稲作収量 - みる会図書館


検索対象: アジア・アフリカの稲作
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1. アジア・アフリカの稲作

第 2 章アジア・アフリカ稲作の多様な生産生態と課題 いつほうボロは、氾濫水の残り水や井戸水灌漑を用いて 12 ~ 1 月に移植し、 4 ~ 5 月に収穫される、日長反応性の低い早生の短稈品種群である。 深水稲のアマン、アウスはいすれも散播されるが、播種時の水田の水条件に応じ て、乾田散播、湛水散播および深水散播のいすれかの方法が用いられる ( 安藤 1996 ) 。乾田散播、湛水散播とも、播種前後の圃場管理は先に述べた天水田の乾田 直播栽培と同様であり、少量であるが施肥も一部で行なわれる。また、アマンとア ウスの混播栽培も行なわれている。 早生の深水稲のアウスの収穫は、 7 ~ 8 月の 50cm を超す水深の中で、イネを水 面上 5 ~ 10cm の高さで刈り取って行なわれる。アマンの収穫は水田から水が消え る 11 月末から 12 月初旬にかけて行なわれる。草丈の高いアマンは同化産物の多く が茎葉の成長に使われるため籾収量は低く、多くの場合 1.5 トン / ha 前後であるの に対し、アマン、アウスの混播栽培の合計収量は 3 トン /ha にもなる ( 安藤 1996 ) 。アマン、アウスに加え、水条件に恵まれた圃場では、アマン収穫後に雨期 の残り水を利用したポロイネや野菜、豆類などの栽培を行なうのが伝統的な作付体 系であった。 ④変容したべンガルデルタの稲作 ところが、人口が増加した 1980 年ごろから、井戸水のポンプ灌漑による近代的 多収ポロ品種の乾期移植栽培が急速に拡大した。この場合、 110kg/ha もの化学肥 料に加え農薬も施用され、 5t/ha を超す高い収量が得られるようになってきてい る。その結果、現在、深水の中での収穫など、多労の割には収量の低いアウス栽培 は激減し、雨期の深水稲アマンと乾期の近代的多収品種の灌漑移植栽培の 2 期作 が、べンガルデルタの深水稲作地域の主要な作付体系となっており、そのため耕地 利用率は 175 % にも達している (IRR12002)0 深水稲作は大量の水が運んでくる栄養分や粘上に依存した稲作であり、生産性は 低いが持続性の高いものである。しかし、今日のべンガルデルタの稲作は集約的な 土地利用に加え、稲わらも燃料として持ち出されるなど資源収奪的であり、また 1 年を通して水田にイネが存在するため、病害虫や雑草の害が問題になってくる。さ らに、地下水を汲み上げて行なうポロイネの灌漑栽培の拡大につれて地下水位が低 下し、井戸を深くしなければならないことに加えて、塩害の発生などの問題に直面 する地域も生じてきている。人口増加が著しいべンガルデルタ地域では、高い食料 61

2. アジア・アフリカの稲作

第 9 章中国雲南省の超多収稲作 写真 9 一 5 脱穀の様子 写真 9 ー 4 収穫の様子 刈り取りは女性が行なう。いかにも多収で 収穫と同時に大きなザルの側面に穂を叩き つけることで登熟粒を落としてしていく。 ある様子が伺える。 脱穀は男性が行なう。 型機械が使われないことを除けば、日本とほば同じような管理である。肥料の分施 や中干しなどが励行されており、確固とした技術体系の下に稲作が営まれている。 聞き取り調査から、村のイネの平均収量は 13t / ha であり、冬場には有機物、家畜 の糞尿などを 30 ~ 45t / ha も投入している実態が明らかになった。水稲作付け中の 窒素施肥量は約 300kg / ha にも及び、日本の平均的な施肥量の 4 ~ 5 倍にも当たる。 有機無機を問わず大量の資源を投入しており、この村の稲作は典型的な資源多投の 多収稲作といえる。 3. 京都・雲南比較栽培試験からみた多収イネの姿と多収要因 3 ー 1 試験方法の概要 筆者らは多収イネの姿を探るために、 2003 年度に京都と雲南省の涛源村で、近 年開発された第 3 世代のハイプリッド品種で、スーパーハイプリッドと呼ばれる 「両優培九」 ( 写真 9 ー 6 ) と、日本での栽培試験で最高水準の収量をあげるとされ ている「タカナリ」に対して 280kg / ha もの多量の窒素肥料を施用して、比較栽培 試験を行なった。また、地カの比較のため、タカナリについて窒素肥料を与えない 無施肥区を両地点に設けた。施肥などの栽培管理は両地点で統一し、病害虫や雑草 217

