国家とは何かということについては、その両義性を認め、マルキシズムの理に叶った部 分に依拠しなければ、現在起こっていることは理解できません。 国家は、一般意志の体現者にもなれは、支配階級の表現にもなるのです。第二次世界大 戦後の社会的国家、ドゴール主義の国家は、当時共産党がおこなっていた批判に反して、 何よりも一般意志の実現のために行動していました。経済成長をみんなのために管理して いました。 今日、国家はその主要な性格から見て、何よりもます階級国家です。金融資本主義が改 めて諸国家をコントロールするようになっています 格差拡大は倫理ではなく経済の問題ーービケティ学派の功績 家 国 る では、もし富裕層の富裕の程度が下がれは、現在よりもよい状況になると一言うのです 仕か ? いいかえれは、これは果たして倫理の問題てしようかね ? むしろ、経済の問題で 層しょ一つに。 富 私の分析にはどんな倫理的な狙いもありませんよ。一九九〇年以降、金融取引の開放と 0 177
「市場」とは「最富裕層」のこと 今や国家か「市場ーとせめき合っていると言っていいでしようかね ? 「プリュッセル」「マーケット」「金融機関」「アメリカの格付け会社」など、人をたぶら かす概念に騙されないようにしましよう。そういった付け鼻のようなインチキな言葉は、 最富裕層が世界のいたるところで政治権力を奪取している事実をカモフラージュしていま す。 少額預金者の預金を保護するというロ実を掲けていますが、市場と呼はれているのは単 に、国家を玩具にする最富裕層のことにほかなりません。金持ちたちは国家を敵に回して 家 る戦いはしません。彼らが戦うのは、国家を従来以上によくコントロールするためです ( ジ 仕エームス・ガルプレイス著『捕食国家』〔フリー・ プレス社、一一〇〇八年、未邦訳〕を参照さ 層れたし ) 。 富ある種の人物たちが国家行政機構の上層部、アメリカの大企業、プリュッセル、さらに 今日では各国政府自体の間をどう行き来しているかを観察しさえすれば、金持ちたちがま 175
るもの、それは、個人主義や自由の肯定・拡大に適した核家族構造と、個々人のさまざま な熱望を自らの周辺に結晶させる強い国家の組み合わせです。 ところがウクライナは、タガログ族もそうだが、強い国家というものを経験したことが ハの隣国、ポーランドやルーマニアと共有している。 ない。そしてこの特徴を中央ヨーロッ ポーランドやルーマニアは伝統的に核家族構造を持っています。ポーランド人たちは、 強い国家を建設するチャンスに恵まれたのですが、彼らのうちの貴族たちの部族的な振る 舞いのせいでそれを逃しました。彼らは自分たちの独立を「自由拒否権 ( リベルム・ヴェ ト ) 」をめぐる仲間内の諍いのために犠牲にしてしまったのです。 黒海からバルト海へと長く伸びているこの「中間ヨーロッパ」ではしたがって、少なく 誘 とも一八世紀以来、国家が機能していない。 の 戦しかも、不幸なことに、二つの強い国家、すなわち、プロシアとロシアの間に挟まれて ナいて、そのぶん近代へのアクセスが遅れました。 イ ク ウ 人口学で確認できるウクライナの解体 それはなんとも不思議でおもしろい。ウクライナはロシアよりも近代的でないとおっ
ところが問題がありました。金持ちたちのケインズ主義だったのです。 景気刺激の財源を貨幣創出ーー「輪転機を回す」というやつですーーーで賄えば国家に負 担なく済むのにそうはせず、借り人れで調達したのです これでは、金持ちのお金の安全を確保するはかりで、需要不足にはいささかも根本的な 答えとなりません。この贋ケインズ主義は中国の成長を励まし、株価をつり上げ、ヨーロ ッパにおける産業の国外移転を加速しました。とどのつまり、「国家のカムバック」は金 持ちたちの社会主義の確立にほかならなかったのです。 国家は富裕層を救うミッションを負う、コードネームは「銀行」、というわけです。な せなら、フレデリック・ロルドン〔フランスの経済学者、一九六二年生まれ〕が見事に言っ 家たように、銀行は一般市民への弁済手段をも掌握しているので、自らの富裕な株主たちの るために国家を人質にしたのです。 え 仕もし銀行国有化の道を選択していたら、普通の人びとの経済を保護し、少額預金者の損 漏害を補償し、有罪人に制裁を加えることができたでしように。 富国家は無力ではない。しかし、寡頭支配層に仕えている。これが現代の真実なのです。 ー 87
