接する部分をあけて余裕を見せる ふところを広く軽快に 行書の字形をまとめるときには、 小さく書いて大きく見せることを第一の目標にしたい ところです。そのための方法として、接する部分にアキをつくって字のふところを広く見 せることがあります。 楷書では接筆部をしつかりつけて書き、カッチリした字面を追求しましたが、行書では 逆に接筆部を離してアキをつくり、全体にゆとりのあるのびのびした字形に見せることを 目指します。線質が曲線的になったことで、ふところの広い字に見えているはずですが、 さらに接する部分にアキをつくってみてください。字の内部に余白が多くなって、開放的 な気分が表現されるのではないでしようか。 反対に、行書の開放的な線で、接する部分を几帳面につけて書いてしまうと、風通しの よいはずの空間にフタをしたようで違和感があります。それは、自然な連絡をつけるとい う行書の基本からいえば当然のことなのです。 基本 6 208
ド阯 " 賦に岳 第六日目 接する部分をあける 楷書でつけるところもあけて 点画を離してゆとりをつくる 209
「水」は左をあけて右をつける 「、冫」は三画目を広く 「水」は左右のはらいをたて線にくつつけて書いてしまうと、よこ線とたて線が交差する 「木」とまぎらわしくなってしまいます。誤読を避けるために、左側をあけて書きましょ う。もちろん、字形を美しく見せる効果を上げるためにもアキをつくって書く意味がある のです。左側をあけてゆとりを持たせ、同時に右側をつけてひき締めるという二つの操作 によって、全体を円形にして安定感を持たせるのです。また、「氷」「永」も同様に考え ればよいでしよう。 ついでに同じ「水」から出ていながら、形がちがう「冫」の間隔のとり方を考えてみま しよう。「、冫」は、単純に「いち、につ、さん」のリズムで運筆します。一画目の後、や や左に寄せてニ画目に移ります。このとき、二つの点は角度を変えずに書きますが、三画 目は一、二画目の間隔よりほんの少し広めにあけて、二画目のま下に書き、思い切りよく 上に向けてはね返すように書きます。 秘訣 16 190
【木米人爪 第五日目 「水」「氷」「さんずい」の書き方 く良い例 > あける つける 〇 、厂七 二つ目の点は左にずらして 点の方向をしつかりたしかめて あけて 部分になる「水」も同じ 上に向けて 191
転折や線の接し方はていねいに 転折は丸くしない 同じ字でも、線と線をていねいに接するようにしたときと、離れ離れに書いたときで は、まるで印象の違うものになります。もともと字が上手な人でも、ちょっとした注意カ が欠けるために、ぞんざいな印象を与えてしまう人が少なくありません。接筆は、表情を 左右しますから、しつかりつけて、ていねいに書くことが大切です。 しかし、「目」を見てください。内部の二本のよこ線をすべて右側のたて線につけたと きと、あけたときではふところ ( 字の中のゆとり ) の広さに差が出ています。このように 場合によっては離したほうがよいこともありますから、感覚を身につけたいものです。 次に、転折部 ( 線の方向を変えて折る部分 ) は、右上と左下のふたつのパターンがあり ます。とくに、右上の転折部は丸みをつけすぎないようにします。よこ線あるいはたて線 を引き終ってから、一度押さえて改めて起筆するつもりで、次の線を引きます。このと き、転折部をとがらせたり、押さえの線を長く引きずったりしないことが大切です。 極意 14 114