3. アジア・アフリカの稲作

第 6 章西アフリカ稲作の多様と発展 なく、耕作をするにあたり、手みやげを持って地主にあいさつに行く程度のもので あるという。水田の耕作権は、母親が年老いた場合、長女に譲られる。 耕起は、雨期の始まりの土壌が湿り始めたときに行なわれる。この作業は柄の短 いアフリカ鍬 ( ダバ ) を用いて、女性たちによって行なわれるが、相当の重労働で ある。次の雨を待ってイネ種子を播種する。施肥はほとんど行なわれない。本格的 な雨期の到来とともに、集水域から水田に水が流れ込み、滞水するようになる。小 渓谷は谷奥から出口に向けて緩やかな傾斜があり、また谷の両側面から中央部にか けても傾斜している。そのため、稲作の行なわれる低地の水環境は、地面が露出す るところもあれば、イネが水没するところもあるといった具合に、極めて不均一で ある。さらに谷奥部は傾斜が大きく幅が狭いので、水の流れが速く、出口部はその 逆で、水の流れは遅いことになる。その結果、谷奥部で土壌が侵食され、出口部で それが蓄積されることとなり、土壌肥沃度は上流部で低く、下流部で高い ( 若槻 1990 ) ことになる。 イネの生育期間中の主要な作業は除草であり、手取り除草が 2 ~ 3 回行なわれる。 収穫は穂刈りで、残った茎葉は牛の飼料として利用される。収穫した穂は、陸稲の 場合と同様に脱穀・調製されるが、この過程で品質低下を招くことが多い。イネは 栄養分の乏しい土壌条件下で旱ばつや病害虫にさらされて育つので、この村の水田 稲作の収量は低く、 1 ~ 2t/ha 程度と推定される。収穫したコメは自家消費もされ るが、町で売ることにより女性達の重要な収入源となる。 天水低地水稲栽培では、地下水に溶けて浸出してくる 2 価鉄の過剰害 ( プロンジ ング ) を防ぐため、水田に畝を立てて土を酸化状態にし、イネを移植栽培すること もギニアやギニア・ビサウなどで行なわれている。この鉄過剰害の危険度は、西ア フリカの低地稲作の 60 % にも及ぶ (WARDA 2002 ) とされる重要な収量制限要因 である。鉄過剰害は土壌栄養素、特にカリウムの欠乏により助長され、その施肥に よって被害が軽減されるとする報告 (Yamauchi 1992 ) もある。なお、水利条件に 恵まれない内陸小渓谷では、稲単作であるが、水利に恵まれる地域では稲作の残り 水を利用して、オクラなど野菜の裏作も行なわれる。 このように西アフリカ内陸小渓谷の天水低地水稲栽培は、栄養分に乏しい土壌と 不安定な水環境の下で営まれており、収量は著しく低くかっ不安定である。加え て、水はかけ流しに近い状態であるため、水田のもっ養分蓄積機能が発揮されない

