オバマ大統領 - みる会図書館


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1. 世界 2016年8月号

核兵器を一新し、一一一一世紀まで核を持ち続ける。そういう政 策がオバマ大統領の下で打ち出され、すでに決定している。 リアルタイムで「人形劇」を見抜く 界 世長期計画でシナリオを決めている人たちがいる。おそらく 将来的に大統領として使えそうな人を何人も青田刈りし、そ の時々で使い分ける。バラク・オバマも上院議員になる前の、 相当早い段階で見込まれていたと思う。「そろそろ初の黒人 大統領という演出で芝居を打ったほうがいいよね」と、誰か が二〇年くらい前に考えたような気がする。黒人大統領が誕 生するというテレビドラマを先に放映して、そうやって慣ら していく。ヒラリー・クリントンの「史上初の女性大統領」 も同じで、演出を決める人たちは、初黒人と初女性のどっち を先にしようかなとデータを見ながら、世論を操作しながら、 判断したとばくは思 , つ。 シナリオ通りに動いているから、オバマは別に悪い人でも しい人でもない、人形劇のバペットというふうにばくは見る。 今回の広島訪問でそれがあぶり出された。 このことが見えちゃうと、大統領選でなぜトランプが人気 を集めているかもわかる。めちゃくちやでもいいから、とに かく言葉と行動が結びつくようなプレジデント、組織の操り 人形ではない大統領がほしい。 アメリカ国民はそれを本能的 に求めている。 特集 2 、 二大政党制においては共和党と民主党と常にグルで、本当 の権力は別のところにひそんでいる。みんなうすうすとは感 じて一いたけれど、それがオバマ大統領の八年間ではっきりし た。アメリカ史上初の黒人プレジデントなのに、黒人のため には何もしない。貧富の差に苦しむ黒人もヒスパニックも、 この人が大統領になったからといって、別に何も得していな 。世界平和のためにも、核廃絶のためにも彼は闘わない。 ブッシュ二世とオバマ、二人の八年間を比べると、ブッシ ュのほうが少々ましだったかもしれない。ブッシュに対して はいろいろな人が立ち上がって闘ったけれど、オバマは問題 を″オバラート″に包んでしまうから誰も抵抗しないし、言 っていることとやっていることが真逆だから議論もできない。 そういうアメリカの現状は、ひとりの有権者として恥ずか しいし、ここまで劣化するのは本当に危機的状況だ。 日本では参議院選挙そっちのけで、トランプが大統領にな ったらたいへんだと騒いでいる。すでに最悪の大統領が八年 近くやった結果、という詐欺まで出てきて、日本は国 家も一一一品も文化も失う危機に直面しているというのに。 トランプは興味深いことを言っている。わかりやすく通訳 すると「みかじめ料をもっと出さないと引き揚げるそ」。今 までは密室会議で行なわれた交渉を、彼はテレビカメラに向 かってしゃべる。 トランプには才能がある。メディアが潰そうとすると、潰

