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検索対象: プロ弁護士の思考術
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1. プロ弁護士の思考術

万能の天才と呼ばれた数学者・哲学者のゴットフリート・ライプニツツの言葉である 「自然は飛躍しないーの正確な意味は知らないが、「あらゆる存在は単独で独立に存在する のではなく、連続している」と私は理解した。 ライプニツツから私は大いなるヒントを得た。 あらゆる事象が連続するなら、問題に対処する解決策も単一ではなく、無数のオプション ( 選択肢 ) があるのではないか。 る 外界の事象でさえ連続するのだから、まして思考の世界では、白と黒、右と左、正と不正 え をの中間に、無限のバリエーションがあるであろう。ライプニツツの言葉から、私はこのよう に考えるに至った。 っ この確信こそ、自由で多様なオプションを発想する源泉である し◎ーーー正解よりも選択肢を求める え 考 弁護士の重要な資質のトップが、「オプション提案カーである。オプションの有無が仕事 の品質に決定的影響を与えるからである。 第 かって繊維、鉄鋼、カラーテレビ、自動車と、日米経済摩擦が続いたことがあった。自己

2. プロ弁護士の思考術

実とは、ほとんどが自分で直接確認していない伝聞情報にすぎない。多くは人の噂とか、人 の言い分とか、マスメディアの報道をそのまま事実と受けとっているのが実情である。 ことにビジネスの現場では、「誰それがこう言った」とか「新聞に書いてあった」とか、 伝聞情報にすぎないことを事実と信じ込んでしまう例が多い。伝聞情報を事実と思って対処 しては、判断を間違う。かなり優秀な経営者でも、他人の情報を丸飲みしている例が多く見 られる。これでは自分の頭で考えていることにはならない。物証で確認できたことのみを確 0 かな事実としてとり扱うのが手堅いやり方である しかし、現実にはそれはできない相談であろう。だから、せめて、他人の情報は「事実も どきにすぎないと考え、未確認情報として取り扱いたいものである。 ◎ーー「誰が言ったか」でなく「何を言ったか 人は安易に他人の言葉を信じる傾向がある。会話していても、相手の言うことに根拠があ るか否かを考えながら応答する人は、まずいない。だから、世間では根も葉もない話が一人 歩きする。こうして言葉は、ときに「虚構の現実ーをつくり出してしまう。 会社でよく聞かれるのは「幹部全員が賛成している」「他社もそうしている」「従来からそ 200

3. プロ弁護士の思考術

ところが、これは「言うは易く、行うは難いである。実際には、自己の主張することに 気を取られ、相手の主張に反論できていない準備書面が少なくない。 自己の正当性を主張することに急で、自己の弱点をよく見ていないし、相手の急所も押 さえていない。相手の主張に対する揚げ足取りが多くなり、簡潔に反論すればよいところ で言葉を浪費し、全体の論調が非常にエキセントリックになってくる。居丈高な表現、あ ばりぞうごん るいは罵詈雑言や中傷に近い言葉が混じり始めたら、それは自己の主張が弱いことの反映 である場合が多い。 ( 『民事訴訟実務と制度の焦点』瀬木比呂志判例タイムズ社 ) 主観と客観のジレンマを解くため、私は「合理的な範囲の最大限の金額」を相手に要求す ることにしている。つまり、判例の相場よりかなり高額ではあるが、桁違いの要求はしない。 桁違いとは、たとえば三〇〇〇万円の損害賠償が相場なのに、三億円を請求するなどである。 相手に圧力をかけるために、八〇〇〇万円程度を請求するならよいとして、桁の違う数字を もち出すのは考えものである。 私ならこんな請求はしない。依頼者がこんな請求を受けたときは、交渉を拒否するように 192

4. プロ弁護士の思考術

世間という第三者の目 若いころ、先輩の弁護士から「裁判官みたいなことを言うな」とよく小言を言われたもの である。「裁判官みたい」というのは、ほめ言葉ではない。ファイティング・ポーズのない じよ、つと、つく 弁護士を叱責する常套句である。 弁護士は依頼者の代理人なのだから、依頼者のために闘う姿勢が根本になければならない。 裁判官なら原告と被告双方の言い分を聞いて、第三者として判断すればすむ。だが、弁護士 は、裁判官のように中立的に考え、高みから眺めるようではだめだ、というのである 中立、公平な立場で交渉や裁判に臨んで、相手が強硬に攻めてきたらどうなるか。譲歩に 譲歩を重ね、結局は依頼者に不利な妥協を強いられることになるだろう。だから、緒戦には 4 主観と客観のジレンマの解決ー自己の客観視 190

5. プロ弁護士の思考術

かんにん くかのような、日照りのときに傘をさすかのような、無駄とも思えるほどの堪忍を守らな ければならない。そうしなくては家臣は自分に服してこないのだ。 ( 『武士道サムライ精 神の言葉』笠谷和比古監修青春出版社 ) 火鉢とは、大きな鉢に灰を入れ、中に炭火をいけて手足をあぶり、室内を暖め、湯茶など を沸かすのに用いた暖房具である。その火鉢を夏に抱くというのだから大変な辛抱である 孝高は三〇代には堪忍の大切さを知ったというのだから、いかに戦国時代の人間関係は熾 烈だったかがわかる。孝高は、家臣に何か問題があったときも、まず昇格させたり金銀衣服 を与えたりした上で、数日してから注意をしたという。 そこまでしなくとも : : と思うが、それほど人間関係は微妙なのであろう。 146

