はらいの位置と長さに注意 左はらいは高い位置から短く引き下ろす 「奏」のようにはらいが左右にはりだす字のときには、どちらのはらいものびのびと長く 書くのが字形を安定させるポイントでした。ここでは左右のはらいの長さに差をつけて、 右はらいで安定させるケースについて考えてみましよう。 まず「足・定」のように、左はらいに長い右はらいをつける字があります。このときの ポイントは、左はらいを短くして高い位置から書き始め、右はらいは左上から長く引き下 ろす形にするということです。 一見したところ、左右のバランスを欠いて不安定なように思われるかもしれませんが、 そうではありません。左はらいを高い位置に短く書くことで、下に空間が生まれます。そ の空間をはらむようにして、接する右はらいを長く伸ばせば、空間を利した安定感が得ら れます。このバランスで字を組み立てれば、より上品な印象が得られるようになるので す。このバランスは、思ったより形がとりやすいので、早速実践してみてください。 秘訣 2 162
右肩が傾いている字 姿勢を正してゆっくりとペンを運ぶ 〈分析〉 < のように形そのものはそれほど悪くないのですが、カづよさがなく貧弱なタ イプがあります。右肩下がりの形になってしまったために、全体的に安定感に欠け、いゝ にも自信のなさそうな印象を受けてしまいます。 反対にのように極端に右肩上がりのつよい字は多く見られます。右肩をからだの前に つきだすようにして、元気よくべンを運ぶ人によく見られるタイプなのですが、勢いよく ペンを走らせるため、よこ線の右上がりがつよくなってたて線まで傾いてしまうのです。 この字形は不安定でまとまりがありませんから、文章になると中心の通らないばらばらな 印象をあたえるものになってしまうのです。 〈対策〉いずれのタイプも姿勢を正して書くことから始めましよう。からだを紙に対し てまっすぐに置いてゆっくりとペンを運び、よこ線をやや右上がりの方向に書く練習をし ましよう。同時にたて線をまっすぐに書いて背骨を通すようにします。
ニ本のたて線は平行型かすぼめ型 アウトラインはたて長かよこ長か アウトラインが四角形になる字には、二本のたて線が左右に立って、互いに向き合うも のがあります。この類の字は多くありますから、考え方を明確にしておけば、いつでもこ の理論をあてはめて書くことができます。 さて、その二本の対応するたて線を、平行にするか、下をすばめるかそれが問題です。 そのいずれをとるかは、概ね次の基準によって判断すればよいのです。 ①たて長の字は、ニ本のたて線をまっすぐに引き下ろす ②よこに長い字、よこに広い字は、ニ本のたて線の下をすぼめる形にして引き下ろす。 前者は、ひょろ長の不安定な字形にしないための工夫です。後者は、逆にふくらみすぎて 締まりがなくなり、品生を失ったイメ 1 ジにならないようにするための工夫なのです。関 取の四股の形が下すばまりになっている体勢が、安定して美しく見えることに通じます ね。それぞれ字例にあてはめて検証してみてください。 基本 11
左はらいはゆるやかに 適度な空間を確保する これまでは個々の字や、字の集団を美しく整える方法を学んできました。ここからはさ らに細かく、字の〃部分〃をとらえて、さらに字形をバランスよくまとめるための方法を マスタ 1 していきましよう。 さて、「千」に代表される左はらいは小さな部分ですが、この角度をつよくして立てて しまうと、先端がとがって字形が細長くなり落ち着きません。そこで「千」のように、下 によこ線を書く字の場合には、左はらいの角度をゆるやかにして、おだやかな字形を目指 します。左はらいとよこ線の間に適度なふところをつくって、安定感を生み出すことがポ イントになるでしよう。 この原則は、「妥」のように左はらいの下に点を書く場合や、「不・・采」のような へんにも応用できる考え方です。左はらいは、字の上に安定して乗っていられるようなゅ るやかな角度で、次の点画につながりよく仕上げましよう。 秘訣 1 160
