オーストラリア - みる会図書館


検索対象: アジア・アフリカの稲作
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1. アジア・アフリカの稲作

オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 第 10 章 長野県 松本市 オーストラリア グリフィス 11 0 -9 ~ o(—) 4 ・つ 0 ワ 0 一 1 月平均気温 三最高 ・最高 最低 最低 日平均 月平均相対湿度 日平均 最低 最低 0 (MJ/m2) 30 日平均日射量 三日平均日射量 : 婀平均降水量 日平均日射量 月平均降水量 ワ 3 11 1 上一 .0 -0 10 三月平均降水量三 0 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 月 図 10 ー 3 オーストラリアのグリフィスおよび長野県松本市の平均気 温、相対湿度および日射量 ( 1983 ~ 1991 年の月別平均値 ) る。現地のイネ研究者が、減水深は ()mm / 日と考えてよいと言うくらい透水性は 極めて低いものの、稲作により大面積で長期間湛水状態を保っため、面積 x 湛水時 間 x 透水性で表すことのできる地下浸透量は無視できす、灌漑水が土壌中の塩類を 溶出しながら地下浸透するため、後述するような地下水の水質汚染の深刻化ととも に、この地下水が地表にわき出てくる場所での塩類集積が問題となっている。 リべリナ地域の地形は平坦で、平均すれば lkm 進んで 0.5 ~ 0.75m の標高差し かない。そのため、運河の水がどちらの方向に流れているかは明確ではなく、水に 2 ろろ

2. アジア・アフリカの稲作

第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 1. ニューサウスウェールズ州リべリナ地域の稲作の概要 ニューサウスウェールズ州リべリナ地域は、マリー川とマランビッジ川に挟まれ たビクトリア州との州境に位置し、マランビッジ、コレアンバレーおよびマリーバ レーの、 3 つの灌漑地域から構成されている ( 図 10 ー l) 。オーストラリアの稲作は、 1905 年にビクトリア州に移民した、松山市の高須賀穣夫妻によって始められた。 同夫妻は、当時のオーストラリアが高価であったコメを 2 万 t 以上も輸入していた ことを知り、 1906 年にマレー川流域に土地の割り当てを受けて、日本の水稲種子 を持ち込んで、稲作を開始した。当時は灌漑設備が整っておらす、洪水や旱ばつの 被害により稲作は困難を極め、 1914 年にやっとある程度の収穫ができるように なったという記録がある (SunRice corp. )。また、この地域は真夏でも最低気温が 10 ℃を下回ることがあり、障害型冷害の発生も稲作を困難にしていた原因の一つで あったと思われる。 1920 年代に入って、大ジバイジング山脈からリべリナ地域に 至る、延べ約 1 万 km に及ぶ灌漑水路および灌漑用ダムの建設が進んだ結果、今日 の稲作地帯が形成されるに至った。 この地域の水稲栽培農家約 2500 戸が組織している水稲生産者組合会社が、水稲 の作付計画、貯蔵、乾燥、精米や出荷・販売計画までの全てを行なっている。オー ストラリア国内のコメ消費量は年 ニューサウスウェールズ州 リべリナ地域 間 30 万 t (16kg/ 人 x 1800 万人 の人口 ) と少なく、生産したコメ の 80 % 以上を 70 カ国以上に輸出 マランヒッジ 灌漑地域 し、その額は 8 億米ドルに達して いる。 マランビッジ川 この地域の水稲の収穫面積と精 ェドワード川 籾収穫量は、 1961 年には 2 万 ha 、 15 万 t であったものが、 70 年代 マリー川報 に急増し、 80 年には 12 万 ha 、 80 万 t に、 2000 年には 17 万 ha 、 図 10 ー 1 オーストラリアのリべリナ地域の地図 160 万 t に達している。しかし、 ャンコ コレアンノヾレー 灌漑地域 泌マリーノヾレー ~ も灌漑地域 229