2. 世界 2016年8月号

になった。その一七分の間、オバマに心を寄せてーー同時通般市民という、ばくの立ち位置で言えないことは何ひとつな 訳は批判的に考えてはダメ。完璧に相手をたてるしかない い。「デンゼル・ワシントン広島演説」でも「プラッド・ピ 必死でオバマになり切った。ふつうは、うまく訳せなか ット広島演説」でも、「アンジェリーナ・ジョリー広島演 ったり、はしよったりしたことをあとで思い出して反省して、 説」でもいい、男女問わずアメリカ国籍の成人であれば誰で 二日くらいは引きずるものだけれど、今回はそれがまったく も言えることの羅列が、最初から最後まで続いた。大統領な なかった。虚無感以外、何も残らなかった。 らではの発言はない。 オバマ大統領が岩国基地から飛んで来て、広島の資料館を 世界最大の軍隊をもつ、世界最大の核保有国のトップが、 ちょっと覗いて、そのトイレを借りたのか、あるいは記帳だ 「空から死が降ってきて世界が変わった。その閃光から人類 けすませて、平和公園で演説して、森重昭さんを抱きよせ、 が自滅する手段を手に入れたことがわかった」と言って古代 安倍首相の選挙用のツーショットに収まり、また岩国へ 史に立ち返り、人類はずっと殺し合ってきたという不正確な 帰って行った。トータルで五〇分の「訪問」だった。 世界史を語り、科学技術の進歩が破滅的なことを招く、科学 技術の進歩と一緒に人類の思想と倫理の進歩がなければだめ 「大統領演説」ではない だーーと他人事みたいに言う。 「オバマ米大統領広島演説」をきちんと読み解けば、実は 大統領として何かをするのかしないのか、それを言わなけ いろいろなことをくみ取ることができる。だからこれはひと れば大統領演説じゃない。 つの言語的証拠品だ。 オバマは、平和公園に「核のフットボール」を持ち込んで 演説からはっきり見えたことのひとつは、この人は大統領 いる。複数の核弾頭ミサイルも、一発の核ミサイルも、大統 じゃないということ。「オバマ米大統領広島演説 ( 全文 ) 」の領が核のボタンを押さない限り発射されない。大統領がホワ へタイトルを修正液で消して「アーサーの広島演説」にして、 イトハウスのシチュエーションルームにいないときは、側近 日ばくが広島の公民館で読み上げたとしても、何も問題ない。 が黒い鞄を持ち歩いていて、その中に発射コード、身分証明 ま、広島の人たちはばくの話をすでに聞いているかもしれな の手続き、手順書、発射装置などが入っている。それを俗に 何 マいから、「アーサー、どうしたの ? なんで無難な演説をす 「核のフットボール」と呼ぶ。核兵器が使われた場所に、核 オるんだろう」と首をかしげるかもしれない。でも米国籍の一 兵器を使う装置を持ち込んだのだ。「実はこんなもの持ち歩 特集 2

3. 世界 2016年8月号

8 きたくないんだ。バカバカしいだろ、時代遅れだよね。おれ は何があってもこれを使うつもりはないよ」とでも言えば、 大統領の発言になるのに、「核のフットボール」を持ち込み ながら、ダレデモ・ビナードかデンゼル・ワシントンあるい 世はプラピとアンジー程度の話に終始した。 翌朝、朝日新聞大阪本社版の一面の見出しは「『核なき世 界』改めて訴え」だった。これを書いた記者はこっそり気づ かれないよう、でもいちおう頑張って抵抗したと思う。抵抗 の証はこのカギ括弧で、要するに記者本人がオバマの言葉を 真に受けてはいない。「改めて」は、たぶん二〇〇九年四月 の「プラハ演説」を指している。とすると、見出しの文言を 言い換えるなら「核なき世界なんちゃって、忘れたころにま た」となる。ただ、問題は大統領という立場にいる人には、 「訴え」という日本語を使うのはおかしい。訴えることがで きるのは市民団体のメンバーとか、権力も影響力もない詩人 とか、一般市民。大統領は、権力を持っているんだから、 「やる」人でなきやおかしい。あるいは「取り組む」「打ち出 す」人。「訴え」るという見出しはオバマが大統領ではない 証拠、そのことを朝日新聞は図らずも示している。 実験的に、「プーチン大統領広島演説」に置き換えてみよ う。プーチン大統領はこんな暇な、こんな無難な、きれいご とだけ並べる演説はしないだろうと思う。なぜなら、プーチ ン大統領は権力を握っている本当の大統領だから。 持集 2 プーチンとオバマの違いは、片方は本当の大統領、もう片 方はプレジデントのイメージキャラクターにすぎないという こと。それが広島で火を見るよりも明らかになった。その意 味で、ちゃんと読み解けば、有意義なオバマ広島訪問だった といえる。 「広島演説」ではない タイトルと中身を点検して、もうひとつわかることは、こ れは「広島演説」じゃないということ。ばくは同時通訳をし たあと、隈なくチェックしてみた。広島で思いついた言葉は そこには一つもなかった。広島からわいてきた言葉もゼロ。 「広島所感」というタイトルをつけたメディアもあったけれ 広島という「所」で「感」じたものはい ど、それは間違い。 っさいない。既製品としてすでに岩国演説の前に脚本が全部 出来上がっていた。それをおしつけがましく「広島」の名で、 知ったふうに人類の暴力の歴史を語っているだけ。その歴史 も間違っている。だから実際は、「誰でもどこでもインチキ ヒストリー演説」。 オバマは最初のほうで、こう語った。 "ArtifactsteIIusthat violentconflictappea 「 ed with the ve 「 y 6 ョ man. ' 考古学の出土品 をみれば、暴力が使われる組織的な殺し合いが、人類の始ま りと同時に開始されたことがわかる。私たちの先祖は火打石 で刃物をつくり、木でやりをつくり、これらの道具を同じ人

