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検索対象: アジア・アフリカの稲作
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1. アジア・アフリカの稲作

第 11 章滋賀県にみる日本の稲作 物群落の収量生産力の上限は、生育期間に群落に到達する日射エネルギーの積算値 によって基本的に決まる。それは第 ( 1 ) 式のように表わされる。 Ymax=HxRUExE(FXS) こで、 S は日々の日射量、 F は葉身の展開量によって決まる群落の日射受光率で ある。 RUE は、受光量 (F x S) 当たりの乾物生産量であり、群落の光合成の効 率に左右される。 H は全乾物生産量に占める収穫器官 ( 籾 ) の割合であり、 対象にしている " 好適 " 条件ではもつばら品種特性に依存している。 第 (I) 式に、滋賀県の年々の日射条件、およびこれまでの圃場試験から得た日 本晴の特性値を与えて求めた可能最大収量が、図 11 ー 1 に示されている。なお、生 育期間 (n) は各年の平均移植期、同出穂期および収穫期を参照して求めた。これ より、滋賀県における日本晴の可能最大収量は、概ね 10.5 ~ 11t / ha の水準にあっ ーーでの可能最大収量は、速やかな葉群の発達とその維持により、日々の日射 エネルギーが最大限捕捉され、群落による受光エネルギーの利用効率が高い値で維 持され、かっ光合成産物の穂への分配率も品種固有の値が維持される ( すなわち、 低下しない ) 時に得られる収量である。言うまでもなく、病害虫や低温・高温スト レスによる減収も仮定として起こらない。この水準と、既にみた試験場および農家 収量との比較から、滋賀県では、理論的に限界と考えられる収量に対して 75 % 前 後の収量が試験場での栽培試験で得られており、さらに地域の実収量は、理論限界 値の 55 ~ 60 % の水準で推移してきたと評価される。 Horie ら ( 1992 ) は、水稲生育モデル SIMRIW を国内 8 ヵ所の条件に適用して、 品種 IR36 の可能最大収量を推定し、平均して実収量の 2 倍強の値を得た。上述の 可能最大収量の推定はこれよりもやや低いが、日本晴と IR36 の特性の違いを考慮 すると、概ね妥当な範囲にあると考えられる。理論限界値の 6 割近い水準が、滋賀 県においては 1970 年代半ばに達成され、現在まで維持されてきた、あるいは今も 漸増していることが、上述の検討結果は示している。 257

2. アジア・アフリカの稲作

第 9 章中国雲南省の超多収稲作 開過程には大きな差異はなかった ことから ( 図 9 ー 9 ) 、結局、雲南 の高い乾物生産を可能にした第 1 の要因は、同地の高い日射量に基 葉 づくことがわかった。図 9 ー 8 の W と Sa の関係直線の傾きは、太 数 陽エネルギーから乾物への変換効 率 RUE を表す。生育前半の RUE には品種・環境間で大きな差異は 80 見られなかったが、生育後半には 播種後日数 京都のイネの RUE が雲南より低 図 9 ー 9 両優培九とタカナリの雲南と京都 における葉面積指数の推移 下した。その原因としては、雲南 のイネは、登熟末期まで平均して 約 2.9 % もの高い葉身窒素濃度を維持していたのに対し、京都のそれは、同期間を 平均して 2.4 % と低かったことがあげられる。雲南のイネのこの高い葉身窒素濃度 は、生育後半の高い窒素吸収 ( 図 9 ー 4 ) に支えられており、それらはさらに 30 ~ 45t/ha もの大量の有機物投入によるものと考えられる。実際、雲南の地カの高さ は、無肥料で栽培したタカナリが収量で 10.6t / ha 、窒素吸収で 122kg/ha と、極め て高い値を示したことからもわかる。京都でのそれらの値は、それぞれ 7.3t / ha 、 90kg/ha であった。 以上より、雲南省永勝県涛源村で得られた 16t/ha の超多収は、日射量が高いこ と、および有機物を多投入して窒素吸収を促進し、葉身の高い光合成を生育末期ま で維持させたことの 2 つが、主要な要因と考えられる。さらに、雲南省の夜温が低 く経過することも、呼吸ロスを抑え、高い日射変換効率に寄与したと考えられる。 これらの要因以外に、現地で稲作に従事して印象的だったのは、水温と湿度の低 さである。水温は京都よりも 2 度程度低く、湿度は京都では 80 % 前後を推移して いたのに対し、雲南では生育前半には 30 ~ 40 % 、中盤から後半も 50 ~ 70 % と低 く推移していた。これらは根の活性を生育後半まで高く維持させ、養水分の吸収や 植物体内の水循環を促進させるのに貢献したであろう。これらの点が収量性にどの ように作用しているのかは、さらなる調査・研究が待たれるところである。 ( m2/m2) 8 0.. 南南都都 雲雲京京 九リ九リ 培ナ培ナ 優カ優カ 両タ両タ 6 2 0 0 160 120 40 225

