第 2 章シャルリ かくして残る部分が中産階級で、生産年齢人口の四二 % だということになる。これが、一七 % に 相当する上流中産階級 ( 管理職および知的上級職 ) と、一一五 % に相当する下流中産階級 ( 中間職 ) に分かれる。この両階層を相対的に位置づけるには ( 中等教育以上の教員と小学校・幼稚園の教員 の間の差、上級技師 ( エンジニア ) と技術者 ( テクニシアン ) の間の差をイメージするとよい。以 かたまり 上の描写から分かることの第一は、フランスでは中産階級が人口の大きな塊を成していて、たしか に庶民層の塊よりは小さいけれども、それでも庶民層が全体の五七 % であるのに対して四二 % なの だから、ほば同等のサイズを持っているということである。このことから、より高い教育水準と所 得を併せ持っこの中産階級がどのようにしてイデオロギー・システムを掌握するかが見えてくる。 もう一つ分かることがあって、こちらも、いま述べたことに劣らす重要だ。すなわち、もし上流 中産階級が上の一 % と、下の五七 % に睨みを効かせようとするならば、中間職の層を掌握しなけれ ばならないということである一実際、マーストリヒト条約批准国民投票の時期以来すっと、イデオ ロギー闘争で争われてきたのは下流中産階級のイデオロギー的方向づけである。庶民層はといえば、 上流中産階級の引力が働く場から離れてしまってすでに久しいので、もはや上流中産階級が改めて 庶民層を引きつけることはできないように思われる。社会的勢力のバランスを考える際には、職業 、生活をリタイアした年金生活者が一五歳以上の人口の三一一 % を占めていること、そして高校生や大 学生や専門学校生が八 % いることも忘れないようにしよう。 119
行列の規模から見て、その点に関するメディアの誇張を差し引くとしても、これまたどんな 疑問の余地もなしに、上流中産階級が都市社会構造の中でより下位に属する大勢の人びとの牽 引に成功したことが確認できる。「管理職および知的上級職」は、フランスの生産年齢人口の 一七 % しか占めていない 主要都市だけを見ても、パリ で二八 % 、トウールーズで二四 % リョンやリールで二〇 % 、レンヌやマルセイユで一九 % 、ポルドーで一八 % 全国で確認 されたほどの数の群衆を「管理職および知的上級職」に限って集めるには、あちこちで一〇 〇 % 超のデモ参加率が記録されなければならなかっただろう。たしかに、当初のアプローチと しては、上流中産階級の並外れて高いデモ参加率という仮説を、彼らがまったく良かれと思っ てマーストリヒト条約に賛同した頃には存在していなかった不安と極度の昂奮の表れなのかも しれない という意味で、一応受け人れてみなけれはなるまい。しかし、フランス社会の上位層 があの一月一一日に何よりも鮮明に証明したのは、下流中産階級の広範な人口層、すなわち国 立統計経済研究所の職能別カテゴリ ー一覧の中の「中間職」に相当し、具体的 には、都市圏の中心で働くいくつかのタイプの一般社員・職員である人口層を自分たちの世界 観の中に引き連れていく能力だ。大学生たちについては、二〇〇五年の国民投票の分析の際に 当時彼らがヨーロッパ主義の影響下にとどまっていたことはすでに確認したが、おそらく現在 彼らはネオ共和主義で、社会で富を享受している階層に今なお自己同一化している。だが、現 在学生である彼らのうちの大半は、現実には将来もその階層には属し得ないだろう。 128
うに、教育の新たな階層化が不平等主義的逸脱の動因となる。かって、共産主義の労働者は、 全員が識字化された社会のただ中にあって、社会構造の上の方へと目を向けていた。彼の照準 線の先には少数者たちの上級階層があって、彼は上級階層の文化教養を承認するとともに、そ の経済的特権には異議を申し立てていた。彼は将来へ向かって歩んでいたのだ。今日、の 選挙民の目に映るのは、学歴を背景にして自分の上にのしかかるように存在する圧倒的に分厚 い中産階級だ。彼はもはや自ら中産階級のステイタスに到ることを夢見ない。何よりも沈没を 恐れる気持ちから、彼は下の方に目をやる。