ペダルの練習 オがいいでしよう。三本ありますが、 グランドピアノの真中にあるペダル ( ソステヌ 1 ト・ペダル ) は、考えに入れなくて結構 です。 もっと ペダルといい まずは、右のペダルから始めましよう。このペダルはダンパ も使用頻度の高いものです。この作用は響きが増す、ちょっとエコーがかかったような音 になるとい、つことです。 どういうふうに踏んだらいいのかは、細部にわたることか多く説明するのか難しいので る 。ダルを踏 すが、基本は、ペダルを踏んだ時の音の変化を、自分の耳で聴きながら、 っ む判断ができる耳を作っていくことです。ここで踏んだらきれいかなと感じた時に、音楽を カ に色づけするような気持ちで踏んでください。繰り返すうちに、どんな時にペダルを踏ん ア だらいいのかという判断力が備わってきます。 章 耳で聴いて踏むのが基本です。 ペダルは単に音を響かせるというだけでなく、いろいろな使い方ができます。たとえば、第 滑らかに弾く奏法であるレガートをよりきれいにしたい場合にも使います。
ああ、大いなる勘違い 。しつも ピアノを習いたいというおとなの方に初めてお会いする時、判で押したようこ、、 同じことを聞かれます。 「私、ものになるでしようか ? 」「才能があるでしようか ? 「もちろんです、ピアノを習いたいと思われること自体才能の証ですよ」 私は、そんなことどうだっていいじゃない、要はやりたいかやりたくないかでしよう、 と思いながらそう答えます。それでも、多くの方は、あなたはピアニストだから才能があ って弾けるのでしようけれど、という不信の目を向けてきます。 ほんとうにできないものに対しては、ます、興味がわかない、そんな気がおきないと思 うのです。私が車の運転免許を取ろうなんて、だいそれた考えを持たないのといっしょで す。空を飛びたいと思っても、鳥のように空を飛べるとは思わないでしよう ? だからこ そ、私は大空を自由に飛びまわる気分を、ピアノを弾くことで実現しているのですが〇 才能というものは、ピアノを弾きたいと思った瞬間に、むつくり芽を出してくるものだ と思っています。 音楽とは無縁に生きてきた仕事一筋のお父さんが、定年後に始めたピアノで開眼し、そ ・ 4
コンサ 1 トは行き置れるしかありません。まわりがどんなにしかめつ面のお客様で固め られていても、マイベースで座り、マイベ 1 スで聴いて楽しむのです。自分自身の楽しみ 方を見つけ、コンサ 1 トを暖かく作り上げていこうとすれば、その気持ちは必ず演奏家の 心に届きます。そしてなによりも、あなたにとって最高の幸せを感じられるコンサ 1 トに なるでしよう。 こどもはおとなが音楽に熱くなる姿を見て、育っ 政治家には、地盤を譲ると称して、二世、三世にあとを継がせるということも多いよう ですが、演奏家仲間には、こどもを音楽家に育てるケースはそんなに多くありません。「な んの楽器もやっていません」という家も結構あるものです。 演奏家の生活は、こどもの目から見てたいへんに映るのでしようか ? 逆にピアノの先生は、こどもにも習わせている家か多いようです。 ピアノの先生のこどもは資質にも恵まれていると感じることが多いのですが、反面、難 しい面もあります。親の方が自分の歩いてきた道と比べてしまったり、情報の海にはまり やすいため、「こ、つあらねばならない とい、つ考えに縛られてしま、つことがあるからです。
ろあるはずなのに、なんでこんなになってしまっているのか不思議でした。 おとなは「弾きたい曲を弾くのが一番」という考えが定着してきているのか、「この曲 が弾きたいーとい、つメッセージかストレ 1 トに出てくるよ、つになりました。 でも、まだ「こういうふうに弾きたいーというイメ 1 ジが聞ける機会は少ないですね。 たぶん、「間違ったことを言ったらどうしよう」という余計な思いが先に来るのかもしれ ません。そこは無邪気に、感じたままをストレートに表現してほしいと思います。それが 上手なレッスンの受け方の第一歩です。 イメ 1 ジを持っことを、あまり難しく考えなくてよいと思います。 たとえば、《エリ 1 ゼのために》を弾く時、三人ぐらい胸がときめく人のことを思い出 してみましよう。初恋の人、最愛の奥さん、憧れの女性、というふうに、だれでも三人ぐ らいは浮かぶはずです〇 《エリーゼのために》の、冒頭に何度も出てくるミレ # ミレ # ミシレドラ 5 をそれぞれの 人に当てはめて、弾いてみて下さい 初恋の人に対しては、とてもセンチメンタルな響き、奥さんに対してはやさしい響きと、・ けっして同じではないはずです。イメージによって、まったく同じメロディがまったく違 ノ 60
