む 読 を 本所等格差ではなく資本格差 資尸彳 の 本格的な経済学の研究書がベストセラーになることはめったにありません。その珍し い事例が話題のトマ・ピケティというフランス人経済学者の『幻紀の資本』 ( 邦訳、 ィーなすず書房 ) という本です。フランスで出版されたときにも多少の評判ではあったもの テ の、アメリカで一気に火がっき、こうなると、万事アメリカの後を追いかける日本でも 時ならぬピケティ・プームと相成りました。 マ アメリカの著名な経済学者のクルーグマンやスティグリツツなどが大絶賛し、経済学 七の思考を塗り替える画期的な書物だなどという評まででている。と同時に、彼の示した 5 統計の扱いに誤りがあったとか、解釈が不適切だなどという批判もでており、欧米では 第七章トマ・ピケティ『幻世紀の資本』を読む
現実とはまったく無縁な分析 前章で、話題になったピケティ『幻世紀の資本』を取り上げましたが、この本の中に 傲 , ・メリカ経、対するきびしい批判が書かれています。 学ピケティは、フランスで博士課程を終えた歳のとき、アメリカのに職を得ま 経す。おそらく経済学者としてはめったに得られないキャリアでしよう。しかし、すぐに 彼はア第叮加〔硎究に・嫌かさしてフランスに戻る。 ア どうしてか。それを彼は次のように回想しています。自分は現実の経済も世界の経済 八もまったく知らなかった。自分がやったのは、現実の経済とはまったく無縁な数学的な 分析だけだった。ところが、まさにそのことがアメリカでは賞賛されたのだ。つまり、 第八章アメリカ経済学の傲慢
それはこういうことです。 ピケティの議論の柱はこうでした。歴史的に見ると、資本からの利潤率率 ) は、 、・田石ゞ・を % であ ' る。しかし、経済成長率は ) 戦 , 19 5 0 年から年までの 3 を 除くと、利潤率を口ついる。これが、この書物を一躍有名にした、例の、「 > 」 という不等式でした ( は収益率、は成長率 ) 。 そして、ピケティがいうには、資本所有者 ( 資産家 ) は、年々 % で資産を増 のに対して、労働はせいぜいのところ々。でしか所得を増カて から、資産と賃金所得の増加率の差を通じてますます格差が拡大する。 これは一応わかる話です。確かにその傾向があるでしよう。しかし、前にも書きまし たが、これはまたかなり乱暴な議論でもあって、そもそも、この場合の「資本ーとは何 か。さらには、どのように資本を使い、どのようにして資本を増殖させるのか。そこを 論じなければ、何をいったことにもならないからです。 これは大きな難点です。だから、彼の議論をそのまま受け取るのは、少し無理がある。 しかしそれでも、この不等式はいささか奇妙なことを意味しています。年代以降、 はをずっと下回っている。ということは、資本からの利潤は結構あがっている。に 180
異なっている。資産分布やその構造は当然ながら国によって違うのです。同じ資本主義 といっても、それが拠って立っ社会の土台や歴史が違えば、国によって異なってくる。 アメリカでは、確かに資産格差の拡大以上に富裕層の富裕化は著しく、そこには、アメ リカ型の企業統治 ( コーポレイト・ガバナンス ) や有名経営者への法外な報酬、という 特有の事情を見逃せないでしよう。 これに対してヨーロツ。ハは、もともと階級社会だったので、資産の分配はかなり歴史 的なものを背負っている。また、フランス、ドイツとアングロ・サクソン ( アメリカ、 イギリス ) の間には市場経済についての考え方の違いがかなりあるのです。同じ資本主 義といっても、国によって、随分と異なっている。これはきわめて大事なことです。 いずれにせよ、ピケティが注目するのは、資本格差であり、それが所得格差を生み出 し、それがまた資本投資を通じて資産を増大させる、ということなのです。しかも、そ れが相続によって代々受け継がれる。かくて格差は固定されてゆきます。 しかも、このメカニズムは、今日、ほとんど自動化されてきた、とピケティはいう。 それを示すのが、この本の代名詞のようになついる「 > 」という不等式です。こ のメカニズムはきわめて分かりやすいもので、資本からの収益率 ( ) が 740
「自由 ( の欲求」という近代を突き動かしてきた価値観を見直すほがない、で凵引。 それは、決して新自由主義的競争でもなければ、また、福祉的な社会民主主義でもな いのです。 ピケティの本にはそんなことはまったく書かれていないのですが、われわれに突きっ むけられているものは、経済への関心を超え ( 読 を 本 資 の テ ケ マ 章 七 第 155