3. アジア・アフリカの稲作

第Ⅱ部粗放段階の稲作 サヘル地域の灌漑稲作 雨量が極めて少なく、乾燥気候のサヘル地域での稲作には、灌漑が不可欠であ る。スーダンサバンナ帯からサヘル気候帯に位置するセネガル、モーリタニアで、 セネガル川やガンビア川の水を利用した灌漑稲作が始まったのは、フランス植民地 時代の 1920 年頃で、西アフリカの他地域よりもずっと最近のことである。 1988 年 にセネガル川上流にマナンタリダム (Manantali dam) が完成したことによって、 下流地域に約 10 万 ha の灌漑が可能になり、ポンプ揚水による数十 ha 規模の灌漑 稲作地域が多数形成された。内陸小渓谷の稲作が食料の自給を主目的に始まったの に対し、サヘル地域のそれは商業生産指向を持って始まったといえる。そのため、 肥料、農業機械に加え、除草剤など農薬も投入する資源多投型の灌漑稲作が行なわ れている。サヘル地域で栽培されている水稲品種は、国際イネ研究所 (IRRI) 育 成の多収性インド型品種など、アジアから導入されたものが多い。セネガル川の河 ロデルタや中流域渓谷部では直播栽培が多い。 この地域は乾燥気候特有の強い日射があり、 10t / ha ないしはそれ以上の高いポ テンシャル収量が期待されるにもかかわらず、農家の実収量は平均 4 ~ 5t / ha で、 かっ変動も大きい (WARDA 2004 ) 。冷害、病虫害、劣化土壌、塩害および不適切 な栽培管理など、様々な生産阻害要因が、同地域の高いポテンシャル収量の実現を 阻んでいる。中でも冷害や高温障害など、気象災害がサヘル地域の水稲収量に大き な影響を与える。セネガルでは日平均気温が 20 ℃以下になることはほとんどない が、気温日較差が 10 ~ 20 ℃もあり、 12 月から 3 月にかけては、最低気温は 10 ℃ 近くにまで低下する。加えて、乾燥気候であるため水の蒸発速度が高くて熱が奪わ れ、日中の最高温度で比較すると、水温は気温よりも 15 ℃も低い (Dingkuhn 1992 ) 。低水温によって生育が遅れ、水稲の減数分裂期から開花期にかけての冷害 危険期に、低夜温や低水温に遭遇すると障害不稔が発生する。 4 月になると一転し て温度が上昇し、 6 月まで最高気温が 40 ℃にもなる日が続く。さらにこの地域は 11 月下旬から 3 月中旬にかけて、サハラ砂漠から土壌ダストを含んだ極度に乾燥 した北東貿易風 ( ハルマッタン ) が吹く。低水温でイネが十分に吸水できないの 、ハルマッタンが吹くと植物体から水が奪われて、上層の葉は白化して枯れる。 また出穂・開花期にハルマッタンに遭遇すると、不稔籾が発生する。これらの影響 を受けて水稲収量は大きく変動する。 156

4. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部 ジャポニカハ 6. 環境犠牲の下での雲南省の多収稲作 資源多投段階の多収稲作 江流域で大洪水のニュースがしばしば伝えられるが、この森林破壊もその原因の一 じさを示しており、今回の調査期間中にも洪水や水不足が度々発生した。近年、長 雲南省の山々が森林伐採により丸裸同然になっていることも、環境破壊のすさま 入のもとで、環境調和性が高くかつ高収量の稲作が可能であろう。 い日射エネルギーと、温暖かつ日較差の大きい気候を考えれば、より少ない資源投 のように、雲南の超多収稲作は、環境負荷の大きい稲作といえる。日本にはない高 河川・湖沼の富栄養化など水質の悪化につながっていることは想像に難くない。こ が、大部分は河川に流亡したり、脱窒により大気中に失われることになる。それが の窒素が吸収されないことになる。この一部は土壌中に蓄えられるかもしれない ha になる。イネによる窒素吸収は約 300kg / ha なので、実に 200 から 300kg/ha も の平均的な値の 0.6 % ( 村山 1982 ) を仮定すると、総投入窒素量で 480 ~ 570kg / もの化学肥料窒素を投入している点がある。これは、堆肥の窒素含有率として日本 雲南の多収要因のひとっとして、毎年 30 ~ 45t / ha もの堆肥と、平均 300kg / ha っとなっていると思われる。環境に配慮した地域資源の管理が望まれる。 FAO ( 2014 ) FAOSTAT (http://faostat.fao.org/) イプリッドライス楡雑 29 号の多収性 . 日本作物学会紀事 , 65 : 16-21. 天野高久ら ( 1996 ) 中国雲南省における水稲多収穫の実証的研究 . 第 1 報 引用文献 226 Determinants 0f grain and dry matter yields. Field Crops Res. 57 : 71-84. Ying, J. ら ( 1998 ) Comparison 0f high-yield rice ⅲ tropical and subtropical environments. I. 渡部忠世 ( 1977 ) 稲の道 . 日本放送出版協会 . rice cultivars at Yanco ⅲ Australia. Rep. SOC. Crop Sci. Breed. , Kinki, 38 : 31-33. Ohnishi, M. ら ( 1993 ) A comparison 0f the growth and yield 0f Japanese and Australian 中川原捷洋 ( 1985 ) 稲と稲作のふるさと . 古今書院 . 村山登 ( 1982 ) 収穫漸減法則の克服 . 養賢堂 . IRRI, Los Bafios, pp. 3-25. peng S. and Hardy B. (eds. ) Rice Research for F00d SecuritY and PovertY Alleviation. Horie, T. ( 2001 ) lncreasing yield potential in irrigated rice: breaking the yield barrier. ln:

5. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 雲南は気温の日較差が京都より大きかったことがわかった。一方、生育期間平均の 1 日の日射量は、雲南 17.7MJ / m2 、京都 11.3MJ / m2 で、雲南が京都よりも 56 % 高 かった。雲南の高い日射量は天野ら ( 1996 ) および Y ⅲ g ら ( 1998 ) も認めており、 イネ多収地域のひとっとして知られているオーストラリアのヤンコでの測定値 23MJ/m2 (Ohnishi ら 1993 ) には及ばないものの、日本と比べてかなり高いとい える。雲南の稲作気象の特徴は、高い日射と日較差の大きい気温にあるといえる。 雲南のこの強い日射が、イネ収量にどのような影響を与えているかを、簡単な数 式を使って調べてみよう。イネの収量 (Y) は作物が生産した地上部全乾物重 (W) の一部なので、 Y=H x w 、と表すことができる。こで H は w に占める y の割合を示し、収穫指数と呼ばれる。京都のタカナリ、両優培九の H はそれぞれ 0.57 と 0.49 であり、雲南でのそれらの値は 0.54 と 0.58 であった。両地点での H に は大きな違いはないため、雲南での両品種の平均収量 15.8t / ha と京都でのそれ 9.8t/ha との大きな収量差は、主に W の違いによることがわかる。 一般に、生育のある時点における稲体の地上部全乾物重 w は、その時点までに イネが受光した日射の積算値 (sa) に比例し、次のように表すことができる。 W=RUE x Sao ここで RUE は太陽エネルギーから乾物への変換効率である。両地 点、両品種の生育に伴う w と Sa の関係を図にプロットした ところ、図 9 ー 8 のような結果 が得られた。 両品種とも、雲南で最終乾物 重が大きいのは、イネが一生の 間に受光した日射エネルギーが 大きいためである。ある生育時 点までの日射の積算受光量 sa は、葉面積の展開パターンに支 配される日射受光率と、圃場に 到達する日射量の積で与えられ る。両品種の葉面積指数 ( 単位 土地面積あたりの葉面積 ) の展 (t/ha) 25 南南都都 雲雲京京 九リ九リ 培ナ培ナ 優カ優カ 両タ両タ 地上部乾物増加量 . ◇ ロ・ 5 0 0 500 1 , 000 積算受光日射量 (MJ/m2) 図 9 ー 8 両優培九とタカナリの、雲南と京都 における積算受光日射量と地上部乾 物増加量の関係 1 , 500 224

6. アジア・アフリカの稲作

第 2 章アジア・アフリカ稲作の多様な生産生態と課題 の登録年度が若くなるにつれて低下していることからもわかる。 日本の稲作が品質重視に向かい始めた時期はまた、人々が環境や食品の安全に目 を向け始めた時期とも重なっている。農業に関係した分野でも、農薬の使用がもた らす環境汚染問題を扱ったレイチェル・カーソン ( 1962 ) の『沈黙の春』や、有吉 佐和子 ( 1975 ) の『複合汚染』などが社会の注目を集めていた。また化学肥料の大 量使用がもたらす、河川や湖沼の富栄養化などの水系汚染も問題視された。これら を受けて資源多投型の水稲生産を見直す動きが強まり、減農薬・減化学肥料栽培な ど環境保全型稲作へと向かっていった。 この時期に開発された減化学肥料栽培技術として、施肥効率の高い肥効調節型肥 料の側条施肥技術などがある。これらの技術の普及により、窒素肥料の投入量は大 幅に削減された。これを滋賀県についてみると、 1970 年代末には県平均で 10a 当 たり約 10kg 施用されていた窒素肥料は、現在では約 7kg にまで減少し、収量を落 とすことなくコメ品質を向上させた (Horie ら 2005 ) 。また、いもち病抵抗性のコ シヒカリ BL など、病虫害に対する抵抗性品種の開発は、農薬使用量の削減に大き く貢献した。これをさらに進めて、省農薬や有機栽培稲作を行なう農家も増加し た。このように日本稲作は、それまでの資源多投栽培段階から次第に脱却し、 1980 年頃から稲作の環境影響への配慮と安全・安心で良食味など品質に重きを置いた水 稲栽培、すなわち品質・環境重視栽培段階に至った。この段階に入って、先に示し た図 2 ー 2 に見られるように、日本の平均収量の伸びは停滞した。 ②他のアジア諸国の状況 資源多投型稲作から品質・環境を重視する稲作への移行は、韓国でも認められ る。「緑の革命」期のコメ増産時代の韓国では、日本型水稲とインド型水稲を交配 育成した統一 ( トンイル ) 型と呼ばれる多収品種により収量が飛躍的に高まり、コ メの自給が達成された。しかしこのタイプの水稲は冷害に弱いことに加え食味が劣 ることから、大冷害が発生した 1980 年頃を境に次第に作られなくなり、代わって 日本型の良食味品種の栽培が中心となった。現在、全国的な良食味品種としての雲 光に加え、全羅北道の一味、京畿道の秋晴などの地方銘柄品種が高い市場評価を得 ている。これらの品種を、慣行栽培の 70 % 程度の窒素減肥栽培することも日本の 状況に似ている。 中国の現在の稲作は、増産を目的にハイプリッド品種の多肥栽培など資源多投段 7 1