6. プロ弁護士の思考術

◎ーー・予期できない偶然を取り込む え英語に、 contingency という言葉がある。偶然性、偶発事、不測事態、不慮の事故などと 訳される。通常では考えられない「マサカ」というような思いがけない事態の発生をいう。 的 理戦闘では、平時の訓練では予想できない事態にいっ遭遇するかわからない。不測事態に陥 て し った場合には、平時の訓練では教わらなかった、独自の判断を迫られるようになる。だから、 対 cont 一 ngency の可能性を作戦中にとり込む必要がある 運 不 日本軍は、このような「偶然に対処する発想」が稀薄だった。陸海軍とも暗記と記憶力を 鐔中心にした教育システムをとっていた弊害である 第 知識を過大に評価し、現実に対応する能力を過小評価するのは、日本軍に限らず、われわ 用意周到とナマクラーー偶然に対処する 161

7. プロ弁護士の思考術

機能は一瞬に停止したからである。しかし、医療機器が発達し「脳死」という新しい概念が 4 生まれて、「死」は段階的なプロセスとなった。 心臓死や脳死は、言葉の上では瞬時に心臓が止まったり脳機能が停止したりするイメ 1 ジ があるが、実際には無数の細胞が次第に機能を停止してゆき、それが結果として心臓死とか 脳死と評価されるにすぎない。また、心臓が止まり、脳が死んでも、皮膚は生まれ変わり、 髪の毛も伸びる。すべての細胞が一律に死ぬわけではない。 われわれは、ある時間軸を決めて心臓死とか脳死とか評価するが、それに至る過程は連続 的なプロセスである。ただ、われわれがそれを感知できないだけである。 長年の間、漠然とこんなことを考えていたら、興味ある思索に出合った。 私が何より大切に思い、何より自信を持って言えるのは、自然は飛躍しないということ である。私はこれを連続律と呼んでいる。 ( 『知の歴史』プライアン・マギー / 中川純男日本 語版監修出版 )

8. プロ弁護士の思考術

常の心を失って、人前で物を書けば、手が震えるであろう。常の心というのは、胸に何事も残し て置かず、あとをさらりと捨てて胸の内が空虚になれば、それが常の心というものである ) 宗矩は「はらりはらり」と物事に固執しないことを大切にした。常識や時代の風潮や現実 に流されると、判断を誤り行動のタイミングを逸してしまう。目前の状况に対応するために は、今までの習慣や伝統もさらりと捨て去り、心をからつほにして状況に対応しなければ生 き残れない。 日々難事に直面しても、ふだんの心構えを失わず、自由奔放に対策を紡ぎ出し処理してい く。もちろん過去を悔やむこともないし、未来を悩むこともない 言葉でこのように納得するだけでなく、具体的にイメージしてみる。押し寄せてくる難事 を敵の白刃に見立て、はらりはらりと身をかわしながら対処していく。それが紛争の予防と 処理に三〇年間携わってきた私の理想像である。 238

9. プロ弁護士の思考術

風潮があった。 「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」によって、常朝のイメ 1 ジはデフォルメされてしま ったが、彼は意外に世知にたけた処世訓を残している 常朝は、頭がよく、てきばきと仕事をこなす人間は、信頼できないと見ていた。 利ロな人間には、決して政治の中枢を担う仕事をさせてはならない。頭のよいことを表に 出す人間は反発を受け、信用もされず、結局は大きな仕事はできないからである。利ロ者は 何事も知恵ですむと思っているので、鼻もちならない。それよりは、むしろ不器用で実直な 人物がよいのである。それで常朝は、「利発ほどきたなきものはなし」と切り捨てたのであ る。「大賢は愚なるが如し . というか、利ロ者はしよせん三流の小才者にすぎない。そう常 朝は見ていたのである。小才あって誠のない、現代の「エリートもどき」に聞かせたい言葉 である ◎ーー自分の評価は他人がするもの よく、「会社は自分を正しく評価していない [ と不満をもつ人がいる。しかし、自分で自 136

10. プロ弁護士の思考術

ノノラスメント ) で日本を攻 の有利に事を運ぶため、アメリカは多重的攻撃方法 ( マルチプレ・、 撃した。 これは、同一の案件について、あらゆる手段でつぎつぎと圧力を加え、相手を追い込む方 法である。たとえばつぎのような圧力を絶え間なくかけていく。 ①ワナにかけて窮地に追い込む ②ジャ 1 ナリズムを通じて国内・国際世論をあおる ③つぎつぎと訴訟を提起して「法の網ーでからめとる どうかっ ④言葉や態度で恫喝し、威嚇する ⑤一見関係ない問題を結びつけて取引の材料とする 日米経済摩擦を通じ、日本は一貫してアメリカのこの組織的攻撃にやられつばなしであっ た。私も日々の実務を通じ、また、日米の企業間の紛争処理交渉の研究を通じて、マルチプ ル・オプション ( 多重的選択肢 ) とも呼ばれる技法を学んだ。 私は、依頼者からの相談には、最低三つのオプションを提示するようにしている。 明らかに違法でない限り、私は「それはダメです」とは言わない。リスクの高いものから