着地点が見えない話し合いで子どもたちに「かけてみた」若い保育者の勇気と、一人ひ とりが自分の頭で考え、もめて、批判し、怒り、飛びだして、呼びに行って、戻ってきて ー歩み寄って「第三の道」をきり拓いて最後に笑いあった子どもたちの仲間力は、本当に すごい。昨年三〇一五年 ) 夏、私たちは、対立する考えを、あまりに早急に数の論理で 押し切るという暴挙を目の当たりにしました。その姿勢は、その内容の是非に関わらず、 「平和」への道からは遠いと言わざるを得ません。保育は、多様な考えをもつ人たちと歩 み寄りながら未来を変えていく子どもたちを育てるという力をもっていると思います 今年の四月下旬のことでした。朝、園庭で遊んでいたコウくんがふと空を見上げると、 そばの保育者に「雨ふりそうやなあ」。 @ 「ほんまやなあーと返すと、くりつとした目 で、「くまもと、大変や : : : 」。いつもと変わらない京都の空の下で、遠く離れた被災地、 熊本の大変さに思いをめぐらせる五歳児です。身近な大人の思いか伝わったのでしよう 子どものリアルな姿を見つめ直し、伝え合える大人の仲間づくりをしていきたいですね ンク一対クロ二五」だったとは思えない、鮮やかな仕上がりでした。そばで先生に話し 合い時の心境をうかかうと、「いつもはあんまり主張しない z ちゃんがあんなにがんばっ たからよほどだろうと思って、今日はかけてみたんです。プールもあるのに、ど 1 しょ 5 : ってものすごい悩んでました」とのことでした。 子どもに伝わる大人の思い
んにお母さんごっこで盛りあがって、とても楽 しそうでした。 そこへありさちゃんが「入れて」とやってき ました。まおちゃんはどうしても二人きりで あそびたくて、「あとでね」とか「あっちから ぐる 1 って回ってあっち行って、そっち行っ て、ぐるーっと回ってきたらいいよ」とかいろ いろ言ってみたりしていました。それでも「入 れて」って言、つありさちゃんに、、つーんと考え て、ちょっと困った顔で「いいけど・ : おじさん の役しか残ってないよ」。これにはありさちゃ んも「おじさんの役はイヤだからあとにする」 と、どこかに行ってしまいました。 ありさちゃんのことも好きだけど、今はどう しても二人きりであそびたかったんですよね ありさちゃんにはかわいそうだったけど、いろ いろ考えるなあと感心。その言い訳もかわいら しくて、大笑いしてしまいました。 このように、子どもたちの言動には、その子 その子の思いや願いがこもっていて、幼いなが らも精一杯表現している場面によく出あいま す。そのたびに、おとなも子どもの思いに気づ かされます。 「誰かのために 何かをすること」 五歳児になった春には、こんなことがありま 、 ) した。 夕方の時間、庭に出てあそんでいたところ、 4
かは吟味したいところです ( 活動予告一つとっても、ことばで伝える、次の活動に必要な 教材を準備する、友だちの姿が見えるようにする、あるいはそれを見るように指示するな ど、子どもの発達課題によっていろいろなバリエーションがありますね ) 。あわせて、そ れぞれの関わり方の保育的価値も、子どもの願いや悩み、発達的力量を考慮しながら考え たいことです ( 「タイマーで制御された幼児の生活って、何だか変だよね」など ) 。 ・ : 活動の盛り上がりに注目してみると : 子どもの内面に寄り添いながら保育実践を築く立場から、「切り替え」問題に大切な視 点を提供されているのが、浜谷直人さん ( 首都大学東京 ) と江藤咲愛さん ( 公立幼稚園 ) です。注 1 ) その内容を一部ご紹介します活動の盛り上がりということに注 目すると、図 1 のような時間的な変化がイメージできます。 << 時点では、活 動が楽しくなり始め、これから盛り上がろうとしている途中ですので、ここ で終了を告げられれば子どもは当然不満を覚えるでしよう。むしろ、「もっ とあそびたい」とおおいに抵抗してほしいところです。活動が頂点に達した 時点でもまだあそびを続けたいと思うでしようし、活動がしばんだ時点と では子どもの集中力は欠け、疲れも出てきて別のトラブルが生じかねませか 6 ん。そこで、活動のビークを越えてしばらくした 0 ゾーン ( 一定の時間幅が 盛藤 ある ) あたりであれば、子どもは無理なく切り替える気持ちになる、というの 活浜 提案をされています そして、江藤さんは、このゾーンにおいて、子どもがあそびきった充足感 活動の盛り上がり 浜谷直人・江藤咲愛 ( 2015 ) 「場面の切り替えから保育を見直す」新読書社 時間の経過
