第Ⅳ部 資源多投段階の多収稲作 ローでは湛水開始後 30 日 頃の栄養生長中期であった のに対し、コシヒカリとサ サニシキでは幼穂分化期頃 ( 湛水開始後 60 日頃 ) で あった。京都と長野では、 最高分げつ期は 3 品種とも 幼穂分化期頃であった。こ のことより、リべリナ地域 写真 10 - 5 幼穂分化期頃のアマロー ( 左 ) とササニシ で生育したアマローは旺盛 キ ( 右 ) の生育状況 な初期生育の結果、湛水開 始後 30 日頃に約 1400 本 /m2 に達しており、物理的、空間的にこれ以上の分げつ 発生が困難な状態に達していたと考えられる。一方、初期生育に劣る日本品種は、 その後 30 日ほど分げつを増やし続け、生育の遅れを回復したと考えられる。 幼穂分化期から出穂までの生育 リべリナ地域で水深 30cm 以上の深水管理が行なわれる、幼穂分化期から出穂期 にかけての生育には、明確な品種間差異が認められなかった。出穂期乾物重は 3 品 種とも、長野の約 2 倍の 20t / ha に達していた。 出穂から成熟までの生育 リべリナ地域での登熟期間の生育をみると、その乾物増加量はアマローが 3t / ha であったのに対し、コシヒカリとササニシキでは 6t/ha と、日本品種の方が約 2 倍 大きかった。成熟期には、 3 品種とも稲株がごく簡単に引き抜けるほど根が傷んで いた。京都と長野での乾物増加量は、 3 品種とも 5 ~ 6t / ha であった。登熟期間の 日射量のリべリナ地域 ( 約 950MJ / m2 ) 、京都 ( 約 600MJ / m2 ) および長野 ( 約 680MJ / m2 ) の差異を考慮すると、リべリナ地域の登熟期間の乾物生産量や日射変 換効率 ( 乾物生産量 + 受光日射量 ) はかなり小さく、「秋落ち的生育」を示してい るといえる。 出穂期における茎葉のデンプンなどの貯蔵炭水化物量は、リべリナ地域ではアマ ローで 5.5t / ha 、コシヒカリとササニシキでは 3.5t / ha と品種間差異が認められた。 一方、京都と長野では品種間差異が認められす、それぞれ 2.0t / ha と 2.2t/ha であっ ササニシキ アマロー 244
第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 なっており、通常 2 回のフラッシュ灌漑後、苗の草丈が 10 ~ 15cm に伸長するの を待って、湛水を開始していた。 ャンコとの比較のための長野と京都での栽培試験では、 1994 年 4 月 15 日に乾籾 50g を育苗箱に播種して、京都で育苗した苗を長野では 5 月 24 日に、京都では 5 月 13 日に本田に移植した。両地域とも栽植密度 222 株 /m2 (30cm x 15cm) 、 1 株 2 本植えであった。窒素施肥の時期と量は、 3 地域とも同一の基肥 40kgN / ha 、 分げつ肥 40kgN/ha 、穂肥 30kgN/ha 、実肥 20kgN/ha の 4 回、計 130kgN/ha とし、 ャンコでの基肥を除いて、全て人力で施用した。また、ヤンコでは、上記の各時期 の施肥量を 2 倍および 3 倍とした 260kgN/ha および 390kgN/ha 区も設けた。 この地域比較栽培試験 ( 大西 1995 、堀江と大西 1995 、 Horie ら 1997 ) から明ら かになった、オーストラリアの水稲多収の要因と機構について以下に述べたい。 4 ー 1 リべリナ地域におけるイネの生育相の特徴 播種から湛水開始までの生育 リべリナ地域では、コシヒカリとササニシキの日本品種は、播種から湛水開始 までの出芽、苗立ちおよびその後の生育が、アマローと比較して著しく劣った ( 図 10 ー 6 、写真 10 ー 4 ) 。湛水開始直前の茎数は、アマローで約 600 本 / m2 であっ たのに対して、コシヒカリでその 2 分の 1 の約 300 本 / m2 、ササニシキでは 3 分 の 1 の約 200 本 /m2 しかなかった。その時の葉面積および乾物重も、アマローの 3 分の 1 以下であった。