第Ⅳ部 表 10 ー 4 リべリナ地域、長野、および京都で生育した供試品種の出穂期と成熟期 資源多投段階の多収稲作 栽培地 リべリナ地域 ャンコ 農業試験場 長野県伊那地域 信州大学 農学部 京都府京都市 京都大学 農学部 アマロー ササニシキ コシヒカリ アマロー ササニシキ コシヒカリ アマロー ササニシキ コシヒカリ 品種 栽培年 1991 ~ 1992 年 1994 年 1994 年 移植日 湛水開始日 11 月 20 日 5 月 24 日 5 月 13 日 出穂期 7 月 22 日 4 日 6 日 6 日 8 月 10 日 2 月 17 日 2 月 11 日 2 月 16 日 8 月 8 月 8 月 7 月 25 日 成熟期 3 月 31 日 3 月 27 日 3 月 31 日 9 月 29 日 9 月 22 日 9 月 26 日 9 月 9 日 8 月 28 日 8 月 29 日 ト ( 感光性、感温性、基本栄養生長性等を示すパラメータ値 ) を組み込んで予測し たところ、 3 地域での発育日数をよく説明できた。アマローの発育特性は、日本晴 と類似しているとみなすことができる。 耐倒伏性 収穫直前の豪雨により、コシヒカリやササニシキでは 130kgN / ha を施用した区 で倒伏が認められたが、アマローでは 260kgN / ha を施用した区でもそれが認めら れなかったことから ( 写真 10 ー 6 ) 、アマローの耐肥性、耐倒伏性は極めて強いと いえる。 収量性 表 10 ー 5 の収量および収量構成要素をみると、 3 地域とも、アマローはコシヒカ リやササニシキより穂数が少なく、 1 穂穎花数が多かった。このことより偏穂重型 品種であるといえる。また、アマローは、日射量が多いリべリナ地域ではコシヒカ リやササニシキより精籾千粒重が 3g ほど大きくなり、中粒種であることが明確に なるが、京都や長野では、コシヒカリやササニシキとほほ同程度となってしなう。 m2 当たりの穎花数、登熟歩合および精籾収量は、 3 品種間では明暸な差異は認 められなかった。このことから、アマローの頴花生産能力、登熟能力および収量性 は、コシヒカリやササニシキと同程度であるといえる。 3 品種とも精籾収量の地域 間差異は大きく、リべリナ地域、長野、京都での 3 品種の平均収量は、それぞれ 14t/ha 、 9t/ha 、 7t/ha であった。 246
第 10 章 オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 ( 本 /m2) 1 , 600 10 8 1 , 200 分げつ数 △ ^ 800 400 2 0 0 (t/ha) 30 ( t/ha) 6 茎葉部 Zcoo 20 4 乾物重 △・ 10 2 0 0 50 0 ー 50 出穂後日数 ー 100 50 0 ー 100 ー 50 出穂後日数 ーアマロー ( リべリナ地域 ) ー 0 ーコシヒカリ ( 長野 ) コシヒカリ ( リべリナ地域 ) ー・一コシヒカリ ( 京都 ) 図 1 0 ー 6 リべリナ地域、長野および京都で生育したアマローとコシヒカリ の分げつ数、葉面積指数、乾物重および茎葉部非構造性炭水化物 (NSC) の推移 め、このような過酷な条件下では、日本品種のように初期生育が悪いものは真っ先 に淘汰される。こうして選抜されたアマローは、日本の水稲に比べ、生育初期の水 ストレスや低温ストレスに高い耐性をもっていることが推察された。 湛水開始から幼穂分化期までの生育 リべリナ地域における湛水開始後の両日本品種の生育は、アマローよりも旺盛 で、湛水開始までの著しい生育の差異は、幼穂分化期には消失した ( 写真 10 - 5 ) 。 そのときの地上部乾物重は 3 品種とも 6 ~ 7t / ha に達していた。この時期の乾物重 は、日本の多収地帯の 1 つである長野の 2 倍以上高かった。最高分げつ期は、アマ 245
オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 第 10 章 アマロー、 260kgN/ha コシヒカリ、 130kgN/ha 写真 10 ー 6 収穫直前の豪雨後のコシヒカリ ( 130kgN / ha 施用区 ) とアマロー (260kgN/ha 施用区 ) の様子 コシヒカリでは若干の倒伏が認められたが、アマローでは 2 倍施肥でも 倒伏はほとんど見られなかった ( 写真後方は別品種の別処理 ) 。 表 10 ー 5 リべリナ地域、長野、および京都で生育した供試品種の収量と収量構成要素 穎花数 登熟歩合精籾千粒重精籾収量 穂数 栽培地 (t/ha) ( g) ( x 1 開 / m2 ) ( / 穂 ) (x 1 , 网 / ) 13.4 28.5 リべリナ地域 57.0 82.8 70.6 アマロー 14.8 25.1 69.0 85.6 ササニシキ ャンコ 11.0 62.8 13.4 農業試験場 86.1 24.4 コシヒカリ 63.7 10.3 62.4 27.9 7.7 長野県伊那地域 73.3 37.7 122.5 アマロー 94.0 27.5 信州大学 ササニシキ 33.8 3.8 89.3 10.0 85.7 27.3 農学部 43.0 コシヒカリ 4.3 99.8 6.6 64.7 25.4 京都府京都市 40.4 3.4 118.4 アマロー 6.3 25.6 京都大学 38.5 64.5 ササニシキ 4.3 90.3 72 24.9 69.6 農学部 41.7 4.6 90.5 コシヒカリ ロロ 生態特性 コシヒカリやササニシキと比較して、低温、水ストレス条件下でも アマローは、 大きな初期生育を示し、日射量が多い条件下では、出穂期までに、茎葉部により多 くの炭水化物量を蓄積・貯蔵して、出穂後にそれらを穂に速やかに転流させる能力 247
第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 精籾生産量の上限値は、 14 万 ha x 14t/ha # 200 万 t ということであろう。 以上の生産量を安定的に得ることは現状では不可能と考えられる。 引用文献 FAOSTAT. http:〃faostat.fao.org/ これ 堀江武・中川博視 ( 1990 ) イネの発育過程のモデル化と予測に関する研究 . 第 1 報モデ ルの基本構造とパラメータ推定法および出穂予測への適用 . 日作紀 59 : 687-695 , 1990. 堀江武・大西政夫 ( 1995 ) 第 13 章海外の試作状況第 2 節オーストラリア 3. リべリナ地 域と長野県の多収と日射利用効率 . 日本作物学会北陸支部・北陸育種談話会編 . コシヒ カリ . 農文協 , 東京 , pp. 616-617. Horie, T. ら ( 1997 ) Physiological characteristics of high-yielding rice inferred from cross- location experiments. Field Crops Res. 52 : 55-67. New south Wales and Rice Research Committee ( 1984 ) , Rice Growing in New South Wales, Department of Agriculture. 大西政夫 ( 1995 ) 第 13 章海外の試作状況第 2 節オーストラリア 1. リべリナ地域の自然 条件と水稲の栽培概要 2. リべリナ地域におけるコリヒカリの生育概況 . 日本作物学会北 陸支部・北陸育種談話会編 . コシヒカリ . 農文協 , 東京 , pp. 612-616. 水稲直播研究会 ( 2012 ) 水稲湛水直播栽培の手引き , 農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/ seisan/ryutu/zikamaki/z—kenkyu—kai/pdf/24chokuha. pdf SunRice Corporation. 高須賀穣ものがたり , http://www.sunricejapan.jp/takasuka.html. The Rice Marketing Board for the State of New South Wales ( 2002 ). Annual report for the year ended June 30 , 2002. 2 う 2
