。オバマの路線は、当時私が察知したとおり、アメリカのパワーにとっての長期的脅威 が存在するアジアに「外交基軸」をよりしつかりと据えるべく、イランおよびロシアとの 緊張関係は緩和するというものだった。 ワシントンのこの撤退は、プーチンに接近して商業・エネルギー・産業における大々的 よパートナーシップを完成させるというヨーロッパ諸国の意志、特にドイツの意志を強化 する要因だったはすです。そうして、フランス十ドイツ十ロシアというエンジンに基づく ハランスのとれたヨーロッパが姿を現す可能性がありました。 ところが、歴史はそれとはまったく異なる方向へ向かいました。これは否定し難い事実 です。われわれはロシアとの間の対決のただ中におり、今やの経済的・外交的リ 108