精神生活 - みる会図書館


検索対象: チャタレイ夫人の恋人
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1. チャタレイ夫人の恋人

能を押しつけることから、必ず生まれてくるものなんだ。われわれは最も深い感情をある思 いっきに従って押しつける。われわれは機械のように、一定の方式に従って自分を押し進め る。理論的精神が百般のものを支配しているように見えはするが、やがてその百般のものが、 純粋の憎悪に変わってしまう。その点でわれわれもみなボルシエヴィストなのだが、ただわ れわれの方が偽善者であるだけだ。ロシア人はポルシエヴィストだがその偽善はもっていな 「だがソヴィエトのやりかたでなくても、まだほかにもいろいろなやりかたはあるよ」とハ 人 恋モンドが言った。「ポルシエヴィストはほんとうの知識人でない 人「もちろんそうじゃないさ。しかしときには間抜けであることが知的だということもある、 イ 君の筆法でゆけば。僕の考えではボルシエヴィストは間が抜けているね。だがわれわれ西欧 レ タ の社会生活も間が抜けていると思う。そして、われわれのおなじみの精神生活なるものも間 ャ チ の抜けたものだと思う。われわれはクレチン病患者のように冷血漢で、情熱を欠いていると ころは白痴みたいだ。われわれはみなポルシエヴィストだ。ただ別の呼び名で呼んでいるだ けだ。自分を神 : : : 神のような人間だと思っている ! これはポルシエヴィストも同じこと さ。神やポルシエヴィストになりたくないならば、人間らしく心臓とペニスをもっていなけ ればいけないよ。神とかポルシエヴィストというのは同じものなんで、そんなに結構なもの が本当に存在するとは思えないね」 皆は賛成できかねるというように黙りこんだが、べリーが不安そうにきいた。

2. チャタレイ夫人の恋人

174 女よりすぐれた指導者であったのだ。 だが今では精神的な幸福は消え、崩れ去り、ただ肉体的乖離のみを感ずるのであった。そ の感じが彼女の深い内部から湧き出してきた。そして彼女は、自分の生活がどんなにそれに むしば 蝕まれているかに気がついた。 彼女は自分が、弱いたよりないものになったと感じた。何か外側から救いが来てくれれば、 と思った。だが、この世のどこからも、救いは現われそうになかった。社会は狂った布ろし いものだった。文明社会というものは狂っていた。金銭と、いわゆる愛とが、社会の二大狂 人 恋気であった。なかでも金銭のほうがはなはだしかった。個人はそのばらばらに狂った精神で、 人この二つのものに熱中しているのだった。たとえばマイクリスがそれだ ! 彼の生活と行動 はまさに狂気である。彼の恋愛も一種の狂気なのだ。 タ そしてクリフォードも同じことだった。あの会話のすべて、あの著作物のすべて ! それ ャ チ はみな自分を押し出すための悪あがきにすぎないのだった ! それはまさに狂気である。し こう かもそれはますます昂じて偏執狂的になっている。 コニーは恐怖のためにへとへとに疲れていた。だがありがたいことに、クリフォードの支 配の手は彼女から去って、ポルトン夫人に移されようとしていた。彼自身はそれに気づいて いなかった。多くの狂気の人間がそうであるように、彼の狂気は、自分では気がっかないさ まざまなこと、彼自身の意識の広大な不毛の地域によって、測ることができるのであった。 ポルトン夫人は何をやらせてもみごとにやってのけた。だが彼女も現代婦人の狂気の特色 かいり