3. アジア・アフリカの稲作

第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 まとめ が深刻化しているとともに、水田以外の場所でこの塩類が集積して塩害を引き起こ う灌漑排水により、土壌中の塩類が溶出して、地表水や地下水を汚染する水質汚染 ほば皆無の状態に陥った。さらに、この地域は塩類土壌であるため、作物栽培に伴 と生産量が 2001 年のピーク時の半分未満に激減し、特に 2008 年には 022 万 ha と いる。そのため、 2003 ~ 2012 年の 10 年連続して乾燥年が続いており、栽培面積 定され、その使用量も lha 当たり 1400 万リットル ( 1400mm ) 以下に制限されて さえ、所有水田面積の 3 分の 1 以下、旱ばっ年には、さらに厳しい作付け制限が設 この地域での最大の生産制限要因は、利用可能な水の量であり、平常年において 陥り、収穫指数が低下する生産効率の低い生育となっている。 成している。しかし、その反面、無効分げつ数が多く、生育後半には過繁茂状態に の精籾収量世界一で、 2010 年には 10.4t / ha ( 図 10 ー 2 ) という極めて高い収量を達 射量を確保するため、高密度で播種し、初期葉面積を高める栽培法 ) により、国別 の 1.4 倍 ) を最大限に利用する栽培法 ( 生育初期より受光率を高め、多くの受光日 理であっても、水さえ確保できれば、豊富な日射量 (25MJ/m2/ 日、長野県松本市 ば、栽培管理上の生産阻害要因は非常に少ない。そのため、大規模粗放的な栽培管 半乾燥気候ということもあり、病虫害の発生はほとんどなく、障害型冷害を除け このようにオーストラリアの稲作には、高い国際競争力が認められる。 ( 約 11.2 万円 / ha ) 以上であり、これはオーストラリアの他の 1 年生作物より高い。 1200 豪ドル /ha ( 約 9.6 万円 /ha) 以下と極めて低く、逆に収益は、 1400 豪ドル そして、主な管理作業を全て機械化した省力・粗放的栽培法により、生産費は 65ha 、生産量の 80 % 以上を輸出するという大規模・商業的稲作が行なわれている。 は、アジア各地域の小規模な自給的稲作とは対照的に、 1 農家当たり平均作付面積 オーストラリア唯一の稲作地帯であるニューサウスウ工ールズ州リべリナ地域で の農家において達成されている 14t / ha という高収量から考えると、 ha という水稲栽培面積を、飛躍的に拡大することは不可能である。この地の多く このため、利用可能な水の確保と水質汚染問題を解決しない限り、現在の 14 万 す。 2 5 1 この地域での

4. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部 資源多投段階の多収稲作 第 10 章 オーストラリア乾燥地の 大規模多収稲作 大西政夫 国別の水稲の精籾平均収量が世界一であり、 2006 年に 10. lt / ha 、 2010 年に 10.4t / ha (FAOSTAT) と、日本の 1.5 倍以上の多収を記録したオーストラリアで は、ニューサウスウ工ールズ州リべリナ地域の乾燥地でのみ稲作が行なわれている ( 2004 年当時 ) 。この地の稲作の最大の特徴は粗放栽培であり、世界一の収量達成 のために匠の技を駆使するようなことは一切なく、現地のイネ研究者が「農家の人 が田面水でその足を濡らすことはなく、主な作業は、田面水の水深確認と畦の穴の 修復、そして幼穂分化期から出穂期までの期間に行なう深水管理だけ」というほど である。 このような粗放栽培で世界一の多収を達成しているオーストラリア稲作の実態 は、一体どのようなものであろうか。 10t/ha を越えるような多収のイネはどのよ うな姿をしているのであろうか。そして、その多収がどのような機構に基づいてい るのであろうか これらのことを明らかにするため、 1991 ~ 1992 年にリべリナ地域にあるヤンコ 農業試験場において、水稲の日豪共同栽培試験を行なうとともに、同地域の稲作の 実態調査を行なった。この共同試験では、ヤンコ農業試験場に加え、日本の多収地 域に位置する信州大学、および平均収量地域に位置する京都大学の圃場でも、現地 の主力品種であるアマロー (Amaroo) の他に、コシヒカリとササニシキを供試し て栽培を行なった。この試験研究の成果を踏まえながら、本章では、リべリナ地域 の稲作の実態、地域比較試験から明らかとなった多収イネの姿と多収機構、および 同地域の稲作がかかえる問題について述べる。 228

