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検索対象: プロ弁護士の思考術
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1. プロ弁護士の思考術

◎ーー「エリートもとき」がはひこる すそうはいっても、反対意見に耳を傾けるのはやはり難し、 しいわゆるエリートほど、自分 制 つの判断に自信をもち、反対意見に目をつぶるものである。 め エリートは、卓越した教養と見識をもつはずである。物事を感情的ではなく、合理的に処 認 義理することができる人物のはずである。 正 の だが、このごろは薄っぺらなエリートもどきがはびこる。一流大学をトップで卒業したと 人 他か、最年少で司法試験を受かったとか、アメリカの一流ロー・スクールに留学したと誇示す 嶂る人物もいる。だが、しよせん、記憶力と多少の論理力をためす試験に勝ち抜いただけのこ 第 とである。すぐれた倫理、知恵、適応力、洞察力が問われたわけではない。生きる知恵と学 4 自分を正しく評価するーー利発ほどきたなきものはなし 133

2. プロ弁護士の思考術

強力に依頼者の立場を主張すべきである。そうでなければ「依頼者の代理人ーとはいえない のである。 しかし弁護士は、一方では依頼者を代理する立場にありながら、他方では、主張を裁判官 という第三者 ( 世間 ) によって判断されてしまう。あまりに一方的な主張をすれば、裁判官 に簡単に否定されてしまう。半面、あまりに中立的な主張をしては、依頼者の利益を最大限 に守ることはできない ぶ こうして弁護士は主観と客観とのジレンマに立たされる。 結 固 つまり、過大な要求をしても裁判官は認めないし、過小の要求をすれば依頼者の立場を守 を 加ることができない。かといって、はじめから「相場」の損害賠償をするのでは、迫力のない 戦ことおびただしい。 AJ カ◎ーー合理的な最大限の要求 え せぎ 考 東京地方裁判所判事の瀬木比呂志氏は、弁護士は相手 ( ときには裁判官 ) の視点から事実 章を見ることが絶対に必要だという。優秀なのに主張、立証に迫力がない弁護士は、この視点 第 を獲得できていない 191

3. プロ弁護士の思考術

助言する。裁判になれば相手も敗訴のリスクがある。勝ったところで大幅に減額されるに決 まっている。実際、私の依頼者が桁違いの請求を裁判で受けたため、反訴してこちらが損害 賠償をとったこともある。過大な請求はしばしば逆効果である。 私は、「合理的な最大限の要求ーが、依頼者の立場を守る最もよい方法であると思う。一 方では依頼者の利益を追求しながら、裁判官という第三者にもアピ 1 ルする主張をしなけれ ぶばならない。そうすればジレンマを解消することができる。 固 これは、。 ヒジネスの交渉でも同じである。過大な要求をすれば交渉は決裂するし、妥協し を 加すぎれば自分の利益を害してしまう。第三者 ( 世間 ) から見て過大な要求は、かえって相手 、つ 戦の強硬策を招くものである。密室の交渉と思っていても、裁判になれば第三者の目にさらさ れることを承知の上で交渉しなければならない カ る え ◎ー・ー思考の三つの類型 考 章 しばしば誤解されるのだが、弁護士であれば紛争処理にあたって同じような手を打ち、似 第 た結果が出るかというとそうではない。人間相手の紛争処理にはこれと決まった処方箋があ 193

4. プロ弁護士の思考術

十七箇条』には、敏景の合理的思想がよく表れている。 敏景の時代は吉凶判断が盛んだった。戦いのときに進む方角が凶と出た場合、いったん別 、力学に ~ ~ ・刀 の方角へ行き、そこから方角を変えて目的地へ行く。そ、ついう「方違え」という風習があっ た。しかし、敏景はこれを迷信として嫌った。合戦をするのに、日や方角にこだわっていて は、負けてしまう。日が悪くとも方角が悪くとも、勝てるチャンスを逃してはならないと考 えた。 ( 以下引用は『武士道サムライ精神の言葉』笠谷和比古監修青春出版社による ) しろせめ はなはだくちおしく 勝つべき合戦取るべき城攻等の時、吉日を選び方角を考へて、時日を移す事甚口惜 そ、つろう 加候。如何に能日なるとて、大風に船を出し、大勢に独り向はゞ其甲斐有るべからず候。 みつみつ はか . り ) 、も一 戦仮令難所悪日たりとも、こまかに虚実を察て、蜜々に奇正を整へ、臨機応変して謀を本 いくさ とせば、必ず勝利を得らるべき事。 ( 勝つべき戦や獲るべき城攻めに際し、日や方角にこだわ って時間を費やすのはよくない。どんなに吉日であっても、大風の日に舟を出し大軍にたった一 人で向かえば勝算はない。たとえ方角や日が悪くても、詳しく情報を集め臨機応変な策略をたて 章れば、勝利はまちがいない ) さっし その 203