4. 世界 2016年8月号

ムヒ 目ヒ 広オ 島バ 訪マ 問大 か統 ら領 特集 2 5 月 27 日、バラク・オバマ氏は、現職のアメリカ大統領とし て初めて広島を訪問した。戦後 71 年目にしてようやく実現した、 画期的な出来事であったことは間違いない。 「私の国のように核を保有する国々は、勇気を持って恐怖の 論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません。 私が生きている間にこの目的は達成できないかもしれません。 しかし、その可能性を追い求めていきたいと思います」 平和記念公園での 17 分間のスピーチで、オバマ大統領はこ う語った。 2009 年の「プラハ演説」でノーベル平和賞に輝いたオバマ 大統領の任期も、もうすぐ終わる。 8 年間で、核削減は遅々 として進まず、かえって核拡散・核テロリズムの脅威は増した。 オバマ氏の主導した「核セキュリティサミット」も、課題を残 すものとなった。 しかし、人類は少しずつ、「核なき未来」に向けた新しい挑 戦を始めつつある。「核の非人道性」や「核の法的禁止」といっ た新たな論理を手に、国連の場での議論はいま重要な分水嶺を 迎えている。被爆国日本はその挑戦をリードするのか、あくま で「核の傘」を前提とする秩序に固執し続けるのか。 日本の果たし得る役割に国際社会は注目している。

5. 世界 2016年8月号

を謝ー オバマは何しに日本へ ? 。米日第でぼ気五詩健心受い数 , りイ第、本童を、多 ま学年社こセの賞山 ( 賞カど ビナード 州ト来偲 = 一絵本な亂 ガ年をは日 シ丿 0 めて べ社ーが ミ州四を当 受館英全さ出訳島 ⅲ国ク。作り 米一業詩釣賞だ像 年ョ卒の「也例塚 7 一部で集中」カ れ 6 ュ学語詩原り竜「文 。若 0 四ニ文本一中こ「福集吉社賞 ( 2 ときどき「入館料ーより「家賃」を払うべきだなと思えるほ 二〇一六年五月二七日、オバマ大統領が広島を訪問したと き、ばくは地元の中国新聞系のテレビとラジオの特番に、解ど、半分住んでいるような生活になるばくは、それでもまだ 見切れていない。だから、オバマ大統領であっても二〇分は 説者として出演していた。 最低いるかなと思い、その間の解説用に、広島の体験者への 山口県の岩国米軍基地での演説をいったん済ませてから五 事前インタビューなどいつばい準備をしていた。レポーター 〇分ほどたったタ方五時ごろ、オバマ大統領は大統領専用へ がスタジオにマイクを戻してくれたので喋り出した。いよい リコプターで広島へ運ばれた。オスプレイ四機をまわりには べらして。そのあと平和記念公園に向かい、安倍首相と一緒よ解説が盛り上がってきたそのとき、レポーターが叫んだ。 「たったいま出て来ました、オバマ大統領が出て来ました」。 に広島平和記念資料館に入っていった。 その間、翌日の新聞には一〇分と書かれてあったけれど、ば 中にいる間はメディアも取材できないから、ばくの解説の くの感じでは七分だった。 時間。広島の資料館にはばくは仕事のことでたびたび入りび 献花のあと、演説が始まった。同時通訳をばくがする羽目 たって、学芸員のみなさんにはいつばいお世話になっている。 持集 2 世界 SEKAI 2016 、 8