同様に根の生長も貧弱で、アマローは、苗を強く引っぱっ ても抜けずに、苗がちぎれてしまうほど根張りがよく、根量も多かったのに対し、 日本品種は軽く引っぱっただけで苗が抜けてしまうほど、根張りが悪く、根量も 少なかった。このように日本品種の生育が極めて悪かったため、フラッシュ灌漑 を通常より 1 回多い 3 回行なう必要が生じた。一方、育苗箱で育てた苗を移植し た京都と長野の栽培試験では、 3 品種間の初期生育に全く差異が認められなかっ このように、リべリナ地域においてのみ認められたアマローと日本品種の間の初 期生育の大きな差異は、日本では移植を、リべリナ地域では、直播を前提にそれぞ れ水稲育種が行なわれてきたことが反映したと考えられる。すなわち、リべリナ地 域では、直播後の水ストレスと夜間の低温にさらされた条件下で育種を行なうた 0 242
第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 るものの、 3 地域間で大きな差異はない ( 0.76 ~ 0.89g / MJ ) 。しかし、水稲が生育 期間中に受光した日射量をベースに考えると、その乾物への変換効率は、長野が 1.58g / MJ と最も高く、京都で 1.31g / MJ 、そしてャンコは 1.02g / MJ と最も低く、 特に登熟初期の低下が著かった。 ャンコで、受光日射量に対する乾物変換効率が低くなった一因は、受光日射量を 確保することを最優先した栽培法が、生育後期の生産効率の低下をもたらしたこと にある。それに加えて、強い日射のもとで、群落光合成が光飽和状態になっている ことも考えられる。さらに登熟初期の低下は、長期湛水による根の機能低下と、特 にアマローで、茎葉部から穂への貯蔵炭水化物の多量の転流により、多くのエネル ギーが呼吸で失われたことによると考えられる。 以上のことからみえてきたオーストラリア稲作の高い乾物生産の要因は、極めて 大きな日射量とやや冷涼な気温のもとでの生育期間の長さにあり、生産の効率は日 本に劣ることが明らかになった。 収穫指数 収量決定の第 2 の要因である収穫指数は、 3 地域における生産効率の良否を反映 し、長野が 0.58 と最も高く、ヤンコで 0.53 そして京都が最も低い 0.52 となった。 以上のことより、オーストラリア・ヤンコでは、生産効率を犠牲にして、膨大な 日射量をできるだけ多く受光して、群落光合成を高めることを最優先することで多 収を達成している。そのため、生育初期から分げつ数や葉面積を増大させた結果、 無効分げつが多く、過繁茂状態に陥りやすいため、生育後期の受光日射量の乾物へ の変換効率と収穫指数の低下を招くことになる。 一方、長野は、栄養生長期の低温により、分げつ数や葉面積の増大が抑制された 結果、日射受光率は低くなるものの、無効分げつが少なく、過繁茂状態に陥ること がなく、生育後半の生産効率と収穫指数が高まり、多収が得られた。 京都は、全日射量が少なく、栄養生長期の高温により、分げつ数や葉面積が増 え、受光日射量は長野と同程度になるものの、無効分げつが多く過繁茂状態に陥っ たため、生育後半の生産効率が低下して低収となってしまった。これらのことがあ いまって、 3 地域で水稲収量に大きな違いをもたらしたと考えられる。 249
第 10 章 オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 ( 本 /m2) 1 , 600 10 8 1 , 200 分げつ数 △ ^ 800 400 2 0 0 (t/ha) 30 ( t/ha) 6 茎葉部 Zcoo 20 4 乾物重 △・ 10 2 0 0 50 0 ー 50 出穂後日数 ー 100 50 0 ー 100 ー 50 出穂後日数 ーアマロー ( リべリナ地域 ) ー 0 ーコシヒカリ ( 長野 ) コシヒカリ ( リべリナ地域 ) ー・一コシヒカリ ( 京都 ) 図 1 0 ー 6 リべリナ地域、長野および京都で生育したアマローとコシヒカリ の分げつ数、葉面積指数、乾物重および茎葉部非構造性炭水化物 (NSC) の推移 め、このような過酷な条件下では、日本品種のように初期生育が悪いものは真っ先 に淘汰される。