分たちの余剰資金をどこかに預託したい貸し手たちです マルクスが『ルイ・ボナバルトのプリュメール一八日』で明察したように、金持ちたち は政府債務が大好きなのですよ ! 借金をする国家は、法的拘東の専有のおかげで、金持 ちたちが彼らのお金を最大限安全に保有し、蓄積できるようにしてやる国家なのです。 つまり、財政赤字は各国政府のせいではない、政府は借金するように促されたのたか ら、というのですか ? もっとも、政府を最富裕層の手の中に導いたのは、ほかでもない政府の税制上の選択で 家す。『不当債務』〔未邦訳〕という本の中で著者のフランソワ・シネ〔フランスの経済学 る者、ハリ第一三大学教授〕が的確に指摘しているとおり、フランスでは、超富裕層が彼ら 仕に課される税率の引き下げの恩恵に与り、まさにそのおかけで国家に対し、減税で国庫に 人らなくなった分の資金を貸与するという現象が起こっています 富わが国では一九七三年のポンピドウー法以来、国家が貨幣創出を自ら禁止していますが、 それがフランクフルトに所在するヨーロッパ中央銀行をめぐる神話によって補強されて、
ヨーロッパはすでに死んでいる ューロは機能していない 銀行に支配されるフランス国家 2 ミご 5 オランドよ、さらはー オランドの三つの失政 政府債務は民間金融機関の発明 率先して脱税する予算担当大臣 場当たり的な「資産公開」は反民主主義的行為ーー国家と銀行の力関係 社会党の「銀行寄り路線ー ネオリべラリズムの正体・ーー銀行が国家をコントロールしている 政治家に「透明性」を求める銀行 オランド大統領は「マルク圏」の地方代表 真の権力中枢はメルケルでなくドイツ経済界 ヨーロッパとはドイツ覇権の下で定期的に自殺する大陸 ? オランド大統領にした助言
んまと成功していることが分かります。同じひとつの階級が市場と諸国家をコントロール している以上、市場と国家の間の対立にはもはや何の意味もありません。 庶民がコッコッと貯蓄しているお金に対して、あなたの言い方は軽すきますよー 私は脅かしに譲歩することを拒否します。昔、モンゴル民族は方々の町を征服しに行く とき、人質を人間の楯のように使っていました。最富裕者たちのグループは正確に同じこ とをしています。彼らの人質、それはコッコッと貯金する庶民たちなのです。 何かにつけ「金持ちのせいた ! ーというのは短絡的しゃないですか ? あなたに気に人ると人らないとにかかわらず、社会の上層部への金銭の過剰な蓄積はこ の時代の特徴の一つなのです。一般人の所得の低下ないし停滞は、最富裕一 % と、その中 でもとりわけ富裕な〇・〇一 % の所得の上昇と対になっているのです。 「一 % 対九九 % 」の格差に奉仕する国家 176
イデオロギー的に恐るべきものになってしまいました。ヨーロッパ中央銀行は、フランス という国家の手の届かないところにあると考えられているのです。 かくして毎年、フランス人は付加価値税と直接税という形で一一五〇〇億ューロを持って 行かれ、そのうちから五〇〇億近くが利子として、すでに過剰にお金を持っている人びと の手に渡るのです。そのうえその人びとの三分の二は外国人です。 なにしろこれはグロ ーバルな浮かれ騒ぎで、富裕なフランス人は最優先の待遇は受けら れないとしても、その代償として、諸国家と諸国民の服従をたらふく腹に詰め込むことが できるのです。このような現実があるのですよ。 この現実を隠す機能を果たしているのが、底知れぬ債務だの、国の破産の可能性だの、 トリプル < を失わないようにする必要性だのを振り回し、人びとを不安に陥れると同時に 好んでモラルを説くタイプの言説です。現行システムの論理的でリべラルな外観の背後で、 国家が、最富裕層の利益のために人びとから金を脅し取るマシーンになっています。 寡頭制 ( 富裕層 ) は貴族制とは異なる でも税金も、デモクラシーの大事な基礎ですよ。キリシャで見られるように、それ 182
2 ミト 72 7 7 富裕層に仕える国家 「市場」とは「最富裕層」のこと 「一 % 対九九 % 」の格差に奉仕する国家 格差拡大は倫理ではなく経済の問題ーーーピケティ学派の功績 国ごとに異なる形での寡頭支配ーー左翼が見落としているもの 政府債務は富裕層の集金マシーン 寡頭制 ( 富裕層 ) は貴族制とは異なる 需要不足を補って破綻したサププライム・ローン 金持ちたちのケインズ主義 緊縮財政は「間抜け者の保護主義」 ドイツにストップをかけるのがフランスの使命 一九三〇年代の対立が再来 政府債務は返済されなりーー紙幣を増刷するか、デフォルトを宣言するか 政府債務のデフォルトを宣言したらどうなるか ?
7 富裕層に仕える国家