6. 世界 2016年8月号

間をあやめるために使ってきた。世界中どこでも暴力がうず をしていた。谷口さんが言うには、「オバマ大統領は何をし に来たのか、よくわからない」。谷口さんは郵便配達を含め まき、人間は絶えず他者の食糧や金品を奪ってきた。それが 人類の歴史であると。 てずっと仕事をしながら核の重荷を背負ってきた体験者だ。 日本に来るなら、まず大森貝塚のことをオバマは知るべき 生計を立てるための労働以外はすべて核廃絶に注ぎ込んでき だった。歴史のペテン定説を唱えて、縄文時代を知らない浅 た偉人。どうやって核の地獄から人類を救うかを長崎の仲間 学をさらした。一八七七年、横浜港に着いたアメリカ人動物 と一緒に考え、地道で本質的な活動をしてきた。それが谷口 学者モースは、新橋に向かう汽車で大森村付近を通ったとき、 稜曄さん、そして亡くなった山口仙二さんの偉業だ。そうい 車窓から見て貝塚があることに気づいた。発掘してみると、 う本物の取り組みをした人から見れば、「オバマ米大統領広 島演説」は、核廃絶に何にも結びつかない、意味不明の演説。 土器、人骨、鹿の骨などが出土した。土器に独特の紋様がっ だから、言葉の専門家ではないけれど、谷口さんの評論が していることにモースが注目し、 8 「 d ma 「 k 一 ng と名付けて、 のちに弟子が「縄文」と和訳した。一万年以上続いた縄文時代 一番的を射ている。 を知る私たちの大きな目覚めが、この日米協力から始まった。 なぜ広島なのか。岩国からそのまま飛べば、ほんの少しだ 縄文遺跡の発掘調査が日本全国で進んでいる。けれど一つ、 けよけいに時間はかかるけれど、一長崎に行ける。長崎にも平 出土しないものがある。それは、武器。そして武器によって和公園がある。ところがオバマ大統領は、どんなことがあっ 破壊された人骨。つまり、組織的殺し合いのない時代が日本 ても、在任中はもちろん、たぶんこの先も長崎に行くことは では一万年以上続いたことがわかる。ペリーの黒船来航の前 ない。なぜなら、長崎に行くと、こんなきれいごとの詐欺ス にも三〇〇年間、戦争も侵略もしない時代があった。日本は ピーチは成り立たないから。 The World War that reached デ brutal オバマ大統領の広島ペテン演説とは違う歴史をもっている。 「広島演説」の中に、ま 「広島と長崎で残酷な終焉 へ市民がこれを見抜けば、歴史をつかみとる契機になり得る。 end in Hi 「 oshima and Nagasaki" へと行き着いた第一一次世界大戦」という表現がある。縄文時 オバマの「長崎演説」は成り立たない 代を完全に外したことと同じくらい、この表現は罪深い。真 何 は マ っ赤な嘘だから。広島と長崎を一緒くたにすると、一見、原 ばくは「オバマ米大統領広島演説」の翌週に長崎へ行って、 れ郵便配達の最中にピカに遭った谷口稜曄さんといろいろな話 爆投下によって戦争が終わったかのように見える。八月六日、 、 = 特集 2