5. プロ弁護士の思考術

社会あるところ紛争あり間 1 / 闘争において権利を見いだせ 2 戦術的柔軟さを生み出す力とはーー強硬策と低姿勢 強硬手段はオプションの発想の貧困 / 低姿勢の効用 3 「汚い相手ーにも強くなるためにーー自主独立の気概 思考にも独立自尊の精神が必要 / 「場外乱闘 . への対処法 主観と客観のジレンマの解決ーー自己の客観視 世間という第三者の目 / 合理的な最大限の要求期 / 思考の三つの類型 「受け売り思考」を徹底的に削るーー自分の頭で考える 自分の頭で考える条件 / 事実か伝聞かを確かめる / 「誰が言ったか」でなく 「何を言ったか」 / 朝倉敏景の合理主義 第 7 章今日の実りを未来の庭に植えるーー遠くを見る 五感を研ぎ澄ますーー小さな感覚 将来を洞察する力を養う / 合理的思考も感性が支える / ゆったりした思考 187 178 193

6. プロ弁護士の思考術

小さな問題から発想の領域は大きくなる ビジネスで問題状況に対処するときは多くのオプションを考える人も、個人的な問題とな ると、合理的に対処しなくなりがちだ。しかし、小さな問題を合理的に考えずに、大きな問 題にうまく対処できるだろうか 例として、再び花粉症対策の選択肢をあげてみる。実際に私が試したものである。 ①小道具 花粉の吸入量を最小限にした上で、必要なら薬を飲むのが最善の対策である。 最近ではよいマスクが開発され、花粉の九〇パーセント以上が防げる。内側にウェット・ ガ 1 ゼを入れるとプロック効果はさらに向上する。そのほかの小道具には花粉防止用眼鏡、 失敗を活かすための考え方ーー日々のオプション思考

7. プロ弁護士の思考術

◎ーー近くを見る、遠くを見る 現実の意味をできるだけ正確に把握して合理的な判断をするためには、俯瞰思考が有効で ある。だが、 俯瞰はしばしば細部を切り捨てることによって成立する。足元の溝ばかりに気 をとられてはならないが、遠くの星を見て溝に落ちてはならない。遠くばかりを見て近くを 見なければ、現実に足をすくわれることになる。近くと遠くをバランスよく見てこそ、合理 的な判断ができるであろう。 現実世界を生きるためには、俯瞰思考だけで突き進むわナこよ、、 しし ( し力ない。大所高所の視点 から見るだけでなく、ミクロも見るバランスが必要である。 司馬遼太郎のものの見方について、日本国際問題研究所所長の友田錫氏は、新聞記者だっ 豊かな人生はここから生まれるーー考える遠近法 せき 234

8. プロ弁護士の思考術

第 5 章不運に対して合理的に備えるーーマサカを取り込む

9. プロ弁護士の思考術

者はなかるべし。 ( 『学問のす、め』岩波文庫 ) 福沢は、独立自尊の精神こそ新しい国づくりの根幹になると考えた。付和雷同や横並びを 嫌い、「個人の自立」「個の確立」を説いてやまなかった。 福沢は、幼少より独立心が強く、合理的に物事を考える人物で、世俗的な慣習にとらわれ ず、アウトサイダー的な傾向があった。彼が『学問のすゝめ』や『西洋事情』など、あれだ けの知的作業を成し遂げたのも、日本人には珍しい合理的精神のもち主であったからである。 結 固世俗的な習慣を疑い、他人の考えに惑わされない独立自尊の性癖があったからである を だが最近は、自分を主張はするものの、反対されると拗ねるか、キレるか、へこむかで、 カ 戦議論にならない人物が増えている。自分の頭で深く掘り下げて考えず、感覚的にしか物事を 判断できない。インターネットの発達で発言の場は飛躍的に拡大したが、個性的な意見は少 ない。われわれはまだ、福沢の説いた「個の確立」ができていないのではないか 考 ◎ーー「場外乱闘」への対処法 章 第 弁護士にも、自主独立の気概が必須である。最近は、交渉や裁判でもルールを無視し、場 187

10. プロ弁護士の思考術

育環境、入学、就職、結婚なども偶然的要素に左右される。就職も思い通りにはならないし、 結婚も必然によって相手と結ばれるわけではない。 世の中の事象は複雑に因果が絡み合い、単純な判断や思考を許さない。しかし、われわれ は因果の流れにきわめて鈍感で、簡単に割り切ったり、大雑把な類推ですましてしまう。 われわれの思考は、ミズスマシのように水面をすいすい泳いでいるだけである。水面の下 にある因果の精妙さを知ることはめったにない。われわれの感覚器は、因果をとらえるには 粗雑なのである。 ◎ーー世の中は合理的な場所ではない 人はめったに「マサカ」を考えないが、それは当然である。予想外のことが起きると予想 することは矛盾だからである。考えられないことを考えるのは無理である しかし、よく物事を観察してみれば、マサカはしばしば起こることがわかる。仕事の予定 も、思いがけない知人の訪問や、緊急メールや、取引先の重役のお通夜で変わってしまう。因果 はきわめて複雑に絡み合う。人生は日々数百万のジグソーパズルを解くようなものである。 ポストモダンの新鋭、アメリカの作家ポ 1 ル・オースタ 1 は、「世の中は合理的な場所で 152