民主党 - みる会図書館


検索対象: 反・幸福論
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1. 反・幸福論

虫唾が走るのですが、しかし、民主政治というものはそういうものなのです。主役は政 治家ではなく「国民」なのですから。 私はやたら民主党の悪口を書いてきましたが、実はこれがただ民主党の未熟さのせい ならよいのです。多くの「識者」が、今頃になってどうも民主党は経験が浅く未熟だっ オなどといっていますが、もしそうなら話は簡単なのです。だが今日の政治状況はそん な簡単なものではない。問題は、これがただ民主党に限らないという点にある。 どうしてか。民主党は一時的であれ、あれほど支持された。しかも、特に内心でこっ そり知的エリートを自認する評論家やジャーナリスト、学者などの知識層に民主党は支 持された。 とすれば、このひねくれた否定的な権力欲は、実は、「日の日本の知識層を中心にそ ま 2 、 3 年前には、なにやら自民党支持などというと、どんくさい演歌好きの時代遅れ のおやじのように思われたのです。知的な者なら当然民主党を支持するはずだと思われ ていた。そして、じっさい、自らを「知的である」と思いたい人は山ほどいたのです。 こうなると、わが国民の、特に知識層の病は深刻というべきでしよう。 むしず 234

2. 反・幸福論

もしかしたら、民主党が大化けして政治の質を変えるなどということが起きたかもし れません。しかし、そんなわけのわからない期待で民主党を支持するわけにはいかない。 だから、私が言うのは、いわば理論的というか、原則的な話なのです。現実に民主党が 機能不全だということではなく、原理的に民主党はうまく機能しない、ということなの です。 理由は簡単です。民主党のほとん。一の存在理由反自民、反官僚だったからです。 力いまの日本を動かしているのは自民党と官僚組織である。だから彼らから権力を奪取す レる、という「権力への野望」が民主党を動かしたわけです。 立政治家が権力を求めるのは当然といえば当然です。ところが、彼らはこの野望に「民 ' 黽主義の実現〕という正義の装いを施した。これを積極に・司い、のタ」」、政権交代と の 政治主導による民 主る」という正義の本当の意味は、「従来の権力中枢であった自民党と官僚組織から権力 民 を奪取する」ということだったのです。 九だから、特にやりたいことがあるわけではない。何とも奇妙なことに、民主党の場合 5 には、政権を取ること自体が「正義」であり、、正当な目的になってしまった。なぜなら、

3. 反・幸福論

ど、 なカったはずです。 問題は、その民主党が少なくとも 2 年ほど前には、圧倒的な世論の支持を集めたとい幻 うことです。 私は「世論の支持」などという出来そこないの魔術はあまり信用しませんので、この ことにさして大きな比重は置きたくありませんが、それでも、あの高い支持をみると、 、感を覚えたといわざるをえない。民 民主党の反権力的で否定的な身ぶりに多く 主党が支持されたのは、「支配権力 ( らしきもの ) 」を打破するといったからです。 実は、これは民主党プ 1 ムに始まったことではありません。少しさかのぼれば小泉元 首相への驚くべき大衆的人気も「自民党をぶつ壊す」という否 : 破壊的な身ぶりに よるところが大きいし、あの仏頂面の「悪役」である小沢一郎氏への一時の高い期待も、 その→〔變・し」ーイメージによるところが大きいでしよう。 となると、民主党政権を生み出したものは、「支配権力」に対する否定的で破壊的な 意思だということになります。 民主党は「国民の意思」を政治に反映させる、といった。とすると「国民の意思」と は、「支配権力」への否定的で破壊的な意思だということになる。民主党を動かしたも