に、一「ル、て應 .2 移民の方へと転じてしまう。 このように、教育の推移によって起こった平等の理想のぐらっきは、フランス国民の心臓部 に、特にその衆のに影響を及ほした。しかし、 =z と平等主義的な人類学的素地の間に、 政治的な言葉で ち弱まるどころか、むしろ強まる一方の繋がりがあることを忘れてはならない。 人これを言い直せば、のリーダーたちが自分たちの党を共和主義だと言っているのは必すし ンも完全な筋違いではないということになる。ロベスピエールのあの反イギリス的な暴言が思い フ出させてくれたように、共和主義的普遍主義は具体的な外国人に対して常に友好的とはかぎら 、よ、 0 極 平等の価値から日々遠ざかっていくこのフランスで、今日こうして誰もが自分のことを共和 章 主義者だと主張している。こうなると、もっと精確な用語法を提示せざるを得ない。私はすで 第 に「ネオ共和主義ーという言葉を、 ( 共和主義を標榜する政党で構成されている ) フランスの 201
れ、健康の領域におけるフランスの抜群の成績を説明する。だが、長い期間にわたって構造的 に、生活を破壊する失業の率が一〇 % を超えるような経済運営をしている国家を、本当に「社 会的と形容することなどできるのだろうか。失業率一〇 % 超というような結果が思わせるの はむしろ、富豪たち、年金生活者たち、公共部門および民間部門に属する中産階級、つまり集 合体 ><<N ということになるわけだが、そうした恵まれた諸階層を仲良く混せ合わせた同盟に よる政治であって、この政治はご都合主義的に不平等を受け人れる。フランス国家はときには、 社会的連帯への熱心さにおいてアングロサクソンの国家にさえ劣る。なにしろ後者は、クリス トフ・ラモー〔フランスの経済学者、ハリ第一大学教授〕が鋭敏に強調したように、長期的目標 の中に完全雇用を挙げている。雇用への闘いを国家目標の中心に据えるのは、失業率一〇 % の 国で人びとが思っている程度を遥かに超えて、社会協約の原則自体を受け人れ、それを実地に ( 6 ) 適用することである。 フランスはまた、国家が、実にさまざまな営みやプログラムをとおして、すでに恵まれてい る階層を優遇する国でもある。アメリカでもイギリスでも、中等・高等教育のコストが親にと ャって高く、それが中産階級における出生率の低さを説明する要素になっている。実際、子供一 人ひとりにかかる費用が重圧なのだ。フランスでは、状況は正反対だ。中等・高等教育のコス 章 2 トの大部分を国家が負担してくれるから、「管理職および知的上級職」が将来における自分た ちの社会的自殺を覚悟することなしに子作りができるわけで、その階層の人口学的な堅調さは 12 ー
県は一八〇一年の政教協約〔フランス革命で断絶したローマ教皇との関係をナポレオンが修復〕 の規則のもとにあり、冒漬への権利を認めていない。左翼党共同代表のジャンⅡリュッ ク・メランションは、彼を特徴づける鋭敏な歴史重視のセンスをもって、『シャルリ・エブド』 。宗教に対するアルザス 事件に遥かに先立ち、あの特殊地域への普通法の適用を要求していた 地方の関係は独特だ。アルザス地方では今日なお、人びとがカトリックとして、あるいはプロ テスタントとして自らのアイデンティティを意識することがある。ストラスプールでデモ参加 率が低かったことがイスラム教に対する特別な優しさを示すものであるなどとはまったく主張 しないけれども、一月一一日のデモ行進のイデオロギー的な軸はアルザスの文化的ダイナミズ ムにうまく合致しないということを認めることはできる。世俗主義の新たなヒステリーがアル ザス地方で引き起こしかねない劇的な結果について、私は本書で後述することになろう。 したがって、デモの詳細な分析を突き詰めても、新しい、再生した、再建された世界の発見 約批准への賛一、を に - のまーレよ、 0 し・ざ・だ涎定要因ど翩しだ。強いモチベーションを示した社会階層は、公共部門と民間部門の 中産階級、カトリック教徒のゾンビの多い地方において富裕化した中産階級であった。 三つの変数ーーー労働者人口の比率、管理職および知的上級職人口の比率、カトリシズムの影 響ーーに関する線形回帰が、デモ参加率分散の四〇 % についての統計学的「説明」を可能にす フロン・ド・ゴーシュ 106