たそうです。友だちのがんばりを自分のことのように喜び合える関係が続きますように : ) 夏がくれば思い出す 5 忘れられない保育場面があります。毎年、夏祭り用の大きなおみこしを作っていた園 で、その年は「汽車」型で模造紙が貼られたおみこしが年長組にやってきました。 ? 」ー大勢が「クロ ー ! 」ー@ 「ほかの色がいい子はいな @ 「何色にぬるのかいい ? 」。ほっほっと違う色が出て、 z 子が「ピンク 1 と声をあげました。数名が「い やや 5 、かっこわるい、ヘンやわ 5 」。 @ 「じゃあ、クロの人も、なんでその色がいいの か理由言って」。「だって、汽車の色やし」「そうや、ホンモノらしい」など口々に理由が 出てきます。続いて Z 子、「ピンク、きれいな色やしかわいいし、ぬりたい ! 」 そのうち、一一五名と z 子で「クロ ! 」「ピンク ! 」と言い合いになりました。紛糾してき た時、子が手をあげて「、 しいこと考えた ! 」「まずな、最初にな、ピンクをこれくらい ぬってな : ・ ( 手で幅を示す ) それから次にクロぬっていったら ? 」ー Z 子、イヤと首をふ ーと、否定しなが る。他の子らも「イヤや 5 そんなん」「ぜんぜんいい考えと違うわー らその直後から次々と手をあげ始め、さまざまな「クロ・ピンクぬり分け案」が八人から 出ました。しかし、 Z 子はどれにも首を横に振り「前も横もピンク ! 」と主張します。「 Z 子いつつもそんなんゅうしー」「そうや 1 」とうとう、 Z 子への非難が始まりました。 ( 怒る気持ちもわかる : ・ ) と見ていると、保育者は毅然として「 z ちゃんの理由もある
尾を引き、気まずい産休となりました。結局 は、助けを求めることかできるかど、つかかカ ギかな。 ( 兵庫 ) ・私は迷惑をかけてしまった側です。妊娠が わかり、すぐにつわり、切迫流産と三か月休 職、そのまま退職してしまいました。すごく 迷惑をかけてしまいましたが、そこで無理を なの して本当に流産していたらと田 5 うと : で、まわりには申し訳ないけれど、後海はし ていません。職場の雰囲気にもよりますよ ね。 ( 東京 ) なんでも 理解しあえる職場に ・まず、全職員に妊娠していることを伝え る。そして助けてもらう。これが一番大事。 ①腹圧がかかるような動作をしない。布団 の上げ下ろし、抱っこ、重い物を持つなど、 遠慮せずに割り切って他の職員にやってもら う。②疲れたら横になる ( 私は職員会議中に 横になったことがある ) ③担当のクラスの子 たちに、お腹に赤ちゃんかいることを話す。 子どもが命の大切さに気づき、暴れる子に対 して子ども同士で注意することも。「周囲に迷 惑をかける」という考えは大間違い ! 妊娠を 喜びあう職場環境をつくってほしい。 ( 岩手 ) ・わかります。私も一人目のときはすごく気 にしていました。二人目、三人目・ : と妊娠す るとなれちゃうのか、あまり気にしなくなっ たかも「今無理しないでーとお腹が張った りと、ちゃんとお腹の子が教えてくれます。 周囲のおとなや子どもに知らせることで、子 どもも命と向きあえたり、いっしょに働くま わりのおとなも気にしてくれると思います。 赤ちゃんができたからとか、安定期に入るま では無理したくないなどと、ちゃんと声に出 して伝えることが大切です。無理しすぎて流 産してしまったら、自分はもちろん、周囲も 悲しい。命の誕生をみんなで祝える、大切に できる環境も必要ですね。 ( 三重 ) ・保育士はやはり、切迫流産や切迫早産など このコーナーでは、 ふだんの子育て・保育のなかで気になっているけれど、 なかなか聞く機会のない悩みを募集しています。 あなたの悩みをぜひお送りください。