こうして選抜されたアマローは、日本の水稲に比べ、生育初期の水 ストレスや低温ストレスに高い耐性をもっていることが推察された。 湛水開始から幼穂分化期までの生育 リべリナ地域における湛水開始後の両日本品種の生育は、アマローよりも旺盛 で、湛水開始までの著しい生育の差異は、幼穂分化期には消失した ( 写真 10 - 5 ) 。 そのときの地上部乾物重は 3 品種とも 6 ~ 7t / ha に達していた。この時期の乾物重 は、日本の多収地帯の 1 つである長野の 2 倍以上高かった。最高分げつ期は、アマ 245
第 9 章中国雲南省の超多収稲作 写真 9 一 5 脱穀の様子 写真 9 ー 4 収穫の様子 刈り取りは女性が行なう。いかにも多収で 収穫と同時に大きなザルの側面に穂を叩き つけることで登熟粒を落としてしていく。 ある様子が伺える。 脱穀は男性が行なう。 型機械が使われないことを除けば、日本とほば同じような管理である。肥料の分施 や中干しなどが励行されており、確固とした技術体系の下に稲作が営まれている。 聞き取り調査から、村のイネの平均収量は 13t / ha であり、冬場には有機物、家畜 の糞尿などを 30 ~ 45t / ha も投入している実態が明らかになった。水稲作付け中の 窒素施肥量は約 300kg / ha にも及び、日本の平均的な施肥量の 4 ~ 5 倍にも当たる。 有機無機を問わず大量の資源を投入しており、この村の稲作は典型的な資源多投の 多収稲作といえる。 3. 京都・雲南比較栽培試験からみた多収イネの姿と多収要因 3 ー 1 試験方法の概要 筆者らは多収イネの姿を探るために、 2003 年度に京都と雲南省の涛源村で、近 年開発された第 3 世代のハイプリッド品種で、スーパーハイプリッドと呼ばれる 「両優培九」 ( 写真 9 ー 6 ) と、日本での栽培試験で最高水準の収量をあげるとされ ている「タカナリ」に対して 280kg / ha もの多量の窒素肥料を施用して、比較栽培 試験を行なった。また、地カの比較のため、タカナリについて窒素肥料を与えない 無施肥区を両地点に設けた。施肥などの栽培管理は両地点で統一し、病害虫や雑草 217
1. アジアの最多収稲作地域としての雲南省・ 2. アジア最多収稲作の村一雲南省永勝県涛源村一 2 ー 1 雲南省の自然と稲作・・ 3 ー 1 3 ー 2 3 ー 3 3 ー 4 3 ー 5 3 ー 6 3 ー 7 3 ー 8 4 ー 1 4 ー 2 4. ハイブリッド品種の特徴と生産力 3 ー 2 多収イネの姿と生育パターン 3 ー 1 試験方法の概要・・ 3. 京都・雲南比較栽培試験からみた多収イネの姿と多収要因・ 2 ー 2 涛源村の稲作 第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 6. 環境犠牲の下での雲南省の多収稲作・ 5. 雲南省の多収要因を探る・ 大西政夫 1. ーサウスウェールズ州リべリナ地域の稲作の概要・ - コ . 2. リべリナ地域の自然条件・ 3. 水稲の栽培管理の概要・ 輪作体系の中の稲作・・ 施肥と水管理・・ 3 つの播種法・ 栽培品種・・ 水田の形状・・ 病害虫・雑草の防除・・ 水稲栽培の収益性・・ 収穫・調製・出荷 4. 10 リべリナ地域の稲作の多収機構 ーヤンコ、長野、京都での比較栽培試験から一 リべリナ地域におけるイネの生育相の特徴・・ アマローの品種特性 244 245 / 幼穂分化期から出穂までの生育 244 / 出穂から成熟までの生育 播種から湛水開始までの生育 242 / 湛水開始から幼穂分化期までの生育 2 12 214 214 214 217 217 2 18 220 22 ろ 226 228 229 252 2 ろ 5 235 2 ろう 236 2 師 2 ろ 8 2 ろ 9 259 240 241 242 24 う