不等式「 => bD 」の意味 前章に続いてピケティの『幻世紀の資本』から話を始めたいと思います。この本のふ 先 れこみは、「画期的」な経済書だということだったのですが、その意味はどこにあるの 着 きでしようか 行 の もつばら注目されたのが格差問題でした。確かに、この書物の中心的な議論である格 義 差拡大に関しては、多くの者の抱いていた感覚を裏付けてくれた、というところでしょ 資 う。しかし、それではとても「画期的」とはいえません。しかも、なぜ格差が拡大する 九かに関する十分な理論的な説明も社会的な議論もないのです。 では何が画期的なのか。実は、そのことはほとんど論じられていないのです。 第九章資本主義の行き着く先 179
サヨクもウョクもない社会 / 事態を混乱させる「専門家」 第五章「グローバル競争と成長追求」という虚実 あまりにおかしな総選挙 / 「アベノミクス」成否の真相 / たいへんに危険な道 / 敗北主義の詭弁 / 「成長しなければ幸せになれない」という幻想 第六章福沢諭吉から考える「独立と文明」の思想 明治日本で最高の書物 / 目的は独立維持 / ナショナリティの正体 / 貿易も戦争も国力の発動である / 「かざりじゃないのよ、文明は」 5 3 第七章トマ・ピケティ『幻世紀の資本』を読む 所得格差ではなく資本格差 / 格差拡大の原因 / 金持ちがますます富むメカニズム / 「格差が階級社会を再現させる」衝撃 / 「資本主義はさして経済成長を生み出さない」 〃 5
、日本ではグローバル競争に勝 だからこそ、 ( ー・・化以の日本経済の失速に関し てるような新たな産業が育たない、新たな企業活動が阻止されている、日型経営では 独創的なイノベーションは起こせない、規制のおカげでべンチャーが生まれない、とい によって競争条件を整備すれば新 たな きると主張したのてオ ロ という概念は救世主のよ 新自由主義者にとっては、シュンペーターの「リ うなもので、新たな技術創造と、旧態の技術やシステムの破壊にこそ、資本主義の原動 力がある、 実際 8 年代にはってから、次々と新たな技術が開発されました。—e 革命と金融 叩を主導することでいき 革命がその代てす。アメリ した。また、—e や金融工学を使って金融市場で大きな利益を生み出すシステムを作り 出した。 これらは事実です。しかし、それにもかかわらず、、は分には成長しなかったの です。 ピケティの示したところによると、新自由主義者の「競争とイノベーションによる経 182
科学たりえない経済学 そしてその年後にピケティはまさにそういうことを書いている。 「私は経済学が社会科学の下位分野だと思っており、歴史学、社会学、人類学、政治学 と並ぶものと考えている。 ( 中略 ) 私は『経済科学』という表現が嫌いだ。この表現は とんでもなく傲慢に聞こえる」 また、次のようにも書いています。 「本当のことを言えば、経済学は他の社会科学と自分を切り離そうなどとは決して思う 傲べきではなかったし、経済学が進歩するには他の社会科学と連携するしかないのだ。社 の 学会科学全体として、くだらない縄張り争いなどで時間を無駄にできるほどの知識など得 経られてはいない」と。 その通りです。と同時にいささか複雑な心もちにもなるのです。 ア それは、今述べたように、こうしたことはすべて E 年代に提起されていたことだから 八です。大学院生であったわれわれは、毎日のように、この種の議論をしていたのです。 そもそも経済学は「科学」なのか。いや、そんなものではなかろう。経済現象は果たし ごうまん 167
しかし、それにしても欧米のあまりに大きな格差は説明できません。そこでピケティ が注目するのは、資本の格差なのです。 や個人がもっ金 ここで資本というのは オもて、したがって、 む資本からの収人とは、企業の利潤、株式の配当や売買差益 ( キャピタル・ゲイン ) 、不 読 を動産からの賃貸料、利子収人などです。そこで資本 ( 資産 ) のシェアはというと、たと 本えばフランスではトップ 1 % のシェアは年代で % 強であったのが、 2 010 年には 紀おおよそ % あたりまで増加している。イギリスでは、 % 強から % ちかくまで増加 世 している。ただアメリカの増加はイギリスのそれほどではなく、おおよそ % から肪 % 弱への増加です。日本についてのデータはありません。 テ ケ 金持ちがますます富むメカニズム マ こうしたことをどのように解釈するか。まずいえることは、資本の格差拡大は事実で 七ある。それが所得格差を生み出すことも事実でしよう。しかし、それはアメリカとヨー 9 ロツ。ハではかなり違い、さらにヨーロツ。ハでもフランス、ドイツ、イギリスでそれぞれ