書き順は変えられる 速く書けて、バランスがとりやすい書き順で 楷書の書き順は、文部省の『筆順指導の手引き』に準じて書くことが多く、その意味で はあまり融通がききません。しかし、行書では筆の流れに重きがおかれ、速く書くことを 主眼とするため、いくつもの書き順を持っ字が多くあります。 行書だから書き順を変えてよいということもありますが、もともと楷書でも幾通りかの 書き順を持っ字があり、それが行書を書くという自由な気分とあいまって、いくつもの書 き順ができたのです。ただし、相当自由に書けるとはいっても、自分勝手な書き方はいけ ませんから、原則をしつかり学びましよう。 例えば「馬、には、二通りの書き順があります。一般的な書き順は、左側のたて線のあ と、四本のよこ線を次々に書き、最後に中央のたて線を書きます。かまえができたところ で、最後に点をバランスよくあてはめていくというものです。この書き順は、字形のとり やすさや書写効率の面からもよい順序であるといえます。 基本 9 214
第二日目 書き頂 3 以 YA 左から順に書き進める 右上の点と線は、「点→ 右はらい→点」の順で書く つ卵 中へ入れる点の順番をよく見て この書き順が学校でも教える 標準的なもの 下部は「中央→左→右」の 順に点や線を書いていく 中央の長いたて線を中心に するつもりで書く 必衆飛 69
「へん」のたて線は必すとめる 「へん」には引きぬくたて線はない まず、「〈ん」の長いたて線の最後は、とめるか、はねる形しかないことを知「ておき ましよう。ついでに、「つくり」の長いたて線はとめてもはら「てもよい場合が多く、必 ずはねるものもある、と理解しておきましよう。 さて、よく字をぞんざいに書いてしまう人の中には、はねないで書くべき「〈ん」のた て線を、サッとペンを抜きはら「てしまう人がいます。これでは字が尻切れトンボの印象 を与えるものになります。原則として「、ん」のたて線をはらうことはない、と心得てお きましよ、つ。 例えば、よく誤って書くものに、「 中・牛・耳・車」などがあります。これらは、「へ ん」としてでなく、単独で書くときには、たて線をとめてもはら「てもよいため、「、 ん」として書く際にも混同してしまいがちです。「へん」として書く場合は必ずとめるも のですから、区別して覚えておきましよう。 極意 6
上下左右の均整をとる 見た目に同じになるように 「言」のようによこ線が何本も並んだり、「冊」のようにたて線が同じ方向に並んで、線 や点がいくつも並ぶ字があります。それらの間隔を等しくとることで、均整の美をつくる のがこの項の課題です。それは分かっているけれど、手が動かないのだ、とはよく聞く言 葉です。しかしそれは、頭に余白に対する感覚が定着していないということなのです。そ れは培われるもので、はじめから身についているわけではありませんから、障子の桟や横 断歩道など、等間隔の事物を見かけたら、その機会に感覚の訓練をしてみましよう。 さて、間隔をそろえ、まとまりよく見せるために、昔から使われる方法に分位法があり ます。「一言」の字を書いて、等間隔にするべき余白に、丸を書き入れてみて下さい。その 丸は同じ大きさになっていますか ? 余白が均等であれば、丸は同じ大きさになります。 他の部分よりも余白が狭いと、小さな丸になってしまうはずです。いずれも定規で測って 区切るわけにはいきませんが、見た目にアキが同じになるように配慮して書きましよう。 基本 3
まっすぐな線の練習法 なぞり練習のすすめ 字形以前の問題で、線が傾いたりゆがんだりするためにうまく書けない人も多いはずで す。まっすぐな線とゆるやかな曲線は美しい字形の大切な要素ですから、まず、まっすぐ な線を書く練習をしてみましよう。 練習方法としては、よこ線の練習をするときには定規で水平線を何本か書いておきま す。その線を基準にして、それよりもやや右上がりになるように、そらせながら書いてみ ましよう。たて線の場合は垂直線を引いておきます。その線をなぞりつつ、左や右に傾か ないように気をつけて書いてみてください。、 ひんせんやノート、レポート用紙の罫線を利 用するのもよいでしよう。初めのうちはゆっくりていねいにやってみましよう。そして次 第にスピードアップして、通常のペン運びのスピードまで上げていきます。 これらの基本を生かして、次項では日常生活で、もっとも書く機会の多い自分の名前を 練習していきましよう。 ポイント 6