筆圧で線に変化をつける 緩急のリズムをもって 筆圧のかけ方もポイントのひとつです。せつかく字形が整っても、字を構成する線のす べてが同じ太さや長さで書かれていては、一本調子でつまらないものになってしまいま す。字形だけにとらわれて、点画への配慮がなくなってしまわないように気をつけましょ う。また変化をつけるときに筆圧をつよくしすぎると、ペン運びが遅くなって線が太くな ったり、自然な気脈 ( 目に見えない点画間のつながり ) がつけにくいために線が短くなっ たりします。逆に筆圧が足りないと、線が弱々しくふるえてしまって美しく見えません。 筆圧の変化のつけ方としては、字の軸になるたて線はしつかりとつよく、よこ線は速め に軽快に書きます。そしてはねや左はらいは筆圧をゆるめてペンを速く運び、右はらいは じっくりと運 ぶようにします。それぞれの点画が字の中で占める位置をふまえて、ペン運 びのリズムに緩急のけじめをつけましよう。これによって線質にはおのずと筆圧の変化が 反映されてくるはずです。 ポイント 4
ペンは人指し指と親指で持っ 中指で支えて余計な力を入れない 姿勢と同様にペンも楽な形で持ちましよう。でも美しい字を書くためには、適度な筆圧 ( 字を書くときにペン先にかけるカ ) をかけることが必要です。筆圧とは、つまりペンを 押しつける力のことですから、しつかりとペンを持ち、筆圧を加減する方法をマスターし なければなりません。 ペンの持ち方は箸の持ち方とおおむね同じと考えればよいでしよう。まず、ペン先から 指先までの長さを二センチ前後残して、ゆったりとペンを握ります。中指の第一関節の横 腹あたりでペン軸を支えて、人指し指と親指が連動して筆圧を調節します。人指し指は上 方から筆圧をかけたりゆるめたりという変化をつける働きがもっとも大きく、他のニ本の 指で脇を固めるといった態勢になります。 また、筆記具を支える角度は鉛筆や万年筆は五十度—六十度、ボールペンはペン先のポ ールがスムースに回転できるように七十度—八十度くらいで持つのが理想的です。 ポイント 3
・文章の体裁を整える 字の大小を整える / 字の固有の大きさを知ろう / 余白に対するセンスを養 おう / 紙面の体裁をよくする 〈コラム 4 〉活字と手書きの字の違い 第五日目書きにくい部分の書き方の秘訣 左はらいはゆるやかに / はらいの位置と長さに注意 / 「」のたて線は三 等分して / 「ネは最初の点の位置が大切 / 「楽」の「木」は「ホ」にす る / くさかんむりはひかえめに / 「無」の四つ点は放射状に / は肩をつくる / 「女ーは一画目で形が決まる / よこ線が並ぶときのバラン 「心・光」の曲げとはね上げ / ス / 上下の余白のバランスを考える / 「可ーはたて線の位置に注意 / 左はらいのそりと方向を考える / 「服」と 「青ーの「月」は違う / 「水ーは左をあけて右をつける / 「長、のたては ねは上を見て / 「動」は「カ」を小さめに 〈コラム 5 〉よく見かける草書田 い 9
かなの連綿の基本を知ろう 自然なつなき方の六原則 かなを一字ずっ切り離して書いたものを単体といいますが、二字以上をつづけて書くこ とを連綿といいます。連綿にはさまざまなやり方があり、学ぶべきことはたくさんありま すが、ここでは深入りするのを避け、基本的なケースだけを取り上げることにします。 次頁に示したように、①字の中央から中央へ②中央から左肩へ③右下から左肩へ④右下 から中央へ⑤右下から右肩へ、これらの五つが連綿の基本的なつなぎ方です。ただし、連 綿は右下へ流れる形につないでいくのが自然なのですが、字の組み合わせによっては流れ をつけにくくなります。その流れをつくるために⑥中心移動・変形も行われます。 点や線を連続させて書くのですから、そのつなぎの線 ( これを連綿線といし ) ます ) はで きるだけ形状に無理がなく、短く単純な方がよいというのはもちろんです。なによりも無 理につなげたために誤読されることは避けなければなりませんから、そのための方法、原 則を押さえておきましよう。 基本 8 140
第一日目 筆圧の変化でメリ八リをつける → 2 本のたて線しつかり 細く弱々しい 向き合わせて 線の字 く良い例〉 く悪い例〉 イ夋 イ夋 カづよく どっしりと 右のはらいの筆圧 変化させて 力が入っていても 線が一様 V / 点にも変化がほしい メリハリをつけて 運筆する 力がまったく 入っていない 41