4. アジア・アフリカの稲作

第 3 章ラオス北部の焼畑稲作ーその現状と改善に向けた試みー た作付体系の生産性のさらなる改善に寄与する可能性があると思われる。 このような生産技術を導入したとしても、土地利用の集約化がイネ収量減少を引 き起こしている現状では、イネ収量の増加と休閑作物の収穫物はさらなる土壌養分 の収奪をもたらし、土壌劣化につながる。外部からの堆肥などの有機物投入による 土壌改善が望めないのならば、持続性の観点から、やはり、休閑期間を増加させる ことが必要である。これまで休閑期間はイネ生産性と焼畑システムの持続性に関連 させて述べてきたが、休閑期間中の土地は、焼畑農民にとって森林産物を採取する ことができる場所である。これが農民の現金収入源や食料の一部となり、焼畑農民 の生活には欠かせない。このように休閑期間は、焼畑システムにおいて非常に重要 であり、それを長く維持することが自然と焼畑農民が共存できる唯一の方法なのか もしれない。 著者らが提示した焼畑稲作の改善技術を適用し、イネ生産性を高めることによっ て、農民は現行のシステムよりも少ない作付面積、少ない労働投入で既存のシステ ムと同程度のコメ生産量をあげることが可能となる。すると、余分な土地は休閑地 に回すことができ、休閑年数を増加させることができる。これはイネ収量の増加、 雑草発生の減少につながる。また、その休閑地に休閑作物を栽培したり、あるい は、自然休閑のもとで森林産物を採取することによって、食料、現金収入または家 畜の飼料を得ることが可能となる。その結果生じた労働余力は、他の農業活動や非 農業活動に当てることができる。 このように改善することで、人口増加・政府による土地利用の制限→休閑期間の 減少→イネ収量減少→作付面積の拡大→休閑期間のさらなる減少→イネ収量のさら なる減少という悪循環を断ち切ることができると考えられる。仮に収量が 2 倍にな れば、半分の労働力、半分の面積で、今までと同等の生産量が得られる。 lha の畑 を 3 枚もっている農民ならば、 1 年作付けで 2 年休閑だったものが、毎年半分の土 地しかイネ作付けに当てなくてすむことから、休閑年数は 5 年になる。さらに、 の条件でイネを 2 年連作すれば、休閑年数を 10 年にすることが可能となる。この ように、イネ作付け時には土地を集約的に管理し、長い休閑期間中には粗放的に管 理するような、メリハリの利いた焼畑システムが、環境を保全しながら、農民が持 続的に生産活動を営んでいくための方法ではないかと考える。 これまで環境負荷を減らし、焼畑陸稲栽培の生産性を改善する作付体系について 99

5. アジア・アフリカの稲作

第 I 部 アジア・アフリカの中のイネと稲作 SRI は、人力のみで 25 ~ 40cm もの深耕、有機物の多 投および極めて均平度の高い 代掻きを行なった水田に、播 種後 15 日以内の乳苗を m2 当たり 16 株、 1 株 1 本の疎 植で丁寧に手植えし、以後、 間断灌漑をしながら 3 ~ 4 回 の手取り除草を行なう稲作技 術である。マダガスカルの 写真 2 - 8 SRI 稲作の田植え ( インドネシア、ジャ SRI 稲作については本書の第 ワ島、佐藤周一氏提供 ) 7 章に紹介するように、その 実践農家は周囲の慣行栽培農家よりも 2 ~ 3 倍も高い収量を得ていた。この SRI 稲作は、途上国の資源不足を労働力で補う稲作と捉えることができる。 SRI は現在 アジア・アフリカの途上国に普及しつつあり、その動向が注目される ( 写真 2 -8 ) 。 以上のようにアジア・アフリカの途上国稲作は人口密度の高まりとともに集約の 度を強めてきた。ただし、食糧自給というより商業生産を目的に、アジアよりも ずっと遅れて稲作が始まったアメリカや、本書の第 10 章で説明されるオーストラ リアの稲作の発展過程は、この図式には当てはまらす、そこでは集約栽培段階を経 ることなく、次に述べる資源多投型の稲作が行なわれている。 資源多投段階 ( 緑の革命段階 ) わが国の戦後の食糧難が続く中で、半矮性多収結種を化学肥料、農薬の多投のも とで灌漑栽培する「緑の革命」のイネ生産技術力世界に先駆けて確立され、約 20 年の短期間の内に水稲収量を 50 % も高めたことはすでに述べた。この「緑の革命」 の生産技術は、大量の化石エネルギーを用いて合成される化学肥料や農薬の多投に 支えられた技術であり、資源多投型稲作技術といえる。日本稲作の「緑の革命」期 はまた日本の工業化の進展期と重なっており、発展しつつある工業は農村から大量 の労働力を必要としていた。そのため、それまでの極めて労働集約的な稲作からよ り労働生産性の高い稲作へと、その省力化が求められる時期でもあった。かさばる 堆肥から容量の小さい化学肥料へ、そしてつらい人力除草から除草剤への転換はそ ロゞ 68

6. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 質を調査し、精籾の単価を決定する。その単価と出荷量をもとに、農家へ代金が支 払われる。その代金の一部 ( 2005 ~ 2006 年用 NSW 州の農家向け栽培経営計画書 によると、収入見込額の 2 % と考えられる ) は、水稲栽培農家の収入増加のため稲 作研究の資金として水稲生産者組合会社にストックされ、研究者がその資金に応募 して研究費を得る仕組みがある。この研究費の助成を受けた研究者は、水稲栽培農 家に対して、研究内容、実施状況および成果を説明する義務があり、この説明会に は 200 ~ 300km もの遠方から農業者が出席することもごく普通である。 3 ー 8 水稲栽培の収益性 オーストラリア稲作の収益性は、米価の国際価格変動の影響を受けて大きく変動 するものの、 2004 ~ 2005 年の水稲栽培における NSW 州の農家向け栽培経営計画 書 ( マランビッジ灌漑地域用 ) によれば、およそ次のようである。 まず、粗収入は、中粒種で収量 10t / ha x 米価 260 豪ドル / t ( 玄米 60kg で約 1560 円 ) = 2600 豪ドル /ha ( 約 20.8 万円 /ha) 、長粒種で収量 9t/ha x 米価 300 豪 ドル /t ( 玄米 60kg で約 1800 円 ) = 2700 豪ドル /ha ( 約 21.6 万円 /ha) が標準と なっている。一方、生産費 ( 減価償却費を除く ) は、播種法によって異なるもの、 900 ~ 1200 豪ドル /ha ( 約 72 万 ~ 9.6 万円 /ha) ときわめて少ない。これをもと に計算すると、水稲 lha 当たりの収益 ( 粗収入一生産費 ) は 1400 ~ 1670 豪ドル ( 約 11.2 万円 ~ 13.4 万円 / ha ) となる。これは、他の 1 年生作物より大きい。中粒 種を飛行機播種法で栽培した場合の農家の収益を試算すると、 65ha ( 平均作付面 積 ) x 1400 豪ドル寺 9 万豪ドル ( 約 720 万円 ) となる。 生産費の内訳をみると、 3 播種法とも、灌漑水費が 350 豪ドル / ha ( 約 2.8 万円 / (a) 前後と高く、全体の 30 % 以上を占めている。次いで収穫 + 運搬費用、肥料費、 除草費用の順となり、これらを合わせると 90 % 以上となる。水稲 lha 当たりの機 械作業の総時間数は 0.75 ~ 1.73 時間と極端に少なく、これは他の 1 年生作物の半 分以下である。機械作業時間を単純に全労働時間とは考えられないものの、現地の イネ研究者が「農家の人が田面水でその足を濡らすことはない」というくらい省力 栽培であることは事実である。すなわち、田面水のない湛水開始前の水田準備と、 湛水終了後の収穫作業では農家の人は水田内に入るが、田面水のある湛水開始後の 播種、施肥時には、農家の人は畦に立って飛行機のパイロットに散布水田の指示を 240