「たれ」の中はやや右よりに 中心をすらす 「厂。「广ー「广」「尸ーなどのいわゆる〃たれ ( 垂 ) 〃をもっ字は、たれと下の部分の中 心の位置のとり方によって字形の安定をはかります。 たれの中央にくる点や、上のよこ線のまん中を中心ととらえて字形を組み立てるのです が、たれの下にくる部分は全体の中心よりもやや右に寄せて書きますそうすることで、 左右への張り出し方が均等に近づき、左右対称のバランスがとれるのです。 かりにたれの中心と内側の中心をまっすぐ通して書き上げると、右下への張り出しが少 ないために、字の右側がそげて力がなくなってしまいます。まるで左側だけにおもりを付 けたやじろべえのようなもので、安定感を欠く形になってしまいます。 つまり、たれのある字では、字か左側に多く片寄っているという印象を与えないように 配慮することが必要なのです。 その辺のところを字例によって確かめてみましよう。 基本 12
ニ本以上のよこ線は方向を変える 右上がりをつよくする三本線もある よこ線が二本以上並ぶとき、方向を少し変えることによって、字の動きを表現します。 これにはいろいろな場合が考えられます。 例えば、まず「二、や「三」のように長いよこ線が下にくるときは、上の短いよこ線の 右上がりをつよめにし、下の長いよこ線は、文字全体の安定を得るために、右上がりを抑 えてゆったりと書きます。これで、変化と同時に落ち着きを与えることができるわけで す。次に、短いよこ線三本の長さをあまり変えずに書く字で、「奉」のように右はらいが 交差したり接したりする場合、「銭」のように右下に向かう長い斜め線が交差する場合が あります。これらの場合、下の線ほど右上がりを強くして、三本の線を右上がりに集約す るように書き上げます。これによってひきしまった安定感が生じます。 なお、これは応用編ともいえるものですが、よこ線一本に斜め線が交差する「戒」のよ うな場合にも、よこ線の右上がりを特につよくしましよう。 意
第七日目 く悪い例〉 基本 2 よこ線は水平に近づける イ刀夏の日は葉の 露いト 9 めい 7 右上がりがつよいと 全体の落ち着きがない く良い例〉 よこ線を水平に近づけると 安定感が増す 初夏の日は葉の 3 いトめいイ 字のよこの中心を通して並べる 233
中心を意識する 背骨を通して字形を整える 字の形をまとめるためには、中心を定めて安定させる必要があります。人間の体には中 心を貫く背骨があります。背骨がまっすぐに伸びたよい体型と、曲がって不健康なイメー ジを与える体型があるように、字にも中心の通った整った形もあれば、傾いたものもある のです。そして字形の良し悪しは、中心を通してバックポーンを安定させることができる かどうかで決まります。 それができたうえで、字の点画の形に応じて長さや角度を調節して、中心から左右への 張り出しを同じくらいにします。これができるようになると、字は左右対称になり、楷書 が飛躍的にうまく書けるようになります。自分で意識して字を書くことで、目的に応じた バリエ 1 ションをつけられるようになるのですから、この調節の方法をマスターすること が文字学習のすべてといっても過言ではないでしよう。これは行書にも共通することで、 その応用範囲は非常に広いものなのです。 基本 2
第五日目 短い左はらいは立てない 入筆はよこから、 立てすぎると 落ち着かない く悪い例〉 安定する角度 く良い例〉 下の「女」は平たい字形に 一ワ日 、ソ とんがり屋根が二つで落ち着かない できるだけ平らにしてバランスを保つ 161
、若至宇童 第三日目 長いよこ線は一本だけ 一本だけ長くして バランスをとる く良い例〉 一番下のよこ線だけ長くする スス 下のよこ線を長くして安定させる 1 よこ線の長さ変化を見逃すな 95