第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 出穂期から登熟中期までの、茎葉部から穂への貯蔵炭水化物の転流速度は、リべ リナ地域ではアマローで約 10g / 日、コシヒカリとササニシキで約 5g/ 日、長野で はアマローで約 7g/ 日、コシヒカリとササニシキで約 5 ~ 6g/ 日、そして京都で は 3 品種とも約 4g/ 日であった。 このことから、アマローは、コシヒカリやササニシキより、出穂期に茎葉部に炭 水化物を蓄積しやすく、穂への転流量が多い特性を持っ品種であり、この特性は、 日射量 ( 乾物生産量 ) が多い場合に明確になると考えられる。 さらにリべリナ地域では、出穂後の貯蔵炭水化物の転流量が多いほど、出穂後の 乾物増加量が少なく、したがって日射変換効率の低下が大きくなることが認められ た。出穂前に葉で合成した光合成生産物を、茎 ( 葉鞘 + 稈 ) に転流させてデンプン を合成するのに要するエネルギーと、出穂後に葉で合成した光合成生産物を、秒に 転流させてデンプンを合成するのに要するエネルギーが同じと仮定した場合、出穂 後に茎 ( 葉鞘 + 稈 ) に蓄積したデンプンを解糖し、茎から穂へ転流させてデンプン を合成するのに要するエネルギーの分だけ、出穂後のエネルギー消費量が多くなる と考えられる。 上述した「乾物増加量」や「日射変換効率」は、「真の光合成量」や「真の日射 変換効率」から、転流等で消費されるエネルギーが差し引かれた結果である。リべ リナ地域での出穂後の「乾物増加量や日射変換効率の低下」は、「真の光合成量」 や「真の日射変換効率」の低下ではなく、出穂前に茎に蓄えられた極めて多量のデ ンプンの、穂への転流に要するエネルギーが極めて多いことに起因すると考えられ る。 4 ー 2 アマローの品種特性 発育特性 アマローの出穂期、成熟期は、リべリナ地域では、早生品種のコシヒカリやササ ニシキとほば同じであったが、京都や長野では遅かった ( 表 10 ー 4 ) 。これは、リ べリナ地域で湛水開始までの期間、水ストレスと夜間の低温により、コシヒカリと ササニシキの発育が遅延したことが原因と考えられる。アマローの幼穂分化期や出 穂期を、堀江ら ( 1990 ) の発育予測モデルに、中生品種の日本晴のパラメータセッ 245
第 11 章 滋賀県にみる日本の稲作 た。代表的な品種について日本晴を (t/ha) 0.4 100 として比較すると、神力系 ( 滋賀 神力 7 号 ) が 73 、旭系品種 ( 滋賀 20 号、同 27 号 ) が 84 、日本晴以前の耐 肥性品種 ( 金南風、マンリョウ ) が 99 となった。また、図 11 ー 2 による と、日本晴が登場したころを境に、さ らなる高収品種はほとんどみられなく なっている。すなわち、近代的育種事 業が組織されてからのおよそ 50 年間 は収量性の改良は明白であるが、その 後は実用品種の収量性はほとんど改良 されていない。これには、 1970 年代 頃から、育成目標が増収だけでなく なってきたことが反映している。 1950 年から現在までの滋賀県にお ける RDYA の経年変化を、その地域 の平均収量の変化と比較したものが図 11 ー 3A である。籾収量は、 1950 年の 42t / ha から 1975 年の 6.0 レ ha まで増加した。 そのうちの少なくとも最初の 10 年間、すなわち 1960 年代はじめ頃までは RDYA の増加と平均収量の増加がほば同調しており、この時期の増収に改良品種の導入と 普及が顕著に寄与したことが明白である。それは既に述べたように、品質に優れた 旭系品種が、より高収を得やすい耐肥性品種に急速に置き換わっていく過程であっ た。 RDYA は 1970 年代初めにピークに達し、 1950 年に比べて約 0.8 レ ha 増加した。 この時点で、平均収量の増加における寄与率は 44 % であった。 RDYA はしかし、 それ以降増加がみられなくなり、以後現在にかけてわずかではあるが減少傾向を示 すようになった。