7. アジア・アフリカの稲作

第 I 部アジア・アフリカの中のイネと稲作 (mm) 200 タイ国コンケン ( 1975 ~ 1988 年平均、 1 , 233mm / 年 ) 川日間の積算雨量 0 ( 時間 ) 15 14 長 12 10 9 出芽 出穂成熟 -- △ IR36 ー KDML105 △ - - △ △ - △ - - △ △ - - 込 △ - 1 / 1 2 / 1 3 / 1 4 / 1 5 / 1 6 / 1 7 / 1 8 / 1 9 / 1 10 / 1 1 レ 1 12 / 1 月日 図 1 ー 5 タイ国東北部の天水田地域のコンケン市における、雨量 とその標準偏差の季節変化 ( 上 ) および日長時間の季節変 化のもとで水稲品種 IR36 と KDML105 を異なる作期で栽培 したときの出穂日と成熟日 ( 下 ) 水稲生育予測モデル SIMRIW (Horie 1987 ) による推定値。日長感受性 の低い IR36 はいつ播種しても生育期間は変わらないのに対し、日長感 受性の高い KDML105 は 4 月から 8 月まで、いつ播種しても出穂は 10 月中旬で変わらない。 れだけ開花も遅くなる。 熱帯・亜熱帯では一般に雨期の始まりは年によって大きく変動するのに対し、そ の終わりは概して一定している。このような条件下で天水のみに依存してイネを栽 培する場合、カオドマリ 105 は水のある期間内に生育を完結させることができ、大 変好都合である。いつほう、熱帯・亜熱帯でも灌漑栽培されるイネでは、日長反応 性は無用であるだけでなく、冬 ( 乾期 ) に栽培した場合、短い日長に反応して、植 え付け直後の、イネがまだ小さいうちに花芽を分化し結実することになるので、生 2 2

8. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 ( ℃ ) 播種湛水幼穂分化出穂成熟 ↓ 浮かんでいる葉などを目印として流 れる方向を確認しようとしても、そ の動く方向は風向きによって、流れ と全く逆に動くことがある。また、 降雨が極めて少ないことにより、橋 桁の僅か 30cm ほど下のところに運 河の水位があり、初めて見た人は、 すぐに洪水になるのではと心配にな るほどである。 この地域で生じる洪水は、多量の 降雨がもたらす河川や運河の氾濫で はない。タ立のような強い降雨によ り、その降水が平坦な地形の中で、 重力に従って僅かに標高の低い所に 集まり、そこから流れ出る先がない ため、その場所で滞水するために生 10 12 3 じる洪水である。そして、土壌の透 図 10 ー 4 ャンコ農業試験場における水 水性も極めて低いため、この洪水が 稲生育期間中の気温と日射量の 推移 ( 1991 ~ 1992 年 ) 収まるまで、すなわち水が全て蒸発 するまで、待っという対応策しかな いといっても過言ではない。河川や水路が近くにない道路で、しばしば、洪水注意 という警告表示を目にした。はじめこの洪水の原因が全くわからなかったが、この 道路が周辺よりも若干低くなっており、降水が集まる場所であったことが、後に なって判明した。水稲生育期間中の平均降雨量は前述したとおり、わすか 200mm であるが、播種、苗立期にこの地の洪水の原因となる強い降雨があると、播種後の 推奨水深 10cm を大きく超えて、苗立ちが著しく低下する場合もある。 ↓ ↓ ↓ 最高 30 気温 20 10 最低 0 (MJ/m2/ 日 ) 30 日射量 10 0 4 月 2 1 254