ここで一つ、明確にしておかなくてはならないことがある。すなわち、通貨信仰において支配 階層が被嚢を作るまでになってしまっているからといって、個々人が諸価値に深い執着を持っ ていると前提できるわけではない、ということである。事実はその正反対だ。グループの信仰 の力は、後述するとおり、個々人の信仰の弱さに由来している。 一一〇〇五年一〇月、その年の五月に欧州憲法条約をめぐる国民投票で階級的反発を表わす結 果が出たあと、都市郊外の人びとの蜂起がすぐ続いた。するとエリート層は共通意見としてか なり迅速に、かつある種のエレガンスをもって、車を燃やしている若者たちは最悪の場合でも しつけ 躾が悪いだけの若いフランス人たちなのであり、彼らがその破壊行為によって表現しているの は、社会に人りたいという気持ちなのだと理解した。今日では時代遅れに見えるだろうが、あ の共感に値する態度はわれわれに、二〇〇五年にはイスラム恐怖症がまだフランスの中産階級 に浸透していなかったということを教えてくれる。 二〇〇五年は指導階層にとってまったくもって厄介な年だったが、その年末に垣間見ること ができたのは、フランスが古き良き階級闘争を改めて見出そうとしているということだった。 ところが、中産階層の間でイスラム恐怖症が拡がり、都市郊外で反ユダヤ主義が拡がった一〇 年を経て、二〇一五年の今日、フランスは経済的対立を引き受ける覚悟ができていない。宗教 的な、あるいはほとんど宗教的な要因が、二〇〇五年には弱まろうとしていたようだったのに、 いまやカを盛り返してきているのである。とはいえ、ゾンビ・カトリシズムは激越で活発だが、 ひのう
そのように説明できる。そうとも、フランスでは福祉国家が今日も生き延びている。しかし、 それはます、中産階級の福祉国家になったからなのである。支配的な言説は何かにつけて毎度 毎度、中産階級を税金の犠牲者のように提示する。だが、この犠牲者イメージが物語っている のは、フランスにおいては、中産階級がイデオロギー的権力を握っているということにほかな , ら、よ、 0 ここで、あらゆる誤解を避けたいと私は思う。私見では、教育の財政面を国家予算で、、、 かえれば税金で負担するのは明らかに良いことである。一般に家族は、そうした支援なしには、 長い年月のかかる子供の教育のコストを引き受けることができない。新自由主義者たちのアン チ国家的なドグマティズムは、結局、教養ある階層の文化的蓄積をきちんと次世代へ引き継ぐ ということが社会全体にもたらすポジテイプなものを殺してしまうことになりかねない。。 ヒ工 ール・プルデューの直系相続人ともいえる学者たちが認めないとしても、文化的再生産は単に スキャンダルなのではなく、もし人が社会システムの継続とみんなのための進歩の確実化を望 むのであれば、ひとつの必要性でもある。再生産は、教育を拡大していくのに不可欠の基盤だ ということを確認しておこう。しかしながら、そうはいっても、極端なことをしてはいけよい。 失業率一〇 % の脅威の下で生きる庶民層に、管理職層の子女の教育費を負担させるようなやり 方には臆面のない反社会性が指摘されてしかるべきだ。ところが、その現実を、われわれの社 会の報道機関はわれわれの目から隠してしまう。報道機関は、フランスの全部がシャルリなの 12 2
結 ニロ ことなら、エスタブリッシュメントにとって理想的な外国人恐怖症であるロシア人恐怖症に罹 りたかっただろう。しかし、お誂え向きのスケープゴートになるには、ロシア人たちには二つ の特徴が欠けている。一つは、西洋の社会空間に身体的に大人数で存在していること、そして もう一つ、これがより重要なポイントなのだが、弱者であることだ。何といっても、地中海世 界から来た移民を叩くほうが、ロシア軍に立ち向かうのよりもリスクが小さい。 二つ目の円環であるイスラム恐怖症型 ( プロテスタンティズムの頭文字「」 ) はもっと 北寄りで、ユーロ圏と一体になってはいない。