鏡に映された自分の姿をまじまじと見ながら、わたしは突然すべてを理解しました。わた しは太るのがいやなのではなく、トミーおじさんみたいな太った人たちと同じ落伍者になる のがいやだったのです。でぶは人生の落伍者。そんな思いが強かったから、太ってしまった 友人の姿に自分を重ね合わせ、嫌悪するようになったのでした。他人を批判しているつもり でも、そこには自分自身に対するネガティブな思いが投影されているのです。何とまあ、根 深いものでしよ、つか 「自分を変える !. 革命的手法 ポジテイプ心理学の創始者のひとり、ペンシルバニア大学のマ 1 ティン・セリグマンは、 ネガテイプなセルフト 1 クを静めるための効果的な方法を開発しました。最初のステップは 気づき。間違ったときや難問に直面したときに始まるネガテイプなセルフトークに気づくの です。 ネガテイプなセルフトークに気づくことは、論破するための第一歩。さあ、始めましよう。 1 82
脳にパワ 1 をつけることが目的であるとすれば、そのための手段は安らぎと喜び。アスリー トはそんなフローの状態を「ゾ・いお〕・と呼びます。 、ら、刀」オ、り・ たむきな気持ちでスキルや能力や知識 心オカを覆っていた霧が晴 を ドに生力しきり、不可能はないと確信できる情熱が静かにみなぎってくると、「ゾーン」 カ 造 は訪れます。それは真実の瞬間とも言えるでしよう。頭のなかには明確なビジョンが描かれ 創 れて、ありえないことが実現できるように感じられ、最後は頭のなかのイメージを実現しよう も っ という気持ちに駆り立てられるのです。「ゾ 1 ン、は勝ち負けとか、成功や失敗といった結 て 果とは無関係。喜び、言うなれば「限界を超えようとするときに感じる純粋な喜び」と深く 関わっているものです。スポーツであれ、科学や芸術であれ、ひとつの分野を極めた人はか 中 ならずゾ 1 ンの喜びを体験しています。 の 分 自 質 新皮質に秘められた「途方もないパワー」 新 ② ゾーンとは、わたしたちに備わっている知性が最高の状態に達する瞬間です。そして新皮 神 質こそ、知性から真実を受け取る場所なのです。新皮質のなかにある前頭前皮質は、脳の各 納部位の活動をまとめて環境を穏やかに整えてくれますが、それ以外の部分で、新皮質はわた 3
\ 「安らぎ、を毎日体験する充実感・幸福感 いま再び、わたしたちは目覚めなければなりません。わたしたちは再び生き残るための岐 路に立たされています。だから再び叡智を結集し、窮地を脱しなければいけません。自分に 備わっている能力に気づき、それを十分に生かすことで世界を変えていかなければならない のです。何よりも大切なのは心の安らぎ。そして、わたしたちの脳には安らぎの神経回路が す きちゃんと存在するのです。 で も では、安らぎの回路を活性化するにはどうすればよいのでしよう。簡単です。安らぎを毎 で 何 日体験するだけ。些細な行動においても大きなプロジェクトにおいても、常に安らぎを心が れ けるのです。ガンジーの言葉をかりるなら「わたしたち自身が、世界に対して望む変化にな らなければいけないーのです。そのためには、恐れから解放されること。後ろを振り返るな るんて、やめましよう。あなたは時々刻々と新しい姿に生まれ変わっているのだから、いまと や いう瞬間を大切にするのです。仲間を無条件に受け入れ、思いやりを欠かさず、どんなとき 脳でもあやまちを許しましよう。自分の長所を認め、長所によって自分を成長させ、他人のな グ かの長所も認めるようになりましよう。自分のことばかり考えるのはやめて、将来の世代の ロ 工 25 1