「同形」は大きさに差をつける 八ランス感覚を身につけよう それほど多いとはいえませんが、同じ形の部分を二つ以上重ねて書く字があります。こ れらの字はバランスのとり方が微妙で、その加減によって表情が大きく変化してしまいま す。つまり、大きさを調節する感覚を養うにはうってつけの素材ともいえます。 ここでのポイントとしては、同形の部分が並ぶときには、大小の差をつけることで表情 に変化をつけ、バランスをとるということです。 ①二つの場合Ⅱ「林・多」などの、ニつの同形部分から成る字は、あとで書く方を大き めにします。すなわち、右側や下の部分が大きくなるようにします。 ・森」など三つの部分から成る字は、書き順に従って、大小中の大 ②三つの場合Ⅱ きさで配置します。 ③四つの場合Ⅱ「器、などは、順に小中中大の大きさで組み立てます。 ランス感覚の点で応用がきくので心得ておきましよう。 これらの例は多くありませんが、バ 基本 15
より小さく書くかな 漢字は十、かなは八の大きさで 通例、漢字の大きさを十とすると、ひらがな、カタカナはそれよりやや小さめの七 5 くらいの大きさで書くのが一般的です。ただ、漢字にも小ぶりに仕上げるものがあるよう に、ひらがなにもさらに小さめに書く字がありますから、区別をつけていきましよう。 漢字の場合には、画数が少ないものを小さめに書くことを前に述べましたが、かなの場 合にはどのような基準があるでしようか。慣例に従って書き分けられているというのが本 当のところなのですが、判断の基準がないとわかりにくいという人は、「か・こ・さ・ と・め・ら・る」などの七つの小さく書くかなを普通の大きさで書いてみましよう。一字 のなかの余白の面積が大きいために、これらのかなが突出して極端に大きく見えてしまう ことに気がつくはずです。ですから小さめに書くかなは区別して、いつも小さめに書くよ うに習慣づけてください 次のひらがな・カタカナ手本を参照して、実際に書いて練習してみましよう。 基本 5 130
「服」と「青」の「月」は違う へんでははらい、下ではとめる 「服」と「青」の「月」には大きな違いがあります。今まで区別があることを知らなかっ た人もいるかも知れません。たしかにどちらでもよいのですが、字形を考えるときには書 き分けが必要なのです。 へんやっ くりに「月」を書くときは、はらう形がよいでしよう。この場合は左右のたて 線の長さを揃えて書きます。むしろ、はらってある分だけ、左はらいを長くしたほうが安 定感が得られます。 漢字の下の部分に「月」か置かれるときは、はらわずにとめてまっすぐに書くことで、 字形をひき締めます。例えば「青」では、はらう「月」で書くと、大地から足を浮かせた ようなものでフラついた感じがしますから、左のたて線をとめて、右のたて線をどっしり 長めに書いてはね上げます。なお、いずれの「月」も中のよこ線は右側をたて線につけず に、空間を広く見せて書くほうがよいでしよう。 秘訣 15 188
字の固有の大きさを知ろう 小さく書く漢字もある 最近の女性の間で考えられている美形の条件は、顔が小さいことだそうですが、もし皆 がそうなってしまったら、どうでしようか。大きさが揃いすぎたり、形が同じものばかり では異様ですし、おもしろみもなくなってしまいます。やはり、人間の顔立ちはそれぞれ 違って、大きさもさまざまであるところに個生が感じられるのではないでしようか。 同様に、字にも固有の大きさがあるのです。原則的には漢字を大きく、ひらがなは小さ めに書きます。しかし「日・白・田・ロ」などの漢字は、 小さく書いたほうかバランスか よくなります。第二日目に学んだ通り、周りを囲む線がある字を、他の字と同様に大きく 書いてしまうと、全体のバランスをくずしてしまうためです。さらにひらかなの場合にも より小さく書く字がありますから、その字固有の大きさを知って書くことが大切なので す。画数の多いものは大きくなり、少ない文字は小さめになるという前提を念頭に置い て、小さく書くべきものを整理しておきましよう。 基本 14 152
書き順のルールを守る 書き順は美しい字形へのパスポート 「書き順に気をとられて、ぎこちなくなってしまうよりは、書き順を気にせずのびのび書 く方がいいんだ」と考える人もいるかもしれません。ところが、設計図をもとに建物を建 築していくように、書き順をたどって一つの字を書くべきところを無視して書き上げる と、外形もおのずから変化してしまうのです。 長い時を経てでき上がった書き順には、それなりの意味があります。書写能率の上から はもちろん、字形を整えやすい順序にもなっているのです。これらの要素は、字の統一感 や勢いにも影響を与えますから、おろそかにはできません。その意味で、字の美しさは正 しい書き順から生まれる、といってもよいでしよう。 書き順の大原則として、①上から下へ②左から右へ、というのがあります。そのほかの 原則も含めて質問形式にまとめてみましたので、自分の場合に照らしてチェックしてみま 1 ) よ一つ。 基本 8