5. アジア・アフリカの稲作

第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 るものの、 3 地域間で大きな差異はない ( 0.76 ~ 0.89g / MJ ) 。しかし、水稲が生育 期間中に受光した日射量をベースに考えると、その乾物への変換効率は、長野が 1.58g / MJ と最も高く、京都で 1.31g / MJ 、そしてャンコは 1.02g / MJ と最も低く、 特に登熟初期の低下が著かった。 ャンコで、受光日射量に対する乾物変換効率が低くなった一因は、受光日射量を 確保することを最優先した栽培法が、生育後期の生産効率の低下をもたらしたこと にある。それに加えて、強い日射のもとで、群落光合成が光飽和状態になっている ことも考えられる。さらに登熟初期の低下は、長期湛水による根の機能低下と、特 にアマローで、茎葉部から穂への貯蔵炭水化物の多量の転流により、多くのエネル ギーが呼吸で失われたことによると考えられる。 以上のことからみえてきたオーストラリア稲作の高い乾物生産の要因は、極めて 大きな日射量とやや冷涼な気温のもとでの生育期間の長さにあり、生産の効率は日 本に劣ることが明らかになった。 収穫指数 収量決定の第 2 の要因である収穫指数は、 3 地域における生産効率の良否を反映 し、長野が 0.58 と最も高く、ヤンコで 0.53 そして京都が最も低い 0.52 となった。 以上のことより、オーストラリア・ヤンコでは、生産効率を犠牲にして、膨大な 日射量をできるだけ多く受光して、群落光合成を高めることを最優先することで多 収を達成している。そのため、生育初期から分げつ数や葉面積を増大させた結果、 無効分げつが多く、過繁茂状態に陥りやすいため、生育後期の受光日射量の乾物へ の変換効率と収穫指数の低下を招くことになる。 一方、長野は、栄養生長期の低温により、分げつ数や葉面積の増大が抑制された 結果、日射受光率は低くなるものの、無効分げつが少なく、過繁茂状態に陥ること がなく、生育後半の生産効率と収穫指数が高まり、多収が得られた。 京都は、全日射量が少なく、栄養生長期の高温により、分げつ数や葉面積が増 え、受光日射量は長野と同程度になるものの、無効分げつが多く過繁茂状態に陥っ たため、生育後半の生産効率が低下して低収となってしまった。これらのことがあ いまって、 3 地域で水稲収量に大きな違いをもたらしたと考えられる。 249

6. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 精籾生産量の上限値は、 14 万 ha x 14t/ha # 200 万 t ということであろう。 以上の生産量を安定的に得ることは現状では不可能と考えられる。 引用文献 FAOSTAT. http:〃faostat.fao.org/ これ 堀江武・中川博視 ( 1990 ) イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究 . 第 1 報モデ ルの基本構造とパラメータ推定法および出穂予測への適用 . 日作紀 59 : 687-695 , 1990. 堀江武・大西政夫 ( 1995 ) 第 13 章海外の試作状況第 2 節オーストラリア 3. リべリナ地 域と長野県の多収と日射利用効率 . 日本作物学会北陸支部・北陸育種談話会編 . コシヒ カリ . 農文協 , 東京 , pp. 616-617. Horie, T. ら ( 1997 ) Physiological characteristics of high-yielding rice inferred from cross- location experiments. Field Crops Res. 52 : 55-67. New south Wales and Rice Research Committee ( 1984 ) , Rice Growing in New South Wales, Department of Agriculture. 大西政夫 ( 1995 ) 第 13 章海外の試作状況第 2 節オーストラリア 1. リべリナ地域の自然 条件と水稲の栽培概要 2. リべリナ地域におけるコリヒカリの生育概況 . 日本作物学会北 陸支部・北陸育種談話会編 . コシヒカリ . 農文協 , 東京 , pp. 612-616. 水稲直播研究会 ( 2012 ) 水稲湛水直播栽培の手引き , 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/ seisan/ryutu/zikamaki/z—kenkyu—kai/pdf/24chokuha. pdf SunRice Corporation. 高須賀穣ものがたり , http://www.sunricejapan.jp/takasuka.html. The Rice Marketing Board for the State of New South Wales ( 2002 ). Annual report for the year ended June 30 , 2002. 2 う 2