ます。さらにダニエル・ゴールマンは、「実際、わたしたちはミラ 1 ニュ 1 ロンを使って模 倣しているというよりは、相手の心になりきっている」とまで語っています。『ここ ろの知能指数』の著者であるゴールマンは、「ニューヨーク・タイムズー紙に掲載されたエッ セイでつぎのように書いています。 ミラーニューロンは、同じ場所にいる人の感情や動作や意思の移り変わりを克明に追 いかける。そして情報を集めては発火して、情報を正確に復元する。 感情、特に強い感情はまわりの人に伝染しやすいが、それもミラーニュ 1 ロンのメカ ニズムによって説明できる。ミラーニュ 1 ロンを介して脳が結び合っているから、相手 の態度や声の調子や動きが瞬間的に模倣され、共感が生まれるのだ。 ミラ 1 ニュ 1 ロンは諸刃の剣だとゴ 1 ルマンは指摘します。たとえば、わたしがあなたに 敵意を持っているときにはあなたの血圧は上昇するでしよう。でも、あなたがわたしを深く 愛してくれれば、わたしの血圧は下がります。友人に癒し効果があることは、生物学的にも 説明できるわけです。 21 6
見たり聞いたりしているうちに心が妙に安らぎ、思いがけないひらめきの瞬間が突然訪れる のです。ところが普段のわたしたちは、どうでもよいことばかり考えているのだから困った ものです。 第 1 の障害・ : 「どうでもよいこと」ばかり考える脳 効 脳 ど、つでもよいことばかり考え続けているときには、頭のなかでストレスの大きな状況をあ が しれこれ想像し、それが厄介な感情を引き起こし、実際には何も起きていないのにストレス反 応が誘発されます。さあ大変です。心はひっきりなしにささやき続け、あれこれ批判を始め ます。誰かの肩を持っていたくせこ、 。いきなり態度を豹変させます。誰かを名指しで非難し 中 夢 ていると思っていたら、今度はわたしたちに非難の矛先を向けてきます。人は平均して一日 ーセントは同じことの繰り返しだと言われます。 に 6 万回も思考を重ねますが、その、 でも「常にくだらないことばかり考えている」心は、そんな状態が自然なものだと信じて ク 疑いません。これでは頭が混乱し、自分を見失ってもしかたがありません。心は常にこんな ク ふうに語りかけてくるでしよう。「おまえとわたしは一心同体。わたしが語る支離滅裂なス ス ト 1 リ 1 こそ、おまえの人生だ」
な女性だったのに、久しぶりにあった彼女はすいぶん太っていました。びつくりしましたが、 口には出さないようにしました。しばらく歓談してから玄関まで見送って別れ際にハグしま した。そのあとオフィスに戻りながら、わたしは彼女のことを心のなかで批判します。「す ごい変わりようだな。一体どうしたんだ、あんなに太っちゃって。手遅れにならないうちに 何とかすればよかったのになあ 効 そんなことを考えているうちに、大切な友人に嫌悪感を抱くまでになりました。そして途 中で洗面所に立ち寄り、洗面台の前の大きな鏡に映っているすんぐりむつくりの自分の姿を レ」 見た途端、わたしは小声でこうつぶやいていました。おまえなんか大嫌いだ る おそらく意識していなかっただけで、何年も前から心のなかでは自分にそう言い続けてき たのでしよう。でも、はっきり口に出したのはその日がはじめてで、わたしはひどいショッ 中 夢 クを受けました。そして、亡くなったばかりのおじさんのことを突然思い出したのです。 そのおじさんは一族の面汚しで、母や祖母にとっては悩みの種でした。だから、わたしが 悪い成績をとったときや怠けているときにはかならず、こんなふうに注意されました。「お ク まえだって、いまにトミーおじさんみたいになるんだからね」。晩年、おじさんは見事な肥 ク 満体でした。だから体重が増えるとかならず、おじさんみたいな死に方をするのではないか テ ス という不安にさいなまれました。
らうための手段にすぎません。だからそんな従来のアプロ 1 チを否定することが、自己発見 のための第一歩となるのです。 わたしたちの本質はもっと奥深いものです。・・印我どば・全・人格・のにグど・ご ' ろ・で・あ切、・・・、素 しい人生経を提供し、世界に強烈な影響をお耳ぽ・すのなのです。抽象的な自我とは大違 いです。しかも、そんな自我に到達する方法はいたって簡単です。心を開き常にあらゆる ー・畷 - 収し・お】ど・・い ) ? い構え・だ・けで・十・分なのです。体と心と魂がひとつになり、あらゆる 情報に素直に耳を傾けるようになれば実現するのです。 要するに、原始的な本能を磨いていげば有機体どして ' の印己実現が達成され、あらゆるし がらみから解放されるのです。何ものにも東縛されない自由ーーそれは人間性のなかでも最 も大切な要素と言えるでしよう。 さあ、「内面の声」に耳を傾けましよう。声は常に呼びかけています。わたしたちが本当 はどんな人間なのか、どこへ行きたいと思っているのか、そこにはどうやって行けばよいか、 あるいはどんな行動をするべきか、何もかもきちんと理解しているのです。そん知性を創」 造するたに必要なのは、脳の回路を書き換えること。「洞察カーと「先見の明ーと「直感」 をつかさどる回路がしつかり刻まれるようになれば、内面の声はわたしたちに語りかけ、導 いてくれるようになります。わたしたちを新しい世界の入り口まで導き、思いきって飛んで