7. 世界 2016年8月号

かも見通したうえで、投下した。長崎を見つめれば、歴史の 8 八月九日、そして八月一五日と、カレンダーを真に受けると 定説は崩れるし、広島ペテン演説も成立しない。だからオバ 騙されるけれど、実は長崎と戦争の終わりには何の関係もな マは長崎には絶対に行かない。 。むしろ、長崎に落としたプルトニウム弾の開発が当初の 予定より遅れ、なかなか実験にこぎつけないまま、一九四五 計算されたオバマの立ち位置 世年一月の納品期限が延びて延びて延び過ぎて、ムソリーニも オバマ大統領はなぜ平和公園のあの位置に立ったのか。 とっくに首を括られてヒトラーも匙を投げて、日本という餓 広島市民以外は気づいていないかもしれないけれど、原爆 死寸前の無力な島国だけが残る中、莫大な予算を使い込んだ 資料館がオープンし原爆死没者慰霊碑が建てられて以来、毎 ことを正当化するために、また人体実験と世界支配のからく 年八月六日の平和記念式典だけでなく、だれかが広島の地で りをすべて正当化するために、どうしても戦争が終わる前に 演説したり挨拶したりするときは、必ず慰霊碑の前に立った。 落とさなければいけなかった。沖縄戦で一カ月、二カ月と引 ローマ法王ヨハネ・バウロⅡ世もそうだったはず。その立ち き延ばして、やっとプルトニウム弾が完成した。それを七月 位置からは、核廃絶の日が来たときに消す「平和の灯」を通 一六日にアメリカのニューメキシコ州で実験してアメリカの って、一直線に原爆ドームと広島城につながっている。慰霊 貧乏人を被爆させてから、長崎へ。だから正しくは "The ・ Wo 「一 d War that was d 「 awn 0 ミ and p 「 olonged to allow the 碑とつながる位置に立っことに議論の余地はない。ところが 「長崎 オバマ大統領は、献花の花輪を南から見て慰霊碑の右にずら completion and use of the Nagasaki plutonium bomb" して置き、本人はなぜか階段を降りたところの左端に立って 型プルトニウム弾を投下するために意図的に長引くように仕 演説した。なぜならこの立ち位置で正面から撮った写真を見 掛けられた第二次世界大戦」、それが史実。 大日本帝国を敗北に追い込むために長崎の原爆投下が必要ると、慰霊碑は映らないからだ。原爆の威力を示す原爆ドー ムの丸い頭とホワイトハウスの威力を示すマスコットの丸い だったかを冷静に考えると、そうだ、必要だったとは誰も言 えない。もちろんオバマ大統領も言えない。原爆が投下され頭が重なる ( 一一六頁の写真参照 ) 。 オバマ大統領の立ち位置をめぐって、ホワイトハウスは原 たのは八月九日一一時二分。その日の未明にソ連軍はすでに 爆ドームの前を主張したが、セキュリティ上、無理だった。 満州への侵攻を開始していて、午前中の御前会議で日本のポ ではどこでやるか。慰霊碑の前には立ちたくない。慰霊碑中 ツダム宣言受諾もほば決まっていた。アメリカ政府はなにも 特集 2