7. アジア・アフリカの稲作

利用の変化 180 2 ー 5 コメ増産と森林保全の両立に向けて・ 3. マダガスカルの水稲生産性の制限要因と改善への期待・ 3 ー 1 イネの収量および生産量の推移・・ 3 ー 2 貧栄養土壌のもとでの低投入栽培・・ 3 ー 3 水田の水利条件と作付品種・ 3 ー 4 イネ収量の改善に向けた期待・・ 4 ー 1 4 ー 2 4 ー 3 4 ー 4 4. マダガスカルの SRI 稲作 SRI の多収機構 - 日本の篤農稲作技術との類似性一 マダガスカルにおける SRI 実践農家の収量性・・ マダガスカルにおける SRI 実践農家の栽培技術・・ 第 8 章 SRI は途上国の稲作発展の鍵となり得るか 中国四川省の集約的な土地利用と稲作 目 稲村達也 1. 社会主義下での自由経済体制と農業生産 1 ー 1 人民公社の解体と農家請負制・・ 1 ー 2 分権化による小規模農家の誕生・・ 1 ー 3 中国特有の地域農業経営ー双層経営体制ー 1 ー 4 分権化と市場化による食糧生産性の向上 3 ー 4 水稲収量に対する土壌窒素無機化量と前作作物残渣の影響・・ 3 ー 3 土地利用と土壌の理化学性・・ 3 ー 2 水稲と野菜作における施肥管理と収穫量・・ 3 ー 1 農業経営の概要・・ 3. 攀枝花市における地域農業システム・ 2. 農村調査の概要・ 4. 食糧生産の持続性と安定性・ 第 9 章 第Ⅳ部資源多投段階の多収稲作 中国雲南省の超多収稲作 桂 圭佑 次 182 18 ろ 18 ろ 184 185 186 188 9 2 12 208 206 205 205 202 202 201 2 〇 0 2 〇 0 199 199 198 197 194 192 190 188

8. アジア・アフリカの稲作

第 1 章イネと稲作の生産生態的特徴 3. 水田稲作は最も優れた作物生産システム 3 ー 1 高い生産性と安定性 田に水を張ってイネを栽培する灌漑水田稲作は、人類がこれまでに創出した作物 生産システムの中で最も持続性と安定性が高く、かっ生産性の高いシステムであ る。そのことは図 1 ー 7 に示した、世界の異なる国・地域における最近の 20 年間の 主要作物の収量の推移からも読み取れる。すなわち日本、中国および西アフリカの それぞれにおいて、イネは収量が最も高く、また収量の年次トレンドに対する変動 係数が小さい作物となっている。 イネよりも高い効率で光合成を行なう装置 ( C4 光合成回路 ) を備え、高い生長 速度をもっトウモロコシを灌漑栽培するアメリカでは、イネは収量ではトウモロコ シに若干劣るものの、収量の変動係数はトウモロコシの 2 分の 1 以下であって、安 定性において優れている。これは、水田に水をたたえてイネを栽培する灌漑水田稲 作では、旱ばつによる収量低下がないことに加え、水によって雑草や土壌病原菌の 発生を抑制することができるからである。トウモロコシやダイズを除草しないで栽 培した場合、収穫皆無に近い雑草害をうけるが、水田稲作では、無除草でも収量減 は多くの場合 30 ~ 40 % にとどまる (Mercado 1979 ) 。その理由は、畑では C4 光 合成回路をもつメヒシバ、オヒシバ、チガヤ、アカザなど生育が極めて旺盛な雑草 が繁茂するが、 C4 光合成回路をもっこれら強害草は、ヒ工などごく一部を除き、 水を張った水田では生きられないためである。水田稲作の収量とその安定性が高い のは、水田のもっこの優れた特性によるものである。 3 ー 2 高い生産持続性 水田稲作は短期的な収量変動が小さいばかりではなく、長期にわたる生産の持続 性に優れた生産システムでもある。すなわち、コムギやトウモロコシなどの畑作で は、毎年同じ作物を連作すると年とともに収量は次第に低下し、ついには収穫皆無 に近い減収を招き、いわゆる連作障害が発生する。連作障害はその作物に特異的な 線虫や病原菌など有害微生物の増加、特定の土壌養分の減少、あるいは作物から分 27

