宗矩は晩年に『兵法家伝書』を著し、柳生新陰流の奥義を伝えた。 ( 以下の引用は『兵法家 伝書』柳生宗矩 / 渡辺一郎校注岩波書店。現代語訳は「五輪書付・兵法家伝書』柳生宗矩 / 大河 内昭爾訳ニュートンプレス ) 。 いっさいの道理を見おは ( 終わ ) りて、皆胸にとヾめず、はらりはらりとすてゝ、胸を このくらい 空虚になして、平生の何となき心にて所作をなす。此位にいたらずば、兵法の名人とは なり 言ひ難き也。 ( いっさいの道理を理解しつくして、みな胸にとどめず、さらりと捨てて胸を空虚 る え 植 にし、ふだんの何事もないときの心で動作をする。この境地に至らなければ、兵法の名人とはい 庭 し、刀にい ) の 来 未 を 何事にもおどろかず、常の心よろづによし。平生の心をうしなひて、何にてもその事を 実 の いはんとおもはば、声ふるふべし。常の心をうしなひて、人前にて物を書くならば、手ふ 今 るふべし。常の心と云ふは、胸に何事をも残さず置かず、あとをはらりはらりとすてゝ 胸が空虚になれば、常の心なり。 ( 何事にも驚かず、万事に常の心でいるのがよい。常の心を 第 失って、どうしてもその事を言わなければならないと思うと、緊張のあまり声が震えるであろう。 237
性格を知り、考え方や出方を読む上で貴重である。 登記簿、会社名鑑、有価証券報告書、人名録、ホームページ、データ・サービスなど、手 軽に入手できる情報源は多い。しかも、公表、公刊されているもので、必要な情報はほとん ど入手できる。人名録を調べれば、出身地、年齢、家族構成、趣味、経歴などがわかる。会 社名鑑に出ていないような小さな会社でも、ムネの登記簿をとれば、さまざまな情報が含ま れている だから、相手の印象や言葉を信じるのではなく、ちょっと手間暇をかけて情報を集めるべ きなのである。ところが、ビジネスの話が先行し、契約相手の身元調査は怠りがちであ 若手の弁護士なども、相手の信用性を確認しない例が多い 「依頼者から頼まれたから」と、若手が、作成した契約案をもってくる。それを見て「相手 企業の資本金は ? 従業員数は ? 経営状態は ? プロジェクトの予想取引規模は ? 」と聞 くと、答えられない。具体的な状況を何も考慮しないで契約を作成しているのである。 「相手の信用状態や、年間取引規模もわからずに契約がつくれるわけはないーと注意すると、 「依頼者の担当者に聞いてみます」という返事が返ってくる。しかし、担当者に聞いてもわ
◎ーー好き嫌いの生理 る す 私がサウナ好きなのは、緊張感から解放され、頭が空つほになるからである。サウナに入 つると、日ごろの緊張から解放され、発想が湧き出してくる。 め 私のサウナ歴は四〇年になる。ある会社の新入社員だったころ、当時では珍しいことに、 認 保養施設にサウナがあった。二坪ほどの狭さだったが、先輩に連れられて試してみたとたん、 A トり、」 の私はサウナの虜になった。サウナで一時間しつかりと汗をしばったあと、窓越しに見える矢 他作川を見ながら飲むビールの、つまいことといったら : 嶂それ以来やみつきになって、今では国内でも海外でも、出張の折りはサウナのあるホテル 第 に泊まる。最近では、数十坪の広々としたサウナと大きな水風呂を有するホテルもあるので、 正解よりも最適解を求めるーーサウナ好きとサウナ嫌い 123
わたしはかって、その夜ほど美しい星空を見たことがありませんでした。空を横切って 流れる白いもやのような天の川、きらきらと輝きながらくつきりと見える星座の形、水平 。流れ星がひとっふたっ地球の大気圏に飛びこん 線近くに燃えるようにまたたく惑星 : できて燃えっきました。 とばり 夜の帷につつまれ、静寂のまっただ中で彼女は宇宙の鼓動を聞いたのだった。さらに、彼 女にとっては、雨の日でさえ自然との対話を楽しむ格好の日和だった。 雨の日は、森を歩きまわるのにはうってつけだと、かねてからわたしは思っていました。 メインの森は、雨が降るととりわけ生き生きとして鮮やかに美しくなります。針葉樹の葉 ノダ類はまるで熱帯ジャングルのように青々と茂り、そのとがっ は銀色のさやをまとい、、、 た一枚一枚の葉先からは水晶のようなしずくをしたたらせます。 カラシ色やアンズ色、深紅色などの不思議ないろどりをしたキノコのなかまが腐葉土の 下から顔をだし、地衣類や苔類は、水を含んで生きかえり、鮮やかな緑色や銀色をとりも どします。 210
ができるのである。異質の視点は、物事を多面的に見るために必要である。 われわれのものの見方は、あまりに常識に害されており、対象の真の価値をしばしば見失 なっていることを知るべきである。 ちなみに、食卓に出された魚を見て「死んだ魚ーと観じたのは、ローマ五賢帝の一人マル クス・アウレリウス帝である。花を見て「植物の生殖器ーであると観じたのは、歌人で評論 みよじ 家の上田三四二氏である。 疑う力が法律家の成熟度を示す 法律家は新人から中堅、べテランになるに従って、権威や常識に対し健全な懐疑心をもっ ようになる。権威や常識を疑うかどうかが、法律家の成熟度を示す目安となる。疑うべきと きに疑わず、疑うべきでないときに疑うのが、若手に共通の欠点である。どんな優秀な弁護 士でも、五〇代になるまでバランスのとれた懐疑心をもてないものである。 お茶の水女子大学教授の耳塚寛明氏によると、最近の学生は、専門文献を読むと結論だけ が頭脳に染み入ってしまうそうである。論者が犯したかもしれない事実の誤認、論理の飛躍、 ごびゅう 根拠薄弱、。 テータ解析の誤謬など一顧だにしない。耳塚氏は、専門文献を聖書のように読む