8. 世界 2016年8月号

米軍補完戦力化を狙う国防総省や「日米同盟瓶の蓋」論の米 しかしながら、多くの人々を感動させたオバマ大統領の広 太平洋軍司令部からの要請であろう。 島演説は、世界中の人々を感激させながら実は熾烈な核軍拡 いざな オバマ大統領の広島訪問に対し、歴史認識問題で日本を糾競争へ誘ったアイゼンハワー大統領の「原子力の平和利用」 弾し続ける中国、韓国、北朝鮮は「侵略戦争の加害者である 国連演説が実は人々を来るべき米ソ核軍拡競争に備えさせる 日本が被害者の側面を強調するのは問題だ」などと論評して 「キャンドル作戦」なる心理作戦の一環だったように、道義 いるが、加害国・被害国という二項対立が虚構である戦争の性を訴える美しい修辞によって、核兵器による無辜の民間人 醜悪な実態を ( おそらく意図的に ) 無視した陳腐な論評と言わ 大量殺戮という戦争犯罪性を曖昧にし、密かに進行する核拡 ざるを得ない。日本のマスメディアは「オバマ大領領が謝罪 散と核兵器使用の危険性の高まりという危機的現状から人々 するか否か」を事前報道で書き立てたが、これもまた戦争の の問題認識を逸らす心理的効果をもつ。実際にこの演説は、 実相を理解しない皮相的発想だ。広島・長崎への原爆投下が 「核兵器が唯一実戦で使用された」被爆国日本を慰撫し、米 人類に示すのは、ベトナム戦争経験のあるケリー国務長官が 国の「核の傘」に不安を持ち日米同盟よりも独自抑止力強化 広島訪問で看取したように、無辜の民間人を巻き込み大量殺 を唱える日本国内の一部ナショナリストを牽制して日米同盟 まいしん 戮する戦争の本質的残虐さ、醜悪さだ。「再考核と人 再強化を図る一方、核兵器開発に邁進する北朝鮮、ウクライ 類 ( 1 ) 」で紹介したアルペロヴィッツ教授がいみじくも指摘ナやシリア内戦で米露核軍縮条約の実行が停滞しているロシ したように、「日本の侵略戦争を憎悪し原爆の対日投下を正 アへの暗示的呼びかけなど多様なアジェンダを織り込む、非 克 超当化する気持ちは分かる、それでもヒロシマの問題は残るの 常に高度に練り上げられた戦略的演説、心理作戦の産物だ。 実際には、米国は核戦力の維持・近代化のための予算を一一 だ」。軍事作戦上必要もないのに、無辜の民間人を考えうる 国限り最も残虐に大量殺戮して絶大な破壊力を誇示することを 〇一一年の二一三〇億ドルから二〇一四年には三五五〇億ド 核絶対権力・覇権の礎とする、そのような絶対兵器と絶対権力 ル ( 約三八兆円 ) へと大幅に増大させ、前述したように向こう の相乗性が核兵器を「悪魔の兵器」とする所以である。この 三〇年間で一〇〇兆円もの巨費を核戦力強化に投じる見込み 題 課 ような核兵器の悪魔的本質を理解せずに、絶対兵器として核 である一方、オバマ政権は米国歴代政権の中で最も核兵器削 の 減のペースを落としている。また、米国は小型核弾頭装填の 絶兵器を信奉する無知ほど危険なものはない。四月に広島訪問 器して衝撃を受けたケリー国務長官は、その真摯な所感からも、 地下貫通弾も開発済みで、すでに中東等の実戦で実証済みと 核この戦争と核兵器の本質を直ちに看取したと思われる。 も疑われる小型核兵器の拡散と核兵器使用という非常に深刻 特集 2

9. 世界 2016年8月号

年七月七日の凄惨なロンドン同時多発テロの翌日、犠牲者を する核不拡散体制の本質、核帝国主義的世界秩序の矛盾の極 哀悼する論説記事で「ビン・ラディンを始めアルカイーダは みの顕在化ではなかろうか。 元来、アフガニスタンでソ連に対抗するために O—< がリク オバマ演説・ー歴史的心理作戦 ルートし軍事訓練を施した数千人のイスラム主義武装集団ム 世ジャヒデーンで、文字通りにはその『コンピューター・ファ オバマ大統領の広島演説は、「核兵器のない世界」を訴え イル』という意味」とその本性を暴露した。現在でも、シリ た二〇〇九年四月のプラハ演説が洗練された政治的宣一言だっ アから盗掘した石油や文化財の密輸を通して Z << 0 加盟国 たのに対し、戦争、科学技術、帝国の興亡と人類に関する文 トルコがイスラム過激派テロ組織 lslam 一 cs e (—Ø\—Ø— 明史的考察を高度な修辞と洗練された叙事詩的表現でまとめ、 (n) と協力関係にあることを示す情報が多々明らかにされて聴衆の情緒に強く訴えるもので、被爆死した米兵捕虜につい いる。米国をはじめ小型核兵器を既に開発配備あるいは実戦 て長年調査してきた被爆者代表のひとり森重昭氏を抱擁する 使用している可能性がある核武装国がアルカイーダやな 。ハフォーマンスと併せて、実際に演説を聴いた被爆者の九割 どイスラム過激派テロ組織と地下で通じているとすれば、核 がオバマ大統領の広島訪問を肯定的に評価するほど絶大な効 テロは世界の何時どこでも発生し得ることになる。 果を奏した。オバマ演説のスピーチライターは戦略コミュニ 小型核兵器が実戦や核テロリズムで濫用されるような恐る ケーション専門のペン・ローズ大統領副補佐官 ( 国家安全保障 べき事態を防ぐには、核兵器自体の禁止・違法化から究極的 問題担当 ) で、関係省庁 ( 国務省、国防総省、エネルギー省等々 ) の な核兵器廃絶という根本的対策が必要だが、全面的核実験禁 インブットも含めたチームワークの産物、と報道されたが、 止条約すら未発効、現行の核兵器廃絶・禁止運動確かに非常に高度に練り上げられた演説だ。原爆や戦争の悲 は相変わらず一一〇世紀型の大量破壊兵器としての核兵器を専惨さへの思いと核兵器廃絶の必要性の訴えには、四月に広島 ら対象としており、「実戦で使えるスマートな小型核兵器」 を訪れて「断腸の思い」と衝撃を受けたケリー国務長官、ゴ は国際的軍縮軍備管理体制の盲点になっている。小型核兵器 ッテモラー国務次官 ( 核軍縮担当 ) や駐日米国大使を始めこれ を中東等ですでに実戦使用していると懸念される米国などの まで広島訪問した米国務省関係者、さらに長年核軍縮の国際 核武装国が、核セキュリティ・サミットを招集して他国の核 バグウォッシュ科学者会議執行委員長を長年勤めたジョン・ 物質管理の厳正化に介入する、というグロテスクな二律背反 ホルドレン大統領科学補佐官からの影響が窺われる。「かっ をどう理解すべきか。これこそ、核保有国に絶対優位を保証 ての敵国同士が日米同盟を築いた」という文言は、自衛隊の ( 四 )