7. アジア・アフリカの稲作

第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 表 10 ー 3 リべリナ地域における播種法の水稲栽培概要 播種前 飛行機播種 ( 90 % ) 耕起 整地 窒素施肥 ( 基肥 ) 畦の作成・修復 湛水開始 ( 水深 10cm) 除草剤 播種 ~ 播種後 30 日頃播種 ( 24 時間浸漬後 ) ( 苗が 10 ~ 15cm 程度 に伸長するまで ) 除草剤 殺虫剤 播種後 30 日頃 ~ 幼穂 分化期 幼穂分化期 ~ 出穂期 出穂期 ~ 成熟期 湛水 ( 水深 10cm) 湛水 ( 水深 30cm 以上 ) 窒素追肥 ( 穂肥 ) 湛水 ( 水深 10cm) 湛水終了 収穫 トラクター播種 ( 4 % ) 耕起 整地 窒素施肥 ( 基肥 ) 畦の作成・修復 除草剤 播種 ( 浸漬なし ) 湛水開始 ( 水深 10cm) 除草剤 殺虫剤 湛水 ( 水深 10cm) 同左 同左 同左 同左 トラクター草生播種 ( 6 % ) 播種 ( 浸漬なし ) 窒素施肥 ( 基肥 ) フラッシュ灌漑 羊放牧 除草剤 羊放牧 畦の作成・修復 同左 同左 同左 同左 同左 除草剤 湛水開始 ( 水深 10cm) 羊放牧 フラッシュ灌漑 ( ) 内の数字は各方法で播種された面積の割合 ( 1992 年 ) 。 237 本田準備の開始時期と方法は、播種法に応じて少し異なっている。飛行機播種と 子の浸漬処理を行なわすに、播種される。 間行なった後、播種される。一方、トラクター播種とトラクター草生播種では、種 飛行機播種では、種子の浸漬 ( 吸水・催芽 ) 処理と、その水切り処理を各 24 時 酸素発生剤は使用せすに、播種量を多くするという方法が取られている。 設定が不要であり、下限値である苗立ち数 150 本 / m2 を上回ればよい。そのため、 過繁茂や倒伏がほとんど問題とならないからである。つまり、苗立ち数の上限値の る。これは、膨大な日射量と倒伏耐性の高い品種のおかげで、過剰な苗立ちによる 度の過繁茂状態に陥らせないと達成できない分げつ数を目標に栽培管理が行なわれ げつ数 1000 本 / m2 以上という、日本では超密植・超多肥栽培条件下で、水稲を極 する工夫が行なわれている。しかし、オーストラリアでは、湛水開始 30 日後の分 栽培では、酸素発生剤を使用して、出芽・苗立ち率を安定化させて播種量を少なく