9. アジア・アフリカの稲作

第 7 章マダガスカルの稲作生態と SRI 稲作 摘している。マダガスカルへの稲作の伝播は、その明確な場所と時期については諸 説あるものの、アジアイネが栽培されていることやその文化的類似性から、今から 1500 ~ 2000 年前に断続的に行なわれた、東南アジア島嶼部からの移住の歴史の中 でもたらされたものと推測されている。 こうした稲作伝播の背景に、各地の気候区分および居住民族の文化が重なり、現 在、マダガスカルには、地域毎に多様な稲作生態が観察される。そのうち筆者らが 主な調査対象とした中央高地の移植水稲作と東部森林地域にみられる水田と焼畑陸 稲を組み合わせた複合稲作について、以下に紹介したい。また、マダガスカルの稲 作生態については、東南アジア研究 26 巻 4 号 ( 高谷ら 1989 ) に、「マレー世界の なかのマダガスカル」と題して特集が組まれており、多くの興味深い知見を得るこ とができる。 2 ー 3 中央高地の移植水稲作 メリナ族とべツィレオ族 中央高地は、島の中央部を南北に広がる 800 ~ 1800m の高原地帯を指し、島全 体の面積の約 5 分の 1 にあたる。こでのコメ生産量はマダガスカル全体の約 5 割 を占め、同国のコメ生産 を考えるうえで最も重要 な地域である。同地域 は、年降水量が 1000 ~ 1400mm で、 11 ~ 3 月 の雨期と 4 ~ 10 月の乾 期に分けられる。その標 高を反映して、雨期の平 均気温は 19 ~ 23 ℃、乾 期の平均気温は 12 ~ 15 ℃と、年間を通して冷 涼な熱帯高地気候をも マダガスカル中央高地 写真 7 ー 1 中央高地南部 ( べツィレオ族の地域 ) にみら れる棚田風景 棚田後方の山では森林伐採が進行している様子がわかる。 17 5

10. アジア・アフリカの稲作

第 6 章 西アフリカ稲作の多様と発展 る。コートジボアール、ムペ で Africa Rice Center が行 なった作期栽培試験の収量 データを図 6 ー 6 に示した。 大気が乾燥し晴天が続く乾期 作は病虫害も少ないため、籾 収量は 3 ~ 5t/ha と高いが、 日射量が少なく病虫害も多い 雨期作の収量は 2 ~ 4t / ha で、 変動も大きい。 このように、西アフリカ内 陸小渓谷の灌漑稲作は天水田 よりも平均収量は明らかに高 く、東南アジアと較べても遜 色ないが、東アジアのそれ ( 約 6t/ha) には遠く及ばな い。しかし、他の作物栽培に 較べて、年間の生産量が安定 して高い灌漑稲作は農民に とって経済的魅力の大きな農 業であり、かなり熱心に稲作 に取り組んでいる。天水田稲 作の担い手の多くが女性であ るのに対し、灌漑稲作では男 も積極的に水田作業を行な 写真 6 ー 8 村の共同精米所 ( べナン ) (t/ha) 収 量 6 5 4 3 1 0 生 と R M 5 6 R M と ゲ ム の 7 M と ゲ ム の ーコ 8 9 10 11 12 1993 年 播種期 1 2 3 4 月 1994 年 図 6 ー 6 コートジボアール Mbéにおける水 (WARDA 1995 ) 稲品種 Bouake189 の播種期別の収量 RYMV: イネ黄斑モザイクウイルス病。 う。セリンゲ稲作区の支配人の話では、かって農民はぬかるんだ水田に入ることを 1 5 5 る。 が生まれ、またコメの流通、販売など、地域経済への大きな波及効果が生じてい 漑水稲栽培が盛んになるにつれ、耕起、田植、脱穀、精米などの各作業に請負労働 嫌がっていたが、今はナイフで脅しても誰も水田を手放さないという。さらに、灌