コシヒカリとキヌヒカリは現在の作付率が合計 64 % に達してい るが、両品種の DYA を式②を用いて計算すると、平均 95 となり、近年急速に 作付率を伸ばしたこれらの極良食味品種の収量性が、必すしも高くないことが、近 年の RDYA の低下の主要因になっているといえる。 0 0 0.0 0 0 0 基準品種 ( 日本晴 ) ◇滋賀神力 7 号 △旭系品種 0 改良品種 ・改良品種 ( 極良食味 ) 2000 年 1950 1975 育成 / 登録年次 図 1 1 ー 2 滋賀県で栽培されてきた水 稲品種の相対収量性 (DYA) 旭系品種は京都旭に由来する純系分離 により育成された品種群。改良品種は 交雑育種によるもの。うち、コシヒカ リ、キヌヒカリ、ハナ工チゼン、ここ ろづくしの 4 品種を極良食味として区 別した。 ー 0.4 0 △′ △ -1.2 ー 2.0 1900 1925 259
第Ⅳ部 資源多投段階の多収稲作 ローでは湛水開始後 30 日 頃の栄養生長中期であった のに対し、コシヒカリとサ サニシキでは幼穂分化期頃 ( 湛水開始後 60 日頃 ) で あった。京都と長野では、 最高分げつ期は 3 品種とも 幼穂分化期頃であった。こ のことより、リべリナ地域 写真 10 - 5 幼穂分化期頃のアマロー ( 左 ) とササニシ で生育したアマローは旺盛 キ ( 右 ) の生育状況 な初期生育の結果、湛水開 始後 30 日頃に約 1400 本 /m2 に達しており、物理的、空間的にこれ以上の分げつ 発生が困難な状態に達していたと考えられる。一方、初期生育に劣る日本品種は、 その後 30 日ほど分げつを増やし続け、生育の遅れを回復したと考えられる。 幼穂分化期から出穂までの生育 リべリナ地域で水深 30cm 以上の深水管理が行なわれる、幼穂分化期から出穂期 にかけての生育には、明確な品種間差異が認められなかった。出穂期乾物重は 3 品 種とも、長野の約 2 倍の 20t / ha に達していた。 出穂から成熟までの生育 リべリナ地域での登熟期間の生育をみると、その乾物増加量はアマローが 3t / ha であったのに対し、コシヒカリとササニシキでは 6t/ha と、日本品種の方が約 2 倍 大きかった。成熟期には、 3 品種とも稲株がごく簡単に引き抜けるほど根が傷んで いた。京都と長野での乾物増加量は、 3 品種とも 5 ~ 6t / ha であった。登熟期間の 日射量のリべリナ地域 ( 約 950MJ / m2 ) 、京都 ( 約 600MJ / m2 ) および長野 ( 約 680MJ / m2 ) の差異を考慮すると、リべリナ地域の登熟期間の乾物生産量や日射変 換効率 ( 乾物生産量 + 受光日射量 ) はかなり小さく、「秋落ち的生育」を示してい るといえる。 出穂期における茎葉のデンプンなどの貯蔵炭水化物量は、リべリナ地域ではアマ ローで 5.5t / ha 、コシヒカリとササニシキでは 3.5t / ha と品種間差異が認められた。 一方、京都と長野では品種間差異が認められす、それぞれ 2.0t / ha と 2.2t/ha であっ ササニシキ アマロー 244
第 10 章オーストラリア乾燥地の大規模多収稲作 出すだけでよい。それ以外の湛水期間中の主な作業は、水深の確認および畦にモグ ラ等の小動物が穴をあけていないかのチェックでだけである。このような短い作業 時間で、前述したような収益が水稲 1 作で得られる。 さらに、 lha 当たり、水使用量当たり、そして機械作業時間当たりの収益性で、 水稲を上回る作物は、 2 年目以降のアルファルファ草地しかない。このことから分 かるように、水稲は農家にとって最も収益性の高い重要な作物といえる。しかし、 このリべリナ地域での作物生産を制限している最大の要因は、灌漑水の不足であ る。生育期間中に必要とされる水稲の水使用量が、地域で定められた灌漑水の供給 上限値 ( lha 当たり 140 万リットル ) とほば同じであることが、水稲栽培の最大の 弱点であり、 2003 年以降、特に 2008 年、のような灌漑水不足の年には、著しい作 付制限を受けて、収穫面積と収穫量が激減する。 