3. チャタレイ夫人の恋人

きない未来のことだろう。その後に残るものは、抽象的な形式という無尽蔵の領域である。 それから、それ自身の創造物で新たに決定される変化しやすい性質を持っ創造作用と、その えいち もとい こういうふうに彼は結硎づけているー 叡知が秩序のすべての形式の基となる神だ』 けいべっ コニーは軽蔑するように聞いていた。 たわ′」と 「その人は精神的にだめになっているのよ」と彼女は言った。「なんという戯言を ! 想像 もし難いだの、墳墓の秩序の型だの、抽象的な形式の領域だの、変化しやすい性質の創造作 用だの、そして神が秩序の形式と関係があるだの ! なんて馬鹿な ! 」 人 ばくぜん 恋「それは確かにまあ漠然とした結合物だがね、いわば気体の混合物みたいに」とクリフォー 人ドは言った。「しかし、宇宙が物質的に消耗して、精神的に上昇しつつあるという思想には イなにかあると思うね」 タ 「そう思いますの ? じゃ、ずっと高く、精神を上昇させればい ) しわ。私はずっと下の方に ャ チ 物質的に、しごく安全にしつかりと住んでいるわ」 たず 「あなたは自分の肉体というものが気に入っているのかね ? 」と彼は訊ねた。 こんなしし。 ) ) ナつをした女はいないよ ! という一言葉が彼女の心のなかを 「大好きょ ! 通り抜けていった。 「が、しかし、それはほんとうは少し変な話だ。肉体は邪魔物だという考え方は否定される べくもないからね。が、たぶん、女というものは、精神的な生活に最高の喜びを味わうなん てことはないのだろう」

4. チャタレイ夫人の恋人

とりばっちで寝るわけだ。だからといってそれを軽蔑してやしない とにかく僕はそれを 望んでいる。というのは見当がっかないからだ。僕にはそういうことをするのにじゃまにな いんせい るような天文学の計算とか不滅の作品とかいう仕事がない。僕はただ軍隊の中に隠棲してし まった人間なんだ : ・ すわ 皆がおし黙った。四人の男たちはタバコをすった。坐っていたコニーはまた縫いものを続 けた : : : そうだ、 , 彼女はそこに坐っていたのである。彼女は黙っているほかなかった。彼女 は高い精神生活をしているそれらの紳士たちの、際限もなく重大な思索にたいしては差し出 人 恋口をしないで、まったく沈黙していなければならないのだった。だが彼女はその場にいなけ 一ずまないのだった。考えが浮かばないのだった。 人ればならなかった。彼女かいないと話はは イ コニ 1 がいないときにはクリフォードはずっととげとげしく神経質になり、逃げ腰になりや レ タ すく、会話はすすまなかった。トミー ・デュークスがいちばんよくしゃべった。 , ー 彼よコニー ャ チ がいると少し興奮するのだった。 , 彼女はハモンドがあまり好きでなかった。彼は精神的にひ どく利己的な人間のように思われた。チャールズ・メイにはすこし好きなところはあったが、 天文学者であるにかかわらず、どうも下品でだらしないところが気になった。 これら四人の会話に耳を傾けて幾晩コニーは坐っていたことかー ときにはほかに一人二 人加わることがあった。彼らの話がどんなことになろうとも、彼女はあまり気持ちを乱され なくなった。 , 彼女は、特にトミーがいるときの彼らの話を聞くのが好きだった。おもしろい 礙ことでもあった。接吻したりからだで触ったりするかわりに、男たちは自分の精神の内部を せつぶん けいべっ

5. チャタレイ夫人の恋人

「で、あなたは、男と女との関係を重大なものだと思う ? 」と彼女が訊いた。 「おれにとってはそうだ。もしおれが女性と正しい関係を持っていれば、それがおれの生活 の中核になる」 「では、それが得られなかったときは ? 「そのときはなしで済ます」 彼女はまた考えこんだが、やがて訊くのであった。 「それであなたは、いつも女性にたいして正当なことをしてきたと思う ? 」 人 恋「決してそんなことはない ! おれの妻がああいうふうになったのは、おれがさせたような 人ものだ。おれもずいぶんいけなかった。甘やかしてだめにしたのだ。それにおれは、ひどく イ 疑い深い人間だ。あなたもそう思ってくれ。おれが心からだれかを信ずるようになるのは容 レ タ 易ではない。だからたぶん偽りの多い人間なのだろう。人を信じにくい性質だ。ただ優しさ ャ チ だけは見まちかうことかない 彼女は彼に眼をやった。 「あなたは、血がたぎってきたときの自分のからだのことも信じないの ? 」と彼女は言った。 「それも信じないの ? 」 「悲しいけれど、信じきれないんだ ! 情熱のためにおれはいろいろな面倒にまきこまれた。 そのためにおれの精神はあらゆるものを信じたがらないのだ」 377 「精神なんか、どうでもいいじゃないの。そんなこと、少しも問題じゃないわ ! 」