8. アジア・アフリカの稲作

/ 収量性 4 ー 3 発育特性 245 / 耐倒伏性 リべリナ地域の多収要因 . 乾物生産 248 / 収穫指数 246 249 246 / 生態特性 5. オーストラリア稲作のかかえる問題 3 ー 2 生産性の向上と栽培技術および環境・・ 3 ー 1 品種の変遷および増収における貢献度・・ 3. 栽培技術の変遷と生産性・ 2. 滋賀県の稲作の生産性・ 1. 滋賀県の稲作の概要と栽培品種・ 第 11 章滋賀県にみる日本の稲作・・ 第 V 部品質・環境重視段階の稲作 まとめ・・ 6. 稲作の今後・ 5 ー 3 環境への負荷の面から・ 5 ー 2 コメの品質の面から・ 5 ー 1 水稲収量の面から・ 5. 稲作技術の到達点をどうみるカ 4. 窒素施肥技術の発展・ 6 ー 2 多様な稲作を持続させる耕地管理の確立・・ 6 ー 1 食味と多収を併せもっ品種開発と生産技術の確立・・ 目 247 白岩立彦 次 248 I I 269 268 267 266 265 264 264 262 260 2 ぅ 8 2 ぅ 8 2 う 5 2 う 4 2 う 4 2 5 1 250

9. アジア・アフリカの稲作

第 10 章 オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 ( 本 /m2) 1 , 600 10 8 1 , 200 分げつ数 △ ^ 800 400 2 0 0 (t/ha) 30 ( t/ha) 6 茎葉部 Zcoo 20 4 乾物重 △・ 10 2 0 0 50 0 ー 50 出穂後日数 ー 100 50 0 ー 100 ー 50 出穂後日数 ーアマロー ( リべリナ地域 ) ー 0 ーコシヒカリ ( 長野 ) コシヒカリ ( リべリナ地域 ) ー・一コシヒカリ ( 京都 ) 図 1 0 ー 6 リべリナ地域、長野および京都で生育したアマローとコシヒカリ の分げつ数、葉面積指数、乾物重および茎葉部非構造性炭水化物 (NSC) の推移 め、このような過酷な条件下では、日本品種のように初期生育が悪いものは真っ先 に淘汰される。こうして選抜されたアマローは、日本の水稲に比べ、生育初期の水 ストレスや低温ストレスに高い耐性をもっていることが推察された。 湛水開始から幼穂分化期までの生育 リべリナ地域における湛水開始後の両日本品種の生育は、アマローよりも旺盛 で、湛水開始までの著しい生育の差異は、幼穂分化期には消失した ( 写真 10 - 5 ) 。 そのときの地上部乾物重は 3 品種とも 6 ~ 7t / ha に達していた。この時期の乾物重 は、日本の多収地帯の 1 つである長野の 2 倍以上高かった。最高分げつ期は、アマ 245

10. アジア・アフリカの稲作

はしがき 化の促進、あるいはバイオマス・太陽光発電などのエネルギー利用などである。し かし、これらが直ちにアジア・アフリカの稲作社会の抱える問題解決につながると はとても考え難く、これらはそれぞれの地域稲作の環境と発展段階に応じて適切に 導入されていくことが重要である。農業は土地 ( 資源、環境 ) 、生物 ( 作物や家畜 ) および人間 ( 社会、経済 ) の 3 つを不可欠な構成要素として成り立っ産業もしくは 生業である。それらの総体としての地域稲作を見つめ、生産の阻害要因を抽出し、 現地に適応可能な技術・方法によってそれらを一つ一つ解決して、現状の改善を 図っていくことが重要と考える。 このような考え方のもとに、京都大学の若い研究者・大学院生達がアジア・アフ リカおよびオーストラリアの様々な稲作地域に長期滞在して、その生産基盤である 環境と生産技術の総体としての生産生態を調査し、生産性改善のための現地試験を 行なった。この調査・研究はまた、土地一生物一人間系の統合科学としての農学の 意味を自ら問い続けることでもあった。本書は、これらの調査・研究をもとに、ア ジア・アフリカの多様な地域稲作の生産生態と持続的発展のありようを、稲作の発 展段階に沿って整理して述べたものである。著者らの調査が及んだ地域は、広大な アジア・アフリカの多種・多様な稲作のほんの一部に過ぎないが、本書がアジア・ アフリカの多様な稲作の実態の理解を深め、ひいてはその持続的発展にいささかな りとも貢献できれば幸いである。 2015 年 3 月 執筆者を代表して 堀江 武