4. 反・幸福論

て歴史観や戦後的価値、これらはすべてわれわれの精神にかかわる問題です。「支配権 が」・ ' はわれわれの内部に巣くっているのです。 そこまで踏み込まなければ、今日の日本の「全般的衰退」は食い止められません。民 主党が従来の自民党路線を改め、政策転換を行うというのならば、この「敗戦後体制」 まで踏み込まねばなりません。民主党が本当に「反権力」であり、本当に「反体制的」 であるなら、対抗すべきはこの「敗戦後体制」だったのです。 力しかしむろん彼らにはそんな問題意識はまったくない。それどころか、民主党自体が、 レ ( そのネーミングがアメリカの民主党を思わせるように ) 戦後民主主義という「敗戦後 立体制」そのものの落とし子だった。これでは、政権交代の意味は何もないでしよう。 の ッ ' ゅど引・し、て民主党・はそ、れほ・ど支持ざれ・た・のがあこれは大事な点です。けれどそのこ 主とを考えるといささか陰鬱な気分になってきます。それは戦後の「われわれ」の精神構 民 造そのものに関わってくるからです。少し説明しましよう。 九先に述べたように、民主党の基本的な存在意義は、「自民と官僚から権力を奪取する」四 という一点にあった。そしてそれ以上に特に政治的理念や政治的使命感はなカオ。も

5. 反・幸福論

欲 カ わかりきっていたこと し民主党政権が誕生して 2 年以上が経過し、現在、野田佳彦氏が民主党 3 代目の首相に 立なっています。「安全運転」の野田首相になって民主党の支持率は多少は回復しました 逆 が、それでもかってのあの高い期待はすっかりしぼんでしまいました。特に菅首相の間 の ( 2010 年 6 月 S2011 年 9 月 ) の民主党政権のひどさは度を越していました。菅 ゆくえ 主さんはほとんど無免許運転のように、行方も知れず迷走・暴走し、ただ ( ンドルにしが 民 みついているといった有様です。この間、鳩山、小沢、菅といった民主党の立役者がそ 九ろって学芸会風の出し物の大根役者を演じているようにさえみえてきました。 「民主党にだまされた国民がバカなのだ」という人もいます。だました方が悪いのか、 第九章民主党、この「逆立ちした権力欲」 223

6. 反・幸福論

この、自らは決して権力者の地位にはつかずに権力を批判する、というねじれた精神、 それが「世論」という肩書をもって白昼公然とメディアを闊歩すると、政治は機能しな % くなる。どんなささいなことにも「責任」を追及されることになる。しかも痛手を受け るのは、実はわれわれ自身なのです。 これこそが「民主主義」を支えている深層心理と言ってよい。そして民主党が起こそ うとしたのは確かに「民主主義革命」でした。「革命」には常に抑圧された者の権力へ の反乱、という意味がありますが、「民主主義ーも本質的には同じものを持っているの です。 「主権者」であるわれわれも、「民主主義」とは、どうやら「ひねくれた権力欲」には たいへんに都合のよいものらしい、ということぐらいは理解しておく必要があるでしょ う。民主党をめぐるこの 2 、 3 年の騷動は、実は、民主主義そのものの問題であり、そ れは民主主義のなかにはどうやらある種の屈折した、ゆがんだ精神が潜んでいるのでは ないか、ということでした。そこまで問いかけなければ、今日の日本の政治状況は把握 できないのです。それは、政治家や官僚だけに問題を押し付けるのではなく、われわれ 自身の問題だと知らなければならないのです。

7. 反・幸福論

民主党は民主主義の実現を掲げた。そして「国民の意思」を政治に反映させる、とい った。ところで国民のなかに渦巻いているものが、権力とつながってうまくやっている 者への漠然としたうっそうたる不満であり、自らがうまく処遇されていないという不満 であるとすれば、今日の政治を動かしているものは、この「否定的な意思」という「ひ れ。ぐ・れた権力欲」だということになってしまうのです。 ひねくれて、裏返されて、捻じ曲げられたささやかな権力欲が集まって「世論」なる 欲 カ ものを作り、その「否定的な意思」が政治を動かしているということになるのです。 権 レとすれば、これはもはや民主党の問題にはとどまりません。自民党も同じことです。 立いや、今日の日本の民主政治そのものが落ち込んだ陥穽といわねばなりません。 民主党は政権についたけれど「世論」によって引き下ろされるとして、次に代わって の 自民党が政権についてもまた同じことが繰り返される。小泉さんが首相をやめてから野 主田さんまで、 6 年間で 6 人の首相です。 民 この世論のもつ「否」は、誰かを指導者にしておきながら、次の瞬間には「あいつは 九ダメだ」という。例外だったのは小泉さんだけで、彼は首相でありながら、「自民党を 5 ぶつ壊す」、「抵抗勢力をぶつ壊す」という「否定的な身ぶり」を全身にみなぎらせたか かんせい