4. リべリナ地域の稲作の多収機構 ーヤンコ、長野、京都での比較栽培試験から一 ャンコ農業試験場で、現地の主力品種アマローと、コシヒカリ、ササニシキを用 いて行なった水稲栽培試験の栽培管理法は、施肥法を除いて、概ねリべリナ地域の 当時の慣行に従った。 1991 年 10 月 15 日に、播種密度 120kg/ha 、条間 15cm で トラクター播種、通常より 1 回多い 3 回のフラッシュ 灌漑を行なった後、 11 月 19 日に基肥をトラクター を用いて施用した ( 写真 10 ー 4 ) 。そして、 11 月 20 日より湛水を開始した。当 時のトラクター播種栽培で は、水管理はトラクター草 生播種と同様な方法で行 写真 10 ー 4 トラクター播種 ( すじ播き ) による湛水開 始直前の基肥の施用風景 241 ロー。緑色の薄い試験区がコシヒカリとササニシキ。 緑色の濃い試験区が、苗立数が多く初期生育の優れたアマ トラクターで苗を踏みつけることを全く気にしていない。
第 11 章滋賀県にみる日本の稲作 試験場収量と農家収量との隔たりについてはどうであろうか。それは様々な要因 から生じている。まず県平均単収には、イモチ病が発生しやすい中山間地や瘠薄 田、保水性が低いために雑草管理が難しい水田など、不利な条件における単収も含 まれている。また、試験場での栽培試験は当然のことながら条件を均一にして行な われるが、それは種々の管理を適時・適切に行なえることを意味する。実際の栽培 では、種子や苗の一部が、あるいは圃場のある部分が、十分とは言えない条件で生 産が行なわれることは通例である。水のかけ引き、施肥および雑草と病害虫防除の ための薬剤散布といった管理作業を、最も適切な時期と方法で実施するのも、労力 や資源に限りのある農家圃場ではままならないことが多い。それらが可能な限り克 服されてきた結果、今の単収が実現しているのである。つまり、試験場収量と農家 平均収量との隔たりがもたらされる要因は多岐にわたっており、そのギャップの縮 小が極めて緩やかに進んできたのはいわば当然であろう。 このように考えると、農家平均収量の向上は今後も緩慢なものであると推測され る。むしろ、担い手不足が問題となり一方で経営規模の大規模化が進行する中に あっては、今までのような経過をたどることは困難かもしれない。そして、これま でたどってきた推移をみる限り、栽培技術の革新のみによって、可能最大収量もし くは試験場収量との隔たりを大きく縮小する余地は少なくなってきている。 5 ー 2 コメの品質の面から 一方、品質面での稲作技術の改良では、主に品種開発・普及と収穫後調製技術の 改良が進んできた。コシヒカリ系極良食味品種が、それまでの安定多収優先の品種 に置き換わってきた経過は前述の通りである。それは RDYA 、すなわち地域の平 均単収の低下をともなったが、そのこと以上に品質が重視された。同時に、新たな 良食味品種の開発が全国的に活発に行なわれ、とくに 1980 年代以降は独自の品種 開発に取り組む道府県が増加した。流通の自由化にともなう産地間競争の激化が背 景になっているが、滋賀県も例外でなく、「秋の詩」をはじめとする県育成の良食 味品種の作付面積が増加している。さらに、国立研究機関 ( 現独立法人 ) を中心 、「コシヒカリ」の良食味性の解析をもとにして DNA マーカーが整備されつつ あり ( 竹内 201D 、今後はさまざまな遺伝的背景を持つ良食味品種の登場が期待さ れている。 265
第 1 章イネと稲作の生産生態的特徴 アを一、ゞ ' あきたこまち Jaguary IR64 アジアイネの 3 タイプ 写真 1 - 4 インド型多収水稲品種 IR64 およびジャワ型 ( 熱帯 左より右へ日本型水稲品種コシヒカリ、 ジャポニカ ) 陸稲品種 Jaguary の外観。 写真 1 ー 5 多様な米品種 ( 写真提供 : 農研機構作物研究所 ) 上段左より右へ大粒「オオチカラ」、長粒「夢十色」、「日本晴」、低アミロー ス「ミルキークイーン」、もち「マンゲッモチ」、極小粒米「つぶゆき」、極 小粒紫黒米「紫こばし」の各品種。 下段左より右へ「日本晴」、紫黒米「朝紫」、「 KasaIath 」、赤米「紅衣」、巨 大胚もち「めばえもち」、巨大胚「恋あすさ」の各品種。 2 5