「そこまで俺に言わせるのか ! 」 怒気を含んだこの一語によって、「若い衆の不始末」をめぐる話し合いは「俺の言うこと が信じられないのか」という争点にすり替わるというわけだ。 あるいは、こんな例もある。 「例の件、どうなっているんだ」 「それが野郎、のらりくらりで・ 返答によっちゃ、野郎をシメてもいいっスか」 「たつぶりヤキを入れてやれ」 方 と言ったのでは、事件になったときにヤバイし、 怒 の 「やめとけ」 流 る と″待った〃をかけたのでは、目的を達することはできない。 操 陸そこで有能なヤクザは、 の 「バカ野郎 ! そんなことまでいちいち俺に聞くな ! 」 下 部 怒声を浴びせる。 章 この言葉をどう解釈するかは若い衆の勝手で、こういう場合の怒声は「やれ ! 」と解釈す 第 るのがフツーであり、それを見越して「そこまで言わせるのか ! 」という一語になるという 145
( 俺が悪かった ) という気にさせるというわけである。 会社だってそうだ。 「このバカ野郎 ! 」 頭にきて思わず怒鳴りつけたら、すぐに冷静さを取り戻し、 「キミらしくないじゃないか」 と、くすぐるか、 方 詢「失敗はいい。だが、怠慢は断じて許されない。違うかね ? 」 の とレトリックで怒ることの正当性を口にする。 流 る このフォローさえあれば、 を「このバカ野郎 ! 」 の 「いまの言葉、撤回してください ! 」 下 部 と切り返されることもないのだ。 章 第 133
「そ、そうですが : ・・ : 」 「てめえ ! 」 と怒鳴ったわけではない。 「責任者を呼びな」 男は穏やかな口調で言ったのである。 マネジャーを追い込んだところで、窓際の席に案内されて終わり。「てめえ、詫びを入れ ろ、誠意を見せろ ! 」 とやったのでは即刻一一〇番で、窓際の席どころかパトカーに押 し込まれてしまうことになる。キレ者で知られる男ーー・ N 会の幹部は、そんなドジは踏まな 支配人を呼びつけると、 「同じ予約者なのに、この野郎は差別しやがった」 とネジ込んだのである。 「この野郎は」と、攻撃対象を「マネジャー個人」に限定したところがキレ者のキレ者たる ュエンで、 「この店の従業員教育はどうなっているんだ ! 」
とやったのでは、支配人を攻撃することになってしまう。 ひ そうなれば支配人も、おいそれと退くわけにはいかず、 「ご予約の早い方から窓際の席をご用意させていただいております」 とか何とか反論するだろう。 ところが「この野郎は」と限定すれば、「悪いのはマネジャーで、支配人のあんたは悪く ない」ということになる。となれば、支配人は安心してマネジャーに非をおっかぶせ、一件 落着にしようとする。この心理を読んで、幹部は「この野郎は」と限定してクレームをつけ けたのである。 ぶ「申しわけないことをしました」 で 頭を下げる支配人に、 刻「わかった」 幹部は小さく笑って見せ、 怒 「お宅はさすがに話がわかる。実は、この店のサービスは素晴らしいと聞いてきたんだ」 章 「恐れ入ります」 第 支配人は恐縮しつつ、ワインを一本サービスした。
「そうじゃねえ。歳を拾った男が身体を懸けてるんだ。″ヤキがまわった〃はねえんじゃね えか。取り消してくれよ」 こう言われて金主は言い過ぎたことに気づく。「てめえ、この野郎 ! 」とケツをまくられ ても仕方がないところだ。ケツをまくった兄イも困るだろうが、自分も無傷ではすまない。 「悪かった」 金主が謝まり、以後、兄イに対してロのききかたに気をつけるようになる。 「バカ野郎ー おまえの頭は蟻の脳ミソか ! 」 上司に侮辱されたら、 「そうです」 と、あくまでも冷静に怒るのだ。 「居直る気か」 「いえ、蟻の脳ミソしかない私が必死に知恵を絞ったんです。バカ者呼ばわりはないんじゃ ないですか」 こう言って攻められれば、上司も返す言葉に窮し、黙ってしまう。 その上で、