そんでくれてありがとうの気持ち」や「またあ そびにきてねっていう気持ち」など、今までい っしょにあそんできたことに思いを馳せて考え ている子もいました。 そして、いざ練習に参加して帰ってきたとき のことです。はなちゃんが一人でプンプン怒 っているのです。理由を聞いてみると、「だっ て、はなたちはお祝いしたい気持ちいつばいで 行ったのに、小西さん ( 園長 ) が全部やって、 はなたちなんにもすることなかったじゃん」と 言、つのです。確かに・ : 。「ありがとう」の気持 ちや「お祝いする」気持ちって、どうすれば表 現できるんだろう・ : と考えさせられました。 四歳児はプレゼントを渡す役割があったの で、プレゼントを渡して、握手して、ひとこと 一一一口うことで「お祝いする気持ち」を表現するこ とにしました。 それから一年後、今度は自分たちが送られ る側になったときのことです。卒園証書をもら うときに、一番最初にもらう子は卒園証書の文 章を全部読んでもらうのですか、あとの子は 名前と「おめでとう」のことばのみ。それに気 づいた子どもたちか「なんで、一人だけ全部読 むの ? みんなの分、全部読んでほしいよ。売 一三ロ まないならもらわない ! 」とプイツとそっほを 向くのです。なるほど : ・。そこでみんなで話し あって、一一六人全員分、全文読んでみることに しました。読んでみると小一時間かかってしま 、長い : ・。「やつばり、全員分読んでると長 くなる」「だいこん ( 四歳児 ) が、すっとはっ まんなくなるよね」と話しあい、結局、名前と 「おめでとう」を園長に気持ちを込めて言っても らうことで納得して、証書授与に向かいました。 子どもの一言一言で、ハッと気づかされること かいつばいあります。保育士も日々、学びです。 目標に向かって 運動会のときのできごとです。運動会の当日 は朝まで雨が降り、運動場はぬかるみだらけで した。朝早くから保護者と職員が集まり、ぞう きんで水たまりの水を吸い上げ、汲み取り、運
れたのです。なんて純粋で、深てくれました。グッときました。 てみせたあと、君が自分で開 い考えなんだと感心おとなよ けられるまで見守っていまし りおとな。子ども、すごいな たいつもはイラついて投げ出 ・も、つすぐ卒園する女の子。一 して走り去る君がじっくり取 学んで 歳児で入園したのですが、よく りくみ、カバンのファスナ 1 を かみつくし、進級するたびに環 開けました。見守る君、がん 境の変化で不安定になるし、一一 外あそびの用意がなかなかでばる君に、「子どもってすご 歳児途中で転園した園にもな きない、トイレに行ったままず いなあ 5 」と田 5 . い、私の接し方 じめず、四か月泣き続け、ハン っと帰ってこない・ : とい、つ「十 にもハッとさせられました。 が、さんざん待ってやっと来る おとなの話をよく聞いている ストしたあげく、わが園に戻っ てきたのです。担任がほかの子と、つい「あ 5 もう ! 」と思っ のでびつくりします。友だちが をかまえば怒り、仲よしの子がてしまうのですが、子どもたちケンカしているのを見て、「じ 二人きりであそんでくれないと は「〇〇ちゃんおいで 5 ! 待っ ゃあ、〇〇したら ? 」などと、 すね・ : 。しかし今は、お昼寝時てたよ 5 ! 」と明るく声をかけやさしく話しかけている姿を見 は小さいクラスの子を何人も寝ます。子どもに比べて、自分のると、保育者が子どもに接する かしつけ、寝起きの悪い子たち 小ささを思い知らされました。 態度やことばは、子どもの手本 になるようなものでなければい をやさしくトイレに連れていき 支援を必要とする co 君がカバ ・ : そのワザは、おとなもまねでンのファスナーを開けられず、 けないと改めて思いました。 イライラしていました。そばで きません。そして先日、私の相 ゼロ歳児のときは、「先生、 方が病欠した日「先生、今日一見ていた君が「ここを押さえイヤや」と言っていたちゃん。 人 ? がんばってね」と声をかけてこっちを持つんだよ」とやっ 一歳児クラスになり、フリーと