しかしプロテスタンティズムは、子孫のゾンビ に、持ち前の教育への熱心さをよく受け継がせる一方で、普遍的なものに対する根源的にネガ テイプな関係をも伝えた。すでにかなり以前から、ゾンビのプロテスタンティズムがヨーロッ オランダ、デンマーク、ドイツの北部と東部ーーーで、イスラム恐怖症の触媒として作用 している。 現代フランスのネオ共和主義システムを支配しているのは、経済システムの危機にまださほ ど苦しんでいない中産階級である。この中産階級はフランス流の「福祉国家ーの掌握権を手中 に収め、産業と労働社会層を犠牲にすることを受け人れた。心理的に不安で、イデオロギー的 不安定の兆しを露呈するようになってきている。中産階級に属する諸階層の人びとの間でイス ラム恐怖症の水準が徐々に高まって来ているのが感じられる。「イスラム教徒たちーという、 彼らの妄想のカテゴリーが、こうして民衆層と並び、彼らの二つ目の問題となる。闘いの相手 279
コラム〈ニ 0 一 0 年 5 ニ 0 一五年頃の中産階級の人口規模〉 フランス国立統計経済研究所の体系的分類法は、フランスの社会構造に対する経 験主義的なアプローチを可能にする。そしてこのアプローチは、職業・学歴・所得を混ぜ合わせる から理論的にはまったく不完全であるにもかかわらず、申し分なく妥当なものとなる 0 中産階級と 呼ばれる諸階層は、その定義が示すとおり、数においては取るに足らないけれども資本の所有によ って非常に重きを成す富裕層と、分厚い庶民層の間に存在する。 職業生活をリタイアした年金生活者と非生産年齢人口を合わせると著しい数になるけれども、ま ず、これを脇に置こう。 一〇人以上の給与所得者を雇用している企業主は生産年齢人口の辛うじて 0 ・一一 % を構成してい るにすぎない。 これに超上級公務員、企業の最高幹部、非常に裕福な年金生活者を加えても、富裕 ー層のサイズは生産年齢人口の一 % 以上には増えない。 労働者と平社員 , ーー労働者の八〇 % は男性、平社員の七五 % は女性であるから、しばしば互いに 結婚しているー、、・が、生産年齢人口の五〇 % を占める庶民層の大部分を構成している。職人と小商 フロン・ナショナル ) 店主は生産年齢人口の五・五 % に相当し、教育水準と国民戦線に投票する傾向において労働者に 近い。彼らは文化的に庶民層に近いか、庶民層の一部分を成していて、その点は、農業従事者 総計で一・五 % ーーも、ほんの一握りの超大規模農業経営者の場合を例外として同様である。した がって、広い意味での庶民層を全生産年齢人口の五七 % と捉えることができる。 118
第 2 章シャルリ ダンケルク 地図 2--3 生産人口のうちの上流中産階級の割合 カレー プローニュニシュル = メール ルーアン分アラス シェルプール ル・アーヴルアミアン・ ドゥェニランス リール ヴァランシェンヌ モプージュ 〇サン = シャルルヴィル = メジェール ティオンヴィル カンタン プレスト プリュー ・ポ エヴルー ・ランス ーヴェ ナンシ、 -- ・ メス カンペール レ、ヌラヴァル 〇トロワ ・シャルトル ストラス プール コルマール ・・ル・マン ・ルレアン 、、ヴァンヌ アンジェ ベルフォール ミュルーズ ディジョン ・プロワ ナント・・トゥー , レプールジ = ・・ブザンル ロリアン、 サン = ナゼール 0 ショレ ヌヴェール〇シャロンニシュル = ソーヌ ー第ニオール・ボワチェ ラ・ロッシュ = す、・ シュル = ョン、・ラ・ロシェルリモージュ マコン ロアンヌ〇 プール = ガン = プレス ・アヌシー リョン アングレーム・ ・シャンべリ クレルモン = フェラン ペリグー 〇 9 サン = テティエンヌ グルノープル プリーヴ = ラ = ガイヤルド ヴィエンヌ 0 ポルドー 〇モントーバン アジャン〇 モンペリ ァレスヴァランス ーム、 .0 アヴィニョン バイヨンヌ ・・トゥールーズ / くジ . 工 タルプ トウーロン 工クス = マルセイユ ベルビニャン アジャクシオ 上流中産階級 = 上級管理職、知的上級職 20 ー 2 9 % = 16 ー 20 % 12 ー 16 % ロ 9 ー 12 % 99