6. チャタレイ夫人の恋人

とうはクリフォードといっしょに森へなど行きたいとは思わなかったのである。それで彼女 は精神的に、ある頑なさをいだいて彼の車椅子のそばを歩いて行った。 「ないさ」と彼が言った。「うまく万事をとりはからってゆけば、もうストライキなどはな くなるさ 「どうしてですの ? 」 「ストライキが不可能なようにしてしまうんだよ」 「でも坑夫がそんなことをさせておきますの ? 」と彼女が訊いた。 人 恋「あの連中に訊いてするのじゃない。彼らに気づかれぬようにするのだ。それも事業をだめ 人にしないように、彼らの利益になるようにだよ」 イ 「それはあなた自身の利益にもなることなのでしよう ? レ タ 「それはあたりまえさ ! 全部の利益になるようにだよ。それは僕自身のためよりは、彼ら ャ チ のためになるのだ。僕は炭坑なしだって生活できるが彼らにはできない。彼らは炭坑がなけ れば飢えに迫られる。僕の方には別の生活手段がある」 へび 二人は炭坑のある浅い谷間と、その向こうに蛇のように丘を這い上がっているテヴァーシ ャル村の黒屋根の家並みをながめた。古びた褐色の教会で鐘が鳴っていた。日曜日、日曜日、 日曜日とー 「でも炭坑は、あなたの条件を受け入れるでしようか ? 」と彼女が言った。 「そりや、受け入れるほかないね。ただもの柔らかにやりさえすれば」 331

7. チャタレイ夫人の恋人

それでいて彼は野心をいだいていた。小説を書くのに熱中していたのである。それは、以 前に知っていた人々のことを書いた、奇妙な、非常に私小説的な小説だった。意地の悪いほ ど鋭いものであったが、それでいて全くふしぎなぐらい無意味なところがあった。観察眼の 異常に強い特殊なものだったが、人を動かすような現実的な手ざわりはなかった。全部が人 工的な世界で起こったような作品だった。けれども人生そのものが強い人工照明に照らしだ されているような今日においては、彼の小説は奇妙に現代生活、つまり現代の心理に忠実だ 人 恋クリフォードは自分の作品に関して病的に敏感だった。彼はあらゆる人間に、それをりつ 人ばな、最上無比の作品だと考えさせたかった。作品は最も現代的な雑誌に掲載され、評判は イたいてい賛否なかばした。だが悪口は、クリフォ 1 ドに突き刺すような苦痛を与えた。彼の タ 全存在はその小説の中にあるようなものだった。 ャ チ コニーはできるだけ彼のために尽くした。はじめは彼女にはそれがおもしろく思われた。 しつよう 彼はあらゆることについて、単調に、熱心に、執拗に話すので、それに答えるにはありった けの力を出さなければならなかった。 , 彼女は精神と肉体と性のすべてをふるいたたせて彼の 物語の中にはいって行かねばならぬようだった。それは彼女をおもしろがらせ、熱中させた。 彼女は家内の監督をしなければ 肉体的な生活というものを二人はほとんどもたなかった。 , きよう ならなかった。だが家政婦というのがジョフリー卿に長いあいだ仕えた女で、愛想気のない、 かなりの年の、この上なくきちょうめんな女だった : : もう奥女中とも、ただの女性とすら

