窃盗罪 - みる会図書館


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1. プロ弁護士の思考術

◎ーー事実は法解釈をも左右する 私の家の近くに山王稲穂神社がある。神社の境内には数本のイチョウの大木があって、秋 になると銀杏が毎日大量に落ちる。毎朝近くの人が拾っているが、これは窃盗罪に当たるで あろうか。刑法第一一三五条は「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、一〇年以下の懲 役に処する」と定める。 私の事務所の諸君に、こんな質問をしたら、答えは「窃盗罪になる」「ならないー「場合に よる」という意見に割れた。 ①窃盗罪になる ( 一般スタッフ ) 銀杏は「財物」なので、窃盗罪になる。 ぎんなん 「事実に語らせるー第一歩 , ー銀杏を拾うと泥棒になるか せっとう

2. プロ弁護士の思考術

②窃盗罪にならない ( 学生アルバイトの君。文学部の博士課程 ) 公共施設に置いてある無料パンフレットと同じと考えられるから、銀杏を拾っても窃盜罪 にはならない ③場合による ( 法務スタッフ ) 境内に落ちている場合は「財物」であるから窃盗罪となる。境外に落ちた場合は「財物で はない」から窃盗罪ではない。 ④場合による ( 経験数年の弁護士 ) る通常は窃盗罪は成立しない。ただし、神社が柵を設けたり銀杏の収集を禁止している場合 すは窃盗罪が成立する。 選⑤場合による ( 経験一〇年以上の弁護士 ) 拾った場所が境内か否か、拾った量の多少及び価値などの具体的状況で、窃盗罪になった 根り、ならなかったりする。 の 話 設問には深く考えることなく直感的に答えてもらったが、やはり法律経験の違いが答えに 章反映されているようである。 第

3. プロ弁護士の思考術

法律というのは、解釈いかんによって、刑罰を科したり、損害賠償を命じたりするなど、 人の生命、身体、自由、財産に大きな影響を与えるものである。だから、必要な事実を十分 に収集した上でないと、法律判断は下せない。 ちょうへいそく それはちょうど、病気と治療法の関係に似ている。腸炎と腸閉塞では、同じ腹痛でも治 療法がまったく違う。腸閉塞を腸炎と見誤っては、命にもかかわる 前提となる事実が違うならば、その後の対策はすべて誤る。病名がわからなければ、治療 ができないのと同様である。 ◎ーーー情報が足りないときの考え方 本件のポイントは、条文にある通り「他人の財物」を盗んだといえるかである。 ①銀杏の「他人性 銀杏に対し神社の占有 ( 支配 ) は及んでいるか ? ②銀杏の「財物性」 銀杏に財産的価値はあるか ? あいまい 以上の二つの問いにイエスでないと窃盗罪に当たらない。しかし、設問の事実は曖味すぎ

4. プロ弁護士の思考術

たのは幼児や子供かなど、もろもろの状況によって、答えは微妙に変わってくる。 詳しい事情がわかれば答えは出しやすい。だが、この場合は設問自体が曖味なため、答え も多様になってしまう。 つまり、この設問は、 的な回答ができるほど十分な事実を開示していない。有罪か無 罪かを判断するのに州加聞調いみ・だがら、さらに詳細な事実の調査をしなくては結論 は出ないのである。 しかし、実務では、十分な情報のないまま回答をせざるを得ないことが多い。従って「具 体的状況により、有罪も無罪もあり得る」とする経験一〇年以上の弁護士の意見も、実際の 役には立たない。銀杏を拾った場所、拾った量を仮定した二 5 三の典型例をあげ、有罪と無 罪を論じればさらによいであろう。 たとえば、次のように分けて考える。 ①境内で大量に拾った場合 ②境内でごく少量を拾った場合 ③境外で大量に拾った場合 ④境外で少量を拾った場合

5. プロ弁護士の思考術

ルール破りの場外乱闘者に対しては、立ち向かう気概、気迫をもっことがすべての源泉で ある。実際、どんなに深刻でも、人間の紛争は衆知を絞って解決策を考え出す以外にない 「人間の問題は人間の知恵で解決するほかはない」と深く確信すれば、よい解決策は見つか るものである。 場外乱闘を仕掛けてくる相手に対しては、こちらも多彩な手段で対抗しなければならない。 ①脅迫罪、業務妨害罪で刑事告訴をする ②業務妨害禁止の仮処分をかける 固③弁護団を立ち上げ、マスメディアにアピールする を 加④相手に損害賠償を提起する 戦⑤警察や検察と緊密に連絡する ⑥ガードマンを雇う カ る 場外乱闘を受けて立っ気迫、威力を示して圧倒しないと、ズルズルと相手のペースに巻き え 考 込まれることになる。困難に直面したときの心構えを、古人もこんなふうに詠んでいる ようざん 為せば成る為さねば成らぬ何事も成らぬは人の為さぬなりけり ( 上杉鷹山 ) ばんざん 第 憂きことのなほこの上に積もれかし限りある身のカためさむ ( 熊沢蕃山 ) 189

