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検索対象: シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧
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1. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

漠然とした模倣プロセスによって受け人れ国または受け人れ地域の文化の勝利が際限なく繰り 返されるからである。移民は適応するし、子供たちは別の家族的価値に乗り換える。テリトリ 根本的な逆説は、 ーにおいて支配的な価値は変えられもしないし、脅かされることすらない。 ここでは強いシステムを生み出すのが弱い価値だということだ。移民が自らのもともとの価値 を捨てることができるからこそ、テリト屮」」し」 = お・い一〔、支 - 配・的な価・直が、」て、れも同し・い一一プ・・に - - い を・れどし大勢の・個人によ「て尊重されているカらこそ毎度勝利するのである。フランス国 内で、地理的移動に拍車がかかっているにもかかわらす地域文化が永続していることをエルヴ エ・ル・プラーズとともに確認した折、われわれは場所の記憶という概念を活用することにし 家族システムという概念と矛盾するどころか、場所の記憶という概念はそれを補完する。 なぜなら、繰り返すけれども、ひとつの家族システムとは、同じテリトリー内で配偶者をやり 等 呼取りする家族群だからである。 畩場所の記憶という概念はわれわれを解放してくれる。この概念によれは、人間を不変的なあ 置る本質に閉じ込めることなしに、地域文化や国民文化の永続性を受け人れることができる。ピ 境カルディー地方、プルターニュ地方、プロヴァンス地方が自らをそのまま永続させるからとい って、子供時代に刻印された強い価値によって強引に分け隔てられたピカルディー人、プルタ 章 ーニュ人、プロヴァンス人という人間のタイプがあるわけではないのと同じように、イギリス、四 第 スウェーデン、ドイツはいずれも実に堅固にそれぞれの国であり続けることができるが、たか

2. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

義的だった。以来、ア・プリオリなイデオロギーがじわじわと推移して、ついに今日の階層秩 序化に到った。ドイツは優越的と再定義されて、模倣ないしは服従の対象となった。アラブ世 界は劣等的と捉えられ、近代化されるか、あるいは格下けされるべき対象となった。この二重 の動きは実は一つであって、権力の座にあるエリートのメンタル・システムの不平等主義的再 編にほかならない。 「共和国」よりも「ヴィシー体制」の系譜に連なる動きである。 この傾向は、もう一つの、より平等主義的な傾向と対立する。後者は、すべての他国民を嫌 う傾向で、「普遍主義的外国人恐怖症ーと呼び得るだろう。この外国人恐怖症の場合には、同 時にドイツ人恐怖症、イスラム恐怖症、ロシア人恐怖症であることができる。私は本書のさら に先の方で、一方は平等主義、他方は不平等主義というふうに異なって競合するこの二つの外 国人恐怖症それぞれの人類学的な意味と定義の説明を試みるつもりだ。 平現段階では、フランスでは、こうしたいくつもの外国人恐怖症が、脈絡のない大騒ぎの中で、 れ重なり合ったり、避け合ったりしている。エリートは皆ほとんど同質的にロシア恐怖症である。 置社会党は公式にはすべての人を愛するはずだが、ロ、シテ人だ、けは別だ。保守の国民運動連合 境 (>äæ) はヨーロッパ主義でイスラム恐怖症だが、ロシア人恐怖症においてはさほど厳格で フロン・ナショナル ( ヨーロい 心症で、イスラム恐怖症だが、親ロシアである。 章 ドイツと北方の国々の推移によって、秩序づけが始まる。イスラム恐怖症がいよいよヨーロ 3 第 ハ主義の地平線となってきているので、フランスの各政党は近いうちに態度を選択しなけれ

3. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

ランドはついにわれわれの前で、彼自身についてと、われわれの共和国について、本当のこと を言った。あの招待者リストによって、彼自身によるシャルリの定義を示した。 私は白状しなくてはならない。 完璧さを気にするあまり、私はいっときジェローム・カュザ ック ( 脱税目的の外国への資金移動 ) の不在を心配した。私のこの発言は度を越しているだろ うか ? 当時、ありとあらゆる新聞・雑誌の表紙に画一的に「私はシャルリ」と印字されてい た。そこから示唆されるのは、『ガラ (GaIa) 』〔女性向け大衆週刊誌〕もシャルリ、『クローザ (CIoser) 』〔スキャンダル週刊誌〕もシャルリ、どこかそこら辺に転がっているポルノ雑誌 もシャルリ、『ミッキー (Mickey) 』〔子供向けの漫画週刊誌〕もシャルリ、ということだった。 それなら、どうしてカュザックをジャンⅡクロード・ユンカーの隣に、「脱税」を「脱税天国」 の隣に並ばせていけないことがあろうか ? 彼もまた、我らが共和国の真の「価値Ⅱ有価証 券」の一つを体現しているではないか。 一五〇万人から一一〇〇万人の群衆が、あの信じがたい通貨と予算と軍事の「ギークー〔 geeks 愛好マニア〕の集団の後について歩くことを受け人れたわけだった。支配が受け人れられてい て、不平等は群衆を基盤として持っている。フランス共和国も、それを包み込むヨーロッパ共 和国もひとつの階層システムである。あの巨大なネオ共和主義デモを見れば、フランスにおけ る不平等の拡大が一握りのエリートの陰謀のせいではないこと、ピラミッドの頂点の所得に与 っている一 % の人びとの仕業でさえないことを認めないわけにいかない。 仮に彼らがデモをし 172

4. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

たとしても、それがたとえ一〇〇 % の動員率 ( 七五歳以上と五歳以下を除く ) であっても、 「一 % 」の定義からして、フランス全国でせいぜい五〇万人程度しか集まらないことは分かり きっている。そうとも、フランスは現在たしかに、寡頭制システムへ変異しつつある。しかし、 そのシステムの頂点に、昔風に、わすか二〇〇家族だけの門戸の狭いクラブが君臨するとか、 一五万人程度が集うクラブが君臨するとかいうふうにイメージするのは間違いだろう。高学歴 とそこそこの所得によって限定される集団による寡頭制が出現している。その集団が、国を牛 耳り、自分たちの価値観と夢を国に押しつけ、移民の子らを都市近郊へ押しやり、さらに遠い 郊外と田舎の県の奥の方へとフランスの民衆を追いやっている。 ロシアという例外 平政治家たちのグループにも、デモに参加した人たちの群れにも、偶然的要素が含まれていた 畩別の理由で、別の論理にしたが「て、イベントの主流からは断ち切られた形でそこに居合わせ 置た人たちがいた。ロシアを代表して来ていたが、テレビカメラには映らなかったセルゲイ・ラ プロフもその一人だ。彼が奥の方へ押しやられていたのは、緻密に検討された演出によるもの だった。ロシアが日々被らなければならない西洋側の攻撃性も同様である。イスラム恐怖症に 章 劣らず、ロシア人恐怖症も意味を持っている。 第 その性質からして、人類学はイデオロギーの駄弁に抵抗する。政治家たちが当たり障りのな ー 73

5. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

り ) 外国人恐怖症 ( に到る ) 、となります。これを日本に当て嵌めるならば、等式の左辺〔上〕 には一致を、右辺〔下〕には謎を確認することになります。 等式の左辺は完璧に再現されます。日本の宗教的空白は、ヨーロッパのそれと同じくらいに 徹底した空白です。神道は、ローカルな共同体と農耕社会の儀礼に根ざしていましたが、大々 的な都市化により組織が深い部分で解体されました。仏教は、戦後の一時期には新たな形の宗 教性の発展によって活力を取り戻したものの、ここ二〇年、三〇年の推移を見ると、カトリシ ズム同様に末期的危機のプロセスに人ったように見えます。葬儀におけるその役割までもがか なり本格的に疑問視されるようになっているのですから。 日本における格差の拡大は著しい現象です。日本はもはや、国際比較の統計表の中でスカン ジナビア諸国と並ぶ平等の極の一つではありません。まだアングロサクソンの国々の格差のレ ベルには達していませんが、そのレベルに近づいてきています。宗教的空白および格差の拡大 ノの国です。 ( 等式の左辺 ) を見れば、日本はまさに西洋の国です。あるいはむしろ、ヨーロツ。、 米国には宗教性ーーこれはより適切に定義される必要がありそうですーーが存続していますか 一つまでもなく日本は、ヨーロッヾ しかし、右辺については何といえはよいのでしようかい のあらゆる国がそうであるようにはイスラム恐怖症であり得ません。イスラム教徒は日本国内 にはほとんどおらず、地理的に近くもなく、海の向こうの存在です。実のところ日本は、人口

6. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

ゴールの戦闘爆撃機がシリアへ飛び立っ光景から遠く離れて、われわれはフランスの社会学的 現実への急着陸を余儀なくされました。選挙で左右の「政権担当政党」が敗れたことは明白で した。社会党は二三 ・一 % の票しか得られませんでした。保守の得票率は一一六・六 % 、極右で フロン・ナショナル 外国人恐怖症の国民戦線 ( z) のそれは二七・七 % でした。迎合主義的なジャーナリスト たちが呆然として、やむなく明白なことを言いました。政府の権威主義的態度、治安問題の偏 重、フランス国旗の礼讃が極右を有利にした、と。もちろん、そこへ、シリア難民が大挙して 押し寄せてくるのではないかという不安も加わったのでした。しかし、その不安は非現実的な ものでした。なぜなら、シリア難民で、行き先にフランスを選ぶ人はごく僅かなのですから。 いったいどうしてイスラム教徒の難民が、失業率一〇 % が正常だと思われているような国、中 産階級が反ムハンマドでデモをするような国を、夢見ることができるというのでしようか ? それにしても、一一月一三日の襲撃後、政府が国境を必要なものとして語るのを拒んだことか ら、さらにいっそうの不安が生まれてきていることは確かです。非常に長いスパンで見て、国 土の安全を現実に防衛することをフランスの政治指導集団が拒否すれば、それはその集団の失 墜につながるにちがいありません。ひとつの政治指導集団は、経済が沈滞しても、格差が拡大 しても、生き延びることがあり得ます。しかし歴史上、領土の安全という基本的な人間的必要 をきちんと考慮に人れることを拒むような政治指導集団が生き延びた前例はありません。しか し、われわれはまだその段階に来ていません。有権者集団が高齢化している以上、すべてがゆ 3 04

7. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

いた家族との文通はいつも塹壕から塹壕へとリレーされたのだけど、リレーしてくれた人の名 前はもつばらアルファン、ヘッセ、レヴィ、ストロース、プロッホ、ウォームスというような 苗字〔いすれも典型的なユダヤ人名〕だったというエピソードで、かって祖母が私を笑わせて くれたものだ。しかしながら、後生だから、と言いたい。内婚的にしか結婚しなかったイデオ ローグたちは、外婚制を実践している移民の子供たちに向かって、フランス的とはどういうこ もう一度、われわれが愛したフラン とかなどという教訓を偉そうに垂れないでもらいたいー スを、内婚制を好む人たちの内婚を好意的に受け人れ、同時に、あくまでデリカシーをもって、 また直接の圧力など加えることなしに、やはり混合的な出自をもっ子供たちを作ることによっ ち たてこそ、長い歴史の年月の中でナショナルな共同体ができ上がっていくのだということを思い ス出させてくれるあのフランスを取り戻そうではないか。 ラ フ の 若者たちの圧殺とジハード戦士の製造 教 ム 「イスラム国」のための フランスがーーーーイギリス、ベルギー、デンマークなどと同様に ここでも公正を心がけ、シリア問題の扱 スジハード戦士を製造しているやり方を分析する前に、 イ いがわれわれの国の指導層の無能力さを明らかにしていることを確認しておこう。何カ月もの 5 間、外務大臣ローラン・フアビウスや日刊紙『ル・モンド』その他は、シリアの現体制に対す る軍事介人をフランス政府に促した。当時わが国の政府が鳴り物人りで支持した勢力が結局、 24 )

8. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

ムでした。中東で組織され、都市郊外の若者によって実行されたにもかかわらす、その殺戮行 為は、現実のどんなイスラム教とももはや無関係なように感じられました。ダーイシュ〔「イ スラム国」〕自体と同様、その行為が表示したのは、イスラム教の病的な崩壊であって、どん な再活性化でもありませんでした。 フランス社会の反応はしたがって、イスラム教をめぐる問題という形では直接的かっ公式に 構造化されませんでした。事件直後の数日間、今やフランスでイスラム恐怖症のコードネーム となっている「ライシテ〔世俗性〕ーという言葉と主張はほとんど耳にしませんでした。フラ ンス社会全体がショックを受けた状態にあり、そしてこのたびは、イスラム教徒のフランス人 も他のフランス人同様にショックを受けた状態にあることが明白でした。 しかし、政府による危機への対処はまたも、現政府と、現政府が代表しているフランス中産 階級の無能力さを浮き彫りにしました。相変わらず、真の問題に取り組み、自らの責任を全う することができないでいるのです。悲しみの中でネイションが一つになったことは明白でした。 ですから、それは芝居がかった演出の対象となりませんでした。ダーイシュ〔「イスラム国」〕 によって選ばれた暴力による対決を受け人れる好戦的で権威主義的なスピーチが、社会党政府 が示した主要な反応でした。つまり、シリアをもっと空爆する、警察と軍隊によってフランス をくまなく警備する、憲法がすべてのフランス人に与えているいくつかの保障を消し去ること になる非常事態宣言を発令する、といったことです。その一方で、都市郊外の荒廃、労働階層

9. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

0 そのシャルリを苛立たせるリスクを冒しても、われわれはイスラム教が一部のフランス人にも たらすことカ してくえてる必要がある。結局のところそれは、本書で 0 すでに提案したゾンビ・カトリシズムの分析を、他の宗教システムに拡大することにほかなら ない。われわれの分析は、多くの分野でカトリック教会が果たしたネガテイプな役ごけでな く、カトリシズムから生まれた助け合いのモラルが演じたポジテイプな役割をも認めた。カト リシズムに対してと同様、イス一フム教にもボラ一ーの考え方を適用してみるべきなのだ。イス ラム教一般に、というのではない。そうではなくて、フランスで特定のグループによって担わ れていて、実践の度合いは人びとが一般に信じているのよりも遥かに低いイスラム教に対して、 ち である。 スすべての宗教に関して言えることだが、特定の宗教があらゆる時代、あら・ゆる状況で進歩にー い・ - をを主彊・すな・こ・と。など、・、、灯によ ? ても正・当化・ざ・れい。それどころ . か、プロテスタンテ のイズムとユダヤ教という、聖書に基づいていて、非常に文化水準の高い諸民族を輩出したこの ム一一つの宗教が示すのは、社会の発展の中で、信のほうが輓存・・衆化・に先立づ、ど・い一プ・「どだ 9 スプロテスタントの国、とりわけスカンジナビア半島の国は宗教改革以来、他の国々よりも先に 進んでいて、非常に高い教育水準を保っている。イスラエル国家の場合も同様だ。中等 章 生徒たちの学力を計る— < タイプの調査で、フィンランドはトップグルーの常連だが、 第 フィンランド人はあのパフォーマンスの多くをルターに負っているのであり、政府に負ってい 2 ) )

10. シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧

のようなカテゴリーの存在をア・プリオリに信じることの結果として解釈してよいのかどうか は、確かでない。 フランスでは、構造的現象として、異民族間の結婚率が高く、これは出身が 非ヨーロッパの人口も含めてのことだ。この率の最近の推移は次章で検討することになるが、 いつの時代にも、われわれの国はこの点で、プロテスタントで多文化主義を採る北ヨーロッパ の国々とは区別されるあり方をしてきた。そうした異民族間結婚は、、 しうまでもなく民衆の世 界に関与する。なにしろ、中産階級よりも一般民衆のほうが移民グループと接触する機会が多 いのだから。しかし、アラブ出身の人びとに対する敵意と異民族間結婚の受容とを、いったい どのようにして納得のいく一つの説明の中に統合すればよいのか ? その統合を可能にするの が、「普遍主義に起こる倒錯」という概念である。 ちます、平等主義的家族構造によって定義されるメンタルな連鎖、「兄弟が平等ならば、人間 人はみな平等であり、民族も平等だ」から出発しよう。外国人とじかに相対するとき、何が起こ ンるだろうか ? コンタクトの時、平等主義システムのア・プリオリな判断と目に見える差異と フ いう現実の間には必す食い違いがある。その具体的な差異が大きければ大きいほど反応が乱暴 の 右になる。マグレプの家族構造が提示する差異は当初、人類学的観点から見て最大限である。古 典的なアラブ人の家族は共同体家族で、父系制で、内婚制である。男性を特権化し、女性を閉 章 4 じ込め、いとこ〔ここでは、日本でいう四親等のいとこを指す〕同士の結婚に選好を示す。二〇 〇〇年頃まで、全結婚のうちでいとこ婚は、およそのところ、モロッコで二五 % 、アルジェリ 193