第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 出穂期から登熟中期までの、茎葉部から穂への貯蔵炭水化物の転流速度は、リべ リナ地域ではアマローで約 10g / 日、コシヒカリとササニシキで約 5g/ 日、長野で はアマローで約 7g/ 日、コシヒカリとササニシキで約 5 ~ 6g/ 日、そして京都で は 3 品種とも約 4g/ 日であった。 このことから、アマローは、コシヒカリやササニシキより、出穂期に茎葉部に炭 水化物を蓄積しやすく、穂への転流量が多い特性を持っ品種であり、この特性は、 日射量 ( 乾物生産量 ) が多い場合に明確になると考えられる。 さらにリべリナ地域では、出穂後の貯蔵炭水化物の転流量が多いほど、出穂後の 乾物増加量が少なく、したがって日射変換効率の低下が大きくなることが認められ た。出穂前に葉で合成した光合成生産物を、茎 ( 葉鞘 + 稈 ) に転流させてデンプン を合成するのに要するエネルギーと、出穂後に葉で合成した光合成生産物を、秒に 転流させてデンプンを合成するのに要するエネルギーが同じと仮定した場合、出穂 後に茎 ( 葉鞘 + 稈 ) に蓄積したデンプンを解糖し、茎から穂へ転流させてデンプン を合成するのに要するエネルギーの分だけ、出穂後のエネルギー消費量が多くなる と考えられる。 上述した「乾物増加量」や「日射変換効率」は、「真の光合成量」や「真の日射 変換効率」から、転流等で消費されるエネルギーが差し引かれた結果である。リべ リナ地域での出穂後の「乾物増加量や日射変換効率の低下」は、「真の光合成量」 や「真の日射変換効率」の低下ではなく、出穂前に茎に蓄えられた極めて多量のデ ンプンの、穂への転流に要するエネルギーが極めて多いことに起因すると考えられ る。 4 ー 2 アマローの品種特性 発育特性 アマローの出穂期、成熟期は、リべリナ地域では、早生品種のコシヒカリやササ ニシキとほば同じであったが、京都や長野では遅かった ( 表 10 ー 4 ) 。これは、リ べリナ地域で湛水開始までの期間、水ストレスと夜間の低温により、コシヒカリと ササニシキの発育が遅延したことが原因と考えられる。アマローの幼穂分化期や出 穂期を、堀江ら ( 1990 ) の発育予測モデルに、中生品種の日本晴のパラメータセッ 245
中国雲南省の超多収稲作 い。前述の比較試験で用いた 「両優培九」は、 1996 年に江蘇 省農業科学院で開発されたスー パーハイプリッド品種であり、 同育種計画で最も成功した品種 の一つある。「両優培九」と日 本の多収品種である「タカナ リ」、および標準品種の「日本 晴」の生産力および生理生態の 違いについて、京都での品種比 較試験をもとに述べる。 試験は、この 3 品種を、京都 の圃場に栽植密度 222 株 / m2 、 1 株 2 本植えで移植し、窒素、 リン酸、カリ、各 140kg/ha を 分施して栽培した。まず、両優 培九は、上述の 1 穂の大きさに 加えて、稈長は中程度で、葉が 日本の品種よりも幅広で長いに もかかわらず、直立していると いう形態的特徴が見られた。ま た、両優培九は、この大きな葉 葉面積 (m2/m2) を群落上層部に多く分布させて いた ( 図 9 ー 5 ) 。 15 レ ha 以上も の多収になると、登熟期には穂 地 表 面 力、 ら の 青 さ 地 面 力、 ら の 青 さ 地 表 面 力、 ら の 高 さ (m) 1.1-1.2 1.0-1.1 0.9-1.0 0.8-0.9 0.7-0.8 0.6-0.7 0.5-0.6 0.4-0.5 0.3-0.4 0.2-0.3 0.1-02 0-0.1 第 9 章 ー茎・葉鞘 ロ穂 (a) 両優培九 300 200 100 1.1-1.2 1.0-1.1 0.9-1.0 0.8-0.9 0.7-0.8 0.6-0.7 0.5-0.6 0.4 ー 0.5 0.3 ー 0.4 0.2-0.3 0.1-0.2 0 ー 0.1 (m) 乾物重 (g/m2) (b) タカナリ ー茎・葉鞘 ロ穂 300 200 100 0 0 0 ロ葉面積 0.2 0.4 0.6 0.8 1 葉面積 (m2/m2) ロ葉面積 0.2 0.4 0.6 0.8 1 葉面積 (m2/m2) 1.1-12 1.0-1.1 0.9-1.0 0. & 0.9 0.7-0.8 0.6-0.7 0.5-0.6 0.4-0.5 0.3-0.4 02-0.3 0.1-0.2 0-0.1 (m) ー茎・葉鞘 ロ穂 乾物重 (g/m2) (c) 日本晴 200 100 300 乾物重 (g/m2) 0.2 0.4 図 9 ー 5 両優培九 (a) 、タカナリ 晴 (c) の群落構造 ロ葉面積 0.6 0.8 1 (b) 、日本 によって日射がほとんど遮られるため、群落の下層にはほとんど光が到達しない。 