8. 反・幸福論

がみつくことそのものが自己目的になる。菅さんの場合などまさにそうです。 そして、この権力に対しては、党の内部でまたその権力を批判するという第一一段階の幻 のね・ぐんを権力・欲、がでてくる。こうなると、とどまるところを知らない党内にガ對争・の 様相を呈してくる。民主党を見ておればまさに誰もがそう思うでしよう。 民主党員の中にはむろん理想に燃えた政治家もいるのでしよう。しかし、民主党が崩 壊するとすれば、それはこの「ひねくれた権力欲」の抗争による自滅であることは間違 いありません。そして、この道ゆきは、民主党の基本的な性格からしてほぼ「理論的」 に予想できることなのです。 菅さんが戦後左翼の市民運動家あがりだというのは象徴的なことです。左翼主義こそ 「支配権力」を否定する権力欲そのものだったからです。 知識層の病は深刻 もった知的なエリートが多い。数多い松下政 民主党の政治家には、左翼リべッノ 経塾出身者がすべてそうだとはまったく思いませんし、現首相の野田佳彦氏などは政経 塾一期生ですが、多少はだ合いが違っているようです。しかし、その多くが学歴エリ

9. 反・幸福論

二大政党による政権交代可能な政治の実現そのものが民主主義の実現であり、それがこ の政党の目的だったからです。 それでも、「いや従来の自民党や官僚主導では日本はよくならなかった。彼らは国民 の求める政治をしていなかった。だから民主党になれば、 ' 郵がズ 0 新・をがを政治 が実現できるはずだった」と反論する人もいるでしよう。 しかし、回心・グおがを 0 ど・はい 0 たい何なのでしようか。子ども手当や高速道路 料化だったのでしようか 確かに、この十数年、日本はいかにもうまくいっていません。経済は一向によくなら ず、外交はアメリカや中国に振り回され、教育現場は混乱が続き、衝動的な犯罪が多発 しています。そこへもってきて大地震まで起きました。 しかし、たとえば経済がよくならないのは、根本的には、日本がある程度の成熟社会 にはい そグロ ーバルヒ影響で新興国ど、の過度な競争が生じ、結果として賃金が下がり、 失業が生じるというデフレ経済になってしまったからです。おまけに、構造改革や市場 競争主義がその方向をいっそう加速させてしまった。 226

10. 反・幸福論

それともだまされた方が悪いのか、それはともかく、確かなことは、民主党の旗をふつ た影響力のあるマスメディアやジャーナリスト、学者、評論家といった知識人は決定的 に間違った、ということです。 彼らの多くが今頃になって、民主党に失望しただの、民主党は変質しただの、鳩山も 菅も無責任だなどと言っていますが、それこそ無責任きわまりない。彼らに民主党や菅 さんを批判する資格があるのでしようか。 いったい、民主党宣伝係を買って出た知識人たちは、だました側なのか、それともだ まされた側なのか、どちらなのでしようか。まあ、いずれにせよいまさら「民主党は期 待を裏切った」などという筋合いではありません。 どうしてか。民主党が失敗することは最初からわかりきっていたからです。 むろん、現実と理論 ( あるいは予測 ) は違います。現実政治はさまざまな偶然や偶発 的出来事 ( 今回の東日本大震災もそうです ) に大きく左右されるし、偶発的出来事がそ の後の政治の方向を変えてゆくこともある。 だから、民主党政権がどうなるか、それはじっさいにはやってみなければわかりませ んでしたし、今後もどのように推移するかはわかりません。 224