6. プロ弁護士の思考術

大切なのは、たまたま思いついた、はじめの案に惚れ込まないことである たとえば花粉症の対策でも、後述のように、西洋医療や漢方や民間療法など、多くの選択 肢を考える。民間療法だからと、はじめから排斥してはならない。 宗教も同じである。たまたま知人に勧誘されて信ずるのは拙速である。理想的には無神論 お、つばくしゅ、つ や不可知論も検討する。仮に仏教を選択しても、禅宗、黄檗宗、浄土宗など多くの宗派を 比較し検討したいものである。 る え われわれは通常こんな手順は踏まないだろう。だが、そのことは、オプション思考の有用 を性を否定することにはならない こあらゆるオプションを考えると、自分のできることと、できないことの限界が明らかとな つる。すなわち、現実的シナリオと非現実的シナリオを区別するためにも、オプションを網羅 な的に考えることが有効な手段である。 オプションを考えるとき、決定打を狙ってはならない。奇手、妙手、鬼手を狙うのは邪道 え 考 である。問題に直面したとき、人間は本性として唯一の決定的な解決策を求めたがる。だが、 嶂そんなものは存在しない。決定的なオプションはいかがわしい。決定的なオプションは予想 第 外のリスクがっきまとう。 はいせ一

7. プロ弁護士の思考術

この心境に達するまで長い年月を要したが、こう気づいてみれば、問題は半ば解決したよ うなものである。 オプション発想に意識を集中すると、不安、悩み、怒りなどの消極的な感情は薄らいでい く。オプションを考えるとは、受け身から能動への転換をするということである。 「不満を言、つな。オプションを考えよ」 これが、私が仕事から学んだ貴重なノウ・ハウであり、心のもち方である ◎ーー発想の「生産方式」を覚える オプションを考える際に最も大切なのは、組織的、体系的に発想することである 連続律的思考は、多様なオプションを発想する母である。 ①極端なオプションから現実的オプションまで、網羅的に多くのオプションを考え出す ②常識も価値観も一度は捨てて、極端なオプションも発想する ③自然に頭に浮かんだ対応策だけではなく、上下前後左右のあらゆる角度から考える せいこ、つり 問題に成功裡に対処するには、この手順を踏んだ上で、優先順位をつけ、対策を実行する ことが必要である。

8. プロ弁護士の思考術

◎ーー感情の縛りを解く方法 オプションを考える際に最も大切なのは、心構えである。 現実は重荷である。人は困難に直面すると、他人を責めるか、自分を責めるか、運命を呪 うかのいずれかである。圧倒的に多いのは、人のせいにするタイプである。 しかし、他人を責めても問題の解決にはならない。世界は私のために存在しているのでは ないし、他人は私に奉仕するために存在しているのではない。他人と過去は変えられないも のである。 かといって、自分を責めるのも生産的ではない。自分の失敗の原因を分析し将来に活かす のは大切だが、 実際には「ああすればよかった、こうすればよかった」と単なる後悔に終始 4 ひらめかないときの処方箋、ーオプション発想のポイント

9. プロ弁護士の思考術

このような違法行為、不正処理が蔓延した根本的な理由は、保険の納付率を向上するため 、目標を達成し に「必達納付率目標」を掲げたことにある。必達目標が一人歩きしてしまい ないというオプションはなくなってしまった。「目標の八〇パーセント達成ーとか「九〇パ ーセント達成でも可」という受けとり方は、なされなかった。 納付率の二ポイント改善を数値目標として設定し、「これが若い職員に組織を残せる唯一 の道」「この時期になって言いわけは無用ーなどの非常事態宣言が出される る 目的を達成する具体的方法と手順を明示しないまま、このような計画が発表されると、現 え を場では達成が絶対目標となっていく。日本には個人主義が根付いておらず、上下関係にきわ めて弱いから、目標を達成するために、有印私文書偽造のような違法行為もあえてするとこ つろまで追い込まれる。 目標やスローガンは一種の精神論にすぎない。それを具体化する手順論を伴わないと、企 し 画は必ず失敗するものである。「目標」と「手順は車の両輪のようなもので、どちらが欠 え 考 けても、そのつけは経営者自身に跳ね返ってくる。 章 第

10. プロ弁護士の思考術

ある日、海外出張の準備をしていて、私はふと「飲むか飲まないか」の二分法のワナに陥 っていることに気がついた。そこで、二粒、三粒、四粒と少しずつ増やして試し、結局、私 の適量は三粒、とくに疲れたときは四粒であることがわかった。 それ以来、疲労のはなはだしいときは地黄丸を飲んでいるが、とくに海外出張のとき、疲 労回復、ストレス解消、体調維持、熟睡に、その効果は計り知れない 目標か精神論にすり替わるとき 世の中には「年末売上キャンペ 1 ン。とか「売上倍増三年計画」など、一見二分法とは見 まんえん えない二分法的手法が蔓延している。 企業にとって売上を上げ、利益を確保することは絶対に必要なことである。しかし、「絶 対目標」を掲げると、現場では「目標を達成するかしないか」の二者択一で受け取られて、 無理しても達成することになる。 国民年金の不正免除・猶予問題がそのよい例である。社会保険庁の最終報告書三〇〇六 年八月三日 ) によると、二十二万人分の違法・不正免除のほか、長期未納者を勝手に不在者 や資格喪失とする手続きが、二〇〇五年度だけで十一万件近くにのばるという。