穂の上に多くの葉を展開させている両優培九のこの特徴は、登熟後期まで物質生産 を旺盛に行なう上で必須のものである。また、両優培九の形態的特徴として、稈が 太いことがあげられる。主茎基部の長径は両優培九で 7. lmm であったのに対し、 タカナリは 5.9mm 、日本晴は 4.4mm であった。超多収を目指すイネにとっては、 2 2 1
第 1 章イネと稲作の生産生態的特徴 4. 稲作の収量を決定する要因 本書全体を貫く中心的な課題は、アジア・アフリカのいくっかの特徴的な地域稲 作を対象に、その単位土地面積当たりのイネの生産性すなわち収量がどのような要 因に支配されているかを明らかにし、その改善の道筋を探ることにある。それにつ いて分析を進めるうえでの基盤となる、稲作の収量がどのような要因に支配され決 定されるかについての大筋をここに述べたい。 4 ー 1 収量を支配する品種と環境 イネの収量を決めるのは品種なのか環境なのか、という質問を受けることがあ る。この問いに答える意味で、筆者らがアジアの幅広い環境のもとで行なった、品 種・地域比較栽培試験の結果を基に、イネ収量の支配要因について説明しよう。 このイネ生育・収量の品種・地域比較試験は、 2001 、 2002 年の両年に、図 1 ー 9 に示すように、北は岩手県北上市 ( 北緯 39 。 ) から南はタイ国のウボンラチャタニ 市 ( 北緯 15 。 ) にいたる、気候が大きく異なる 8 地点に , 水稲 9 品種を十分な肥培 ・岩手 長 京都 島 南京 ン チ 0 0 ・ウポンラチャタニ アジアを対象にしたイネの品種・地域比較栽培試験の試験地 図 1 ー 9
第 I 部 アジア・アフリカの中のイネと稲作 ータカナリ ( 改良インディカ ) 日本晴 ( ジャポニカ ) ・ Ch86 ( 在来インディカ ) 管理のもとに栽培して行なわれ た ( 堀江ら 2003 ) 。図 1 ー 10 に、 その試験から得られた収量を、 代表的な 3 品種、すなわちイン ド型多収品種のタカナリ、日本 の標準品種の日本晴およびイン ド型の在来品種 Ch86 について、 チェンマイを除いて、収量の高 い地点順に並べて示した。全品 種混みにして最も高い収量が得 ウポン岩手長野南京島根京都雲南 られた試験地は中国の雲南省永 栽培地点 勝県涛源村 ( 北緯 26 。 ) で、試 図 1 - 10 アジアの異なる試験地における水稲品 験水田は標高約 1200m にあり、 種タカナリ ( 改良インディカ ) 、日本晴 亜熱帯の高地特有の強い日射、 ( ジャポニカ ) 、 Ch86 ( 在来インディカ ) 日較差の大きい気温に加え、堆 の籾乾物収量 ( 堀江ら 2003 より改写 ) 肥多投によって土壌も肥 沃であり、アジアでのイ ネの最多収地域 (Ying ら 1998 ) とされるとこ ろである ( 写真 1 一 6 ) 。 この試験地で、籾の乾物 重で表した収量 ( 通常の 14 % 水分で表示される玄 タカナリ 米収量とほば同等 ) はタ カナリ、日本晴、 Ch86 でそれぞれ 10.4 、 9.0 、 および 5.3t / ha であった。 写真 1 ー 6 イネ品種・地域比較栽培試験の中国雲南試験 地の栽培の様子 このように好適な環境条 標高 1200m の高地にあるこの試験地はアジアの最多収稲作地 件下では、多収品種と在 域の 1 つ。試験には中国在来のインド型品種 Ch86 、インド型 来品種とでは収量に 2 倍 多収品種タカナリなど 10 品種を供試した。 (g/m2) 1 , 200 1 , 000 800 籾収量 200 0 Ch86 7 ろ 2