選曲をしてしまうと、なんだかつまらない結果につながっていくものです。 プログラムの中に「リスト / ラ・カンパネラ」とあれば、ほ 5 うと田 5 うし、ショパンの 《小大のワルツ》を猛スピードで弾けば、ひえ 5 っと思うし、べート 1 ヴェンの後期のソ ナタをバチッと決めれば、「すごい ! 」と感嘆する人がいるかもしれません。でも、それ だけ。その場限りのもので終わります。 また、「これだけ指がまわりますよ」というところを見せようとした場合、聴き手の耳 もそこに集中するため、中途半端なまわり具合だとがっかりします。「完璧に弾けますよ うに」という思いで弾けば、不思議なもので、聴き手も「完璧に弾けるだろうか」という 思いで聴いてしまいます。 も飛ひ抜けた魅力のある演奏です。技術的完成度 印象に残る演奏とは、ひと の高さではなく、 音の魅力で。それはイコールその人の魅力。響きにはその人の本質 が出るものだからなのです。 これはアマチュアの演奏に限ったことではありません。巨匠といわれる人たちの演奏が 強く印象に残るのは、達者に弾いているということではなくて、飛び抜けて魅力のあるワ ンフレ 1 ズが詰まっているからなのです。
コンサートをマイベースで楽しむ 、、 : ヾツ、の無伴奏チェロ組曲をコンサ 1 私がドイツにいた頃、ある高名なチェリストカノノ トで弾きました。曲も半ばにさしかかった頃、突然、音符を忘れてしまったらしいのです。 演奏を止めてしまいました。 私は、ええ、どうなるの ! と心臓が飛び出さんばかりに驚いたのですが、その時聞こ えてきたのがなんとある聴衆の歌声だったんです。 「 ( レの音 ) 忘れた音を正しい音程で歌って、そっと教えたんですね。 そのチェリストは、聴衆の助けで音を思い出したのか、につこり微笑むと、次のフレ 1 ズにつないでいったのです。ひとっ歯車が狂い始めると、とても悲惨な方向へいってしま うような場面でしたが、助け合うことで暖かな音楽会になっていきました。私は、こうい うコンサ 1 トの在り方もあるのかととても新鮮に感じ、なんだか幸せな気分になりました。 コンサートは、奏者ひとりが作るものではありません。聴衆のパワ 1 やエネルギ 1 を受 けて、何倍もの大きさになっていくものなのです。弾き手と聴き手がともに作り上げてい く空間なのです。 ノ 80
高齢 ( とし ) だからピアノなんて無理 ? とい、つの , もよ / ゝ言 ピアノは、こどもの時からやっていないと弾けるようにはならない、 われることのようです。私はこうした根も葉もないうわさを打ち消すためにも、の 番組△楽譜が苦手なお父さんのためのピアノ塾 > が活きた形になり、ほんとうに良かった と思っています。この番組を見て、ピアノを始められた方が意外に多かったのです。 今でもよくメールをいただくのが、静岡在住の横田さんとおっしやるある会社の現役の 会長さんなのですが、御歳、八十歳。元気なんですねえ〇 八十歳といっても、若い人たちよりもよほど元気で、エネルギッシュに仕事をこなして いらっしゃいます。なにがこんなに違うのかしら ? 食べ物のせい 横田さんは、八十歳になるまでピアノとは無縁の生活を送っていたのですが、たまたま、 夜中にトイレに起きて、なにげなくテレビをつけたら、偶然にも、再放送の ^ お父さんの ためのピアノ塾 > をやっていたんですね。へえ、こういう世界もあるのかと釘付けになっ てしまったらしいんです。それからは病みつきになり、来る日も来る日も夜中に起きては テレビを見るという毎日。そのうちにすっかり目覚めてしまいました。 放映終了と同時にピアノを購入し独学で練習を進め、ほんの数カ月で《川の流れのよう
ピアノがしゃべるってど、つい、つことなんだろ、つ 私は、自分の指に、声を出すしかけでもあるのだろうかと思わず指先を見つめたので、 先生も、つられた私も大笑いしてしまったことがありました。 先生のレッスンを受けるもっと前のこと、練習嫌いだった私は、ただ音符を追って弾い ていくことが退屈で窮屈でたまりませんでした。おまけに、学校から帰ってくると、毎日、 遊ぶ間もなくピアノに向かわされたのです。 「これは練習しながら、遊ぶしかないや」と思った私は、しゃべりながらピアノを弾く、 しゃべっているようにピアノを弾くという気分転換の方法を見つけたのです。 「ねえ、今日、滋子ちゃんがお医者さんみたいな大きなマスクをして学校へ来たのよ 5 」 なんて、適当な歌詞を編み出し、ピアノでそういうふうに聞こえるように弾いてみたりし たのです。左手にメロディが出てくるところでは、「ほう、そんなことかあったのか 5 」 なんて、あたかも父が私の話に答えるかのように弾いてみたりしました。その時々の日々 のでき事を音に重ね、自分の気持ちをそこに流しこむように弾いていました。 たとえば、 ( ソミ ) というフレ 1 ズ、「ね 5 え」って聞こえませんか ? ね ( ソ ) の音に 気持ちを込め、指先に重みを乗せて話しかけるように弾くと、そう聞こえてくるでしょ