子どものリアル 親目線と 再発見ー 研究者目線から 服部敬子 京の送り火五山の一つに遠足に行った長女が、「今日な、くんとな、イスが重ねてあ る所を『法』の山ってことにしてあそんでん」と話し始めたことがありました。母「へえ くんと二人で ? 「ちがう、 >< ちゃんもー母「え ? ちゃんも ? いじわる一言 わはるしイヤって言ってたけど : ・もう仲直りしたん ? と返すと、「あそぶ時は仲いいに 決まってるやん ! 」。 形式的な「ごめんね」の仲直りよりも、「いじわる言われてイヤ」っていうのを忘れる くらい遊ぶことが楽しかったら、学童期以降の「いじめ」も少なくなるのだろうなあ : ・と 思いました。 京都府立大学
⑩想像すること 山田洋一一監督の「母と暮せば」という映画は、長崎の原爆を題材とした母と 息子の映画です。広島の原爆を描いた故井上ひさし氏の戯曲「父と暮せば」と 対になる作品を、今度は長崎を舞台に「母と暮せば」とい、つタイトルで、生前 井上氏が構想していたものを、山田洋一一監督が引き継いだ作品だそうです。 戦争を知らないスタッフや役者に、リアリティを追求するために課したこと か、「想像する」ということでした。実際原爆の光をまともに受けた人は亡く なっているのだし、かといって米軍の上空撮影写真なんかではない、直下の市 井の人々があの光、あの爆風をどう感じたの子 か主人公の息子が大学の講義中に受けたその 愛知・けやきの木保育園 目線での映像に、インク瓶が溶け、短い言葉を 発するだけの静かな時間で表しています。観る 側の「パニックで大混乱になったのだろう」と いう浅い空想をかき消す、物も一一口えず、何が起こったのかもわからす、命を奪 われた「その瞬間」がこのうえもない切なさとともに押し寄せてくるのです。 戦後の生活も同様です。「白いご飯に黄色の卵、そこにしようゆをたらすな んて、たまらんなあ」という若い女性のセリフにも、当時は白い米だけでお腹 いつばいなんて食べられなかったひもじさや、一つの卵が手に入ったら、子だ くさんの母ちゃんがその一つを分けあって食べるのだという話を、ていねいに 役者さんへ伝えたそうです。戦争を知らない世代が当時を想像することによっ て、リアリテイか生まれていくーと
声 ン ア か、「今度掘ってきてあげよ、つ持ちをうちに秘めながら生活を どもの中に入ってるんですね 五歳児。担任の一人が休んか」。あまりのやさしさに照れしていたんだと思うと、グッと 胸にくるものがありました。 だときはクラスの子どもたちるやら、元気が出るやら。 年長担任だったときのこと 困った人がいると助けようと が「今日は〇〇先生いないか ら、お手伝いすることがあったしてくれて、気前かよい子ども園の工事に来た建設会社のお兄 ら言ってね ! 」と助けてくれま たちに教えてもらったり、笑わさんを好きになってしまった 私。子どもたちも気づいたよう す。ふだんは保育者が用意するせてもらってばかりです で、お兄さんと仲よくなってい 手拭きのタオルもいつの間にか きました。そんなある日、給食 セットされていました。食事後 子ともの を食べているときの子どもた ことばに のテープル移動だって、「やる ちの会話。「ねえ、〇〇は自分 よ ! とすすんでやってくれる のこと好き ? , 「、つん、好きだ 子どもたち。気づけばたくさん 助けられているなあとウルウル ・四歳児クラスで飼っていたアよ」「△△は ? 」「わかんない」 ふか 「えー、なんで、自分のこと嫌 してしまいました。子どもたゲハ蝶が奇形で孵化したとき、 いなの ? 」「先生は ? 自分のこ ち、本当にやさしいです。 最後まで逃がすことに反対した 発熱して保健室で食事をした君。三歳児クラスまでクラスと好き ? ー「うん、好きだよ」。 四歳の男の子。ス 1 プにさつま内ではひとこともしゃべるこ ( 子どもを前に嫌いとは言えな いよなー ) と思っていると、 いもが二切れ入っていたことをとができなかった彼の思いは、 喜んでいました。「よかったね「外のほかの蝶とうまくやって「そうだよね、だって、自分の いけるかわからないから」とのことが嫌いだったらお兄さんを いいなあ」と一一一一口、つと、いも こと。今までず 1 っとそんな気好きにならないでしよ」と言わ 掘りに行ったあとだったから