9. アジア・アフリカの稲作

第Ⅳ部 2003 ~ 2012 年の 10 年間、連続して収穫面積と収穫量の激減 ( 図 10 ー 2 ) してい 5. オーストラリア稲作のかかえる問題 資源多投段階の多収稲作 250 という水稲栽培面積を、飛躍的に拡大することは不可能である。 しているものの、灌漑水の確保と水質汚染問題を解決しない限り、現在の 14 万 ha 放的な水稲栽培で、 14 レ ha という世界最高レベルの精籾収量を多くの農家が達成 これらのことから、リべリナ地域では、技術と労力をあまり投入しない大規模粗 する要因となる。 約がなくなったとしても、この塩類溶出による水質問題や塩害が、水稲生産を制限 民との軋轢が高まってきている。仮に上述したダム建設等により、灌漑水による制 塩類が集積する。近年、この塩類による水質汚染が深刻化し、下流のアデレード市 るため、地下水汚染を引き起こす。そして、この地下水が地表に出てくる場所で、 地下浸透量は無視できない。この浸透水が土壌中の塩類を溶出しながら地下浸透す 大面積で長期間湛水状態を保っため、面積 x 湛水時間 x 透水性で表すことのできる 表水だけでなく地下水も汚染する。土壌の透水性は極めて低いものの、稲作により 作では塩類集積による塩害はほとんど生じない。しかし、この溶出した塩類は、地 湛水栽培を行なう水稲は、この塩類を多量の灌漑水で溶解して押し流すため、稲 り、土壌中の塩類が溶出して集積するという問題を抱えている。 さらに、この地域の土壌は塩類土壌であるため、作物栽培に伴う灌漑排水によ か道はない。 山脈における集水域を広げるダムを多数建設して、貯水量を飛躍的に増加させるし そのため、リべリナ地域での水稲生産を現在以上に拡大するには、大ジバイジング して、年次変動が大きい大シバイジング山脈の冬期の降雨・降雪量に頼っている。 により収量皆無となる。この深水管理を含むほばすべての灌漑水は、貯水ダムを介 ては必要不可欠な栽培技術であり、これが行なえないと、最悪の場合、障害型冷害 に多量に必要となる水量には遠く及ばない。深水管理は、この地の水稲栽培にとっ に障害型冷害回避のために、幼穂分化期から出穂期にかけて行なう深水管理のため ある。この地域の水稲生育期間中の降水量は、わずか 200mm 程度であるため、特 ることが示すように、この地の水稲生産を制限している最大の要因は灌漑水不足で

10. アジア・アフリカの稲作

西アフリカ稲作の多様と発展 図 6 ー 7 は、セネガル海岸部 のンジャイ (N'diaye) にある Africa Rice Center の試験地 で、 1991 ~ 1993 年にわたって、 水稲品種 IR64 を毎月播種して 栽培した時の収量を示したもの である。収量は播種時期により 大きく変動するが、特に 8 月か ら 11 月に播種したイネは、低 温期に冷害危険期をむかえるの で、収量は激減する。イネ栽培 が適期をのがしたり、低水温の 影響を受けて生育が遅れたりし て、イネの生殖生長期が 12 ~ (t/ha) 収 9 8 7 6 5 3 2 1 0 2 図 6 ー 7 4 第 6 章 6 8 10 12 2 4 1991 年 播種日 6 8 10 12 月 1992 年 セネガル N'diaye の灌漑水田におけ 化 (WARDA 1994 より作図 ) る水稲 IR64 の収量の播種日に伴う変 3 月の低温期にすれ込んで低温害を被ることも少なくない。 さらに、資源収奪的稲作による地カの低下や、海岸部では塩害の発生なども問題 になってきている (WARDA 2004 ) 。加えて、稲黄斑モザイクウイルス (RYMV) やイモチ病など病虫害も生産の大きな不安定要因となっている。これらが原因し て、灌漑、肥料投入、機械利用などの資金投入に見合うコメ生産量が得られず、赤 字経営になる稲作農家が少なくない (WARDA 2004 ) 。病虫害抵抗性を持っ適品種 の適作期栽培、有機物投入などの土地資源管理が、サヘル地域の灌漑稲作の安定化 と持続的発展に求められる。 4. 西アフリカ稲作の内発的発展と課題 以上に概説した天水陸稲栽培、天水低地水稲栽培および灌漑水稲栽培についての 稲作生態を踏まえ、また西アフリカでの稲作開発研究の動向にも目を及ばしつつ、 西アフリカ稲作の内発的な発展方向とそれに必要な条件について考えてみたい。 157