8. チャタレイ夫人の恋人

必然的にからだの交渉がおこるというならば、それはしかたないことだ。それは一つの章の 終わりのようなものだった。肉体の交わりにはそれ特有の喜びがあった。それは自己の存在 けいれん せんりつ を確認する最後の痙攣、肉体の内部に奇妙にひろがってゆく戦慄的な喜びであった。それは そうにゆう 一つの文章の結末を示す最後の言葉のような、主題の切れ目を示すために挿入される星印 の列が与えるような、刺激的なものだった。 一九一三年の夏休みに帰国した時に、ヒルダは二十歳でコニ 訳注ス「ン ) は十八歳だっ た。父親は、二人に恋愛経験があることをはっきり見てとった。 人 のだれかの言葉をかりれば、 L'amour avait passé par ( 恋がそこを訪れた ) だった。自 人分自身そういう経験をもっていたので、彼は娘らの生活を拘束しなかった。母親はそのとき、 イ 死ぬ数カ月前で、神経質な病人だったが、 , 彼女も娘らが《自由》であり、《自分の生活を充 レ タ 実させる》ことのみを望んでいた。 , 彼女は自分というものをしつかりとっかんだことがなか ャ チ 彼女にはそれが許されなかった。その理由がどこにあったかは不可解である。という みち のは、彼女は自分自身の財産も持っていて、自分だけで生きる途もあったのだから。彼女は 夫を悪く言っていた。だが彼女が脱却できないでいたのは、じつは彼女の精神に加えられて いたある種の古い権威の重みだった。マルカム卿は、この神経質な敵意に満ちた、非常に精 神的な妻に家のことはすべてまかせて、自分は自分の道を歩いていたから、そのことには何 の関係もなかった。 そういうわけで娘らは《自由》だった。二人はドレスデンに、音楽に、大学に、青年らに アステリスク

9. チャタレイ夫人の恋人

あの美しい絵を。僕も自分ので何かしたいんだ。まったく 、 ) やはや ! しゃべることしか できないとは ! 地獄にこの責め苦が一つふえたわけだ ! こいつはソクラテスから始まっ た責め苦なんだ」 「世の中には優しい女もおりますわ」とコニーが頭をあげて沈黙をやぶった。 それが男たちの気に入らなかった : : : 彼女は何も聞こえないふりをしているべきだったの だ。こういう話に彼女が自分からずけずけと加わるのを男たちはきらった。 《いやはやまったくー どんな優しい女も意味がない 人 訳注ジョージ・ウイザ 恋 の おれに優しくしてくれないのならー》 ( 〔一五八ノ ー一六六七〕の畆・ ) 人 夫いや、絶望だ ! 僕は女といっしょに感動することができないんだ。面と向かってみれば イ 心から欲しいと思う女はいない、そして、自分を駆り立てることもできない : ・ : ああ、だめ レ ャだ ! 僕はこのままでは精神生活を続けるだけさ。僕が正直にやれるのはそれだけなんだ。 チ 婦人と《話をする》ときは幸福だと思う。が、それはまったく純潔なんだ ! 望みのない純 潔さなんだ。まったく望みなしの純潔さだ ! ねえ、ヒルデブランド、君はどう思う ? 「純潔にしていればめんどうな問題は少ないでしよう」とべリーが言った。 「そうさ。人生というやつはすごく単純なんだ !

10. チャタレイ夫人の恋人

のでもないという考えに。セックスのことは長い生活の自然さにうまく従属させられると思 わないか ? それはしてもかまわないことだ、自然の命ずることなのだから。しかしけつき よくそういう一時の興奮が何だろう ? 人生の全問題は、統合的人格というものを、徐々に 長年の統合された生活によって、築きあげることにあるのではないかな ? ばらばらな生活 。もしもセックスの不満が支障を生むならば、恋愛をすべきだ には中心点などありはしない し、それと同じことで子供のないことが支障を生むならば、なんとかして子供をもつのだね。 それは、永続する調和のあるものを作る完全な生活を得るためにすべきことだと思う。そし 人 : もしも必要な 恋て僕とあなたとのあいだではそれができると思う : : : そう思わないかね ? ・ 人ら適応してゆくようにし、その適応というものをも、いっしょに長く続く生活に織り込んで イ しまう。あなたは賛成しないかな ? 」 レ タ コニーは彼の言葉に少し圧倒され気味であった。彼の言うことが理論的に正しいことはわ ャ チ かっていた。だが実際に彼といっしょに暮らした堅実な生活のことを考えると : : : 彼女はな ちゅうちょ んとなく躊躇するのだった。この後の一生も、彼の生活の中に織り込まれていなければなら ないのだろうか ? それ以外どうしようもないのか ? それがほんとうだったのか ? 彼女は彼と堅実にただ一つの生活の布を織ってゆき、とき どきの恋愛で浮き織り模様をその上に出すだけで満足すべきだというのだ。だが来年になっ たらどう考えるかわからないではないか ? だれにわかるだろう ? どうして、必ずそうで す、と言いきれよう ? 幾年も幾年ものことを。そうです、という短い言葉はひと息で言え