もうおわかりでしようが、わたしたちはネガテイプな思考や反応を真実だと思い込んで行 動しています。だから目を覚まし、自由にならなければいけません。そのための手段が「気 づき」。気づきさえすれば、ネガテイプで反射的な行動パターンは破られるのです。気づき さえすれば、恐れの自動操縦装置を見つけ出し、スイッチをオフにできるのです。 驚かれるかもしれませんが、こんなにシンプルな治療法が、わたしたちを苦しめている複 雑な問題に素晴らしい効果を発揮するのです。「妄想になんか苦しめられないぞ」そう決心 するだけで、すごい効き目があるのです。結局のところ、もって生まれた救済方法はありが たいほどシンプルなのです。 なせ「楽園」が失われてしまうのか やシナリオ 楽園が失われてしまうのは、わたしたちが誤解を繰り返して複雑なストーリー を作り上げ、結局は自分を傷つけてしまうからです。恐れやネガテイプな考えなどのレンズ を外してしまえば人生は本当に素晴らしいものなのに、そのシンプルな真実を複雑な思考の せいで見失っているのです。だから楽園を発見したければ余計なことを考えず、人生のあら ゆる経験に心を開きましよう。それは小から大、囚われの身から自由の身、苦しみからやす 146
今日から「心の持ちょう」が変わってきます わたしたちに必要なのは、 心を恐れから安らぎの状態にシフトさせること。感情を消耗し てストレスを溜め込んでいる状態から、落ち着きと活力に満ちた状態に変化するのです。そ んな気持ちになったとき、脳のなかでは 3 人の神々がひとつになります。すんなりとシフト が実現したときには、すべての問題がきれいに解消するでしよう。そうなれば、わたしたち は大きな存在となり、すごいパワ 1 を手に入れるのです。意識的に取り組めば、それだけう まく脳や心をコントロールできるようになり、それがひいては大きな成果をもたらしてくれ ます。心の持ちょうさえ正しければ、わたしたちの能力に限界はあリません。 ガンジーもこう語っています。「自分が何をしているのかではなく、自分には何ができる かを理解すれば、世界の問題のほとんどは解決されたのも同然だ」と。 心が正しければ、以前は問題しか見えなかったところに回答が見えてきます。そんな方向 に進むための第一歩は、「世の中で実現させたいと思う変化を、ます自分が実現すること」。 じつに簡単で素直な方法ですが、その効果は子々孫々まで続くでしよう。
大切なのは、この「小さな変化 . の積み重ね わたしたちはみんな、自分の能力を最大限に発揮するために必要な「心の安らぎ」につい て、あまり注目せすにここまで生きてきました。安らぎの持っパワーを理解せず、それが自 分や他人にとっていかに大切か、正しく認識することもありませんでした。 しかしいま、わたしたちは 8 万年前に進化した新皮質が持っ知的パワ 1 をようやく理解す るようになりました。 5 万年前、いきなり天才的な能力に目覚めた脳は、素晴らしい発明を つぎつぎと世に送り出します。エジプト、アテネ、ロ 1 マ 、ハラッパ、あるいはロ 1 マをは じめとする帝都が砂漠のなかにこっ然と現れ、人類はついに月にまで足跡を記したのです。 もしも 5 万年前、創意工夫の才能がいきなり目覚めなければ、ホモサピエンスは生き残れ なかったでしよう。でもわたしたちは徐々に歩みを進めました。脳のなかに誕生したすごい 知性の力を生かしながら、世界をひとつひとっ変えていったのです。小さな変化が積み重な り、それが大きな結果を生み出し、あらゆるところで素晴らしい成果が実現しました。 250