10. 世界 2016年8月号

治家たちが選挙で選ばれた後に何をどのように行なったのか、 一一〇〇八年の大統領選挙で、私たちは彼が無人機を使用す 立ち戻って確認しようとしても、遅すぎます。 ると知っていたか ? ーー答えはノーです。 情報はただ入手されなければいけないというだけでなく、 彼は無人機について話していたか ? ーーーノーです。 いっそれを入手するのか、ということも重要です。もし真実 彼はそれを五倍にしたか。イエス。 界 世を探し出すのに四〇年待たなければいけなかったら、どうな 私たちはそのことを知るだろうか ? ・ー、・ーその答えは、ノー るでしようか。多くの場合、アメリカの官僚は退任する時、 です。大統領府の一部は、情報公開法の対象から除かれてい 自分の書類を持ち去ります。ヘンリー・キッシンジャーは自 ます。歴史家が情報を得るまで、一〇年から四〇年間、待た 分の書類を四〇年以上も手放しませんでした。キッシンジャ なければならないのです。 ーを調べようとした人物は盗聴されました。彼はその盗聴記 それがアメリカなのです。権力にいる人々は、情報を操作 録を手もとに持っています。いっか、彼が本当は何を行なっ する方法を学び、情報を秘密のままにしています。こうした ていたのかがわかるでしよう。しかし、彼はもうすぐ死ぬで ことは、私たちが民主主義として理解している公開性やアク しようし、その後で誰がその情報に興味を持つでしようか。 セスの現状について示唆しています。実際、情報コントロー ルは、世界中のほとんどの国の指導者が用いている手段です。 国谷権力を持つ人々は、報道や情報を操作し、コントロー 情報公開法の有無にかかわらず、です。権力者は何を情報公 ルすることが巧みになってきていると思いますか。 開から除外するかを決めます。まったく頭に来ますね。一番 ルイス強く言うつもりはありませんが、私はそう思います。 いらだたしいのは、自分たちが何を知らないのか、それを知 元上院議員で、強い利権につながっているようには見えな らないことです。どれくらい知らないかも知らないのです。 いアメリカ大統領がいます。彼は一年の間に七七〇〇万もの 悪いことが起きているだけでも十分悪いことですが、ある 記録を機密扱いすることに同意し、その他の大統領が任期中時点までは悪いことが起きていることすら知ることができな にそうした量より多くの情報を機密に分類しています。彼ら、 これが民主主義でしようか。 すなわちオバマ政権が何を機密にしたのかすらわかりません。 非営利の報道という新しい潮流 オバマ政権下で無人機に殺された市民の数は、他の大統領 時と比べて五倍にも増えています。 国谷このような状況に対して、あなたは非営利の調査報道 特集 1 ドロ ロ