◎ーーー人は自分の見たいようにものを見る 久しぶりに古いアルバムを整理していたら、二〇年近く前の娘や息子の写真が出てきた。 子供たちが小さかったころ、妻も私も旅行や運動会で写真を撮りまくり、アルバムに貼って 喜んでいた親バカだった。 さて、当時のアルバムを見ると、なぜか子供たちは、昔思ったほど可愛くない。「そんな ことはない、もっともっと可愛かったはすだ」と思って見るのだが、可愛さかげんは、並ん で写っているよその子供たちと似たり寄ったりである。 「オカシイ」と思うが、当時の私の思いが間違っていたわけではないだろう。半面、今の見 方も間違いではない。 つまりは、人の思いも年をへるにつれ変わるのである。 自分か正しいのになせ相手も正しいのかーー正しい意見はない 116
仕事は緻密になり、説得力が増すと指摘する ある意味で非常に醒めた目で、遠い距離から、訴訟とその背後にある紛争の全体を見詰 めてみる。 ( 中略 ) 一羽の鳥が、スタジアムの中央から飛び立ち、上昇したところで、今度 はスタジアムの右側か左側に降り立っところを想像してみて頂きたい。この、スタジアムか ら高く飛び立った鳥の視点がいわば比喩的な意味での認識者の視点である。 ( 瀬木前掲書 ) ニュアンスは異なるが、アランも「遠くを見る」ことの重要性をこう語っている 憂鬱な人に言いたいことはただ一つ。「遠くをごらんなさい」。憂鬱な人はほとんどみん な、読みすぎなのだ。人間の眼はこんな近距離を長く見られるようには出来ていないのだ。 の広々とした空間に目を向けてこそ人間の眼はやすらぐのである。夜空の星や水平線をなが 今めている時、眼はまったくくつろぎを得ている。眼がくつろぎを得る時、思考は自由とな り、歩調はいちだんと落ち着いてくる。全身の緊張がほぐれて、腹の底まで柔らかくなる。 自分のカで柔らかくしようとしてもだめなのだ。君の意志が君の中にあって、君に対して 227
ミクロとマクロの間を、ズ 1 ムつきカメラのように焦点を合わせ行き来できれば、現実をよ り正確に把握できよう。 私の経験からいうと、近くと遠くを見る割合は、七対三ぐらいが手ごろのようである。七 割方は目先に集中するが、三割方は将来を見る。 つまり「考える遠近法、である。近くと遠くとを交互に見て、融通無碍に往復する。その ような間合いで物を見る習慣を身につければ、理性的な判断に至ることができるであろう。 柳生宗矩の心得「はらりはらり」 むねのり 柳生宗矩は、江戸初期の代表的な剣術家で、新陰流江戸柳生家の初代である。長ずるに及 んで一一代目将軍徳川秀忠の兵法指南を命ぜられ、柳生新陰流は将軍家の御流儀となった。の ちに幕府の大目付となり、大名に列した。 宗矩の父、柳生石舟斎は上泉伊勢守秀綱より新陰流の秘伝を伝授され、柳生新陰流を築い その兵法を受け継いだのが、五男の宗矩であった。息子の柳生十兵衛も宗矩以上の剣術の 腕をもっていたと伝えられている。 236
い意見ーと「多数の意見」 正解よりも最適解を求めるーーサウナ好きとサウナ嫌い 好き嫌いの生理 / 「正解信仰に要注意 かて 反論を糧に思索を深めるーー反対意見に耳を貸す 反対意見の聞き方暫 / 反対意見との共存 / 反対意見に学ぶⅧ / マイナス情 報と不意打ち 4 自分を正しく評価するーー・利発ほどきたなきものはなし / 『葉隠』の教え 「エリートもどきがはひこる / 自分を見ることの難しさ 共感は論理力の一部をなすーー夏に火鉢を抱くⅢ 丿ーダーの資質 / 黒田官兵衛の人間関係カ 攵的共感とはⅢ 第 5 章不、に対して合理的に備えるーーマサカを取り込む 「が起きるかわからない」からど、つするかーー因果は人知を超える の 135 / 自分の評価は他人がするも 145
⑥主体的に考える 考えることは戦いである。自主独立の気概があれば、難問も必ず解決できる。 物の考え方には「密着型」「半身型、「俯瞰型の三つのタイプがある。密着型よりは半身 型、半身型よは俯瞰型のほうが有益である。 また、自で考えるためには、どんな場合でも、「事実を確認」し、「根拠を吟味する」こ とが必要でる。これをしないのは、他人の意見を丸飲みしているにすぎない。 ⑦遠くを見る 物事には必ず予兆がある。五感を研ぎ澄まして現実を凝視すれば、氷山の一角から全体像 を読むこと、、、できる 問題に適に対処するためには、高所から風景の全体を見渡すことが大切である。しかし、 遠くばかり見て足下の溝に落ちてはならない。ときに近くを見て、ときに遠くを見る「考 える遠近法ーこそが、自由自在に考えるために必要である。 本書で引しているエピソ 1 ドは、実際に私が体験した事案をもとにしているが、依頼者 の秘密を守ため、大幅な修正を加えてある。従って、あくまでも一つの読み物として理解 ふかん