ラ〃や″大河〃で人気になった女優やタレントが多い。お茶の間ウケするし、スキャンダル と無縁であるからだ。私はその線に沿って表紙のモデルを選んだのだが、予算の関係で、や や″旧いタレント〃になってしまったのである。 私は怒りを呑み込んで言った。 「いや、旧くないと思います。いまも活躍されているし : : : 」 術と言いかけたところが、弁解口調になっていたのだろう。ペーベー野郎は、ここぞとばか る り攻めてきた。 え を「旧いに決まってるじゃないの。表紙だけじゃなく、内容も月並みだし。本気で立てた企画 流とは思えないね。 課長、いかがですか ? 」 で り「ウーム、言われてみれば : : : 」 「私も同感ですね」 転 逆 ペーベー野郎の隣に座る″準ペーベー〃が、遅れをとってはならじとばかり、 発 「もっと斬新でインパクトのあるものにしないと、発行する意味がないですね」 5 「ページのレイアウトもよくないね」 第 あっちこっちから参戦が相次ぎ、私は立ち往生。結局、この仕事はまとまらなかった。 185
こんな例はどうか。 出版社に勤める編集者の氏が家を買ったときのことだ。先ごろ中途入社してきた″自慢 野郎〃の氏が、さっそくちょっかいを出した。 「場所はどこ ? ・」 「市なんだ」 術「通えるの ? 」 る「うん、一一時間だから」 私なんて会社まで三十分。住むなら都心だよ。買い物も便利だし、教育環境も を「二時間ー れ 流 しいし、医療だって万全だもの。それにウチのマンションなんか、セキュリティがしつかり で りしているから最高だね」 「田舎で悪かったな ! 」 転 つうよ - フ りゅういん 自慢野郎〃は何の痛痒も感じ 逆とケツをまくったのでは、溜飲は下がるかもしれないが、″ と吹聴されてしまうだ ない。痛痒どころか、「 < のやっ、俺に嫉妬して怒ってやがる」 5 ラっ一つ。 第 キレ者の氏は、そんなバカな対応はしない。 169
もしもし、向谷と申します。 「 xx 組の〇〇です。オヤジさんがおっしやるとおり、今年三回あがってますわ」 承知しました。ありがとうございました。 会話はこれだけ。 「どや、わしが言うたとおりやろ」 胸を聳やかしたものだ。 長老は亡くなってすでに久しいが、ヤクザは、いや人間は、そうまでして自慢したいもの なのかーーという強い印象をいだいたことを、いまも覚えている。 長老の麻雀自慢は愛嬌としても、自慢話を聞かされるのは不愉快なものだ。子供自慢から 家系自慢、学歴自慢、財産自慢、人脈自慢、交友自慢、業績自慢 : : : と自慢ネタは掃いて捨 てるほどある。さらに、自慢のあとに続けて見下したような言い方をされると、 ( この野郎 ! ) 怒り心頭である。 大人社会では手を上げたほうが負けだ。しかし″自慢野郎〃にー頭にくる。そこで どうするか。 そび 168
「てめえ、この野郎 ! 」 ということになる。 「エラくなったな」は揶揄と非難なのだが、頭のキレるヤクザは、このセリフを実に効果的 に用いるのだ。 まず、こんな例はどうか。 若い衆の組員が、陰で兄イの批判を始めたとする。 「の兄貴は二言目にや、親分第一と言ってるけど、どうだかな。ヤミ金融でしこたま儲け ているのに、親分には一銭も持って行かないらしいぜ。ロとやることが違うんだから頭にく るぜ。それとなく、親分の耳に入れてやろうかな」 したば 陰ロは必ず当人の耳に入る。下が上を批判するのは組織の常で、下っ端同士が酒を飲みな がらブックサ言っているぶんには目をつむる。だが、「親分の耳に入れてやろうかな」とい 一つこレ J にな、れ、は・詁は別だ。 「この野郎 ! 」 と、呼びつけてシメてもいいが、そうすると < 組員に恨みが残る。恨みが残れば、必ず足 を引っ張る。あることないこと陰口を叩けば親分の耳に入るだろう。マイナスになることは 156
>< の野郎を仲間に入れたほうがいいんじゃねえか」 「ダメだ」 「俺たちでやれる」 なおもツッパる二人に兄イは頭にきたが、ここは怒りをぐっと抑え、説得する代わりに 論法を変えてこう説いたのだ。 術「 >< の野郎、あれでなかなか顔が広いんだ。だけど、兵隊持ってねえから一人じや仕事はで る きねえ。今回、一枚噛ましとけば、必ず次の仕事を持ってくるぜ」 え 変 を 氏も O 氏もこれには「ウーン」と考え込んだ。どっちが得か思案しているのだ。決めゼ 流リフは < 兄イの次の一言だ。 「とはこれから長いっき合いになるんだせ。そのほうが得じゃねえか」 これで二人は了承。金利を負けるということで会の顔を立て、仕事を成功させたのであ 転 発 意見や方針がぶつかったときの対処法は、相撲の決まり手に譬えて大きく二つある。怒り 章 を前面に押し出し、ガッーンと真正面からカマして相手を寄り切るか、兄イのように相手 第 の怒りをスーツといなし、はたき込むか。 たと 181